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Sweets Party ①
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「いやっほー‼︎ あずさ~‼︎ 未来いるぅ~⁉︎」
「あ、百合さん。こんにちわ。未来さんなら部屋で昼食だよ」
あの日から早2週間が過ぎ、外は春真っ盛り。桜の木には花達が所狭しと咲き乱れ、タンポポの花が道にアクセントを加える。花粉症の人達は涙と鼻水、くしゃみで苦しみ、そうで無い人達は普段通りの日常を送っていた。
気温も暖かくなり、過ごしやすい気候となった。“水面カフェ”でも、気温が高くなれば半袖に着替えて良いと、勇気が2人に伝えている。2人は2階に住んでいるので、気温と相談して直ぐに着替える事が出来た。
梓は春休みに入り、未来と共に毎日働いている。コーヒーの腕も上がった事もあり、“水面カフェ”も客足が多くなっていた。
「百合さん。何ですかその服装は…」
「え? これぇ? ふふふ、可愛いでしょ?」
「は…はぁ…」
百合の服装は、胸元が目立つキャミソールに、上からカッターシャツを羽織っている。ボタンは上半分が開かれて、豊満な胸を強調していた。
「あずさもその内大きくなるよ‼︎」
「まぁ、いらないけどね」
この2週間で、百合の性格はかなりくだけていた。恐らくは、これが本来の性格なのだろう。抑えられていたものが、一気に噴き出したかのような変貌ぶりだった。
「そんな事よりさぁ~。未来どこよぉ~」
「だから昼食中だってば」
梓は百合を完全に許した訳では無かった。自分にした嫌がらせは許せたのだが、2週間前に起こった、未来とのハグがどうしても許せなかったのだ。
「み~ら~い~ちゃ~ん‼︎ あーそーぼー‼︎」
「ちょ、ちょっと‼︎ 勝手に入らないでよ‼︎」
百合が厨房の奥へ行き、2階に向かって叫ぶ。その声を聞いて、部屋の扉からひょっこりと未来が顔を出した。
それを見た百合は、笑顔で手を振っている。未来も、口をもごもごと動かしながら手を振った。
未来は、食べた食器を持って1階へと下りてくる。百合は階段の前で、ニコニコと笑顔で立っていた。
「ごめんねぇ~、昼食の邪魔をしちゃって」
百合の言葉に、未来は首を横に振って答え、ニッコリと笑った。
未来は食器を片付けた後、店の中を見渡す。そこに客の姿は無く、勇気が笑顔で片付けをしていた。
「勇気さんにばかり片付けさせて良いの? こう言うのって、梓の仕事じゃない?」
「ぐっ……未来さんに変な事をしないで下さいね」
梓はずっと百合の横で睨みを利かせていた。百合から正論を言われ、捨て台詞を吐いて勇気の元へと駆けて行った。
「さ、邪魔者も居なくなったし」
そう言って百合は未来に抱きつく。頬ずりをしてご満悦の様だ。
未来は拒絶する事もなく、されるがまま、人形の様に動かなかった。
「み~ら~い~‼︎ コーヒー入れてよぉー。美味しいアイスコーヒーが良いな‼︎」
未来は笑顔で頷いく。それを見た百合は、未来から離れ、“やった‼︎”と声を上げた後、カウンターに座った。
未来が開発した“Four Leaf Clover Blend“は、パッケージ販売の先駆けて、“水面カフェ”にて提供されている。勇気が専用の機器を購入してくれたので、量産が可能となったのだ。ただ、未来が手で入れた物に比べると、ひと味足りないのだが、それに気がつくのは勇気、梓、明彦、百合の4名だけ。他の客は“飲んだ事がない美味さ”と太鼓判を押し、“Four Leaf Clover Blend”は大人気だった。
「で、百合さんは何をしに来たの?」
片付けを終わらせた梓は、百合に食って掛かった。
百合はアイスコーヒーを飲みながら、梓を見てニヤリと笑う。
「これよ、こーれ」
百合はカバンから1枚の袋を取り出す。その袋を見た梓と未来は、目を輝かせて食い入る様に見た。
「これって…ついに出来たんだ‼︎」
「そうよ‼︎ これを見せたくてね」
その袋は、茶色い長方形の袋だった。中心よりも少し下に、四葉のクローバーが印刷され、“Four Leaf Clover Blend”と商品名が焼印されていた。
「これに明彦さんが未来のレシピ通りにブレンドしたコーヒーを入れる。そうすれば商品の完成よ‼︎」
「わー、ついに販売されるんだ‼︎ 嬉しいな‼︎」
未来もコクコクと頷いて答えた。その顔はとても明るく、楽しみで仕方がない様子だった。
「販売開始の前祝いに……」
百合がカバンから1枚のチラシを取り出し、カウンターに置く。そこには沢山のスイーツが書かれており、どれもが美味しそうだった。
「スイーツビュッフェ‼︎ 3人でどう?」
「行きます‼︎ 百合ねぇ様‼︎ 是非お供させて下さい‼︎」
「ふふふ、厳禁な子ね。嫌いじゃないわよ」
未来も目を輝かせてチラシを手に取り、視線で穴が空くのではないかと思うほど、チラシを見つめていた。
「でもねぇ~、これって土日限定なのよ~」
ため息混じりに百合が言う。そしてチラリと勇気を見た。
「土日だと忙しくなるし~、勇気さん1人じゃ今の客数はこなせないかなぁ~」
勇気はやれやれと言わんばかりに両手を上げ、笑顔でため息を吐いて言った。
「良いですよ。今度の土日はお休みにしましょう。ちょっと息抜きも必要ですし、その代わり僕も行って構いませんか?」
「もちろん‼︎」
百合は満面の笑顔で返事をする。実を言うと、百合の狙いは勇気を誘い出す事だった。
“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”
そのことわざを見事に再現してみせた。実に計算高く、合理的で無駄がない思考。百合の本当の怖さはここにあった。
こうして、土日の休みが決定し、土曜日に4人でスイーツビュッフェに向かう事となった。
「あ、百合さん。こんにちわ。未来さんなら部屋で昼食だよ」
あの日から早2週間が過ぎ、外は春真っ盛り。桜の木には花達が所狭しと咲き乱れ、タンポポの花が道にアクセントを加える。花粉症の人達は涙と鼻水、くしゃみで苦しみ、そうで無い人達は普段通りの日常を送っていた。
気温も暖かくなり、過ごしやすい気候となった。“水面カフェ”でも、気温が高くなれば半袖に着替えて良いと、勇気が2人に伝えている。2人は2階に住んでいるので、気温と相談して直ぐに着替える事が出来た。
梓は春休みに入り、未来と共に毎日働いている。コーヒーの腕も上がった事もあり、“水面カフェ”も客足が多くなっていた。
「百合さん。何ですかその服装は…」
「え? これぇ? ふふふ、可愛いでしょ?」
「は…はぁ…」
百合の服装は、胸元が目立つキャミソールに、上からカッターシャツを羽織っている。ボタンは上半分が開かれて、豊満な胸を強調していた。
「あずさもその内大きくなるよ‼︎」
「まぁ、いらないけどね」
この2週間で、百合の性格はかなりくだけていた。恐らくは、これが本来の性格なのだろう。抑えられていたものが、一気に噴き出したかのような変貌ぶりだった。
「そんな事よりさぁ~。未来どこよぉ~」
「だから昼食中だってば」
梓は百合を完全に許した訳では無かった。自分にした嫌がらせは許せたのだが、2週間前に起こった、未来とのハグがどうしても許せなかったのだ。
「み~ら~い~ちゃ~ん‼︎ あーそーぼー‼︎」
「ちょ、ちょっと‼︎ 勝手に入らないでよ‼︎」
百合が厨房の奥へ行き、2階に向かって叫ぶ。その声を聞いて、部屋の扉からひょっこりと未来が顔を出した。
それを見た百合は、笑顔で手を振っている。未来も、口をもごもごと動かしながら手を振った。
未来は、食べた食器を持って1階へと下りてくる。百合は階段の前で、ニコニコと笑顔で立っていた。
「ごめんねぇ~、昼食の邪魔をしちゃって」
百合の言葉に、未来は首を横に振って答え、ニッコリと笑った。
未来は食器を片付けた後、店の中を見渡す。そこに客の姿は無く、勇気が笑顔で片付けをしていた。
「勇気さんにばかり片付けさせて良いの? こう言うのって、梓の仕事じゃない?」
「ぐっ……未来さんに変な事をしないで下さいね」
梓はずっと百合の横で睨みを利かせていた。百合から正論を言われ、捨て台詞を吐いて勇気の元へと駆けて行った。
「さ、邪魔者も居なくなったし」
そう言って百合は未来に抱きつく。頬ずりをしてご満悦の様だ。
未来は拒絶する事もなく、されるがまま、人形の様に動かなかった。
「み~ら~い~‼︎ コーヒー入れてよぉー。美味しいアイスコーヒーが良いな‼︎」
未来は笑顔で頷いく。それを見た百合は、未来から離れ、“やった‼︎”と声を上げた後、カウンターに座った。
未来が開発した“Four Leaf Clover Blend“は、パッケージ販売の先駆けて、“水面カフェ”にて提供されている。勇気が専用の機器を購入してくれたので、量産が可能となったのだ。ただ、未来が手で入れた物に比べると、ひと味足りないのだが、それに気がつくのは勇気、梓、明彦、百合の4名だけ。他の客は“飲んだ事がない美味さ”と太鼓判を押し、“Four Leaf Clover Blend”は大人気だった。
「で、百合さんは何をしに来たの?」
片付けを終わらせた梓は、百合に食って掛かった。
百合はアイスコーヒーを飲みながら、梓を見てニヤリと笑う。
「これよ、こーれ」
百合はカバンから1枚の袋を取り出す。その袋を見た梓と未来は、目を輝かせて食い入る様に見た。
「これって…ついに出来たんだ‼︎」
「そうよ‼︎ これを見せたくてね」
その袋は、茶色い長方形の袋だった。中心よりも少し下に、四葉のクローバーが印刷され、“Four Leaf Clover Blend”と商品名が焼印されていた。
「これに明彦さんが未来のレシピ通りにブレンドしたコーヒーを入れる。そうすれば商品の完成よ‼︎」
「わー、ついに販売されるんだ‼︎ 嬉しいな‼︎」
未来もコクコクと頷いて答えた。その顔はとても明るく、楽しみで仕方がない様子だった。
「販売開始の前祝いに……」
百合がカバンから1枚のチラシを取り出し、カウンターに置く。そこには沢山のスイーツが書かれており、どれもが美味しそうだった。
「スイーツビュッフェ‼︎ 3人でどう?」
「行きます‼︎ 百合ねぇ様‼︎ 是非お供させて下さい‼︎」
「ふふふ、厳禁な子ね。嫌いじゃないわよ」
未来も目を輝かせてチラシを手に取り、視線で穴が空くのではないかと思うほど、チラシを見つめていた。
「でもねぇ~、これって土日限定なのよ~」
ため息混じりに百合が言う。そしてチラリと勇気を見た。
「土日だと忙しくなるし~、勇気さん1人じゃ今の客数はこなせないかなぁ~」
勇気はやれやれと言わんばかりに両手を上げ、笑顔でため息を吐いて言った。
「良いですよ。今度の土日はお休みにしましょう。ちょっと息抜きも必要ですし、その代わり僕も行って構いませんか?」
「もちろん‼︎」
百合は満面の笑顔で返事をする。実を言うと、百合の狙いは勇気を誘い出す事だった。
“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”
そのことわざを見事に再現してみせた。実に計算高く、合理的で無駄がない思考。百合の本当の怖さはここにあった。
こうして、土日の休みが決定し、土曜日に4人でスイーツビュッフェに向かう事となった。
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