【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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山猫のサリーナ。

山猫娘の見る夢は。【14】

 しかし決意するまでも無く、マリー様の後をお見舞いの品を持って歩くサリーナがシーヨク兄弟を探していると、庭師――隠密騎士の宿舎に近付いた所で二人が目の前に現れた。
 きっと部屋を出てからずっとつけていたのだろう。
 変態なりに忠誠心が高い事だ。

 「これはマリー様、ここから先は庭師の居住区ですがどうなさいましたか?」

 ヨハン達がタイミング良く現れた事にマリー様は少しも疑う様子も無い。

 「ああ、サリーナに怪我をした新人庭師がいると聞いてな。どうせ暇だし見舞いに来たのだ」

 ちらり、とこちらを振り向いたマリー様の視線を受け、サリーナも口を開く。

 「はい。私と共にこのお屋敷に来たので、少し心配になりまして。そうしたらマリー様がご一緒に見舞えば良いと仰って下さったのです。庭師達には常日頃から世話になっているからと」

 サリーナがそう言うと、ヨハンとシュテファンは目を少し瞠って感動したようにおお、と声を上げた。

 「マリー様、高潔なお志です、何とお優しい……!」
 「流石は我らの女王様です!」

 ……そう言えば、その筋の男は女を『女王様』と呼ぶとか。

 サリーナは思わずスン…とした視線をシーヨク兄弟に向ける。
 受け身な性癖だから能動的に妙な事はするまいが……警戒すべきである。

 「二人共、そんな事言っても何も出ないぞ。だが、そうだな……後で余った蜂蜜菓子を下賜しよう」

 「ははっ」
 「ありがたき幸せ!」

 シーヨク兄弟の賛辞に、マリー様はまんざらでもなさそうだ。
 何も出ないと言いながら、ご褒美である高級菓子すら与えている。

 「ふふふ、お前達も丁度良い所に来たものだ。件の新人庭師の居場所を知っているか?」

 「存じておりますよ。折角なので我らもご一緒しましょう」

 「武器軟膏はやってないだろうな?」

 「はい、マリー様のやり方で手当てをしております」

 「うむ、それで良い。ちゃんとした治療をしているようだな」

 武器軟膏と言えば、行商人が売っているのを見かけた事がある。
 それではなく、マリー様のやり方……カールは大丈夫だろうか?

 いや、カールとて警戒するべき相手ではあるのだが。

 「こちらです、マリー様」

 ヨハンの先導でマリー様が歩き出す。サリーナはシュテファンと並ぶ形になった。
 じろり、とシュテファンがこちらを鋭い目で流し見てくる。

 「『――読唇術は?』」

 出来るか? の意味で問われ、サリーナは頷いた。
 山の民の言葉で囁くように交わされた短い言葉。
 どうもマリー様に聞かせたくない話のようだ。読唇術による会話に切り替わる。

 ――『カールには色々問題があるのはサリーナ殿も見ている筈。それなのにマリー様に見舞わせるとは少々軽率ではないのか?』

 ――『それについては申し訳ありません、私のミスです。それよりもお二人に知らせたい事があります。実は彼は先日、マリー様の専属になりたいと言ってきたのです。私が専属侍女になったから、マリー様に近付く便宜を図って欲しい』と。

 ――『ほう?』

 ――『どうも、カールはマリー様に気に入られさえすれば専属になると考えている節があります』

 サリーナの言葉に、シュテファンは好戦的な眼差しで口の端を歪めて笑った。

 ――『我らも甘く見られたものだ。まあそう思わせているところもあるのだが』

 ――『怒らないのですか?』

 ――『マリー様が望まれるのであればカールも専属になる事を許されるだろうが、馬になるのは一人では出来ぬ。
 それに、我らとて見習いが取れたばかりだ。専属が三人になったとて、構わぬだろう』

 確かにあの馬を動かすには、二人必要になる。それも含めてシュテファンは自信満々なのだろう。
 それどころか、マリー様が望むなら迎え入れる度量があるらしい。
 サリーナは話題を変えた。

 ――『……カールの傷は、恐らく蛇ノ庄でついたものでしょう』

 ――『我らもそう見ている。ジルベリク様が蛇ノ庄に調査を向かわせた。じきに戻って来るだろう』

 丁度その時カールの療養している部屋に辿り着いたようで、ヨハンが一つの扉を叩くのが見えた。

 「カール、開けるぞ」

 ヨハンが扉を開け、サリーナ達はそれに続いて部屋の中に入った。

 「……皆さんお揃いでどうしたんですかー?」

 「マリー様がお前を見舞いたいと仰せだ」

 「えっ?」

 ヨハンの言葉にカールは心の底から驚いているようだった。
 マリー様が前へ進み出て見舞いの言葉をかける。

 「新人庭師が怪我をしたと聞いた。庭師達には世話になっているので来たのだ。サリーナも気にしていたしな。カールと言ったか、具合はどうだ?」

 「ほ、本当に姫様だー。寝たままでご無礼しますー、マリアージュ様直々に見舞って頂けるなんてこのカール、光栄に存じますー」

 ――『あなたが専属になりたがっている事はシーヨク兄弟に伝えていますから』

 ――だからマリー様に妙な真似をしないように。

 サリーナは見舞いの品の入った籠をテーブルに置くと見せかけて警告する。カールは苦笑いを浮かべた。

 ――『……酷いなぁ』

 サリーナは構わずそのまま籠の中身を取り出すと、カールに見せた。

 「……こちら、お見舞いの蜂蜜菓子です。食べられる時にどうぞ」

 サリーナが籠から離れて後ろへ控えると、カールは満面の笑顔をマリー様に向けた。

 「うわあー、蜂蜜菓子だなんて高級品! これは美味しそうな物をわざわざありがとうございますー。僕ー、マリアージュ様の事好きになっちゃいそうー」

 はしゃぐカールにマリー様は満足そうにふふふと笑った。

 「ならば傷が癒えたら私の為に働くが良い。それにしても怪我をするなんて仕事早々運が無かったな。ゆっくり傷を癒せ」

 「是非とも御恩返ししたいですー、元気になったらご挨拶に行きますねー!」

 「うむ、待っているぞ。ゆっくり休んで早く元気になれよ」

 「ええー、それじゃあゆっくりでいいのか急いでいいのか分かりませんよー」

 「あははっ、それもそうだな! それと、私の事はマリーで良いぞ、長く仕えている者は皆そう呼んでいる」

 「マリー様、そろそろ……」

 サリーナが遠慮がちに退室を促すと、それまでなりゆきを見ていたシーヨク兄弟が声を掛けて来た。

 「マリー様、我らは残って包帯を替えてやろうと思います」
 「カールの事はご安心下さい」

 「うむ、二人共頼んだぞ。ではな、カール」

 「ありがとうございましたー。また来てくださいねー」

 へらりと笑いながら手を振るカール。
 サリーナは扉を開けながら、ちらりとシーヨク兄弟の方をうかがった。

 ――『案ずるな、後は任せるが良い』。

 目が合ったシュテファンの言葉に一つ頷く。そしてそのまま部屋を出た。
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