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好きでごめんなさい⑮
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◇◇◇
大国は毎晩、コウヤを抱きたいとヤキモキしていた。
なぜなら、コウヤは一度風呂に浸かると、必ず30分後には眠ってしまうのだ。
加えて、大国自身も繁忙期に入り、早く家に帰ることができなくなった。帰宅は毎夜11時。
コウヤはどんなに大国が遅くなろうとも、大国が先に夜のシャワーを浴びている間に夕食を熱々に温め直し、そっと小屋に戻る。
しかし、風呂に毎日浸かるようになってから、それは難しくなってしまったようだった。
朝7:00
「す、すみません……僕、大国さんが帰ってきたら物音でいつも気づけていたんですが……っ」
昨夜、大国が11時過ぎに帰宅した際に夕食を温めなかったことについて、コウヤは謝った。
「別に構わない……朝メシを頼む」
「はい……あ、あの、大国さんが夕食をとられるまで、家の中で待っていてもいいでしょうか……?」
「? ああ、別に構わないが……」
「ありがとうございます!」
温かい夕食を食べてもらいたい一心で、コウヤは提案した。
その日から、毎晩、食卓用のテーブルでコクリコクリと頭を前後に小さく揺らし、眠るのを我慢するコウヤの姿を、大国は連日見るようになった。
大国が帰ってきても、コウヤは座ったまま起きることができない。
風呂で暖まったあと、すぐに寝付くタイプの子どもだったコウヤを、大国は思い出した。
大国は、今は繁忙期で忙しいこともあり、「帰りが19時を過ぎたら待たなくていい」「冷蔵庫に夕食を入れるように」と指示を出した。
10月に入り、仕事の忙しさが落ち着いたころ、やっとコウヤを抱こうと計画を立てた。
しかし……
「抱くからあとで私の部屋に……おい、またか」
「すみません……」
抱くと大国が言ったり、メモに「夜、部屋に来るように」と書置きを置いて連絡するたび、コウヤは腰を抜かしてしまう。
腰に負担のかかる行為だということはお互い重々承知しているため、この腰が抜けやすい症状が治ってから子作りをしようと、二人で話し合っていた。
腰が抜けている状態で行為に及べるほど、二人はチャレンジャーではない。体が万全の状態で子作りをしたいと、二人は考えていた。
しかし、あっという間に10月が終わり、症状も緩和されないまま日々は過ぎていった。
抱けなくてもいいから、コウヤを触りたいという気持ちが優先されるようになっていた。
「コウヤ。この屋敷の余っている部屋のどこかで寝るようにしろ」
「え……?」
「その……風呂から出たあと、湯冷めをするからな」
「ありがとうございます……でも、僕は物置部屋で寝る方が安心しますから……大丈夫です」
「……そうか」
大国が昔のように優しい言葉をかけてくれるのが、とても嬉しかったコウヤだが、だからこそここは遠慮しておこうと考えた。
距離を置いているから、大国は冷静に今の状況を徐々に受け入れはじめたのだろうと。
今は優しいが、やはり家で頻繁に自分の顔を見るだけで、また機嫌が悪くなりやすく、嫌悪感いっぱいの目で見られるのではないかと、コウヤは危惧していた。
良好な関係を保つため、コウヤは今の環境を変えない選択をした。
「……暖房は使っているか?」
「え?」
「……まさか、使ってないのか」
「え……と」
コウヤは言葉を濁した。
まさか、大国のミスでコンセントがなく、本当は使えていないとは言いづらい。背中から変な汗がにじむ。
不自然な笑顔を浮かべるコウヤに違和感を覚えた大国は、外へ出て小屋へ向かった。
コウヤはしずしずと、その背中を追った。
そしてまもなく、大国は自分のミスに気づく。
「この部屋……コンセントが無かったのか」
「ハイ……」
「なぜ言わないんだ。もう11月の下旬だぞ? 寒くてかなわないだろう」
「その……すみません……言えなくて」
「言えなかったのか? なぜだ」
「それは……その、もともと買ってもらうことが申し訳なかったので……買い替えてほしいとは……言えませんでした」
「まったく……とにかく、今日は家の中で寝ろ。命令だ。この寒さで小屋で寝ていたら風邪をひく」
「ありがとうございます……」
自然に家の中で眠るよう促せたことに、大国は気分が良くした。
「コウヤ。こっちへ来い」
「はい……えっ?!」
突然大国に抱きしめられ、コウヤは慌てた。
「だだだだ、だいこくさん……?!」
「毎度、抱くと言っただけで腰を抜かされては、いつまでたっても子作りはできないからな……私に慣れる練習だ」
「あ……ありがとうございます……」
大国の行動に、嬉しさが体中に染み込む。
同時に、涙がこぼれた。
「コウヤ?」
「すみません……ちょっと、離れますね。大国さんの服が濡れちゃうから……」
「なぜ、泣くんだ」
「わ、わかりません……でも、すごく幸せです……」
「……そうか」
しばらく、小屋で立ったまま抱き合ったあと、大国は言った。
「今日はこのぐらいにしておこう」
あまりがっつくのも良くない。
コウヤが一人で子作りの練習をしていることは知っている。
もう十分に抱ける体を作っているようだが、お互いの気持ちをゆっくり近づけようと、大国は考えた。
「はい……ありがとうございます」
◇◇◇
(やはりあの喜びよう、金目当てで私と結婚したとは思えない……しかし離婚したいと言っていたのは事実……)
大国は自室で、コウヤのことを考えていた。
金目的で結婚したからこそ、離婚をしたいと言い出したという決定打はある。
しかし、コウヤの反応には、大国が好きでたまらないというオーラが全面に出ている。
結婚が決まってからは、暗い顔をしてうつむくコウヤの表情しか見ていなかったが、大国が話しかけるたびに、嬉しそうに頬を染める。
こんな演技ができるほど、コウヤは器用ではない。
「と、いうことは……」
素直に、コウヤは大国のことが好きで結婚に踏み切ったのだと結論に至り、大国は耳を赤くした。
◇◇◇
大国は毎晩、コウヤを抱きたいとヤキモキしていた。
なぜなら、コウヤは一度風呂に浸かると、必ず30分後には眠ってしまうのだ。
加えて、大国自身も繁忙期に入り、早く家に帰ることができなくなった。帰宅は毎夜11時。
コウヤはどんなに大国が遅くなろうとも、大国が先に夜のシャワーを浴びている間に夕食を熱々に温め直し、そっと小屋に戻る。
しかし、風呂に毎日浸かるようになってから、それは難しくなってしまったようだった。
朝7:00
「す、すみません……僕、大国さんが帰ってきたら物音でいつも気づけていたんですが……っ」
昨夜、大国が11時過ぎに帰宅した際に夕食を温めなかったことについて、コウヤは謝った。
「別に構わない……朝メシを頼む」
「はい……あ、あの、大国さんが夕食をとられるまで、家の中で待っていてもいいでしょうか……?」
「? ああ、別に構わないが……」
「ありがとうございます!」
温かい夕食を食べてもらいたい一心で、コウヤは提案した。
その日から、毎晩、食卓用のテーブルでコクリコクリと頭を前後に小さく揺らし、眠るのを我慢するコウヤの姿を、大国は連日見るようになった。
大国が帰ってきても、コウヤは座ったまま起きることができない。
風呂で暖まったあと、すぐに寝付くタイプの子どもだったコウヤを、大国は思い出した。
大国は、今は繁忙期で忙しいこともあり、「帰りが19時を過ぎたら待たなくていい」「冷蔵庫に夕食を入れるように」と指示を出した。
10月に入り、仕事の忙しさが落ち着いたころ、やっとコウヤを抱こうと計画を立てた。
しかし……
「抱くからあとで私の部屋に……おい、またか」
「すみません……」
抱くと大国が言ったり、メモに「夜、部屋に来るように」と書置きを置いて連絡するたび、コウヤは腰を抜かしてしまう。
腰に負担のかかる行為だということはお互い重々承知しているため、この腰が抜けやすい症状が治ってから子作りをしようと、二人で話し合っていた。
腰が抜けている状態で行為に及べるほど、二人はチャレンジャーではない。体が万全の状態で子作りをしたいと、二人は考えていた。
しかし、あっという間に10月が終わり、症状も緩和されないまま日々は過ぎていった。
抱けなくてもいいから、コウヤを触りたいという気持ちが優先されるようになっていた。
「コウヤ。この屋敷の余っている部屋のどこかで寝るようにしろ」
「え……?」
「その……風呂から出たあと、湯冷めをするからな」
「ありがとうございます……でも、僕は物置部屋で寝る方が安心しますから……大丈夫です」
「……そうか」
大国が昔のように優しい言葉をかけてくれるのが、とても嬉しかったコウヤだが、だからこそここは遠慮しておこうと考えた。
距離を置いているから、大国は冷静に今の状況を徐々に受け入れはじめたのだろうと。
今は優しいが、やはり家で頻繁に自分の顔を見るだけで、また機嫌が悪くなりやすく、嫌悪感いっぱいの目で見られるのではないかと、コウヤは危惧していた。
良好な関係を保つため、コウヤは今の環境を変えない選択をした。
「……暖房は使っているか?」
「え?」
「……まさか、使ってないのか」
「え……と」
コウヤは言葉を濁した。
まさか、大国のミスでコンセントがなく、本当は使えていないとは言いづらい。背中から変な汗がにじむ。
不自然な笑顔を浮かべるコウヤに違和感を覚えた大国は、外へ出て小屋へ向かった。
コウヤはしずしずと、その背中を追った。
そしてまもなく、大国は自分のミスに気づく。
「この部屋……コンセントが無かったのか」
「ハイ……」
「なぜ言わないんだ。もう11月の下旬だぞ? 寒くてかなわないだろう」
「その……すみません……言えなくて」
「言えなかったのか? なぜだ」
「それは……その、もともと買ってもらうことが申し訳なかったので……買い替えてほしいとは……言えませんでした」
「まったく……とにかく、今日は家の中で寝ろ。命令だ。この寒さで小屋で寝ていたら風邪をひく」
「ありがとうございます……」
自然に家の中で眠るよう促せたことに、大国は気分が良くした。
「コウヤ。こっちへ来い」
「はい……えっ?!」
突然大国に抱きしめられ、コウヤは慌てた。
「だだだだ、だいこくさん……?!」
「毎度、抱くと言っただけで腰を抜かされては、いつまでたっても子作りはできないからな……私に慣れる練習だ」
「あ……ありがとうございます……」
大国の行動に、嬉しさが体中に染み込む。
同時に、涙がこぼれた。
「コウヤ?」
「すみません……ちょっと、離れますね。大国さんの服が濡れちゃうから……」
「なぜ、泣くんだ」
「わ、わかりません……でも、すごく幸せです……」
「……そうか」
しばらく、小屋で立ったまま抱き合ったあと、大国は言った。
「今日はこのぐらいにしておこう」
あまりがっつくのも良くない。
コウヤが一人で子作りの練習をしていることは知っている。
もう十分に抱ける体を作っているようだが、お互いの気持ちをゆっくり近づけようと、大国は考えた。
「はい……ありがとうございます」
◇◇◇
(やはりあの喜びよう、金目当てで私と結婚したとは思えない……しかし離婚したいと言っていたのは事実……)
大国は自室で、コウヤのことを考えていた。
金目的で結婚したからこそ、離婚をしたいと言い出したという決定打はある。
しかし、コウヤの反応には、大国が好きでたまらないというオーラが全面に出ている。
結婚が決まってからは、暗い顔をしてうつむくコウヤの表情しか見ていなかったが、大国が話しかけるたびに、嬉しそうに頬を染める。
こんな演技ができるほど、コウヤは器用ではない。
「と、いうことは……」
素直に、コウヤは大国のことが好きで結婚に踏み切ったのだと結論に至り、大国は耳を赤くした。
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