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元騎士団長さまと化け猫獣人の溺愛建国物語
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古びた小さな農村の小屋の中。
夏の終わりの湿り気を帯びた風が窓から入り込む。
室内には優しく煌めく淡い月明かりのみ。
温かな布団と逞しい腕からそっと抜け出したわたしは、今までわたしを抱いて眠っていた男の前にストンと立ち上がり、精悍な顔立ちの割にまるで子供のように無邪気に眠る男の顔をジッと見つめる。
そして頬をそっと寄せてみる。
「ナァ~……」
そう甘えた声をあげても男は寝入ったままだ。
(これならば…)
そう決意したわたしは瞳を閉じ、幼い日から封印してきた一つの呪文を心で唱える。
そうして月の光に自らの手の平を照らすように両手を開いた。
白い手の平。細い指先。
大丈夫だ。
人間の手だ。
(ちゃんと大人になってる……?)
僅かに聞こえる虫の音色を遠くに聴きながら、成体となってから初めて人型というものに姿を変えた。
私は、慣れない自分の淫らな姿に、今まで知ることのなかった羞恥という感情を覚えた。
そして恐る恐る頭に手をあてる。
少し瞳を曇らせて、尻に手を伸ばす。
(やっぱり、これは変わらないのだ……)
溜息を一つ吐いた私は、傍らにあったシーツに猫耳と剥き出しの素肌を隠して、男の傍らに膝をついた。
そして愛しい男の形の良い薄い唇を下から上にそっと舐めあげる。
「シンさま…」
大切な恩人…
命と心を救ってくれた人。
「んっ……」
その瞬間、男は僅かに身じろいだ。
長い睫毛が僅かに揺れて、静かに動きを止める。
それを見守り起こさぬように、聞こえるか聞こえないかのほんの僅かな声で語りかける。
「シンさま… この身ならば、少しは喜んでいただけますか? 偽物でもいくらか慰めにはなりますか?」
そう独り言のように呟いて目を細めた私は、男の体をペロリペロリと舐め始めた。
「シンさま… どうか目を覚まさないで。あなたさまを癒す事ができるなら、この姿を愛してほしいなどとおこがましいことは思いません。いかような願望にすり替えていただいてもミワは構いません。どうか今だけは、お心を休めてひと時の安らぎを。」
そうして祈る。
(シンさま……どうか目を覚まさないで)
だって“化け猫”などと愛しい人に思われたくはない。
それがとても怖かった。
でもそう思う一方で、この人に喜んでもらうとしたら、きっとこの姿しかないと思うのだ。
初めて化けた人間の女体。
それは決して完璧なものではない。
頭の上には人ならざる者の耳があり、尻の上には長い尻尾を揺らした不完全な姿。
これが私にとれる最も人に近い姿なのだ。
故に、長年の間この姿を取ることはなかった。
『ミワよ、この地の人間はこの地の事しか知らない。世間が狭いんだ。だから“化け猫”と恐れられ、忌み嫌われ、狩られたり見世物とされてしまうかもしれないから、ここでは猫の姿でいればいい。すぐにではなくても何れ旅の途中でお前を仲間の元へ帰してやれる日もくるだろうさ…」
そう忠告をしてこの数年守ってくれた旅芸人の頭ももうこの世にはいない。
数か月前、夜盗に襲われて、多くのものが殺され、売られた。命からがら逃げ伸びたものは何人いるだろう。
あの夜盗賊が間近に迫る中
「いいか?信用できないものの前で、人型になるな。逃げきれ…」そう言われて、急傾斜の斜面から暗闇に放り出された。
その後、ようやく見つかったのは数体の旅芸人達の遺体だけだった。
辺鄙な山での野営の途中での出来事だった。
あれから私はひとりになった。
大自然の中で獣といえども、たかが猫。
しかもわたしは、数日後大きな失態を犯した。
獣を捕らえる為の罠に嵌り、捕らえられることはなかったが、小さくない怪我を負ったのだ。
危険な野生動物の生息する森で決して犯してはいけない失態だった。
そうでなくても衰弱しているところに血の匂いで狼たちを呼び寄せた。
猫一匹に狼四匹 寸でのところで刀を持つこの人に助けられた。
あの夜の月明かりに照らされながら剣を振るうシンさまは、まるで鬼神のように強く、そして美しかった。
あの夜意識を失った私はここで目覚めた。
既に傷を負っていたのだろう。
あれから、あの日とは別人のように穏やかに微笑むシンさまに甲斐甲斐しく介抱してもらってひと月くらいが経とうとしていた。
意識が戻り、食欲が戻り、歩けるようになり気付いた。
ここは…
とても寂しい集落だった。
ここにいるのはほとんどが20代後半から40代くらいまでの人間の男ばかり。
たまに老女や子供を見かけることもあるけれど、女性のいない集落。
そして男たちは皆逞しく、何故か体中に傷跡を持ち、どこか諦めたような悟ったような寂しい顔をしている。
精悍な面持ちをした人たちも多いのに、皆妻や恋人がいない集落。
そんな場所だった。
そしてシンさまもそんな中の一人。
いや、少し違うのかもしれない。
皆と同じ生活をしながらも周りから一目置かれている様子が伝わる。
でも家族がいないのは同じだった。
だからだろうか。
シンさまはわたしに餌を与え、体を撫で、共に寝てくれる。
いつも優しい笑顔を向けてくれる。
体調のよくなったわたしを引き留める事もないかわりに、追い出そうともしない。
とても優しい人……
(だからどうしても恩返しがしたいのだ!)
何をしたら大人の男性が喜んでくれるか分からない私はたぶん今まで沢山空振りをした。
私は基本猫だ。
猫の女に人の男の生態はよく分からない。
でも先日ようやく一つの可能性を思い出したのだ。
シンさまの「俺はこの先人間の女にはもう縁がないだろうな…」
そう寂しく笑う横顔。
そしてシンさまは「でも、それで構わないさ…」と自嘲するように目を細めた。
全てを悟ったような欲のない顔だった。
それが何故だかとても悲しかった。
もっと幸せそうに笑った顔が見たいと思った。
でも、その言葉で私はいつぞやの旅芸人の一人の発狂したような言葉を思い出した。
「あ~女が欲しい。女に舐められてぇ…」
「品のねぇこというな、この下種野郎が」って誰かに拳骨されてたような。
でも私には、あれはあの人の心の叫びのように感じたのだ。
(男の人の本能…? 共通の願望なのかしら…??)
そしてわたしは思い立ったのだ。
(舐める?それならきっとわたしにも……)
汗の匂いがする男の逞しい胸板に舌を這わせる。
(でも、一体どこを舐めるといいのかしら?)
いくつもの刀傷の残る鍛え上げられた逞しい身体。
胸板が厚くて、腕も太く逞しい。
程よく日に焼けた身体。
シンさまは今は狩りや、畑仕事をしながらこの人里離れた辺境の地で暮らしていらっしゃる。
でも、数年前までは戦いに明け暮れていたのだと言う。
そう聞いて悟った。
旅芸人の頭が言っていた。
この地は、数年前にとても大きな内乱があって、長き戦の果てに反乱軍が勝利して政権が完全に入れ替わったのだと。旧王国軍の王様は、戦の途中で命を懸けて自らの政権を守ろうとする多くの正規兵や義勇軍を置き去りにして、船で側近と共にかつて身内を嫁がせた国に亡命したのだと。
それから、この国の偉い人と偉くない人は入れ替わったのだと…。
だから何となく悟った。
かつてこの国を守ろうとして今もいる周りの人から一目置かれるシンさま。
彼はきっとかつての偉い人だったのかもしれない。
だからこそ、今はとても寂しい生活を強いられているのかもしれない。
でも私を見つめるシンさまの瞳はいつも穏やかで優しいのだ。
男の胸の頂に、ペロンと舌が触れたとき男の体がピクリと震えた。
「シンさま……」
その温もりの愛しさに、泣きたいほどに切なくなり、懸命に男を求めるように舐め続けた。
もはや、相手を満たそうとしているのか、それによって己を満たそうとしているのかすら分からなくなる。
この感情の意味が分からなかった。
それでも何故だか本能が鼻を擽るように、男の下腹部あたりに引き寄せられる。
さっきまでは、無かったように思う男の滾りにわたしはコトリと首を傾げた。
(これは…… 何かしら?)
盛り上がり時折揺れる下履きが窮屈そうで、そっと手を伸ばして恐る恐るツンと触れてみた。
その瞬間、男は身を震わせた。
(え………?)
その膨らみの正体を探ろうと、半ば尻込みしながら、男の下着をそっと捲ってそれを露わにして初めて見る男自身に目を見開いた。
(こ…… これは……?)
その瞬間、私の目は瞬いた。
大きくそそり立つ森に生えているキノコのようなものが人間から生えているのだ。
そして私はその形になじみがあった。
(これはエリンギイに似ているわ‼︎)
今までにない興奮を覚えた。
これは、森で一人の時も、時折私を慰めてくれていたキノコと同じ形。
しかも、キノコにはなかった熱を持っていて、触るとピクリピクリと震えて、その都度形を少し変える。
(な…… なんて…… )
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
きのこを何度もいたぶる様に猫パンチしてフッ飛ばして、キャッチして上の傘の部分を唇で甘くハミハミして、最期は爪で縦に何重にも引き裂いて、割けるチーズのようにして爪についた繊維状の物体をペロペロと爪を磨く様に完食した時の色んな感情が満たされるあのお得感。
あれは一回嵌ったらやめられないのだ。
その瞬間、ウットリと目を細めた私は、コロリとシンさま自身の横に横たわって、自らの手を猫手に丸め左右交互にそれに触れてその揺れを楽しんだ。
フルフルと揺れたりピクリと反応する素晴らしいソレにチョロく猫心を刺激された私はすっかり当初の目的を忘れていた。
猫は気まぐれな生き物なのだ。
「ふにゃ… ニャナ… ニャニャ フミィ ゴロゴロニャー」
すっかりソレに魅了されてしまった私は、シンさまのソレを猫パンチして揺らしたり、根本から舐めあげたり、軽く甘噛みしたりとご満悦で遊びに興じた。
仕方がないだろう。
好奇心と感触系の遊びは猫の本能だ…。
すっかりシンさまをお慰めすることを忘れていた私は、魅力的なソレから僅かに粘つく液体がでてきたことに興味を覚えて、嬉々としてそれを舌でペロリと舐めようとした瞬間、捕獲された。
(そ…… そんな~!! いいところだったのに持って行かないで!!)
恨めしくて、涙目で上を見上げた瞬間シン様と目があった。きっと怒らせてしまったのだろう。
顔を真っ赤にしたシンさまが、眉間に皺を寄せて私を見つめていた。
「…………」
その瞬間、我に返った私は、バッとシーツを手繰り寄せた。
「お… お許し下さい。」
そう言ってシーツに包まり俯く私。
「お前は誰だ? 一体どこから入ってきた??」
そう厳しい顔で問い詰められて私は口ごもった。
(まずい… 完全に起きてしまわれた。 今更どう取り繕うべきだろう…)
何も言えずにいる私を怪しんだシンさまは、私の首に手をかけた。
その瞬間、体を仰け反らせた私の胸はシーツから零れ落ちるようにシンさまに晒された。
「うっ… 」
一瞬、苦し気に息を呑んだシンさま。
それでも、シンさまは覚悟を示すように私の首に絡めた指に僅かに力を込めた。
「言え…。女、言わぬなら容赦なく絞めるぞ。盗賊の類か? それとも新政府の間者か?交換条件を受け入れ人質は全て開放したはずだ。辺境でこうして静かに暮している俺たちに今更死ねとでも言いに来たか?」
凄い内容を無表情に問われて涙目で首を僅かに横に振る。いつも諦めたように微笑むシンさまの心の闇に触れたようで胸が締め付けられた。
切なさとパニックで意図せず涙が零れ落ちそうになり、懸命に耐えようとしたが、無理だった。
シンさまが驚いたように眉間に皺を寄せる。
「女……。何故泣く?それにしても見たことのない色味の瞳だな。」
そう呟いたシンさまはシーツから零れ落ちた私の髪を見つめ目を瞬かせた。
「おまえ、もしや遠き異国から来たのか?」
そう問われビクリとした。
私の髪色は白銀で瞳の色はサファイアブルーと言われる事が多い深い青色だ。
この地の人間にはない色味。
漆黒の瞳とサラサラとした同色の髪色をしたシンさまからしたら異端の色。
違和感を与える事など分かっていた。
だから、目を覚まさないで欲しかった。
肌のぬくもりだけを感じてもらい、少しでも慰めになりたかった。
それなのに、私としたことが、あのような状況で遊び心に負けてしまうとは…。
自らの不甲斐なさに涙が零れた。
「シンさま…。お許しください。どうか、どうか、お許しください。」
涙が零れた。
その瞬間、シンさまは痛そうに、眉を寄せた。
「女……。 何故泣く? 何故謝る? しかも何故こんなところにいるのだ? ここに住むのは老女と置いて行かれた子供しかいないはずなのに……」
シンさまは怪しいに違いない私に矢継ぎ早に質問を投げかけた。
「存じております。だからこそ… ミワはせめてシンさまの夢の中でお慰めしたかったのに…」
そう言って私は、瞳を手の平で覆った。
もうおしまいだ。
このような異端な姿の女に慰められたい男などきっといない。
だから姿を見られるつもりは無かったのに。
「申し訳ございません。シンさま。シンさま。少しでもお慰めしたかったのに、ご不快にさせてしまうなどと……」
そう言って嗚咽をあげる私の首はいつの間にか解放されていて、目の前には困った顔で状況を確認しようとオロオロするシンさまの姿があった。
(あぁ… このように困らせるつもりではなかったのに…)
わたしはいつもシンさまを困らせてばかりだ。
「な!? 慰める? どういうことだ??」
「う……ヒック、ヒック、ウグ… 」
「わ… いいから、いいから泣くな?おいっ、訳を言ってみろ?な?」
そう言って、取り繕うように指で私の涙を拭って、焦ったように頭をポンポンとするシンさま。
(あぁ… なんとお優しい…)
「じょ… 女性が… 」
「は?女性?」
「ヒクっ、女性が欲しいとおっしゃられていたから…。お慰めしたくて、で…でも、こんな不完全な…不細工な姿をお目にかけるわけにもいかなくて…。」
「は!? 不細工??」
絶句するシンさま。
当然だ。
突然あんなことをこんな化け物からされるなんて、目が覚めて姿を見られてしまえば、大きな不快を与える事になるというのに。
あぁ、どうして私は毎回こんなに愚かなんだろう。
「た… 助けていただいたのに…」
そう言って顔を歪める私。
「た… 助けた??」
眉を寄せるシンさま。
「こ…この体を、こう?あちらこちら余すところなく撫でて、私の心の不安を取り除いてくださったのに…」
その瞬間ボッと顔を赤くしたシンさまは、私の体に目を向けてフルフルと焦ったように首を振った。
「ご… 誤解だ! 俺はそんないかがわしいことはしていない。断じてしていない… と思うぞ!」
そう困ったように私を見つめるシンさま。
「いいえ…。助けられたのです! 癒されたのです!その温かさに触れもう一度生きようと思えたのです。それなのに…」
私は顔を歪めて首を横に振った。
「わたしは、何の恩も返せなかった。蝉の死骸も… 生きたネズミも… 隣の男の人の家の前からとってきた大きな下履きも、良かれと思ったのに全部シンさまを困らせてばかりで…」
そう言って泣く私の前で、ピクリと動きを止めるシンさま。
「蝉……? ネズミ……? 隣の奴の下着??」
そう呟いたまま固まるシンさま。
「まさか… お前、いや、まさか… そんな馬鹿な事が……」
ブツブツと呟きながら挙動不審に右往左往し始めたシンさま。
(あぁ、やはり困らせてしまっている。)
「私などで、お慰めできるはずなどなかったのに…。シンさまがわたしを抱き上げて、顔を覗き込んで、
『お前綺麗だな。人間の女だったら別嬪だろうな?』なんて言ってくださったからちょっとだけ調子に乗って、そのあと『人間の女か、もう一生縁がないだろうな』って寂しそうに言われたから。お許しください。悪気があって謀ったわけではないのです。」
そう言ってシャックリあげていると、困惑したようにシンさまが、私の頬に手を伸ばした。
「まさか…… お前 」
そう信じられないように目を瞬かせたシンさまは、咄嗟に後ろを振り返って部屋中に視線をさ迷わせた。
「いない…? シルク??おい、シルク??」
そう言って信じられないように眉間に皺を寄せ私を再び見つめるシンさま。
「まさか… シルクだなんて言うんじゃねえよな? ははっ、いや、ないないないない、何言ってるんだよな? 俺…。」
そう言われた私は観念した。
「シンさま…。申し訳ありません。もう嘘はつきません。 シルクと綺麗な名までいただきましたが、私はミワと申します。この地の人は私達の事を“化け猫”と呼ぶそうです。ご不快な思いをさせてしまいほんとうに申し訳ございません。」
私は真実を話して、せめて許し乞いたくて懸命に説明をした。
「でも化け猫と申しましても、言われているように人を祟るような類のものではないのです。偶然に知り合い、共に旅をしてきた旅芸人の長から教えてもらいました。 この姿はこの地より遥か遥か南方に集落を有する一種族のものなのだと。“猫族”という獣人… しかもどうやら、わたしは落ちこぼれのようなのです…」
そう言って、不甲斐なく拳を握り締めた。
「……獣人? 落ちこぼれ……? 何故…?」
その問いに、わたしは完全に観念した。
もう嘘をつくのは嫌だった。
全てを白状して、一刻も早く詫びてこの地を去ろうと決めた。
私はシーツを握り締めていた拳をゆっくりと解いた。
その瞬間、真っ白なシーツは私の体から零れ落ちた。
その瞬間、シンさまは信じられないものを見たように目を見開いて固まった。
「なっ…!?」
裸体よりも、耳と尻尾を見られて忌み嫌われる恐怖が上回っていた。
動けずに何も言えずに固まるシンさま。
「……本当に申し訳ございません。このような魔物紛いの姿でシンさまに触れてしまうなど…。良く考えてみたらわたしとしたことが、なんと自分勝手な思い違いを…。」
そう言って、シンさまから背を向けた。
「でも、喜んで欲しかったのです。こんなわたしに懐かれても迷惑なのに……。」
顔を歪めて、別れの言葉を口にしようとした。
「迷惑……?」
困惑したような声。
「もう、ご迷惑をおかけしませんから、どうかお許しください。さようならシンさま。」
そう言った瞬間私は、銀色の猫に姿を変えた。
「ナ~ッ」
(ありがとうシンさま… そしてごめんなさい。)
そう言って走り去ろうとしたその瞬間。
私は、シンさまに文字通り首根っこを摑まえられてい
た。
「フナッ??」
「まぁ、待て………」
その時のシンさまの瞳はなんというんだろう…
困惑と人の好さの中に、獲物を捕らえた獣のような愉悦の光があったような……
**************
「はぁ… あぁぁ、 シンさま… シンさま… だ… だめぇ…」
私の白い肌に赤い華を散らせながら、執着するように貪りつくシンさま。
その姿はまるで獲物に飢えた狼のようだった。
「ミワ… ミワ… あぁ、ミワ… 」
そううわ言のように私の名前を口にするシンさま。
「はぁ、何て可愛いんだ…」
ハムっと、私の気にしている猫耳をおいしそうに甘噛みするシンさま。
「はあああん! シンさま 耳 ダメです。 あにゃにゃん!し…尻尾もだめ~!!」
涙目で首を振りながらシンさまを押しのけようともがく。
「ふっ… 猫族は感じる場所が多いいらしい。可愛いじゃないか…」
そう言って喉元をゴロゴロ撫でるシンさま。
何故だろう?
初めてのはずなのに、色々ばれているようで恥ずかしい。
「ミワ… 舌出して」
求められて舌を這わせる。
「あぁ… たまらないな…。 このちょっとザラついた感じ。ミワ、お前を舐めさせて。」
そう言って舌を割りいれて存分絡み合わせるシンさま。
脳に痺れが広がり気持ちよさに昇天してしまいそうになる。
それでも私の全てを貪ろうとするシンさまの手は止まらない。
私にキスしたまま、大きな両手で私の乳房を鷲掴み形を変えるほど激しく揉みしだく。
「あぁ シンさま 胸だめぇ… 激しいのだめぇ… 」
おかしくなりそうで怖い。
「ダメじゃない…。豊かで白くて先端がこんなになって、こんなに熟したように美味しそうなものが目の前にあったらこうしてしまうに決まっているじゃないか、ミワ。」
そう言って、敢えてわたしに見せつけるようにピチャピチャとコリコリした先端を舐めるシンさま。
「にゃ~!!おっぱいダメ~ニャ~、わ… わたしがシンさまを舐めてお慰めしたかったのに~」
そう言って涙目で首を振ればシンさまはフッと笑った。
「心配するな…。ちゃんとこれ以上なく慰められているさ。見ているだけで、本当にこの世のものとは思えないほど、お前は愛らしい。」
「??」
「お前は本当に……、いや、そんな話は後でちゃんとしよう。」
そんな話?
「ミワ。可愛いミワ。俺は自分でも知らなかったが存外狭量だったらしい。今は、お前を俺のものにする事で余裕がない。少しでも早くお前と繋がりたい。……猫とは気まぐれな生き物だというからな」
そう言って、情欲を隠そうともしないシンさまはチュパチュパと音を立てながら私の乳首に吸い付いて、手を腰から尻へ、尻から腿に大きな手で撫でるように移動させた。
「あぁぁん!」
太腿に口付けを落とされて華のように何カ所も跡を刻まれる。
その跡を悦に入ったように見つめるシンさま。
「柔らかくて… 白くて… 堪らないな……」
手が太ももの内側を何度も行き来して私は背中を震わせた。
焦れるような焦燥感と羞恥に下腹部が疼くような不思議な感覚。股の間が濡れてくるのは何故だろうか。
膝の裏を持たれて誰にも見せたことのない秘められた場所に視線が突き刺さる。
「シンさま、いやっ… 恥ずかしいです。見ないで。」
涙目で訴えるも、シンさまは解放してくれず
「……綺麗すぎて淫らだな。ちゃんと濡れてる」
そう言ってゴクリと息をのむシンさまの瞳はもはや隠しようのない男の熱を帯びていた。
そんな状況に居た堪れないわたしは腿を擦り合わせるように閉じようとするもシンさまの押し入った膝の為に閉じる事もままならない。
そんな緊張状態の中、シンさまの長く男らしい指がそっと私の秘列をなぞった。
「は……ああん!!」
身を仰け反らせた私にシンさまはクスッと笑った。
「敏感だな…。」
「シ… シンさま、そんなところは…」
羞恥でどうにかなりそうだ。
当初の計画はこうではなかった。
「ミワ… 大丈夫だ。できるだけ痛くしない。なぁ、俺に身を任せて気持ちよく鳴いてろ…」
「で… でもぉ、気持ちよくなってもらいたいのはシンさまで… 」
「いいから、直に俺も気持ちよくしてもらうから…」
「でっ… でもこんな… っああ? あぁぁ?? に… ニャ~ シンさま、や…やあやあっ…」
クチュっと私の秘部に指を伸ばし蜜を絡めたシンさまはそのままクチュクチュと私の入り口を擦りつける。
初めての刺激に何が何か分からず、悶える私の唇を再び自らの唇で覆い、舌を絡めて吸い上げながらもその手を休めないどころか、溢れる蜜を潤滑油のようにして長い指を使ってまだ何も受け入れたことのない大切な場所に押し入ろうとしている。
「だ…、だめぇえ… シンさま、そこはダメ!!や、やっぱり わ… わたしが、この舌を使ってシンさまの全身をなぐさめて差し上げますからぁ!」
そう涙ながらに叫ぶと、一瞬目を見開いたシンさまは、フッと甘く笑った。
「そうか…。 舌を使って全身をか…。 それはいいな。次回の楽しみにとっておこう」
そういって私の頭を撫でていつになく妖艶に微笑むシンさまの色気にゾクっとした。
シンさまは再び私に触れるだけのキスをしてちょっとだけ苦しそうに笑った。
「だが、生憎今は余裕がない。一刻も早く、お前と繋がりたい」
そう言って、私を安心させるようにチュッ、チュッと何度か音をたてて優しく口づけをしたシンさまは、次の瞬間私の膝を持ち上げるようにして私の足を大きく開脚させた。
「!? にゃ?? 」
そして次の瞬間あろうことかシンさまはわたしの股の間に顔を埋めた。
クチュ…
グチュ、クプッッ、ニュチャピチャ
「あ! あっ… あああん… シ… だ… め… ニャ あ、はん… ふっ… あっ や~」
クチュ クプリ… チュルル…
「あぁ、ミワの蜜は淫らで甘いな…。酔いそうだ…。」
そう言って私の内部にも舌を進めるシンさま。
「ん、はっ、ぁ……」
「もう、グズグズだな、ミワ…。 一度いっとけ…」
そう言った瞬間、シンさまは固くした舌で剥き出しにした蕾を押しつぶすように力を込めた。
「っ、あぁ!?」
敏感な突起の刺激に悲鳴をあげて、身を仰け反らせる。
全身に電流が流れたような強い刺激は、快感のようであり、酷く恐ろしかった。
それでもシンさまは容赦せずに、そこを舌で弄び、その指は蜜道をクチュクチュと犯す。
もう気が変になりそうだ。
「っシンさま、ダメです。怖い、もうや… やめて、あっ、あぅ、あああん…」
その次の瞬間、怖いくらいに体が高まって爆ぜたように目の前がチカチカとした。
「あっ… はっ はっ にゃ…?? はぁ、はぁ……」
息も絶え絶えで放り出されたような不思議な感覚。
脱力した私を、肉食獣のような顔で見下ろすシンさまが初めて愛しくも恐ろしい存在なのだと感じた。
まるで狼に捕獲された草食動物のような頼りなさ。
自分の命すらその手に握られているような恐ろしさと同時に何故かこの状態に喜びを感じる不思議な感情。
貪るように口づけられた。
同時に、自らの前を寛げるシンさま。
そこから飛び出したのは、凶器と思えるほどの赤黒くそそり立った欲棒だった。
あまりの存在感に怖気づくといともに、ごくりと唾を飲み込んだ。
思わず逃げを打ちそうになったとき、シンさまが腰を抱き込むように私を引き戻して、猫耳に一度口付けて
私と目を合わした。
「…ミワ、観念しろ。お前をこれから俺のモノにする。」
そう言って小さく笑うシンさまの笑顔はどこか凶悪で…
はっきりとした欲と意思を持っていた。
それはわたしが知る、優しくも、どこか無気力に感じていた今までのシンさまのものとは明らかに違った。
「シンさま…」
そう不安そうに名前を呼ぶと、シンさまは、私の猫耳を撫でるようにコリコリと転がした。
「大丈夫だ。大事にするから。だから… いいな?」
何を求められているのか……
刺すような瞳。
身体だけではないようなそんな気がした。
今までのどこか儚いような笑顔ではなく、男として、そして人としての懐の深さを感じるような包み込むような真剣な瞳にわたしはコクリと頷いた。
その瞬間、秘所に熱い熱の塊が擦り付けられて、身を仰け反らした。
そして次の瞬間、その熱い塊が身を開く様に中を押し広げてきた。
「あっ! だ、だめ……、 い!? いた… ああああああ!!」
「ミワ… すまない、もう半分だから…」
そう言われて愕然とする。
「ま… まだ半分? む… 無理です… シ… シンさま…」
涙目で見上げるとシンさまは、わたしの唇を塞いで舌を割りいれる。
そして、指先で乳首を転がすようにつまむ。
「はっ… シ… はっ、苦し… 」
「ミワ… 背中、ギュッとしてろ… 引っ掻いてもいいから… どうしても諦めたくないんだ。すまない。」
そう言ってシンさまは一度、灼熱を引き抜いたかと思ったら、抜ける寸前で再びわたしの腰を抱き寄せて、自らも腰を打ち付けて、最奥まで私を貫いた。
「はぁぁぁ!!!」
激痛に完全に身を強張らせて固まる私。
それを愛おし気に抱きしめるシンさま。
「ミワ……。 入った。繋がってる、分かるか? 」
「はい……でも、痛いです。」
そう涙を零したまま言う私に、少し申し訳なさそうに目を細めるシンさま。
親指の腹で私の涙を拭って労わるように唇を寄せた。
「すまない。しばらくこうしていよう」
そう言って、ジッと私を見つめ髪を撫でてくれるシンさま。でも、その瞳の奥には色気と歓喜と切なさを滲ませていた。
どれほどそうしていただろう。
許しを乞うように、頰に手を添えて口付けられた。
「ミワのなか、温かくて気持ちいい…。動いても大丈夫そうか?」
そう言われて、私はコクリと頷いた。
自分を抱きながら、こんなにも喜怒哀楽を顕にしてくれるシンさまが嬉しかった。
ただ、優しいのではなく、欲しがってくれている。
そう、焦がれるように、今求めてくれているのが嬉しいのだ。
例え、これが男が本能のままにメスを欲しがっている瞬間に見せる貪欲さだとしてもそれでいい。
それがいい…
私は、嬉しいのだ。
「シンさま……。大丈夫です。わたしでシンさまを気持ちよくできますか? そうできたら、わたしも凄くうれしいです。だから、どうかシンさまのお心のままに、好きにしてください。」
そう言って微笑みかけた瞬間、シンさまは目を見開いた。
顔が熱を帯びたように赤いと感じるのは気のせいだろうか?
その瞬間、シンさまの欲棒は固さと大きさを増した。
それを合図に、シンさまは、堪り兼ねたように腰を振り始めた。
その動きは、まるで野生動物のようだった。
そしてその体は、やはりここで日がな一日、釣りや、畑仕事をしているような男のものではあり得なかった。
優秀な血脈を感じる精悍な顔
戦場の中で培われたであろう威圧的とも感じるオーラ
鍛錬を続けてきた者しか持ちえない戦う男の体躯
そして、私は知ってしまった。
この人が、とても優しい事を……
そして義理堅い事も…
とても大きな人であることも…
そして、身体だけでなく心にこそ大きな傷を負う寂しい人であることも…
「シンさま… シンさま… 大好きです。 ミワはシンさまをお慕いしています。」
そう言うとまたシンさまがピクリとして、中を貫いているモノの硬度が増した。
「くっ、ミワ… ミワ… 俺のミワ…。」
(俺の……?)
そう聞えた気がした。
今だけでも、シンさまの飼い猫と思ってもらえたならば、私は本望だ。
私は泣きそうになりながらシンさまを見つめた。
「はい…… シンさまの猫ですね」
そう言って少し笑った。
「ばっ… 煽るな…。 持たない…。クソっ…」
その瞬間、耐えかねたような激しい突き上げに、もう何も考えられなくなった。
「はっ、んん、っ、あぁぁ、シ… シンさま~、な…なにかくる、おかしくなりそうで、あっ、あああ、
ああああああああ!」
「一緒に行こう」
そう聞えた瞬間、何が何だか分からないくらいに身体を揺さぶられ続けた。
「っひ、ひぃぃぃぃ…」
意識を失う瞬間、体の奥に熱が広がるのを感じた。
「ミワ、あぁ、ミワ…、俺は… 生きてるんだな…心もまだ。…欲なんて残ってるなんて知らなかった」
*********
そうして私は、思いがけず愛しいシンさまに初めてを貰っていただくという奇跡体験をした。
やはりシンさまはお優しい。
情け深いお方なのだ。
次の朝、人の姿でシンさまの腕の中で目覚めた私は、シンさまに感謝の気持ちを持って別れを告げた。
「シンさま。本当にお世話になりました。ただ一夜でもミワはシンさまの飼い猫にしていただいた幸せを決して忘れません。」
そう言って触れるだけの口付けを最後の餞別にといただいて、愛しい人の寝顔を見つめながら、銀色の猫に姿を変えた。
そうして駆けだそうとした瞬間…
またしても首根っこを摑まえられた。
「フニャ⁇」
「たくっ、ほんと猫って奴は油断ならねえな…。」
(シ… シンさま??)
物騒なくらいの眼力が突き刺さる。
そこには苦虫を噛み潰したようなシンさまがいた。
そのまま一度私を下ろしたシンさまは、ご自分が腰掛けていらっしゃるベッドの横をトントンと指差した。
私は素直に従い、ベッドにストンと飛び乗った。
「人型だよ!それじゃ話せないだろが?」
そう言われて慌てて姿を変えるも、昨日の今日での裸体というのに居た堪れない私は、咄嗟にシーツに手を伸ばした。だかその瞬間その手首を捕らえられ、気づけば裸のままシンさまの厚い胸の中にいた。
「シンさま…?」
慌てて見上げたシンさまは不穏な顔をされていた。
「初めてだから可哀そうだと思ったが、やっぱり身体が納得するまで覚えこませないと駄目だなこりゃ。お前が、誰の嫁かって事をな…」
その言葉に私は目を瞬かせた。
「え!?… 嫁?? 誰が… 誰の??」
その問いかけにシンさまは苛立ったように舌打ちした。
「他に誰がいる? お前が俺の嫁に決まってんだろが? 昨日俺はお前を俺のモノにすると言ったはずだ。そしてお前は頷いただろうが?あ?? 俺のミワだって。今更違うなんて言わさないからな。」
「え…? あれは一夜限りシンさまの猫にしていただいたと言う意味で、そもそも私は化け猫ですからそれを美しい思い出にして故郷を目指そうかと…」
「は!?…………」
その時のシンさまの恐ろしい顔を私は一生忘れないだろう。
結局私はあの後、三日三晩抱き潰された。
もう数えてはいられないくらい体の奥にシンさまの精を浴びた。
何故私は、この絶倫王を儚いなどと思えていたのか…
************
その後、指の一本も満足に動かせない私を猫の姿で懐に抱いたまま、シンさまは凄い行動力を見せた。
国を出て、人間も獣人も共に暮らせる地を探すというのだ。
直ぐにでも出ていきそうなシンさまに焦ったのは彼を慕う元騎士様達だ。
元々、この地にも彼らの恋人や妻などもいたらしい。
ただ王都を追放になったこの地での暮らしは本当に厳しいもので最初の一年で多くの餓死者を出した。
そして、女たちの中にはこの地を去るものが相次いだ。
元々、王都の有力騎士達は家柄もよく文武に優れているのでその恋人や家族も家柄がよく見目好い女性が多い。
そんな女性達を、新政府の男達が見栄を張る様に後妻や妾に求めて、今まで出る立場になかった社交界に連れまわしている実態があるのだという。
女は生きるために
或いは子を生かすためにこの地を去った。
男たちはそれを責める事は出来なかったという。
時代は変わってしまったから…
自分たちはあの日の生活を、家族や、恋人、そして自分たちを信じてくれた多くの民を守れなかったから
でも、シンさまは自嘲するように言った。
「一つの時代が終わり…。新しい時代が始まったんだ。世が新しい規律を求めたのだろう。それ自体は決して悪い事じゃないと思っている。時代が変わる時にはどうしても大きな戦いが起こる。皮肉だがな…。まぁ、誰か命張る人間がいなきゃ、新時代も格好つかないしな。」
そう茶化したように笑うシンさまが…
そして時代の狭間でその時命をかけて戦い抜いた双方が、どれだけの覚悟と痛みのなかで、どれだけ多くのものを亡くしながら前に進んだのか、考えるだけで胸が痛かった。
だからこそ、シンさまはこの国の新時代に期待をしているとも言う。
でもその一方で、せっかく生き延びた命を腐らせるのもやはりここじゃないと…。
結局、シンさまに触発されて、わたしたちは皆であの村を脱した。
少し疲れたような騎士服を身に纏った騎士様達の顔にはもう、無気力な影は無かった。
馬を調達して私たちは大地を駆け抜けた。
広い世界には、自分たちを求める場所もきっとどこかにあるのだと皆で信じたのだ。
沢山の町や村に立ち寄った。
出会いを繰り返し徐々に同行を希望する仲間も増えた。
シンさまは去るものは追わなかったし。
来るものは拒まなかった。
そして国を出る前の国境の町に立ち寄った。
その村はかつて力を持たず、今では政府高官をたくさん輩出している地方でもあった。
かの戦争で手柄を多くたてた人たちが昔住んでいたどこにでもある田舎だった。
そこには、多くの女が昔ながらの暮らしをしていた。
夫は理想と出世を夢見て戦場を駆け抜け、妻は家で必死に留守を守って生きてきたという。
戦況によっては罪人の妻と罵られながらも家族と共に夫の無事を祈っていたのだろう。
新時代になり離縁されたり、捨て置かれた多くの女は、気丈に笑いながら話す。
「夫は帰って来なかった。今ではお綺麗なお貴族様と暮してるんだろうよ、箔が必要なんだとよ。どんな気取ったってあの人はあの人なのにね…」
戦はここでも多くの人の運命を狂わせていた。
でも、皆が痛みを抱えながら、逞しく歩みを進めていた。
そんな女の強さと生き様に心打たれた数名の元騎士様はその地に留まった。
そしてシンさまは先に進んだ。
誰もが己が何者になるかなど分かるはずもなくただの自分として生きているのだ。
きっとシンさまもそう。
自分達が自分達らしく生きられる再び守りたいと思える場所を求めてシンさまは走り続けた。
元々、学があり、実践経験も苦労も知る精鋭部隊だ。
最初はギルドで仕事を得たが、指名の仕事はあっという間に増えた。
そこから商売も始めた。
シンさまは生涯この手を決して離すことなく大地を進み、人と出会い、絆を増やし大切なものを増やし守り続けた。
時に武器をその手にとり、戦う事で新しい家族を得た騎士様達と共に大切なモノを守り続けた。
そうしているうちに、何者かになり、また別の何者かに変わっていく。
そんな事を繰り返しながら、遥か遥か異国の地で、一時代を築いたのはまた別のお話だ。
そこには夜になると甘い顔を見せる溺愛症の王様がいて、人も獣人も、もちろん獣人の落ちこぼれも幸せに暮らせる国だったことは言うまでもないだろう。
そして老若男女の日々の賑やかな生活音が鳴り響く、ありふれた国であったことも…
終
夏の終わりの湿り気を帯びた風が窓から入り込む。
室内には優しく煌めく淡い月明かりのみ。
温かな布団と逞しい腕からそっと抜け出したわたしは、今までわたしを抱いて眠っていた男の前にストンと立ち上がり、精悍な顔立ちの割にまるで子供のように無邪気に眠る男の顔をジッと見つめる。
そして頬をそっと寄せてみる。
「ナァ~……」
そう甘えた声をあげても男は寝入ったままだ。
(これならば…)
そう決意したわたしは瞳を閉じ、幼い日から封印してきた一つの呪文を心で唱える。
そうして月の光に自らの手の平を照らすように両手を開いた。
白い手の平。細い指先。
大丈夫だ。
人間の手だ。
(ちゃんと大人になってる……?)
僅かに聞こえる虫の音色を遠くに聴きながら、成体となってから初めて人型というものに姿を変えた。
私は、慣れない自分の淫らな姿に、今まで知ることのなかった羞恥という感情を覚えた。
そして恐る恐る頭に手をあてる。
少し瞳を曇らせて、尻に手を伸ばす。
(やっぱり、これは変わらないのだ……)
溜息を一つ吐いた私は、傍らにあったシーツに猫耳と剥き出しの素肌を隠して、男の傍らに膝をついた。
そして愛しい男の形の良い薄い唇を下から上にそっと舐めあげる。
「シンさま…」
大切な恩人…
命と心を救ってくれた人。
「んっ……」
その瞬間、男は僅かに身じろいだ。
長い睫毛が僅かに揺れて、静かに動きを止める。
それを見守り起こさぬように、聞こえるか聞こえないかのほんの僅かな声で語りかける。
「シンさま… この身ならば、少しは喜んでいただけますか? 偽物でもいくらか慰めにはなりますか?」
そう独り言のように呟いて目を細めた私は、男の体をペロリペロリと舐め始めた。
「シンさま… どうか目を覚まさないで。あなたさまを癒す事ができるなら、この姿を愛してほしいなどとおこがましいことは思いません。いかような願望にすり替えていただいてもミワは構いません。どうか今だけは、お心を休めてひと時の安らぎを。」
そうして祈る。
(シンさま……どうか目を覚まさないで)
だって“化け猫”などと愛しい人に思われたくはない。
それがとても怖かった。
でもそう思う一方で、この人に喜んでもらうとしたら、きっとこの姿しかないと思うのだ。
初めて化けた人間の女体。
それは決して完璧なものではない。
頭の上には人ならざる者の耳があり、尻の上には長い尻尾を揺らした不完全な姿。
これが私にとれる最も人に近い姿なのだ。
故に、長年の間この姿を取ることはなかった。
『ミワよ、この地の人間はこの地の事しか知らない。世間が狭いんだ。だから“化け猫”と恐れられ、忌み嫌われ、狩られたり見世物とされてしまうかもしれないから、ここでは猫の姿でいればいい。すぐにではなくても何れ旅の途中でお前を仲間の元へ帰してやれる日もくるだろうさ…」
そう忠告をしてこの数年守ってくれた旅芸人の頭ももうこの世にはいない。
数か月前、夜盗に襲われて、多くのものが殺され、売られた。命からがら逃げ伸びたものは何人いるだろう。
あの夜盗賊が間近に迫る中
「いいか?信用できないものの前で、人型になるな。逃げきれ…」そう言われて、急傾斜の斜面から暗闇に放り出された。
その後、ようやく見つかったのは数体の旅芸人達の遺体だけだった。
辺鄙な山での野営の途中での出来事だった。
あれから私はひとりになった。
大自然の中で獣といえども、たかが猫。
しかもわたしは、数日後大きな失態を犯した。
獣を捕らえる為の罠に嵌り、捕らえられることはなかったが、小さくない怪我を負ったのだ。
危険な野生動物の生息する森で決して犯してはいけない失態だった。
そうでなくても衰弱しているところに血の匂いで狼たちを呼び寄せた。
猫一匹に狼四匹 寸でのところで刀を持つこの人に助けられた。
あの夜の月明かりに照らされながら剣を振るうシンさまは、まるで鬼神のように強く、そして美しかった。
あの夜意識を失った私はここで目覚めた。
既に傷を負っていたのだろう。
あれから、あの日とは別人のように穏やかに微笑むシンさまに甲斐甲斐しく介抱してもらってひと月くらいが経とうとしていた。
意識が戻り、食欲が戻り、歩けるようになり気付いた。
ここは…
とても寂しい集落だった。
ここにいるのはほとんどが20代後半から40代くらいまでの人間の男ばかり。
たまに老女や子供を見かけることもあるけれど、女性のいない集落。
そして男たちは皆逞しく、何故か体中に傷跡を持ち、どこか諦めたような悟ったような寂しい顔をしている。
精悍な面持ちをした人たちも多いのに、皆妻や恋人がいない集落。
そんな場所だった。
そしてシンさまもそんな中の一人。
いや、少し違うのかもしれない。
皆と同じ生活をしながらも周りから一目置かれている様子が伝わる。
でも家族がいないのは同じだった。
だからだろうか。
シンさまはわたしに餌を与え、体を撫で、共に寝てくれる。
いつも優しい笑顔を向けてくれる。
体調のよくなったわたしを引き留める事もないかわりに、追い出そうともしない。
とても優しい人……
(だからどうしても恩返しがしたいのだ!)
何をしたら大人の男性が喜んでくれるか分からない私はたぶん今まで沢山空振りをした。
私は基本猫だ。
猫の女に人の男の生態はよく分からない。
でも先日ようやく一つの可能性を思い出したのだ。
シンさまの「俺はこの先人間の女にはもう縁がないだろうな…」
そう寂しく笑う横顔。
そしてシンさまは「でも、それで構わないさ…」と自嘲するように目を細めた。
全てを悟ったような欲のない顔だった。
それが何故だかとても悲しかった。
もっと幸せそうに笑った顔が見たいと思った。
でも、その言葉で私はいつぞやの旅芸人の一人の発狂したような言葉を思い出した。
「あ~女が欲しい。女に舐められてぇ…」
「品のねぇこというな、この下種野郎が」って誰かに拳骨されてたような。
でも私には、あれはあの人の心の叫びのように感じたのだ。
(男の人の本能…? 共通の願望なのかしら…??)
そしてわたしは思い立ったのだ。
(舐める?それならきっとわたしにも……)
汗の匂いがする男の逞しい胸板に舌を這わせる。
(でも、一体どこを舐めるといいのかしら?)
いくつもの刀傷の残る鍛え上げられた逞しい身体。
胸板が厚くて、腕も太く逞しい。
程よく日に焼けた身体。
シンさまは今は狩りや、畑仕事をしながらこの人里離れた辺境の地で暮らしていらっしゃる。
でも、数年前までは戦いに明け暮れていたのだと言う。
そう聞いて悟った。
旅芸人の頭が言っていた。
この地は、数年前にとても大きな内乱があって、長き戦の果てに反乱軍が勝利して政権が完全に入れ替わったのだと。旧王国軍の王様は、戦の途中で命を懸けて自らの政権を守ろうとする多くの正規兵や義勇軍を置き去りにして、船で側近と共にかつて身内を嫁がせた国に亡命したのだと。
それから、この国の偉い人と偉くない人は入れ替わったのだと…。
だから何となく悟った。
かつてこの国を守ろうとして今もいる周りの人から一目置かれるシンさま。
彼はきっとかつての偉い人だったのかもしれない。
だからこそ、今はとても寂しい生活を強いられているのかもしれない。
でも私を見つめるシンさまの瞳はいつも穏やかで優しいのだ。
男の胸の頂に、ペロンと舌が触れたとき男の体がピクリと震えた。
「シンさま……」
その温もりの愛しさに、泣きたいほどに切なくなり、懸命に男を求めるように舐め続けた。
もはや、相手を満たそうとしているのか、それによって己を満たそうとしているのかすら分からなくなる。
この感情の意味が分からなかった。
それでも何故だか本能が鼻を擽るように、男の下腹部あたりに引き寄せられる。
さっきまでは、無かったように思う男の滾りにわたしはコトリと首を傾げた。
(これは…… 何かしら?)
盛り上がり時折揺れる下履きが窮屈そうで、そっと手を伸ばして恐る恐るツンと触れてみた。
その瞬間、男は身を震わせた。
(え………?)
その膨らみの正体を探ろうと、半ば尻込みしながら、男の下着をそっと捲ってそれを露わにして初めて見る男自身に目を見開いた。
(こ…… これは……?)
その瞬間、私の目は瞬いた。
大きくそそり立つ森に生えているキノコのようなものが人間から生えているのだ。
そして私はその形になじみがあった。
(これはエリンギイに似ているわ‼︎)
今までにない興奮を覚えた。
これは、森で一人の時も、時折私を慰めてくれていたキノコと同じ形。
しかも、キノコにはなかった熱を持っていて、触るとピクリピクリと震えて、その都度形を少し変える。
(な…… なんて…… )
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
きのこを何度もいたぶる様に猫パンチしてフッ飛ばして、キャッチして上の傘の部分を唇で甘くハミハミして、最期は爪で縦に何重にも引き裂いて、割けるチーズのようにして爪についた繊維状の物体をペロペロと爪を磨く様に完食した時の色んな感情が満たされるあのお得感。
あれは一回嵌ったらやめられないのだ。
その瞬間、ウットリと目を細めた私は、コロリとシンさま自身の横に横たわって、自らの手を猫手に丸め左右交互にそれに触れてその揺れを楽しんだ。
フルフルと揺れたりピクリと反応する素晴らしいソレにチョロく猫心を刺激された私はすっかり当初の目的を忘れていた。
猫は気まぐれな生き物なのだ。
「ふにゃ… ニャナ… ニャニャ フミィ ゴロゴロニャー」
すっかりソレに魅了されてしまった私は、シンさまのソレを猫パンチして揺らしたり、根本から舐めあげたり、軽く甘噛みしたりとご満悦で遊びに興じた。
仕方がないだろう。
好奇心と感触系の遊びは猫の本能だ…。
すっかりシンさまをお慰めすることを忘れていた私は、魅力的なソレから僅かに粘つく液体がでてきたことに興味を覚えて、嬉々としてそれを舌でペロリと舐めようとした瞬間、捕獲された。
(そ…… そんな~!! いいところだったのに持って行かないで!!)
恨めしくて、涙目で上を見上げた瞬間シン様と目があった。きっと怒らせてしまったのだろう。
顔を真っ赤にしたシンさまが、眉間に皺を寄せて私を見つめていた。
「…………」
その瞬間、我に返った私は、バッとシーツを手繰り寄せた。
「お… お許し下さい。」
そう言ってシーツに包まり俯く私。
「お前は誰だ? 一体どこから入ってきた??」
そう厳しい顔で問い詰められて私は口ごもった。
(まずい… 完全に起きてしまわれた。 今更どう取り繕うべきだろう…)
何も言えずにいる私を怪しんだシンさまは、私の首に手をかけた。
その瞬間、体を仰け反らせた私の胸はシーツから零れ落ちるようにシンさまに晒された。
「うっ… 」
一瞬、苦し気に息を呑んだシンさま。
それでも、シンさまは覚悟を示すように私の首に絡めた指に僅かに力を込めた。
「言え…。女、言わぬなら容赦なく絞めるぞ。盗賊の類か? それとも新政府の間者か?交換条件を受け入れ人質は全て開放したはずだ。辺境でこうして静かに暮している俺たちに今更死ねとでも言いに来たか?」
凄い内容を無表情に問われて涙目で首を僅かに横に振る。いつも諦めたように微笑むシンさまの心の闇に触れたようで胸が締め付けられた。
切なさとパニックで意図せず涙が零れ落ちそうになり、懸命に耐えようとしたが、無理だった。
シンさまが驚いたように眉間に皺を寄せる。
「女……。何故泣く?それにしても見たことのない色味の瞳だな。」
そう呟いたシンさまはシーツから零れ落ちた私の髪を見つめ目を瞬かせた。
「おまえ、もしや遠き異国から来たのか?」
そう問われビクリとした。
私の髪色は白銀で瞳の色はサファイアブルーと言われる事が多い深い青色だ。
この地の人間にはない色味。
漆黒の瞳とサラサラとした同色の髪色をしたシンさまからしたら異端の色。
違和感を与える事など分かっていた。
だから、目を覚まさないで欲しかった。
肌のぬくもりだけを感じてもらい、少しでも慰めになりたかった。
それなのに、私としたことが、あのような状況で遊び心に負けてしまうとは…。
自らの不甲斐なさに涙が零れた。
「シンさま…。お許しください。どうか、どうか、お許しください。」
涙が零れた。
その瞬間、シンさまは痛そうに、眉を寄せた。
「女……。 何故泣く? 何故謝る? しかも何故こんなところにいるのだ? ここに住むのは老女と置いて行かれた子供しかいないはずなのに……」
シンさまは怪しいに違いない私に矢継ぎ早に質問を投げかけた。
「存じております。だからこそ… ミワはせめてシンさまの夢の中でお慰めしたかったのに…」
そう言って私は、瞳を手の平で覆った。
もうおしまいだ。
このような異端な姿の女に慰められたい男などきっといない。
だから姿を見られるつもりは無かったのに。
「申し訳ございません。シンさま。シンさま。少しでもお慰めしたかったのに、ご不快にさせてしまうなどと……」
そう言って嗚咽をあげる私の首はいつの間にか解放されていて、目の前には困った顔で状況を確認しようとオロオロするシンさまの姿があった。
(あぁ… このように困らせるつもりではなかったのに…)
わたしはいつもシンさまを困らせてばかりだ。
「な!? 慰める? どういうことだ??」
「う……ヒック、ヒック、ウグ… 」
「わ… いいから、いいから泣くな?おいっ、訳を言ってみろ?な?」
そう言って、取り繕うように指で私の涙を拭って、焦ったように頭をポンポンとするシンさま。
(あぁ… なんとお優しい…)
「じょ… 女性が… 」
「は?女性?」
「ヒクっ、女性が欲しいとおっしゃられていたから…。お慰めしたくて、で…でも、こんな不完全な…不細工な姿をお目にかけるわけにもいかなくて…。」
「は!? 不細工??」
絶句するシンさま。
当然だ。
突然あんなことをこんな化け物からされるなんて、目が覚めて姿を見られてしまえば、大きな不快を与える事になるというのに。
あぁ、どうして私は毎回こんなに愚かなんだろう。
「た… 助けていただいたのに…」
そう言って顔を歪める私。
「た… 助けた??」
眉を寄せるシンさま。
「こ…この体を、こう?あちらこちら余すところなく撫でて、私の心の不安を取り除いてくださったのに…」
その瞬間ボッと顔を赤くしたシンさまは、私の体に目を向けてフルフルと焦ったように首を振った。
「ご… 誤解だ! 俺はそんないかがわしいことはしていない。断じてしていない… と思うぞ!」
そう困ったように私を見つめるシンさま。
「いいえ…。助けられたのです! 癒されたのです!その温かさに触れもう一度生きようと思えたのです。それなのに…」
私は顔を歪めて首を横に振った。
「わたしは、何の恩も返せなかった。蝉の死骸も… 生きたネズミも… 隣の男の人の家の前からとってきた大きな下履きも、良かれと思ったのに全部シンさまを困らせてばかりで…」
そう言って泣く私の前で、ピクリと動きを止めるシンさま。
「蝉……? ネズミ……? 隣の奴の下着??」
そう呟いたまま固まるシンさま。
「まさか… お前、いや、まさか… そんな馬鹿な事が……」
ブツブツと呟きながら挙動不審に右往左往し始めたシンさま。
(あぁ、やはり困らせてしまっている。)
「私などで、お慰めできるはずなどなかったのに…。シンさまがわたしを抱き上げて、顔を覗き込んで、
『お前綺麗だな。人間の女だったら別嬪だろうな?』なんて言ってくださったからちょっとだけ調子に乗って、そのあと『人間の女か、もう一生縁がないだろうな』って寂しそうに言われたから。お許しください。悪気があって謀ったわけではないのです。」
そう言ってシャックリあげていると、困惑したようにシンさまが、私の頬に手を伸ばした。
「まさか…… お前 」
そう信じられないように目を瞬かせたシンさまは、咄嗟に後ろを振り返って部屋中に視線をさ迷わせた。
「いない…? シルク??おい、シルク??」
そう言って信じられないように眉間に皺を寄せ私を再び見つめるシンさま。
「まさか… シルクだなんて言うんじゃねえよな? ははっ、いや、ないないないない、何言ってるんだよな? 俺…。」
そう言われた私は観念した。
「シンさま…。申し訳ありません。もう嘘はつきません。 シルクと綺麗な名までいただきましたが、私はミワと申します。この地の人は私達の事を“化け猫”と呼ぶそうです。ご不快な思いをさせてしまいほんとうに申し訳ございません。」
私は真実を話して、せめて許し乞いたくて懸命に説明をした。
「でも化け猫と申しましても、言われているように人を祟るような類のものではないのです。偶然に知り合い、共に旅をしてきた旅芸人の長から教えてもらいました。 この姿はこの地より遥か遥か南方に集落を有する一種族のものなのだと。“猫族”という獣人… しかもどうやら、わたしは落ちこぼれのようなのです…」
そう言って、不甲斐なく拳を握り締めた。
「……獣人? 落ちこぼれ……? 何故…?」
その問いに、わたしは完全に観念した。
もう嘘をつくのは嫌だった。
全てを白状して、一刻も早く詫びてこの地を去ろうと決めた。
私はシーツを握り締めていた拳をゆっくりと解いた。
その瞬間、真っ白なシーツは私の体から零れ落ちた。
その瞬間、シンさまは信じられないものを見たように目を見開いて固まった。
「なっ…!?」
裸体よりも、耳と尻尾を見られて忌み嫌われる恐怖が上回っていた。
動けずに何も言えずに固まるシンさま。
「……本当に申し訳ございません。このような魔物紛いの姿でシンさまに触れてしまうなど…。良く考えてみたらわたしとしたことが、なんと自分勝手な思い違いを…。」
そう言って、シンさまから背を向けた。
「でも、喜んで欲しかったのです。こんなわたしに懐かれても迷惑なのに……。」
顔を歪めて、別れの言葉を口にしようとした。
「迷惑……?」
困惑したような声。
「もう、ご迷惑をおかけしませんから、どうかお許しください。さようならシンさま。」
そう言った瞬間私は、銀色の猫に姿を変えた。
「ナ~ッ」
(ありがとうシンさま… そしてごめんなさい。)
そう言って走り去ろうとしたその瞬間。
私は、シンさまに文字通り首根っこを摑まえられてい
た。
「フナッ??」
「まぁ、待て………」
その時のシンさまの瞳はなんというんだろう…
困惑と人の好さの中に、獲物を捕らえた獣のような愉悦の光があったような……
**************
「はぁ… あぁぁ、 シンさま… シンさま… だ… だめぇ…」
私の白い肌に赤い華を散らせながら、執着するように貪りつくシンさま。
その姿はまるで獲物に飢えた狼のようだった。
「ミワ… ミワ… あぁ、ミワ… 」
そううわ言のように私の名前を口にするシンさま。
「はぁ、何て可愛いんだ…」
ハムっと、私の気にしている猫耳をおいしそうに甘噛みするシンさま。
「はあああん! シンさま 耳 ダメです。 あにゃにゃん!し…尻尾もだめ~!!」
涙目で首を振りながらシンさまを押しのけようともがく。
「ふっ… 猫族は感じる場所が多いいらしい。可愛いじゃないか…」
そう言って喉元をゴロゴロ撫でるシンさま。
何故だろう?
初めてのはずなのに、色々ばれているようで恥ずかしい。
「ミワ… 舌出して」
求められて舌を這わせる。
「あぁ… たまらないな…。 このちょっとザラついた感じ。ミワ、お前を舐めさせて。」
そう言って舌を割りいれて存分絡み合わせるシンさま。
脳に痺れが広がり気持ちよさに昇天してしまいそうになる。
それでも私の全てを貪ろうとするシンさまの手は止まらない。
私にキスしたまま、大きな両手で私の乳房を鷲掴み形を変えるほど激しく揉みしだく。
「あぁ シンさま 胸だめぇ… 激しいのだめぇ… 」
おかしくなりそうで怖い。
「ダメじゃない…。豊かで白くて先端がこんなになって、こんなに熟したように美味しそうなものが目の前にあったらこうしてしまうに決まっているじゃないか、ミワ。」
そう言って、敢えてわたしに見せつけるようにピチャピチャとコリコリした先端を舐めるシンさま。
「にゃ~!!おっぱいダメ~ニャ~、わ… わたしがシンさまを舐めてお慰めしたかったのに~」
そう言って涙目で首を振ればシンさまはフッと笑った。
「心配するな…。ちゃんとこれ以上なく慰められているさ。見ているだけで、本当にこの世のものとは思えないほど、お前は愛らしい。」
「??」
「お前は本当に……、いや、そんな話は後でちゃんとしよう。」
そんな話?
「ミワ。可愛いミワ。俺は自分でも知らなかったが存外狭量だったらしい。今は、お前を俺のものにする事で余裕がない。少しでも早くお前と繋がりたい。……猫とは気まぐれな生き物だというからな」
そう言って、情欲を隠そうともしないシンさまはチュパチュパと音を立てながら私の乳首に吸い付いて、手を腰から尻へ、尻から腿に大きな手で撫でるように移動させた。
「あぁぁん!」
太腿に口付けを落とされて華のように何カ所も跡を刻まれる。
その跡を悦に入ったように見つめるシンさま。
「柔らかくて… 白くて… 堪らないな……」
手が太ももの内側を何度も行き来して私は背中を震わせた。
焦れるような焦燥感と羞恥に下腹部が疼くような不思議な感覚。股の間が濡れてくるのは何故だろうか。
膝の裏を持たれて誰にも見せたことのない秘められた場所に視線が突き刺さる。
「シンさま、いやっ… 恥ずかしいです。見ないで。」
涙目で訴えるも、シンさまは解放してくれず
「……綺麗すぎて淫らだな。ちゃんと濡れてる」
そう言ってゴクリと息をのむシンさまの瞳はもはや隠しようのない男の熱を帯びていた。
そんな状況に居た堪れないわたしは腿を擦り合わせるように閉じようとするもシンさまの押し入った膝の為に閉じる事もままならない。
そんな緊張状態の中、シンさまの長く男らしい指がそっと私の秘列をなぞった。
「は……ああん!!」
身を仰け反らせた私にシンさまはクスッと笑った。
「敏感だな…。」
「シ… シンさま、そんなところは…」
羞恥でどうにかなりそうだ。
当初の計画はこうではなかった。
「ミワ… 大丈夫だ。できるだけ痛くしない。なぁ、俺に身を任せて気持ちよく鳴いてろ…」
「で… でもぉ、気持ちよくなってもらいたいのはシンさまで… 」
「いいから、直に俺も気持ちよくしてもらうから…」
「でっ… でもこんな… っああ? あぁぁ?? に… ニャ~ シンさま、や…やあやあっ…」
クチュっと私の秘部に指を伸ばし蜜を絡めたシンさまはそのままクチュクチュと私の入り口を擦りつける。
初めての刺激に何が何か分からず、悶える私の唇を再び自らの唇で覆い、舌を絡めて吸い上げながらもその手を休めないどころか、溢れる蜜を潤滑油のようにして長い指を使ってまだ何も受け入れたことのない大切な場所に押し入ろうとしている。
「だ…、だめぇえ… シンさま、そこはダメ!!や、やっぱり わ… わたしが、この舌を使ってシンさまの全身をなぐさめて差し上げますからぁ!」
そう涙ながらに叫ぶと、一瞬目を見開いたシンさまは、フッと甘く笑った。
「そうか…。 舌を使って全身をか…。 それはいいな。次回の楽しみにとっておこう」
そういって私の頭を撫でていつになく妖艶に微笑むシンさまの色気にゾクっとした。
シンさまは再び私に触れるだけのキスをしてちょっとだけ苦しそうに笑った。
「だが、生憎今は余裕がない。一刻も早く、お前と繋がりたい」
そう言って、私を安心させるようにチュッ、チュッと何度か音をたてて優しく口づけをしたシンさまは、次の瞬間私の膝を持ち上げるようにして私の足を大きく開脚させた。
「!? にゃ?? 」
そして次の瞬間あろうことかシンさまはわたしの股の間に顔を埋めた。
クチュ…
グチュ、クプッッ、ニュチャピチャ
「あ! あっ… あああん… シ… だ… め… ニャ あ、はん… ふっ… あっ や~」
クチュ クプリ… チュルル…
「あぁ、ミワの蜜は淫らで甘いな…。酔いそうだ…。」
そう言って私の内部にも舌を進めるシンさま。
「ん、はっ、ぁ……」
「もう、グズグズだな、ミワ…。 一度いっとけ…」
そう言った瞬間、シンさまは固くした舌で剥き出しにした蕾を押しつぶすように力を込めた。
「っ、あぁ!?」
敏感な突起の刺激に悲鳴をあげて、身を仰け反らせる。
全身に電流が流れたような強い刺激は、快感のようであり、酷く恐ろしかった。
それでもシンさまは容赦せずに、そこを舌で弄び、その指は蜜道をクチュクチュと犯す。
もう気が変になりそうだ。
「っシンさま、ダメです。怖い、もうや… やめて、あっ、あぅ、あああん…」
その次の瞬間、怖いくらいに体が高まって爆ぜたように目の前がチカチカとした。
「あっ… はっ はっ にゃ…?? はぁ、はぁ……」
息も絶え絶えで放り出されたような不思議な感覚。
脱力した私を、肉食獣のような顔で見下ろすシンさまが初めて愛しくも恐ろしい存在なのだと感じた。
まるで狼に捕獲された草食動物のような頼りなさ。
自分の命すらその手に握られているような恐ろしさと同時に何故かこの状態に喜びを感じる不思議な感情。
貪るように口づけられた。
同時に、自らの前を寛げるシンさま。
そこから飛び出したのは、凶器と思えるほどの赤黒くそそり立った欲棒だった。
あまりの存在感に怖気づくといともに、ごくりと唾を飲み込んだ。
思わず逃げを打ちそうになったとき、シンさまが腰を抱き込むように私を引き戻して、猫耳に一度口付けて
私と目を合わした。
「…ミワ、観念しろ。お前をこれから俺のモノにする。」
そう言って小さく笑うシンさまの笑顔はどこか凶悪で…
はっきりとした欲と意思を持っていた。
それはわたしが知る、優しくも、どこか無気力に感じていた今までのシンさまのものとは明らかに違った。
「シンさま…」
そう不安そうに名前を呼ぶと、シンさまは、私の猫耳を撫でるようにコリコリと転がした。
「大丈夫だ。大事にするから。だから… いいな?」
何を求められているのか……
刺すような瞳。
身体だけではないようなそんな気がした。
今までのどこか儚いような笑顔ではなく、男として、そして人としての懐の深さを感じるような包み込むような真剣な瞳にわたしはコクリと頷いた。
その瞬間、秘所に熱い熱の塊が擦り付けられて、身を仰け反らした。
そして次の瞬間、その熱い塊が身を開く様に中を押し広げてきた。
「あっ! だ、だめ……、 い!? いた… ああああああ!!」
「ミワ… すまない、もう半分だから…」
そう言われて愕然とする。
「ま… まだ半分? む… 無理です… シ… シンさま…」
涙目で見上げるとシンさまは、わたしの唇を塞いで舌を割りいれる。
そして、指先で乳首を転がすようにつまむ。
「はっ… シ… はっ、苦し… 」
「ミワ… 背中、ギュッとしてろ… 引っ掻いてもいいから… どうしても諦めたくないんだ。すまない。」
そう言ってシンさまは一度、灼熱を引き抜いたかと思ったら、抜ける寸前で再びわたしの腰を抱き寄せて、自らも腰を打ち付けて、最奥まで私を貫いた。
「はぁぁぁ!!!」
激痛に完全に身を強張らせて固まる私。
それを愛おし気に抱きしめるシンさま。
「ミワ……。 入った。繋がってる、分かるか? 」
「はい……でも、痛いです。」
そう涙を零したまま言う私に、少し申し訳なさそうに目を細めるシンさま。
親指の腹で私の涙を拭って労わるように唇を寄せた。
「すまない。しばらくこうしていよう」
そう言って、ジッと私を見つめ髪を撫でてくれるシンさま。でも、その瞳の奥には色気と歓喜と切なさを滲ませていた。
どれほどそうしていただろう。
許しを乞うように、頰に手を添えて口付けられた。
「ミワのなか、温かくて気持ちいい…。動いても大丈夫そうか?」
そう言われて、私はコクリと頷いた。
自分を抱きながら、こんなにも喜怒哀楽を顕にしてくれるシンさまが嬉しかった。
ただ、優しいのではなく、欲しがってくれている。
そう、焦がれるように、今求めてくれているのが嬉しいのだ。
例え、これが男が本能のままにメスを欲しがっている瞬間に見せる貪欲さだとしてもそれでいい。
それがいい…
私は、嬉しいのだ。
「シンさま……。大丈夫です。わたしでシンさまを気持ちよくできますか? そうできたら、わたしも凄くうれしいです。だから、どうかシンさまのお心のままに、好きにしてください。」
そう言って微笑みかけた瞬間、シンさまは目を見開いた。
顔が熱を帯びたように赤いと感じるのは気のせいだろうか?
その瞬間、シンさまの欲棒は固さと大きさを増した。
それを合図に、シンさまは、堪り兼ねたように腰を振り始めた。
その動きは、まるで野生動物のようだった。
そしてその体は、やはりここで日がな一日、釣りや、畑仕事をしているような男のものではあり得なかった。
優秀な血脈を感じる精悍な顔
戦場の中で培われたであろう威圧的とも感じるオーラ
鍛錬を続けてきた者しか持ちえない戦う男の体躯
そして、私は知ってしまった。
この人が、とても優しい事を……
そして義理堅い事も…
とても大きな人であることも…
そして、身体だけでなく心にこそ大きな傷を負う寂しい人であることも…
「シンさま… シンさま… 大好きです。 ミワはシンさまをお慕いしています。」
そう言うとまたシンさまがピクリとして、中を貫いているモノの硬度が増した。
「くっ、ミワ… ミワ… 俺のミワ…。」
(俺の……?)
そう聞えた気がした。
今だけでも、シンさまの飼い猫と思ってもらえたならば、私は本望だ。
私は泣きそうになりながらシンさまを見つめた。
「はい…… シンさまの猫ですね」
そう言って少し笑った。
「ばっ… 煽るな…。 持たない…。クソっ…」
その瞬間、耐えかねたような激しい突き上げに、もう何も考えられなくなった。
「はっ、んん、っ、あぁぁ、シ… シンさま~、な…なにかくる、おかしくなりそうで、あっ、あああ、
ああああああああ!」
「一緒に行こう」
そう聞えた瞬間、何が何だか分からないくらいに身体を揺さぶられ続けた。
「っひ、ひぃぃぃぃ…」
意識を失う瞬間、体の奥に熱が広がるのを感じた。
「ミワ、あぁ、ミワ…、俺は… 生きてるんだな…心もまだ。…欲なんて残ってるなんて知らなかった」
*********
そうして私は、思いがけず愛しいシンさまに初めてを貰っていただくという奇跡体験をした。
やはりシンさまはお優しい。
情け深いお方なのだ。
次の朝、人の姿でシンさまの腕の中で目覚めた私は、シンさまに感謝の気持ちを持って別れを告げた。
「シンさま。本当にお世話になりました。ただ一夜でもミワはシンさまの飼い猫にしていただいた幸せを決して忘れません。」
そう言って触れるだけの口付けを最後の餞別にといただいて、愛しい人の寝顔を見つめながら、銀色の猫に姿を変えた。
そうして駆けだそうとした瞬間…
またしても首根っこを摑まえられた。
「フニャ⁇」
「たくっ、ほんと猫って奴は油断ならねえな…。」
(シ… シンさま??)
物騒なくらいの眼力が突き刺さる。
そこには苦虫を噛み潰したようなシンさまがいた。
そのまま一度私を下ろしたシンさまは、ご自分が腰掛けていらっしゃるベッドの横をトントンと指差した。
私は素直に従い、ベッドにストンと飛び乗った。
「人型だよ!それじゃ話せないだろが?」
そう言われて慌てて姿を変えるも、昨日の今日での裸体というのに居た堪れない私は、咄嗟にシーツに手を伸ばした。だかその瞬間その手首を捕らえられ、気づけば裸のままシンさまの厚い胸の中にいた。
「シンさま…?」
慌てて見上げたシンさまは不穏な顔をされていた。
「初めてだから可哀そうだと思ったが、やっぱり身体が納得するまで覚えこませないと駄目だなこりゃ。お前が、誰の嫁かって事をな…」
その言葉に私は目を瞬かせた。
「え!?… 嫁?? 誰が… 誰の??」
その問いかけにシンさまは苛立ったように舌打ちした。
「他に誰がいる? お前が俺の嫁に決まってんだろが? 昨日俺はお前を俺のモノにすると言ったはずだ。そしてお前は頷いただろうが?あ?? 俺のミワだって。今更違うなんて言わさないからな。」
「え…? あれは一夜限りシンさまの猫にしていただいたと言う意味で、そもそも私は化け猫ですからそれを美しい思い出にして故郷を目指そうかと…」
「は!?…………」
その時のシンさまの恐ろしい顔を私は一生忘れないだろう。
結局私はあの後、三日三晩抱き潰された。
もう数えてはいられないくらい体の奥にシンさまの精を浴びた。
何故私は、この絶倫王を儚いなどと思えていたのか…
************
その後、指の一本も満足に動かせない私を猫の姿で懐に抱いたまま、シンさまは凄い行動力を見せた。
国を出て、人間も獣人も共に暮らせる地を探すというのだ。
直ぐにでも出ていきそうなシンさまに焦ったのは彼を慕う元騎士様達だ。
元々、この地にも彼らの恋人や妻などもいたらしい。
ただ王都を追放になったこの地での暮らしは本当に厳しいもので最初の一年で多くの餓死者を出した。
そして、女たちの中にはこの地を去るものが相次いだ。
元々、王都の有力騎士達は家柄もよく文武に優れているのでその恋人や家族も家柄がよく見目好い女性が多い。
そんな女性達を、新政府の男達が見栄を張る様に後妻や妾に求めて、今まで出る立場になかった社交界に連れまわしている実態があるのだという。
女は生きるために
或いは子を生かすためにこの地を去った。
男たちはそれを責める事は出来なかったという。
時代は変わってしまったから…
自分たちはあの日の生活を、家族や、恋人、そして自分たちを信じてくれた多くの民を守れなかったから
でも、シンさまは自嘲するように言った。
「一つの時代が終わり…。新しい時代が始まったんだ。世が新しい規律を求めたのだろう。それ自体は決して悪い事じゃないと思っている。時代が変わる時にはどうしても大きな戦いが起こる。皮肉だがな…。まぁ、誰か命張る人間がいなきゃ、新時代も格好つかないしな。」
そう茶化したように笑うシンさまが…
そして時代の狭間でその時命をかけて戦い抜いた双方が、どれだけの覚悟と痛みのなかで、どれだけ多くのものを亡くしながら前に進んだのか、考えるだけで胸が痛かった。
だからこそ、シンさまはこの国の新時代に期待をしているとも言う。
でもその一方で、せっかく生き延びた命を腐らせるのもやはりここじゃないと…。
結局、シンさまに触発されて、わたしたちは皆であの村を脱した。
少し疲れたような騎士服を身に纏った騎士様達の顔にはもう、無気力な影は無かった。
馬を調達して私たちは大地を駆け抜けた。
広い世界には、自分たちを求める場所もきっとどこかにあるのだと皆で信じたのだ。
沢山の町や村に立ち寄った。
出会いを繰り返し徐々に同行を希望する仲間も増えた。
シンさまは去るものは追わなかったし。
来るものは拒まなかった。
そして国を出る前の国境の町に立ち寄った。
その村はかつて力を持たず、今では政府高官をたくさん輩出している地方でもあった。
かの戦争で手柄を多くたてた人たちが昔住んでいたどこにでもある田舎だった。
そこには、多くの女が昔ながらの暮らしをしていた。
夫は理想と出世を夢見て戦場を駆け抜け、妻は家で必死に留守を守って生きてきたという。
戦況によっては罪人の妻と罵られながらも家族と共に夫の無事を祈っていたのだろう。
新時代になり離縁されたり、捨て置かれた多くの女は、気丈に笑いながら話す。
「夫は帰って来なかった。今ではお綺麗なお貴族様と暮してるんだろうよ、箔が必要なんだとよ。どんな気取ったってあの人はあの人なのにね…」
戦はここでも多くの人の運命を狂わせていた。
でも、皆が痛みを抱えながら、逞しく歩みを進めていた。
そんな女の強さと生き様に心打たれた数名の元騎士様はその地に留まった。
そしてシンさまは先に進んだ。
誰もが己が何者になるかなど分かるはずもなくただの自分として生きているのだ。
きっとシンさまもそう。
自分達が自分達らしく生きられる再び守りたいと思える場所を求めてシンさまは走り続けた。
元々、学があり、実践経験も苦労も知る精鋭部隊だ。
最初はギルドで仕事を得たが、指名の仕事はあっという間に増えた。
そこから商売も始めた。
シンさまは生涯この手を決して離すことなく大地を進み、人と出会い、絆を増やし大切なものを増やし守り続けた。
時に武器をその手にとり、戦う事で新しい家族を得た騎士様達と共に大切なモノを守り続けた。
そうしているうちに、何者かになり、また別の何者かに変わっていく。
そんな事を繰り返しながら、遥か遥か異国の地で、一時代を築いたのはまた別のお話だ。
そこには夜になると甘い顔を見せる溺愛症の王様がいて、人も獣人も、もちろん獣人の落ちこぼれも幸せに暮らせる国だったことは言うまでもないだろう。
そして老若男女の日々の賑やかな生活音が鳴り響く、ありふれた国であったことも…
終
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感想失礼しますm(_ _)m
読んでいてとても気に入りました。
シン様素敵過ぎます。
ミワちゃん可愛いの極みです。
シン様達は訳あり何だろうなって思いながら読んでいたら、元騎士で新政府が戦争で勝ったから前の人達は追放になったんだなぁ…、追放して側もされた側も大きな傷をおって今に至り…大き過ぎる代償を支払ったんだなと感じました。ミワちゃんがシン様の側に居ることがまた奇跡だしシン様の心の癒しにもなる事にほっとしました。
続編読みたいです。
シン様とミワちゃんのその後もとても気になるし、ミワちゃんがシン様の赤ちゃんを抱いてる所とか見たいし読みたいです。
ご感想ありがとうございます😊
登場人物だけでなく、時代背景にまでご感想いただけてとても嬉しいです✨
時代背景的には長編に適した話なので、完結したものの、やや足りたい感覚があるので、きっと読者様もそうなのかもしれません💦
短編なのに複数のシオリをいただいている事に改めて驚きました💦
まだ未定ですが、続き、機会があれば書いてみたい気もしてきました。
実は続きではないですがシン様目線を書きかけたものがあるのですが、出来がイマイチな為、発表はしておりませんでした。 需要があるようなら、いつか手直ししてみようかなとも思います⭐️
楽しいご感想ありがとうございました💕