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杼媛《とちひめ》
🐒🐕🐓 『阿諛太郎(あゆたろう)むかしばなし』
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——桃太郎式・匪躬おぢゲットの巻——
むかしむかし、山里にひとりの童がおりました。
名を 阿諛(あゆ)太郎 と申します。
里で生まれ、倉に火をくべ、運命の波にころころと揺らされる、
なんとも騒がしい子でございました。
◆
ある日のこと、阿諛太郎は悪しき盗賊にさらわれました。
これは一大事、と青ざめておったところ、
出会いましたのが、かつて武辺に名を轟かせた
勁槍(けいそう)将軍・匪躬(ひきゅう)おぢ。
匪躬おぢ、阿諛太郎をひと目見るや、
どんと抱きしめて申されました。
「阿諛ぅ……おたから……」
こうして阿諛太郎は、いともたやすく
“おぢ“を手下にしたのでございます。
◆
手下を得た阿諛太郎、
そそくさと宿へと戻ってみれば、
主(あるじ)の傅役(ふえき)どのは――なんとまあ――
阿諛太郎を置き去りにして都へ旅立っておったのでございます。
そこへ宿の門客が駆け出し、阿諛太郎のうしろを見るなり、目を丸くしました。
「まさかあなたは――勁槍将軍。
出奔して行方知れずと聞いておりましたが……
阿諛、どこで知り合ったのだ?」
「お前、阿諛とはどういう関係だ?」
阿諛太郎、肩をすくめて答えます。
「なあに勘ぐることはない。
この人はただの兄弟子ですよ。ねえ、門客?」
門客も苦笑しつつ、合わせ申します。
「そうじゃな。……残念ながら師匠はとうの昔に亡くなられた」
(いや、もとからおらぬのですがな💦)
◆
さて門客、阿諛が盗賊にさらわれてから戻るまでの話を、
ずずいとぶちまけました。
阿諛は聞くほどに腹の虫が煮えくり返り、
とうとう足を踏み鳴らして叫びます。
「傅役め~っ!
薄情なのは承知しておったが、見捨てられれば腹も立つ!
あんな冷血漢、主の資格なし!
もう辞職がてら一発ぶん殴らねば気が済まぬ!」
すると匪躬おぢ、どわははと豪快に笑って申します。
「そりゃよい。某も都へ参ろうぞ」
「ありがとうおぢさま、大好き!」
阿諛太郎がぎゅうと抱きつくと、
匪躬おぢは頬をかき、まんざらでもなさげ。
まさか都で要人暗殺ーー?
ここで門客、慌てて声を張ります。
「ま、待て! 私も同行いたす!」
こうして、
犬(=おぢさま)・猿(=門客) をお供に、
阿諛太郎は都へ向かったのでございます。
◆
都に着くと、傅役どのは盛り場を遊び歩き、
まことに楽しげにしておりました。
田舎暮らしの辛苦をくぐり抜けた若造にとって、
都の夜遊びはさぞ眩しかろうもの。
阿諛太郎、すれ違いざまに声を張り上げます。
「傅役、覚悟っ!」
その瞬間、若造の脛(すね)を蹴り飛ばすと、
傅役どのは派手に転げ、肘をついて阿諛太郎を見上げました。
「なんだつまらん。まだ生きていたのか」
阿諛太郎は胸を張り、勝ち誇って言いました。
「ざまあみろ! もう愛想も尽きた。
今宵限りで主はクビじゃ!
帰ってしつりに嫌われろ、この不器用お兄ちゃ~ん!」
ああ、痛快なり。
阿諛太郎、笑い転げ、足元もおぼつかぬそのとき――
行き倒れの女に、どさりとつまずくのでございます。
かくて阿諛太郎の冒険は、
まだまだ続くのでございました。
めでたくない、めでたくない。
むかしむかし、山里にひとりの童がおりました。
名を 阿諛(あゆ)太郎 と申します。
里で生まれ、倉に火をくべ、運命の波にころころと揺らされる、
なんとも騒がしい子でございました。
◆
ある日のこと、阿諛太郎は悪しき盗賊にさらわれました。
これは一大事、と青ざめておったところ、
出会いましたのが、かつて武辺に名を轟かせた
勁槍(けいそう)将軍・匪躬(ひきゅう)おぢ。
匪躬おぢ、阿諛太郎をひと目見るや、
どんと抱きしめて申されました。
「阿諛ぅ……おたから……」
こうして阿諛太郎は、いともたやすく
“おぢ“を手下にしたのでございます。
◆
手下を得た阿諛太郎、
そそくさと宿へと戻ってみれば、
主(あるじ)の傅役(ふえき)どのは――なんとまあ――
阿諛太郎を置き去りにして都へ旅立っておったのでございます。
そこへ宿の門客が駆け出し、阿諛太郎のうしろを見るなり、目を丸くしました。
「まさかあなたは――勁槍将軍。
出奔して行方知れずと聞いておりましたが……
阿諛、どこで知り合ったのだ?」
「お前、阿諛とはどういう関係だ?」
阿諛太郎、肩をすくめて答えます。
「なあに勘ぐることはない。
この人はただの兄弟子ですよ。ねえ、門客?」
門客も苦笑しつつ、合わせ申します。
「そうじゃな。……残念ながら師匠はとうの昔に亡くなられた」
(いや、もとからおらぬのですがな💦)
◆
さて門客、阿諛が盗賊にさらわれてから戻るまでの話を、
ずずいとぶちまけました。
阿諛は聞くほどに腹の虫が煮えくり返り、
とうとう足を踏み鳴らして叫びます。
「傅役め~っ!
薄情なのは承知しておったが、見捨てられれば腹も立つ!
あんな冷血漢、主の資格なし!
もう辞職がてら一発ぶん殴らねば気が済まぬ!」
すると匪躬おぢ、どわははと豪快に笑って申します。
「そりゃよい。某も都へ参ろうぞ」
「ありがとうおぢさま、大好き!」
阿諛太郎がぎゅうと抱きつくと、
匪躬おぢは頬をかき、まんざらでもなさげ。
まさか都で要人暗殺ーー?
ここで門客、慌てて声を張ります。
「ま、待て! 私も同行いたす!」
こうして、
犬(=おぢさま)・猿(=門客) をお供に、
阿諛太郎は都へ向かったのでございます。
◆
都に着くと、傅役どのは盛り場を遊び歩き、
まことに楽しげにしておりました。
田舎暮らしの辛苦をくぐり抜けた若造にとって、
都の夜遊びはさぞ眩しかろうもの。
阿諛太郎、すれ違いざまに声を張り上げます。
「傅役、覚悟っ!」
その瞬間、若造の脛(すね)を蹴り飛ばすと、
傅役どのは派手に転げ、肘をついて阿諛太郎を見上げました。
「なんだつまらん。まだ生きていたのか」
阿諛太郎は胸を張り、勝ち誇って言いました。
「ざまあみろ! もう愛想も尽きた。
今宵限りで主はクビじゃ!
帰ってしつりに嫌われろ、この不器用お兄ちゃ~ん!」
ああ、痛快なり。
阿諛太郎、笑い転げ、足元もおぼつかぬそのとき――
行き倒れの女に、どさりとつまずくのでございます。
かくて阿諛太郎の冒険は、
まだまだ続くのでございました。
めでたくない、めでたくない。
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