奴隷姫

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ルナの過去

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いないで…
いかないで…お母様…
僕を置いていかないで…

「おい!起きろ」

「ベリアルはやく起きて!」

目が覚めると目の前に必死な顔で俺を起こすバンとマリアがいた。

「はぁ、やっと起きてくれた…」

「どうしたんだ?」

「監視が来る前に起きないと拷問部屋に連れていかれるんだ」

「起きなかっただけでか?」

「そう。寝る時間はほんの僅かなのに働く時間はその分長いの。食事も小さなパン一個とほんの少しのスープしか貰えない。働いている時に倒れたりちゃっんとしなかった人が一人でもいればそのグループは食事なしにもなるわ」

「そんなに、奴隷の扱いは酷かったのか…」

「当たり前だろ。奴隷なんて所詮人間すらないんだ。俺たちは、ただの道具にすぎない」

道具…
奴隷は道具でしかない。その言葉をベリアル以外の全員が幼い頃から常に思っていた事だった。
誰も言葉を発しないまま沈黙が続いていると監視がやって来た。
監視は一つ一つの牢を見廻りながら起きていない奴隷を拷問部屋へ連れていった。
見廻りが終わると食事として牢に人数分の食事が配られた。
 
「お腹すいたよ…」

「アン、私の少し分けてあげるわ」

「マリア、おまえ昨日もアンにあげただろう。私がやるからマリアは自分の食べろ」

「ルナ、ありがとう」

ルナは、自分のパンをアンの皿に置いた。
貰ったアンは、嬉しそうに一つのパンを頬張る。
食事が終わると奴隷たちはまた働き始める。

ルナとアンとアリア、バルとリオンとベリアルで分かれ自分たちの配置につく。

「なぁ、バル。昨日、話に出た王族や貴族たちに買われたミリアねぇって人はお前達に取ってどういう人だったんだ?」

「ミリアねぇは、俺達にとって姉みたいな存在だった…」

「姉?」

「一番俺達の中で年上ってのもあったがどんな時でも笑顔で何かあったら親身になって自分のことのように泣いてくれた。一番奴隷の中で光を忘れずにいたただ一人の人だった。」

「ルナが月なら、ミリアねぇは太陽だった。」

「太陽…」

「でも、ミリアねぇが十六歳を過ぎた時に体の奴隷として買われた…」

「体の奴隷…マリアやルナ、アンも十六歳を過ぎたら買われてしまうのか?」

「アリアやアンは確実にそうなるが、ルナは違う。」

「ルナは、傷があるから買われる事はないんだ」

「傷?」

「ルナは生まれてすぐに親から背中にナイフで傷をつけられた。傷がある女は買われる事はなく一生闇の世界で奴隷として働かされる。」

「なんで、ルナの親は自分の娘の背中に傷なんかつけたんだ?」

「買われないようにさ。体の奴隷として買われた女は死にたくなるような仕打ちを受け逃げ出そうとしたら必ず殺される。だから、中には舌を噛んで自分から命を絶つ者もいるって噂だ。そんなふうにルナにはなってほしくなくて自分たちの命と引き換えにルナの親はルナの背中に傷をつけたんだ。」

俺はアンをかばいながら穴を掘っているルナを見た。
けして、苦しいとも辛いともしない表情をしないルナに昨日自分に向かって言っていた嫌いという言葉の意味の中に命と引き換えに守ってくれた親の事も含まれているのだと思った。
バルの言葉にリオンが口を開いた。

「ルナは、俺たちの恩人でもあるんだ。」

「恩人?」

「ルナは、逃げ出そうとして殺されそうになった俺をかばってその身をていしてその場で鞭や鉄で殴られたんだ。酷い傷を負ったのに俺の心配しかしてないルナに感謝しかない。」

すると、次にバルが口を開く。

「俺は、殺されそうになった両親をかばって拷問部屋に入れられて出たあとに自分で命を絶とうとしたところをルナが止めてくれた。結局、両親は死んでしまったが…」

「マリアや、アンもルナに助けられたのか?」

「あぁ。マリアは、買われていく姉を助けようとしたところをかばってその代わりにルナは拷問部屋へと入れられたんだ。だが、ルナが拷問部屋に入った事で殺されるはずだったマリアの命は救われた」

「アンは、ルナと似てるんだ。生まれてすぐに目の前で両親を殺され赤ん坊だったアンもその場で殺されるはずだった。でも、ルナはアンを育てるから殺すなとアンを助けた。ルナも生まれてすぐにアンと同じように殺されるはずだったがミリアねぇに助けられて育てられたんだ。」

「だから、一番ミリアねぇが連れていかれて悲しいのは辛い思いをしてるのはルナだ。ルナはミリアねぇを本当の家族のように思ってたからな。」

ルナがこれまでにしてきた事は、自分を犠牲にして助けた命だ。
そのルナの本心は分からないがベリアルは自分を犠牲にして生きるルナを守りたいと思った。
嫌いと言われても一生受け入れられなくてもルナを守りたいと思った…






    
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