逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ

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23 おまじないチャーム

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「レオン……いつものロベリアとは思えない」
「そうなのか……もしかすると、これが呪術具の効果かもしれない」
「そ、そうね」

 私は頷く。
 呪術具で行動や考え方を変えられてしまっているのであれば、なんて恐ろしい力だろうか。

「何かご用かしら? 忙しいものだから手短に……」
「ロベリア嬢、最近チャームの付いた鞄を買ったと伺ったのだが、見せていただけないだろうか」
「鞄? 構わないけれど……」

 ロベリアはすぐにでもレッスンに戻りたそうにソワソワしている。それでもレオンがいたからか、素直に鞄を持ってきてくれた。

「ロベリア、その鞄がこないだ言っていたおまじないチャームの付いている鞄なのよね?」
「ええ、そうよ。この鞄を買ってからすごく力が湧いてくるの! 全然疲れないし調子がいいわ。きっとおまじないチャームのおかげなのだと思うわ!」

 そうは言うけれど、どう見ても体を損ないかけている。このまま放っておけば倒れたり病気になってしまいそうだった。

「失礼、手に取らせてもらう」
「大事に扱ってくださいね」

 レオンはロベリアの鞄を手に取り、クルクルと回した。金色のチャームは羽の形をしている。鞄を動かすとチャラッと音を立てた。

「チャームは羽ね」
「さっきの本にあった、才能を伸ばすってことか」

 確かに、元々才能のあるロベリアが寝食を忘れるくらい取り組めば、才能もよりいっそう伸びるだろう。しかしそれで健康を損なっては本末転倒だ。
 ロベリアがこんなにもやつれ、なのに目をギラギラとさせているのはただごとではない。

 レオンは集中する様に鞄に手を当て目を閉じた。

「確かにこれだ。このチャームから呪術の力を感じる。俺にはそれ以上わからない。詳しいことは専門家に調査してもらう必要があるが……」

 レオンは眉を顰めている。

「ロベリア嬢、申し訳ないが、この鞄は魔術騎士団で預からせてもらう」
「えっ、そんな……困ります! 返してください!」

 ロベリアは血相を変え、鞄を取り返そうとレオンに掴みかかった。

「ロ、ロベリア! 落ち着いて、この鞄は……」
「でも、私、それがないと! 返して!!」

 真っ青な顔で鞄を取り返そうとするロベリアは鬼気迫る様子だった。

「少し落ち着かせよう。グレイス、この鞄を持って離れていてくれ」

 レオンは私に鞄を渡してくる。
 それを受け取った瞬間、静電気のような軽い痛みが指に走った。

「いたっ!」

 ピリッとした痛みに鞄を取り落としてしまった。慌てて拾おうとした私の手のひらに羽の形のあざが浮かんでいた。
 その羽の形はロベリアの鞄のチャームと同じものだ。

 突然、ずっしりと体が鉛のように重くなる。

「……あれ」

 ゾクッと寒気がして、熱が出た時の悪寒が体中に走った。

「グレイス! 今何をしたんだ!?」
「え……?」

 レオンにそう言われて気が付いたが、つい先程まで鬼気迫る表情で鞄を取り返そうとしていたロベリアが座り込んで大人しくなっていた。

「え、私……何して……」

 目を瞬かせながらきょとんとした顔で呟くロベリアは、あのギラギラした目をもうしていない。疲れてはいそうだが、いつものロベリアに見えた。

「グレイス!」

 レオンは私のもとに走り寄ってくる。

「彼女の様子が戻ったと思ったら、今度は君の顔色が悪くなっている。一体何があったんだ?」

 私はレオンに手のひらを見せた。
 羽の模様のあざがくっきりと浮かんでいる。

「鞄のチャームに触れてしまったら、手にあざが浮き出て……何だか急に熱が出てきたみたいなの……」
「これは……矢羽のあざの時と同じなのだろうか」
「多分……あの時は肩に出来たけど」

 ふらふらして、私はレオンに寄りかかった。熱があって体が思うように動かない。

「チャームに触れたのは、手のこの部分で間違いないな? 触ってもいいか? もしかしたら少し痛いかもしれない」
「ん……平気。私、レオンを信じてるから」

 私は頷いた。
 レオンは幼い頃、私をいじめてきた。少し前ならこうして信用して体を預けることは難しかっただろう。
 しかし、少しの間に今のレオンは私にひどいことはしないと信頼していた。
 きっとレオンならなんとかできるはず。

「……俺を信じてくれてありがとう」

 レオンがあざが浮き出た私の手をしっかりと握る。
 途端、バチッと強い火花が散った。その光は肩のあざが消えた時と同じだった。

「グレイス、手を開いてごらん」
「あ……あざが消えてるわ」
「痛いところとかは?」
「全然! もうなんともない」

 手のひらの羽の形のあざは消え、さらに体がふらつく高熱も治まっている。だるさすら残っていない。

「良かった。もう大丈夫だ。この鞄のチャームからも呪術の力は失われている。グレイスだけじゃなく、ロベリア嬢もだ」
「グレイス、レオン様、今の光はいったい……」

 すっかり呪術の影響力から解放されたロベリアはきょとんとしてから己の頬に手を這わせて叫んだ。

「やだっ! 肌がガッサガサだし髪もボロボロ! 私どうしちゃったの!? なんであんな不眠不休でレッスンしてたわけ!?」

 ロベリアは自分がおかしかった記憶は残されているようだ。しかし呪術のせいという実感はないらしい。

 肌はともかく、すっかりいつも通りのロベリアの姿に私はホッと息を吐いた。

「呪力は消えたとはいえ、呪術痕跡くらいは辿れるかもしれない。グレイスとロベリア嬢は俺と一緒に魔術騎士団に向かってもらう」

 レオンは私が取り落とした鞄を拾い上げる。
 金色に光っていたはずの羽のチャームが黒ずんでいた。

「あの……待ってください。行く前にお風呂に入らせて……あと着替えとお化粧も!」

 そう言い張るロベリアをなんとか宥めて馬車に乗せ、私たちは魔術騎士団の本拠地へ向かったのだった。
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