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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
好みじゃないアクセサリー(しかも特級呪物)は、どんなに高価でもぶっちゃけ迷惑なんだわ。
さて、後はこの場の収拾をつけるだけだが……。
と、メティがこちらへやって来るのが見える。
何か用でもあるんだろうか?
「本当に無事で良かったわ、マリー。後は任せて」
階を上がって来た彼女はそう私に囁いて、大広間へと向き直ると淑女の礼を取った。
「第一王子殿下に代わり、婚約者であるメテオーラ・ピロスがご挨拶申し上げます。
皆様、この通り聖女様は無事に戻られ、悪しき企みを抱いた者達は居なくなりました。後数刻までの一時、お食事やご歓談をごゆるりとお楽しみ下さいまし」
メティのウインク横流しを受けて、慌てて私も淑女の礼を取る。
「この度は私事にて大変お騒がせ……また大変なご心配をお掛けしましたことを、心よりお詫びいたしますわ。この場におられる全ての方々に感謝を――そして、太陽神の祝福があらんことを!」
聖女降誕節はここで事実上のお開きとなった。
ご馳走を食べたい者は残って食べ、踊りたい者は踊り、喋りたい者は喋り、帰りたい者は帰って行くことだろう。
メティに礼を言い、さて私もそろそろ帰り支度を……とサリーナに声を掛けようとした――その時。
「恐れながら。聖女様、私の事を覚えておいででしょうか?」
一人の男が階の前で礼を取り、こちらを見つめていた。
こいつは……誰だっけ? えっと……
――エスパーニャのレアンドロ第一王子と一緒に居たホセ・デ・ラソン子爵だよ。
グレイに耳打ちされ、私はあっと思い出す。そう言えば居たね、そんな人。
「……ホセ・デ・ラソン子爵、お久しぶりですわ」
「覚えていて下さり光栄の極みに存じます。我が主、第一王子レアンドロ・フェリペ・ガルシア・オリナ・カルメン・デ・シルベルブルク・ドス・エスパニヤス殿下の命により、聖女降誕節を祝わせて頂きたく……遅参ながら馳せ参じました」
「それはそれは。遠いところを遥々、わざわざ……」
……正直ド忘れしてたのは言わぬが花。
引き攣りそうになる笑顔をキープする私に、ホセは続けた。
「私が王宮に参った時は聖女様は席を外しておられ、また先だっての椿事により一時はどうなることかと気を揉んでおりましたが……聖女様のご無事とこうしてご挨拶が叶ったこと、太陽神に感謝を」
「ご丁寧にありがとうございます。無敵艦隊が勝利を収めたとはいえ、今エスパーニャは神の刻印が満足に行き届かず大変な状況でしょうに。レアンドロ殿下はお心を砕いて子爵を寄越して下さったのね。何だか申し訳ないわ」
「流石は神の娘……我が主の置かれた状況をご存知でしたか。仰る通り、レアンドロ殿下は海賊毒竜を討ち果しましたが、神の刻印は手違いから遅れておりました……しかし殿下の奮闘で、それも間もなく解決することでしょう」
「まあ……頑張っておられますのねぇ」
「じきにかの神の試練である難題も解け、殿下の聖女様へのお目通りも叶うことでしょう。
そんなレアンドロ殿下より、聖女様に降誕節の贈り物を託ってございますので、お納めください。そして――こちらは聖女様への親書にございます」
サリーナが動いて親書を受け取ると、ホセは薄型の宝石箱をふところから取り出した。その蓋が開けられ、取り出された大きなエメラルドのブローチが煌めくと、それを見た人々から感嘆の溜息が漏れる。
「あら、何て美しいのかしら……」
とは言ったが、正直なところ。
綺麗なのは綺麗だけど、デカ過ぎて現実味がない……精巧で煌めき豊かな人工宝石が溢れる世界を知っている私からすれば、玩具みたいだとさえ感じるような代物だった。
――で、このゴツい重そうなのを、私に身に着けろと? ……ちょっと趣味じゃないなぁ。
使い道も成金ごっこぐらいしか思いつかない。
感動のあまり私が言葉を失っていると思ったのか、ホセは得意気に説明を始めた。
「こちらはかつて……新大陸の王が身に着けていたとされるものでございます。聖女様に相応しい品を、と」
「新大陸の王!」「あれ程の物…城一つは軽く贖えるであろうな」等と感嘆の声が上がる中、私は咄嗟にそのブローチの過去を透視。
確かにそのようだが……その王は騙し討ちされ非業の死を遂げている。ぶっちゃけ呪いのエメラルドとしか思えん。うん、要らねーわ。
私は困った笑顔を作って首をゆるゆると横に振った。
「レアンドロ殿下のお気持ちは嬉しいのですが、このような立派で大きなエメラルド……エスパーニャの国宝ですわよね? エスパーニャの国王陛下であれば兎も角、私のような小娘には過ぎた品……とても恐れ多くて、受け取れませんわ」
「そんな、ご遠慮なさらず!」
そこから、受け取りたくない私と受け取らせたいホセとの間で暫くバトルが繰り広げられた。
……新手の嫌がらせだろうか?
終いには、「聖女様に受け取って頂けず持ち帰ってしまえば私が罰せられます! 聖女様にこのエメラルドを贈ることは、レアンドロ殿下の願いでもあるのですから、どうぞお受け取りを!」と悲鳴を上げるように懇願され、周囲も受け取るべきだとの空気に。とうとう押し切られてしまった。
「……分かりましたわ。そこまで仰られるのであれば有難く頂戴いたしますわね。レアンドロ殿下へのお返事を認めて、数日の内に子爵にお届けしますので、宜しくお渡し下さいまし」
はぁ……どうするよ、この特級呪物。
と、メティがこちらへやって来るのが見える。
何か用でもあるんだろうか?
「本当に無事で良かったわ、マリー。後は任せて」
階を上がって来た彼女はそう私に囁いて、大広間へと向き直ると淑女の礼を取った。
「第一王子殿下に代わり、婚約者であるメテオーラ・ピロスがご挨拶申し上げます。
皆様、この通り聖女様は無事に戻られ、悪しき企みを抱いた者達は居なくなりました。後数刻までの一時、お食事やご歓談をごゆるりとお楽しみ下さいまし」
メティのウインク横流しを受けて、慌てて私も淑女の礼を取る。
「この度は私事にて大変お騒がせ……また大変なご心配をお掛けしましたことを、心よりお詫びいたしますわ。この場におられる全ての方々に感謝を――そして、太陽神の祝福があらんことを!」
聖女降誕節はここで事実上のお開きとなった。
ご馳走を食べたい者は残って食べ、踊りたい者は踊り、喋りたい者は喋り、帰りたい者は帰って行くことだろう。
メティに礼を言い、さて私もそろそろ帰り支度を……とサリーナに声を掛けようとした――その時。
「恐れながら。聖女様、私の事を覚えておいででしょうか?」
一人の男が階の前で礼を取り、こちらを見つめていた。
こいつは……誰だっけ? えっと……
――エスパーニャのレアンドロ第一王子と一緒に居たホセ・デ・ラソン子爵だよ。
グレイに耳打ちされ、私はあっと思い出す。そう言えば居たね、そんな人。
「……ホセ・デ・ラソン子爵、お久しぶりですわ」
「覚えていて下さり光栄の極みに存じます。我が主、第一王子レアンドロ・フェリペ・ガルシア・オリナ・カルメン・デ・シルベルブルク・ドス・エスパニヤス殿下の命により、聖女降誕節を祝わせて頂きたく……遅参ながら馳せ参じました」
「それはそれは。遠いところを遥々、わざわざ……」
……正直ド忘れしてたのは言わぬが花。
引き攣りそうになる笑顔をキープする私に、ホセは続けた。
「私が王宮に参った時は聖女様は席を外しておられ、また先だっての椿事により一時はどうなることかと気を揉んでおりましたが……聖女様のご無事とこうしてご挨拶が叶ったこと、太陽神に感謝を」
「ご丁寧にありがとうございます。無敵艦隊が勝利を収めたとはいえ、今エスパーニャは神の刻印が満足に行き届かず大変な状況でしょうに。レアンドロ殿下はお心を砕いて子爵を寄越して下さったのね。何だか申し訳ないわ」
「流石は神の娘……我が主の置かれた状況をご存知でしたか。仰る通り、レアンドロ殿下は海賊毒竜を討ち果しましたが、神の刻印は手違いから遅れておりました……しかし殿下の奮闘で、それも間もなく解決することでしょう」
「まあ……頑張っておられますのねぇ」
「じきにかの神の試練である難題も解け、殿下の聖女様へのお目通りも叶うことでしょう。
そんなレアンドロ殿下より、聖女様に降誕節の贈り物を託ってございますので、お納めください。そして――こちらは聖女様への親書にございます」
サリーナが動いて親書を受け取ると、ホセは薄型の宝石箱をふところから取り出した。その蓋が開けられ、取り出された大きなエメラルドのブローチが煌めくと、それを見た人々から感嘆の溜息が漏れる。
「あら、何て美しいのかしら……」
とは言ったが、正直なところ。
綺麗なのは綺麗だけど、デカ過ぎて現実味がない……精巧で煌めき豊かな人工宝石が溢れる世界を知っている私からすれば、玩具みたいだとさえ感じるような代物だった。
――で、このゴツい重そうなのを、私に身に着けろと? ……ちょっと趣味じゃないなぁ。
使い道も成金ごっこぐらいしか思いつかない。
感動のあまり私が言葉を失っていると思ったのか、ホセは得意気に説明を始めた。
「こちらはかつて……新大陸の王が身に着けていたとされるものでございます。聖女様に相応しい品を、と」
「新大陸の王!」「あれ程の物…城一つは軽く贖えるであろうな」等と感嘆の声が上がる中、私は咄嗟にそのブローチの過去を透視。
確かにそのようだが……その王は騙し討ちされ非業の死を遂げている。ぶっちゃけ呪いのエメラルドとしか思えん。うん、要らねーわ。
私は困った笑顔を作って首をゆるゆると横に振った。
「レアンドロ殿下のお気持ちは嬉しいのですが、このような立派で大きなエメラルド……エスパーニャの国宝ですわよね? エスパーニャの国王陛下であれば兎も角、私のような小娘には過ぎた品……とても恐れ多くて、受け取れませんわ」
「そんな、ご遠慮なさらず!」
そこから、受け取りたくない私と受け取らせたいホセとの間で暫くバトルが繰り広げられた。
……新手の嫌がらせだろうか?
終いには、「聖女様に受け取って頂けず持ち帰ってしまえば私が罰せられます! 聖女様にこのエメラルドを贈ることは、レアンドロ殿下の願いでもあるのですから、どうぞお受け取りを!」と悲鳴を上げるように懇願され、周囲も受け取るべきだとの空気に。とうとう押し切られてしまった。
「……分かりましたわ。そこまで仰られるのであれば有難く頂戴いたしますわね。レアンドロ殿下へのお返事を認めて、数日の内に子爵にお届けしますので、宜しくお渡し下さいまし」
はぁ……どうするよ、この特級呪物。
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