【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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霧越京(きりごえきょう)

冥婚三日断食・山室ナウ

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石室の中、断食三日目。
許されているのは、塩と水のみ。
長上は白装束でガリガリ。頬はこけ、目は落ち窪み、まるで生きた屍だ。



あやぎり朝郊外の山室――天媛霊廟。
数週間前の出来事が、まざまざと黄泉返る。

長上は、久々に英賀手に対面すると言った。

「神託……よくわかった!! 冥婚する!」

「よしきた! ねえねのお墓(山室)で三日間断食するのだ!!」

英賀手はさっそく、医房から医女を呼んだ。
外部出身の凄腕医女だ。

「冥婚中は、外で健康管理します。ご安心めされよ」



室内は灯明一本だけ。
外の覗き穴の向こう、英賀手宗女は、ガッツポーズを連発していた。

「ねえねに捧ぐ! 長上長上~」

カプ厨英賀手は、ウキウキが止まらない。

「これでねえねと長上は、永遠の冥婚夫婦♡」

英賀手謹製・霊力9999×300枚のお札で、結界もバッチリだ。
長上に逃げ場など、初めからありはしない。
凄腕医女は、腕だけ石室から出して長上の脈を取る。

「脈拍38、血圧60/30……ギリギリ生きてます!
 いつでも蘇生してさしあげます!」



深夜2:13、室温が急降下、マイナス18℃。
長上の吐く息が白い蛇となり、季節外れの雪が室内に舞い降りる。

そして――雪女コスプレの天邪鬼登場。
 
白無垢に雪の結晶がキラキラと光り、髪は霜で覆われ銀色に光り輝く。
唇だけがドス黒い赤。

「ふふふ~オモロ🥶!!
 長上が冥婚してくれるって聞いたから、化けて出てきたで~♪  
 さあさあ、冥婚しよか~? ねえねとチュッチュしよ~?」

雪の結晶をぱらぱら振りまきながら、天邪鬼が迫る。
長上はガラガラ声でビビりながら後ずさる。

「うわ……顔近っ?!……息が冷たい……」


ーー次の瞬間 ドバァァァ!!

石室の隅に、黒い靄が大量発生。  
顔面は青白く、目は充血して真っ赤、でも表情は泣きそうな子犬。

「長上そんな……冥婚がフリでも
 やっぱり他人となんてツライ、俺と冥婚してほしい😨」


怨霊勾人、必死に手を伸ばす。
断食でフラフラの長上は立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。
雪女天媛はニヤニヤしながら、雪の結晶を振りまく。

雪女が長上の顔に手を添えようとした瞬間ーーバチッ💥と煙発生

「あ痛😵!? なんやこれ?」




勾人は、冷静に札を指差す。……元天才覡によるチェック✅️

「これは……宗女手ずからのお札だ。俺達は此処に来てはならない身。
 黄泉の国に一旦帰ろう」

勾人、柏手をパンと鳴らす。  

ーーボオオオ🔥!!

英賀手のお札、一瞬で黒焦げ。

外で絶叫する英賀手。

「ええええ!? あたくし謹製のお札が……一撃で!?」

怨霊勾人、ドヤ顔で言う。

「まだまだ修行が足りないな。俺は特にしてないけどね」

怨霊勾人、くたばり損ないの雪女に声を掛ける。

「天邪鬼、黄泉に一旦帰るぞ」

勾人、黒い瘴気の手で天媛の襟首をつまんで歩き出した。
石室内に、衣擦れが響く。

ズ……ズ……ズズ……

「勾人!? 襟首引っ張るのやめや!  
 首チョロチョロなるやん!! これ一張羅やで🥶」

「うるさい」勾人は無表情。

雪女天媛は、最後の悪あがき。

「キィー悔し! オモロかったのにぃ~!!」


ーーズサッ!

二人の霊体が、石壁に吸い込まれていく。



残された長上は、ぽつんと座り込んだ。

「……やっぱり勾人さんしか勝たん🐍」

「あたくしのお札が……あたくしの三日間の念が……」

外では英賀手が、うめきながら気絶。
医女は英賀手の脈を測り、無事生存を確認。
続いて長上の脈も見る。

「脈拍急上昇! でも長上ニヤニヤしてる!
 ーー雪女に恋の病です!」

石室の中、灯明一本だけが青白く揺れ、生温かい風が吹いた。

「……勾人さん………雪男?」

冥婚は誰ひとり結ばれなかった。
しかし心は、完全に勾人と結ばれた。
そして英賀手のお札300枚は、全焼した。



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