【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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円理朝

愛鳥ブリーダー精神

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太母の屋敷は、いつもどこかそわそわしていた。
庭の一角には小さな鳥舎がいくつも並ぶ。
鳥の囀りや砂浴びの音、時折羽ばたく音が、絶え間なく響いている。

阿諛は今日も、太母の愛鳥・男梅の世話に追われていた。

「はぁ……今日も元気だね、男梅……」
小さな手で餌をやりつつ、阿諛はため息混じりに呟く。

男梅はただの鳥ではなかった。
太母が長年のブリーダー趣味と、周囲の称賛を兼ねて生み出した鳥。
珠玉の新種である。チチチチチチ……と囀り、その羽色は瑠璃色に近く、牡は尾羽の先がひらりと金色に光る。
太母は命名も手を抜かず、「男梅」とした。

阿諛は鳥舎の床を掃き清めながら、ふと思う。

「男梅、見た目ばっかり評価されてるけど……俺なら伝令用に欲しいかな……?」

男梅の繁殖作業は、一羽たりとも手を抜けない。
太母は毎朝、羽の生え具合、体重、鳴き声のトーンまで記録し、最適な組み合わせを試行錯誤する。
羽の色の微妙な差や性格まで考慮して、次世代の美しさに結びつける――。

「阿諛よ。そこの鳥は、羽色がまだ薄い!
 成長に合わせ、餌の組み合わせを変えぬからそうなるのだ」

太母の声は厳しい。
阿諛は小さくうなずき、返す。

「はい……只今」

内心で思う。

(この鳥の延長に、十和様……主座と掛け合わせて、最高のムチュコタン……)

すると男梅が、ひらりと窓から飛び出した。
阿諛は慌てて追いかける。

「ま、またあ?! 逃げないで、男梅!」

太母の目は冷静沈着だ。

「いや、男梅は、逃げても問題ないのだぞ?」

男梅は特殊な掛け合わせで、強い帰巣本能を持つ。
太母の調教により、必ず屋敷へ戻ることも保証されている。

だが阿諛の心臓は早鐘のように打つ。

「やっぱりヒヤヒヤする……」

そのとき、窓辺にもう一羽の男梅が舞い戻った。
脚には小さな麻布が括り付けられている。

阿諛は息を飲み、そっと麻布を解くと――河鹿特有の簡潔な絵柄が目に入った。

——舞台で楽器を奏でる毛濔。次の集合場所の印だ。

阿諛は目を見開き、そっと呟く。

「……やっぱり便利だ、男梅……頼んだら一羽、いや、つがいで二羽譲ってくれないかな、太母?」

男梅は羽を広げて一瞬だけ阿諛の肩に止まり、ふわりと飛び去った。

阿諛は胸の高鳴りを押さえ、深呼吸する。

——この小さな鳥たちの羽ばたきが、円理朝潜入作戦の始まりなのだ。
そして太母の“愛鳥ブリーダー精神”が、今日も阿諛を翻弄するのだった。


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