27 / 213
阿子〈アコ〉
【自作】公隷(くれい)
しおりを挟む
「阿諛、急いで!!」
出入りの医者に呼ばれ、阿諛は牢屋に駆けつけた。
「……いたい、いだあ゛あ゛い! もうやだぁぁ……おとうさまぁぁ……」
囚人の女は脂汗を垂らしながら、産婆の指示どおり息む。
しかし、逆子はいつまでたっても出てこない。
もう体力も限界のようだ。産婆はとうとうさじを投げた。
「先生、あとのことは、頼みます。産まれたら呼んでください」
産婆の言葉に、医者はしっかりと頷いた。
阿諛は黙って開腹道具を用意する。
医者は、産婆に声を掛ける。
「先生。もちろんです。お任せください。先生はその間、すこし休憩を」
医者は速やかに産道や、母体の状況を確認する。
「髄を切る。助手、患者を抑えなさい」
囚人はぐったりとした。
その首から下は、もう自発的に動くことはない。
鈍く輝く黒曜石が、さらにその深部を切り開く。
やがてーーよわよわしい、産声があがる。
すかさず医者から受けとった産婆が、新生児を産湯に浸す。生命の誕生だ。
「へぇー、公隷が一人増えたのか」
「はい。荘園内の夫婦者たちが、交互に預かって育てると」
血をあらいながして着替えた阿諛は、かつての刑部ーー現在の補佐役と、朝餉を共にしていた。
すこし身体がだるかった。
補佐役の妻・先女は、最近めでたくご懐妊した。
だが、
独り身の死刑囚は、どうやって懐妊したのか?
牢に入る前は、ひとり。牢を出る時は、ふたり。
死罪逃れを方便に、看守たちは横暴を働く。
ただ、それだけだ。
彼女は死罪にはなっていない。単なる獄中死。
その他大勢の囚人、行き倒れ、餓死した浮浪児もろとも運ばれて、墓地に投げ込まれて終了だ。
「補佐役、今夜はしつりの部屋に泊まるので」
「阿諛……なぜ、俺に言う?」
「奥方の里帰りでさびしくなって、補佐役おひとりでは眠れないかと思いまして」
出入りの医者に呼ばれ、阿諛は牢屋に駆けつけた。
「……いたい、いだあ゛あ゛い! もうやだぁぁ……おとうさまぁぁ……」
囚人の女は脂汗を垂らしながら、産婆の指示どおり息む。
しかし、逆子はいつまでたっても出てこない。
もう体力も限界のようだ。産婆はとうとうさじを投げた。
「先生、あとのことは、頼みます。産まれたら呼んでください」
産婆の言葉に、医者はしっかりと頷いた。
阿諛は黙って開腹道具を用意する。
医者は、産婆に声を掛ける。
「先生。もちろんです。お任せください。先生はその間、すこし休憩を」
医者は速やかに産道や、母体の状況を確認する。
「髄を切る。助手、患者を抑えなさい」
囚人はぐったりとした。
その首から下は、もう自発的に動くことはない。
鈍く輝く黒曜石が、さらにその深部を切り開く。
やがてーーよわよわしい、産声があがる。
すかさず医者から受けとった産婆が、新生児を産湯に浸す。生命の誕生だ。
「へぇー、公隷が一人増えたのか」
「はい。荘園内の夫婦者たちが、交互に預かって育てると」
血をあらいながして着替えた阿諛は、かつての刑部ーー現在の補佐役と、朝餉を共にしていた。
すこし身体がだるかった。
補佐役の妻・先女は、最近めでたくご懐妊した。
だが、
独り身の死刑囚は、どうやって懐妊したのか?
牢に入る前は、ひとり。牢を出る時は、ふたり。
死罪逃れを方便に、看守たちは横暴を働く。
ただ、それだけだ。
彼女は死罪にはなっていない。単なる獄中死。
その他大勢の囚人、行き倒れ、餓死した浮浪児もろとも運ばれて、墓地に投げ込まれて終了だ。
「補佐役、今夜はしつりの部屋に泊まるので」
「阿諛……なぜ、俺に言う?」
「奥方の里帰りでさびしくなって、補佐役おひとりでは眠れないかと思いまして」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
