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1・海イベント

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お金を稼ぐのに精一杯のギリギリの家計の中でまさか旅行に行く事になろうとは夢にも思わなかった。
旅行用の鞄やその場に見合った服などそうそうなく誰かに借りるか借りまいか悩んでいたところ昨日の夜中に金城先輩から「お金のない雪のため雪の旅行用の衣類や物は俺が既に手配済みだから心配するな」と言われ逆に持っていく物に困ると言う事態になっていた。
すると、部屋のドアから弟の優が顔を出した。

「姉ちゃん、今日から海に旅行に行くんでしょ?いいなー」

「ごめんね、一緒に行けたらいいんだけど…」

「ううん、僕と夢は隣の叔母さんと仲良くやるから安心して楽しんで来なよ!あ、でもお土産は欲しいかな?」

「ふふ…絶対お土産買ってくるから楽しみにしててね!」

「うん!それとまだ持って行くの迷ってるなら少し大きめのリュックに必需品とこれでも入れとけば…」

優は手に持っていた夢の愛用抱きぬいぐるみのクマさんと日焼け止めクリームを雪に投げる。

「これ…夢のクマさんと日焼け止めクリーム?」

「夢から伝言で離れていても夢と一緒に入れるようにだって、僕からは向こうで日焼けしないようにケアグッズてね?」

片目を瞑って悪戯っ子みたいに笑う優の優しさと夢の愛に嬉しくて笑顔が零れる。
優の言う通りに少し大きめのリュックに必需品と二人が渡してくれた物を入れるとクローゼットの中から夏用のシンプルなデザインの白いワンピースを取りそれに袖を通し麦わら帽子を被りリュックを背負って家を後にした。

金城の庭の真ん中にて人が二十人は入るぐらいの大きなグレー柄の専用ジェット機がエンジンを効かせプロペラが回っていた。
そこに、その主である金城と執事の灰原と既に来ていた高宮と桂馬がいた。

「灰原、あと来ていないのは誰だ?」

持って行く荷物をジェット機に詰め込んでいた執事の灰原は若干イラつき気味の金城の質問に一度周りを見渡し腕時計を見ながら淡々と答える。

「えーと、赤井様たちと赤井様と一緒に来る予定の七瀬様と無理言って付いてくる事になった葉山様と例の金城様がご招待したお嬢様たちですね…」

「たくっ…あいつらちゃんと時間分かってるのか?特にゆっ…むぐっ!?」

灰原はすかさず金城の口を片手で塞ぐと耳元で周りに聞こえない声でこっそり耳打ちする。

「玲央様、それはまだシークレットの筈なのでは?」

「そうだったな…悪い助かった」

そう小さな声で灰原に答えると灰原は塞いでいた手をゆっくりと離す。
その状況を見ていた高宮と桂馬は金城が言いかけた意味不審な発言に疑問に思いながらも何事もなかったかのように荷物を入れる灰原と再度ジェット機の周りをイライラしながら歩く金城に疑問の言葉を呑み込む。

「おーい!会長ー!光っちに翔くーん!」

すると門のところから走りながら大きく手を振る赤井兄弟の龍と遼と一歩遅れてやってくる七瀬の姿があった。

「遅いっ!お前ら今まで何やってたんだ!」

金城はイラつき気味にやってくる赤井兄弟たちに向かって怒鳴ると少し肩を竦めながらもへらっとした笑顔で遅れた経緯を話す。

「ごめんって!だって真奈ちゃん向かいにいったら真奈ちゃん家の近くのスイーツショップで限定パフェ食べてたら遅くなっちゃって…」

「おい、お前ら…」

その発言に怒りで肩を震わせる金城の代わりに何とかその場をおさめようと桂馬が口を開く。

「龍と遼、七瀬さんを向かいに行くまでは仕方ないとしても時間通りに着く事を考えながらちゃんと行動しないと皆の迷惑になるから今度からは気をつけような?」

あえて金城みたく怒鳴り散らす事も表面には出さないが言葉で押さえつける神崎みたいな事はせず遠回しだがやんわりと注意する桂馬にいつもは言うことを聞かない赤井兄弟たちは素直に頷き反省の色をみせた。
その様子に高宮はいつもは発言をせずましては口数が少ない桂馬の意外の姿に賞賛の言葉を心の中で呟く。

いつも誰がいっても副会長以外話を聞かない赤井くんたちをまんまと素直に反省させるなんて翔くん案外やるなぁ…
怒りでもう少しで爆発してた会長ですら少し静まってるし…

「会長、皆ごめんね?」

「はぁ…今回は翔に免じて許してやるが次はないからな?」

「うん…じゃ、早く海行こうー!」

切り替えの早い赤井兄弟たちに半ば本当に反省しているのか不思議に思った一同だった。

「あとは三人か…」

そう呟くとジェット機に乗り込もうとしていた赤井兄弟が金城に向かって疑問を口にする。

「ところでさ、会長が招待したって言う女の子って誰なの?」

「僕もずっと気になってた!誰誰??」

その質問に周りにいた高宮と桂馬が同じうに気になってたと言わんばかりに金城を見る。

「あー、それは来たら分かる。七瀬は既に知っているがな…」

「え!?真奈ちゃん知ってるの?」

「え、うん…」

「誰誰??」

「実はね、ちょと口止めされてて私の口からは言えないの…ごめんね?」

「えー!口止めってまさか会長から?」

「ううん、その女の子の一人からなんだ…」

「ぶぅ~、じゃあ文句も言えないやぁ…ちぇ~」

不服そうな赤井兄弟に少し申し訳なさそうに眉を下げる七瀬を見ながらほっと灰原と金城は胸をなでおろす。
数分後、高宮と桂馬と赤井兄弟と七瀬が既にジェット機の中で待機をしつつ乗り場付近で仁王立ちに腕を組んで残りのメンバーを待つ金城と側で並んで待つ灰原は遠くから微かに声が聞こえ目を凝らして見ると走って来る二人の少女の姿があった。
一人は身軽にリュックを背負いながらももう一人の少女の手を必死で引っ張り、その引っ張られている少女はもう一人の少女とは裏腹に空いている手に大きなキャリーバックの山が何個か乗せられたカートを引きながら走っていた。

「はぁ…はぁ…遅れてごめんっ!」

「雪、お前何分遅れてると…」

「ごめんなさいっ!私のせいなんですわ!」

すると雪の後からアリスが顔を出し未だに息が荒いながらも必死に謝罪の言葉を述べる。

「私の支度が遅れてしまったから雪も一緒に遅れてしまったのですわ…だから、私だけが悪いので怒るなら私だけに…」

「っ…まぁ、女は普通支度が長い生き物だからな。今回は許してやる…」

その意外な言葉に普段は何を言っても怒る金城に雪は心の中でブツブツと悪口を言いながらも睨みつける。

「何だ?言いたい事あるなら口に出して言え」

「別にー、ただ私の時とは大違いだなぁと思いまして?」

「なっ…別にそんな事はな…」

「ゆきー!アリスー!こっちこっちー!」

「え!?雪ちゃんだったの!?」

「”な、何で雪ちゃん(相浦)が!?”」

真奈から続いて龍と思わず驚きすぎて言葉が揃う高宮・桂馬・遼の声が機内から外に向かって届く。
その声に雪に続きアリス・金城・灰原も機内に入って行くとさほど名前を呼ばれた本人は驚く事もなく笑顔で答える。

「皆、おはよう!遅れてごめんね?」

「ゆきー!」

すかさず抱きつく真奈に抱きしめ返す。

「会長が招待した女の子って雪ちゃんたちだったんだ!」

「…ていうか何で会長が雪ちゃんと知り合いなの?」

「それはこいつは俺のめっ…むぐっ!?」

「”め?”」

雪は咄嗟に口に出そうとする金城の口を両手で塞ぐと必死に首を横に振る。

「めって何?」

「めっ…メリーゴーランドっ!…で、弟たちと一緒に遊んでたら偶然にも金城先輩がいてそこが金城先輩のメリーゴーランドでちょっと面識あっただけなんだ!」

「ふ~ん…」

うっ…やっぱり苦しかったかな?

若干怪しいと言わんばかりの視線を投げかけてくる一同に内心焦りながらも必死に笑顔を作る。

「おい、俺はメリーゴーランドなんて行ってねぇぞ?」

口を塞がれながらももごもごと不機嫌気味に耳打ちする金城に慌てて声を低くしながら話す。

「ここは話合わせてください!お願いしますっ…後で事情は話しますから」

「はぁ…手離せ」

戸惑いながらも手を離すと意外にも雪をフォローするかのように未だに怪しんでいる一同に答える。

「ああ、俺の所有するテーマパークにたまたまメリーゴーランドで遊んでいたこいつにたまたま会ってそれがきっかけで今回誘ったまでだ」

「んー、会長が言うなら納得いくけど…」

「玲央とそんな事があったとは意外だ…」

よかった…何とか誤魔化せた。
私が金城先輩のメイドなんてバレたら生命の危機になるしそれよりも先にれいにぃに殺されるっ!
でも、何で金城先輩フォローしてくれたんだろう?そりゃあ、私がして欲しいって言ったけどいつもの金城先輩なら絶対しないし意外だなぁ…

そんな小さな疑問を抱きながらも助けてくれた?金城先輩に感謝した。

「あとは…誰が来てないんだっけ?」

「んーと…あ!れい…じゃなかった、葉山先生まだ来てないね?」

「確かに、遅いな…」

すると、ジェット機の外から叫び声が聞こえ窓を見ると相変わらずのボサボサヘアに玩具眼鏡で旅行だというのにヨレヨレのTシャツにジーンズという姿の葉山が旅行用のキャリーバックを引きながら大声で叫びながら走っていた。

「待ってくれー!!」

「葉山先生!?」

「はぁ…はぁ…間に合ったぁ」

「葉山先生ギリギリなんですが…」

「すまんすまん!寝坊してしまってな…あはは」

乾いた笑い声で誤魔化す葉山に金城は怒る気も失せたのか静かに元の席に戻り他のメンバーも突っ込む気になれず元の席に戻っていった。
その中で雪はこっそり葉山に近づくと周りに聞こえないようにこっそり話しかける。

「ちょっ、れいにぃ何で寝坊なんか…」

「それがな、昨日夜中までバーで酒飲んでたら図に乗っていつもは飲まないテキーラとか飲んでしまって…」

「それで寝坊と?」

「あはは…」

雪は呆れた視線を送りながらしみじみと思った。
本当にこれでも風紀の顧問なのか?と…
そして、どれが本当のれいにぃなのか?と…

「おい、お前も早く席に着け。もう動くから突っ立てたら怪我するぞ?」

「え!?えっと、どこ座ろう?」

すると一番後ろの広い座席でアリスと真ん中を空けて高宮が座っておりアリスが雪に向かって気まずそうに小さく手招きをする様子が目に入った。

えーと、これは私に気まずい二人の真ん中に座れと?

若干顔を引き攣らせながらも既に近くで座れる席はそこしか空いてなく渋々気まずい二人の真ん中に腰を下ろした。
するとアリスはほっと安心したように胸をなでおろしながらも高宮の一切振り返ることもなく窓を見ている様子をチラッと伺うとすぐに顔を下に向け俯く。

何だろう?この席凄く…気まずい

右からは怒りに似た冷たい空気と左からは罪悪感と気まずい空気が漂いつつ間に挟まれる立ち位置にその場から逃げ出したい気持ちになる。

波乱の予感しかない今回の海バカンスに席に着き呑気に二度寝をする葉山は置いといて雪は不安でしかなかった…








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