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月に向かって彼は吼えた今宵は母の命日だ
清流の女王
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五年間。
鏡太郎にとって、それはまるで砂時計を睨み続けるような時間だった。
鮎は最初、ローマ字すら読めなかった。
「k」の次が「a」なのか「i」なのか、指が止まる。
英単語はゼロ。
「cat」を「犬」と本気で思っていた。
分数は1/2+1/3で頭を抱え、
「なんで6が出てくるの……?」と泣きそうになった。
鏡太郎は毎晩、鮎の横に座り、
震える手を包み、
一文字ずつ、一問ずつ、
根気強く教えた。
16歳の年、鮎は「自分はバカだ」と毎日呟いた。
17歳の年、テストが1点上がるたびに泣いた。
18歳の年、初めて現代文で80点を取ったとき、
鏡太郎の前で震えながら喜んだ。
「鏡太郎さん……俺……やればできる……?」
鏡太郎は、ただ「そうだ」と答えた。
内心では、
(あと少しだ。あと少しで、お前は完全に俺のものになる)
精神の波は激しかった。
1ヶ月猛勉強して、2ヶ月何も手につかなくなる。
「俺はダメだ」と鮎が泣き崩れる夜は、
鏡太郎は黙って抱きしめた。
「ダメじゃない。お前は俺の鮎だ」
五年間、
鏡太郎は一度も怒らなかった。
一度も急かさなかった。
ただ、「俺がいるから、大丈夫だ」と繰り返した。
そして、
鮎が十九歳になった十月。
合格通知が届いた日。
鮎はリビングで封筒を開け、
手が震えて紙を落とした。
「……全部……合格した……」
鏡太郎は静かに近づき、
鮎の肩に手を置いた。
「鮎」
振り向いた瞬間、
鏡太郎は鮎の唇を奪った。
柔らかく、吸い付くような感触。
まさに清流の女王。
「鏡太郎さん……?」
鮎はもう十九歳。
児相の保護は外れ、
戸籍は最初から別々。
教育的義務も果たした。
鏡太郎に見初められた時点で、
鮎に逃げ場など、どこにもなかった。
中学卒業と同時に鏡太郎の扶養に入り、
外で働けるのは単発バイト程度。
対人恐怖は治らず、
公務員試験は高卒が最低条件。
民間の中卒可の仕事は限られている。
大学?専門学校?
学費は途方もない。
奨学金は返せない。
給付型など夢のまた夢。
鮎に、そんな熱意はない。
可哀想な鮎。清流の女王。
都会の大海原の片隅で拾われて、
澄んだ川でしか生きられぬ。
鏡太郎にとって、それはまるで砂時計を睨み続けるような時間だった。
鮎は最初、ローマ字すら読めなかった。
「k」の次が「a」なのか「i」なのか、指が止まる。
英単語はゼロ。
「cat」を「犬」と本気で思っていた。
分数は1/2+1/3で頭を抱え、
「なんで6が出てくるの……?」と泣きそうになった。
鏡太郎は毎晩、鮎の横に座り、
震える手を包み、
一文字ずつ、一問ずつ、
根気強く教えた。
16歳の年、鮎は「自分はバカだ」と毎日呟いた。
17歳の年、テストが1点上がるたびに泣いた。
18歳の年、初めて現代文で80点を取ったとき、
鏡太郎の前で震えながら喜んだ。
「鏡太郎さん……俺……やればできる……?」
鏡太郎は、ただ「そうだ」と答えた。
内心では、
(あと少しだ。あと少しで、お前は完全に俺のものになる)
精神の波は激しかった。
1ヶ月猛勉強して、2ヶ月何も手につかなくなる。
「俺はダメだ」と鮎が泣き崩れる夜は、
鏡太郎は黙って抱きしめた。
「ダメじゃない。お前は俺の鮎だ」
五年間、
鏡太郎は一度も怒らなかった。
一度も急かさなかった。
ただ、「俺がいるから、大丈夫だ」と繰り返した。
そして、
鮎が十九歳になった十月。
合格通知が届いた日。
鮎はリビングで封筒を開け、
手が震えて紙を落とした。
「……全部……合格した……」
鏡太郎は静かに近づき、
鮎の肩に手を置いた。
「鮎」
振り向いた瞬間、
鏡太郎は鮎の唇を奪った。
柔らかく、吸い付くような感触。
まさに清流の女王。
「鏡太郎さん……?」
鮎はもう十九歳。
児相の保護は外れ、
戸籍は最初から別々。
教育的義務も果たした。
鏡太郎に見初められた時点で、
鮎に逃げ場など、どこにもなかった。
中学卒業と同時に鏡太郎の扶養に入り、
外で働けるのは単発バイト程度。
対人恐怖は治らず、
公務員試験は高卒が最低条件。
民間の中卒可の仕事は限られている。
大学?専門学校?
学費は途方もない。
奨学金は返せない。
給付型など夢のまた夢。
鮎に、そんな熱意はない。
可哀想な鮎。清流の女王。
都会の大海原の片隅で拾われて、
澄んだ川でしか生きられぬ。
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