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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
謀反の引き金。
『教えてあげる。アルビオンは今、黒太子が謀反を起こそうとしているわ。アルビオン王妃も味方に付けたようだから、早晩成功することでしょう』
沈黙が支配する中、毒竜ヒューズ・ドレイクは息を荒げつつ畏怖の目でじっとこちらを見ていた。
『黒太子が謀反を? 俺を嫌ってる奴が王位に就けば、どの道俺は切り捨てられるだろう。どうする――聖女は俺に船を用意すると言った。ここは聖女に従うフリをして、後で船を奪って逃げるか……』
『ああ、神の力は偽りを許さない。表面上の言動で他人を騙すことは出来ても己の心を騙すことは出来ないのと同じように――如何に答えようとも、お前の心はたちまちに私に本音を伝えてくるのだから』
『くっ……心を読めるという噂は真実だったのか。化け物め』
『アルビオンは王が捕まっただけあって、頼るのは無理だろう。それに奴は俺を裏切り、切り捨てた。顔見知りの海賊やアルビオン貴族達が助けてくれるとも思えない。ああ、クソが――この考えも読まれているんだろうな!』
心中で吐き捨てながらも、奴の頭の中では荒れ狂う嵐の如く考えや計算が渦巻いている。
『ならば、どの道ここを出て聖女に仕えるより他に道は無いだろう。どうせやることはアルビオンに居た時と大差ない上、聖女についた方が得になる――ああ、俺は何て恐ろしい奴に捕まっちまったんだ!』
そんな打算と諦めが伝わって来る。流石海賊をやっていただけあって、決断が早い。
『まあ、今はこれで良しとしましょう。妙な考えを起こそうともどこに逃げようとも無駄であることを理解してくれたようで嬉しいわ、ヒューズ・ドレイク。
私の手を取るのならば頭を垂れ、私に仕え罪を償うことを声に出して誓いなさい』
ヒューズ・ドレイクが跪いて私に頭を垂れるまで数分もかからなかった。
「……聖女様、このヒューズ・ドレイクは心より聖女様にお仕えして罪を償う事を誓います!」
聖女としばし見つめ合っていたかと思ったら、突如跪いての罪の償い宣言した凶悪海賊ヒューズ・ドレイク。
それを見た収監されている罪人達は一様にあっと驚き、「これは一体どういうことだ!?」「馬鹿な!」等と騒めき始めた。
「その誓いを全うされることを願っています」
ヒューズ・ドレイクの返答に満足した私が頷いて背後を振り向くと、監獄補佐官アドリアン・クレモンがぽかんと口を開けてこちらを見ていた。
「クレモン卿。この毒竜ヒューズ・ドレイクはたった今、太陽神の慈悲に触れ、私に仕えることで罪を償うことを誓いました。
数日以内に迎える手筈を整えますから、よしなに」
数日とはいえ、毒竜の置かれている環境改善も含めて頼むと、アドリアン・クレモンは狐につままれたような顔で頷いた。
***
さてさて、今日の私のミッションはこれで終わり。
元の場所に戻って、雑談がてら黒き深淵にいた冤罪者達及び透視した真犯人の情報を監獄長アルチュス・モルヴァヴァンに伝えて再捜査を求めていると、ラドが戻って来た。
帰りの馬車内で首尾を訊くと、疲れた微笑みを浮かべながらもアルビオン王の指輪を見せられたので大成功したのだろう。
アルビオンの国王代理は無事ラドになったのである。
「聖女様、ありがとうございました。後は、折を見て父王をアルビオンに送り返すだけですね。私の身分を明かしトラス王陛下に改めて謝罪・手続き・手配を願い出る――その為にもアルビオンに使者を立てなければ」
「ああ、コンラッド殿下。その事なのですけれど……」
私はラドにアルビオンの情勢を話した。好色王が居ぬ間に黒太子がクーデターを起こそうとしており、王妃もそれに便乗する動きがあるということを。
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。殿下にお伝えしなければならないことがあります。殿下の弟君、エセルリック第三王子が疱瘡の病で儚くなられたようですわ。その知らせをアルビオン王に伝える使者がそろそろ来る筈」
「! エセルリックが……そうですか」
ラドは驚いて暫く瞠目した後、複雑な感情に憐憫の混ざったような表情になって俯いた。
腹違いの弟に対して、複雑な感情があるのだろう。うーん、何て声を掛けていいものか。
「あの……弟君の事は、お気の毒でした」
「……いえ、聖女様。教えて下さり感謝致します。アルビオンに父王の件を知らせたら、謀反の引き金になることでしょう。兄は父王がトラス王国に囚われたまま――いえ、いっそ処刑されれば良いとでも考えそうですね」
それな!
きっと私と同じ気持ちだったのだろう。馬車の中の全員が同時に頷いた。
沈黙が支配する中、毒竜ヒューズ・ドレイクは息を荒げつつ畏怖の目でじっとこちらを見ていた。
『黒太子が謀反を? 俺を嫌ってる奴が王位に就けば、どの道俺は切り捨てられるだろう。どうする――聖女は俺に船を用意すると言った。ここは聖女に従うフリをして、後で船を奪って逃げるか……』
『ああ、神の力は偽りを許さない。表面上の言動で他人を騙すことは出来ても己の心を騙すことは出来ないのと同じように――如何に答えようとも、お前の心はたちまちに私に本音を伝えてくるのだから』
『くっ……心を読めるという噂は真実だったのか。化け物め』
『アルビオンは王が捕まっただけあって、頼るのは無理だろう。それに奴は俺を裏切り、切り捨てた。顔見知りの海賊やアルビオン貴族達が助けてくれるとも思えない。ああ、クソが――この考えも読まれているんだろうな!』
心中で吐き捨てながらも、奴の頭の中では荒れ狂う嵐の如く考えや計算が渦巻いている。
『ならば、どの道ここを出て聖女に仕えるより他に道は無いだろう。どうせやることはアルビオンに居た時と大差ない上、聖女についた方が得になる――ああ、俺は何て恐ろしい奴に捕まっちまったんだ!』
そんな打算と諦めが伝わって来る。流石海賊をやっていただけあって、決断が早い。
『まあ、今はこれで良しとしましょう。妙な考えを起こそうともどこに逃げようとも無駄であることを理解してくれたようで嬉しいわ、ヒューズ・ドレイク。
私の手を取るのならば頭を垂れ、私に仕え罪を償うことを声に出して誓いなさい』
ヒューズ・ドレイクが跪いて私に頭を垂れるまで数分もかからなかった。
「……聖女様、このヒューズ・ドレイクは心より聖女様にお仕えして罪を償う事を誓います!」
聖女としばし見つめ合っていたかと思ったら、突如跪いての罪の償い宣言した凶悪海賊ヒューズ・ドレイク。
それを見た収監されている罪人達は一様にあっと驚き、「これは一体どういうことだ!?」「馬鹿な!」等と騒めき始めた。
「その誓いを全うされることを願っています」
ヒューズ・ドレイクの返答に満足した私が頷いて背後を振り向くと、監獄補佐官アドリアン・クレモンがぽかんと口を開けてこちらを見ていた。
「クレモン卿。この毒竜ヒューズ・ドレイクはたった今、太陽神の慈悲に触れ、私に仕えることで罪を償うことを誓いました。
数日以内に迎える手筈を整えますから、よしなに」
数日とはいえ、毒竜の置かれている環境改善も含めて頼むと、アドリアン・クレモンは狐につままれたような顔で頷いた。
***
さてさて、今日の私のミッションはこれで終わり。
元の場所に戻って、雑談がてら黒き深淵にいた冤罪者達及び透視した真犯人の情報を監獄長アルチュス・モルヴァヴァンに伝えて再捜査を求めていると、ラドが戻って来た。
帰りの馬車内で首尾を訊くと、疲れた微笑みを浮かべながらもアルビオン王の指輪を見せられたので大成功したのだろう。
アルビオンの国王代理は無事ラドになったのである。
「聖女様、ありがとうございました。後は、折を見て父王をアルビオンに送り返すだけですね。私の身分を明かしトラス王陛下に改めて謝罪・手続き・手配を願い出る――その為にもアルビオンに使者を立てなければ」
「ああ、コンラッド殿下。その事なのですけれど……」
私はラドにアルビオンの情勢を話した。好色王が居ぬ間に黒太子がクーデターを起こそうとしており、王妃もそれに便乗する動きがあるということを。
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。殿下にお伝えしなければならないことがあります。殿下の弟君、エセルリック第三王子が疱瘡の病で儚くなられたようですわ。その知らせをアルビオン王に伝える使者がそろそろ来る筈」
「! エセルリックが……そうですか」
ラドは驚いて暫く瞠目した後、複雑な感情に憐憫の混ざったような表情になって俯いた。
腹違いの弟に対して、複雑な感情があるのだろう。うーん、何て声を掛けていいものか。
「あの……弟君の事は、お気の毒でした」
「……いえ、聖女様。教えて下さり感謝致します。アルビオンに父王の件を知らせたら、謀反の引き金になることでしょう。兄は父王がトラス王国に囚われたまま――いえ、いっそ処刑されれば良いとでも考えそうですね」
それな!
きっと私と同じ気持ちだったのだろう。馬車の中の全員が同時に頷いた。
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