【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

鶏蛇竜のカール。

鶏蛇竜は暁を待つ。【４３】

　「怪しい者を泳がせ、王都へ向かうようであれば追うようにと手の者に指示を出しております」

　その指揮は蛇ノ庄の留守を預かるスヴェンが取っている、とイーヴォ。
　サンドル・キンブリーが「閣下、」と口を開いた。

　「弟のマーチスが言ってたんでさぁ。最近嫌に余所者が増えたと。『死神の三日月』は、王都周辺のどこかに拠点を置いている筈ですぜ。
　マーチスは頭が良く情報集めが得意なんで、余所者達の塒ねぐらを探るように言いつけて来ましたです、はい。じきに情報が手に入る筈でさぁ」

　各地から人を集めている以上、それなりの規模の筈だ。生きている以上、食料等もそれだけ必要になる。
　王都は出稼ぎ労働者――余所者が多いとは言え、急に増えれば目立つ。一か所に集まっていれば尚更だ。ばらけて拠点を持っていたとしても、人の行き来無くして情報交換や連携は出来ない。

　「その情報待ちか……さりとて、ただ待っているだけという訳には行くまい」

　何か存念は無いか、と周囲を見渡すサイモン。
　すると、何かを考えていた様子の前脚ヨハンが前に進み出た。

　「殿。恐れながら、鶏蛇竜コカトリス――カールに功を立てる機会を与えては頂けないでしょうか」

　「カールに……？」

　イーヴォは訝し気に首を傾げる。何故、息子に、と。
　サイモンは「カール・リザヒルに功を？　どういうことだ？」と問い質した。
　前脚ヨハンは「は、」と続きを述べる。

　「先ず、相手は襲撃を計画しております。しかしそこでもし当家の防衛が堅牢なものになればどう出るでしょうか？
　敵方は喉から手が出る程内通者を欲するようになります。
　カールの置かれた状況は、正にこの状況で利用するのに打ってつけかと愚考致しました」

　頭を垂れる前脚ヨハン。ジルベリクが「そうか……」と口を挟む。

　「成程、つま弾きに遭って恨みを抱いている使用人がいる、と敢えてカールの情報を漏らし、相手から接触させるのか」

　前脚ヨハンは頷いた。

　「はい。カールはいい釣餌になりましょう。敵が食いつけば、内通する振りをして襲撃を誘導することも可能かと。そこを待ち伏せして一網打尽にすれば如何でしょう。
　猛牛達には事情を知らせず、敢えてカールと組ませて適当な任務を与え、屋敷の外――例えば破落戸の集まる酒場などで諍う様子を見せれば信憑性も増しましょう」

　前脚ヨハンが語り終えると、サイモンは顎に手をやり目を閉じる。

　「ふむ……悪くない策だ」

　その場にいる全員も異論はないかと思われた、その時。

　「お待ちください。恐れながら……ヘルムの件があって尚、カールは信頼に足ると重要な任務を任せて頂けるのでしょうか？」

　イーヴォが心配そうな表情で懸念を告げる。カールがヘルムのように裏切る心配というよりも、信じて貰えているのかどうかを気にしているようだった。

　「イーヴォ卿。この任務を遂行できるのは、実力と言い状況と言いカールを置いて他にはおりません」

　「そうか……あの子には心強い仲間が出来たのだな……」

　後ろ脚シュテファンの断言に、イーヴォは泣き笑いを堪えるように顔を歪めている。
　そんな様子を見ていたサイモンが「さて、イーヴォよ」と徐に口を開いた。

　「襲撃に対するこちらの策も決まったところで――改めて、そなたの息子カール・リザヒルの件で訊ねる事がある」

　「おいらもイーヴォ様に確認したいのですが！」

　サイモンとエリアスの真剣な眼差しを受けて、イーヴォも表情を改めた。