貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
758 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

謀反の引き金。

 『教えてあげる。アルビオンは今、黒太子が謀反を起こそうとしているわ。アルビオン王妃も味方に付けたようだから、早晩成功することでしょう』

 沈黙が支配する中、毒竜ヒューズ・ドレイクは息を荒げつつ畏怖の目でじっとこちらを見ていた。

 『黒太子が謀反を? 俺を嫌ってる奴が王位に就けば、どの道俺は切り捨てられるだろう。どうする――聖女は俺に船を用意すると言った。ここは聖女に従うフリをして、後で船を奪って逃げるか……』

 『ああ、神の力は偽りを許さない。表面上の言動で他人を騙すことは出来ても己の心を騙すことは出来ないのと同じように――如何に答えようとも、お前の心はたちまちに私に本音を伝えてくるのだから』

 『くっ……心を読めるという噂は真実だったのか。化け物め』

 『アルビオンは王が捕まっただけあって、頼るのは無理だろう。それに奴は俺を裏切り、切り捨てた。顔見知りの海賊やアルビオン貴族達が助けてくれるとも思えない。ああ、クソが――この考えも読まれているんだろうな!』

 心中で吐き捨てながらも、奴の頭の中では荒れ狂う嵐の如く考えや計算が渦巻いている。

 『ならば、どの道ここを出て聖女に仕えるより他に道は無いだろう。どうせやることはアルビオンに居た時と大差ない上、聖女についた方が得になる――ああ、俺は何て恐ろしい奴に捕まっちまったんだ!』

 そんな打算と諦めが伝わって来る。流石海賊をやっていただけあって、決断が早い。

 『まあ、今はこれで良しとしましょう。妙な考えを起こそうともどこに逃げようとも無駄であることを理解してくれたようで嬉しいわ、ヒューズ・ドレイク。
 私の手を取るのならば頭を垂れ、私に仕え罪を償うことを声に出して誓いなさい』

 ヒューズ・ドレイクが跪いて私に頭を垂れるまで数分もかからなかった。

 「……聖女様、このヒューズ・ドレイクは心より聖女様にお仕えして罪を償う事を誓います!」

 聖女としばし見つめ合っていたかと思ったら、突如跪いての罪の償い宣言した凶悪海賊ヒューズ・ドレイク。
 それを見た収監されている罪人達は一様にあっと驚き、「これは一体どういうことだ!?」「馬鹿な!」等と騒めき始めた。

 「その誓いを全うされることを願っています」

 ヒューズ・ドレイクの返答に満足した私が頷いて背後を振り向くと、監獄補佐官アジュダンアドリアン・クレモンがぽかんと口を開けてこちらを見ていた。

 「クレモン卿。この毒竜ヒューズ・ドレイクはたった今、太陽神の慈悲に触れ、私に仕えることで罪を償うことを誓いました。
 数日以内に迎える手筈を整えますから、よしなに」

 数日とはいえ、毒竜の置かれている環境改善も含めて頼むと、アドリアン・クレモンは狐につままれたような顔で頷いた。


***


 さてさて、今日の私のミッションはこれで終わり。

 元の場所に戻って、雑談がてら黒き深淵ル・グフル・ノワールにいた冤罪者達及び透視した真犯人の情報を監獄長アルチュス・モルヴァヴァンに伝えて再捜査を求めていると、ラドが戻って来た。
 帰りの馬車内で首尾を訊くと、疲れた微笑みを浮かべながらもアルビオン王の指輪を見せられたので大成功したのだろう。
 アルビオンの国王代理は無事ラドになったのである。

 「聖女様、ありがとうございました。後は、折を見て父王をアルビオンに送り返すだけですね。私の身分を明かしトラス王陛下に改めて謝罪・手続き・手配を願い出る――その為にもアルビオンに使者を立てなければ」

 「ああ、コンラッド殿下。その事なのですけれど……」

 私はラドにアルビオンの情勢を話した。好色王が居ぬ間に黒太子がクーデターを起こそうとしており、王妃もそれに便乗する動きがあるということを。

 「ほ、本当ですか!?」

 「ええ。殿下にお伝えしなければならないことがあります。殿下の弟君、エセルリック第三王子が疱瘡の病で儚くなられたようですわ。その知らせをアルビオン王に伝える使者がそろそろ来る筈」

 「! エセルリックが……そうですか」

 ラドは驚いて暫く瞠目した後、複雑な感情に憐憫の混ざったような表情になって俯いた。
 腹違いの弟に対して、複雑な感情があるのだろう。うーん、何て声を掛けていいものか。

 「あの……弟君の事は、お気の毒でした」

 「……いえ、聖女様。教えて下さり感謝致します。アルビオンに父王の件を知らせたら、謀反の引き金になることでしょう。兄は父王がトラス王国に囚われたまま――いえ、いっそ処刑されれば良いとでも考えそうですね」

 それな!

 きっと私と同じ気持ちだったのだろう。馬車の中の全員が同時に頷いた。
感想 1,013

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1013件)

ちょん
2026.03.27 ちょん
ネタバレ含む
解除
ちょん
2026.03.27 ちょん
ネタバレ含む
解除
ぱちこ
2026.03.20 ぱちこ
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 2025/10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 2026/3/31よりコミカライズ連載スタートです。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。