【全年齢版】媛彦談《ひめひこだん》〜足掻手《アガデ》〜

テジリ

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サルヌリ朝

【自作】油断

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古代に宣戦布告はない。
夜討ち朝駆け、油断したほうが悪い。
負けるのが悪い。
だからこそ、ハイタークは勝たねばならぬ。

その細石器には、サルヌリ朝の、戴冠の、そしてひそかに想いを寄せるタマル冠の命がかかっているのだから。

「征け」

ハイタークの号令に合わせ、サルヌリ朝兵士たちは暗い夜道を全力前進。
夜明け前に、あやぎり朝の刺羽氏(さしばし)の砦が見渡せる丘までたどり着く。
あと少し。
サルヌリ朝に、必ずや、勝利をもたらさん。
タマル冠に、民草へ提供する土地をお捧げするのだ。



ハイタークが占領した砦は、もぬけの殻だった。
見張りどころか、武器すら見当たらず。
当然ながら、備蓄食糧のたぐいすらない。
ハイタークが率いるサルヌリ軍の兵糧はーー
大部分が、いくさ道中の村民から徴発したもの。
戴冠は、侵攻に乗り気では無かった。

「ハイタークよ。短期決戦で片を付けるだろう?
 食糧なんか要らないよな?
 代わりに武器は多めに」

そうだった。いまは治水工事分の配給食糧で……
サルヌリ朝には、余剰食糧など無いのだ。
砦を占領しても、その先が続かない。
どうする? さらに侵攻するか?

「これは罠だ」

だが、ここまで来ておいて、みすみす撤退など。民草に、何と言って納得させればよいのだ?
留まれば、たとえ一砦だけでも充分な戦績だ。
ここを足ががりに、冬を越せればーー
いずれ、あやぎり朝の霧越京まで、サルヌリ軍の手中におさめられよう。
砦はもぬけの殻だった。
やはり、成り上がりの長上には、いくさが分からぬ。
それが分かっただけでも充分な収穫だ。

恥を忍んで追加食糧の手配を戴冠に……

しかし息を切らせた伝令が、陣中に駆け込む。

「ハイターク閣下、あやぎり朝が侵攻を!
 場所はここから十里ばかり先のーー
 神鳴り山の麓一帯です!」



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