23 / 25
23 おまじないチャーム
しおりを挟む
「レオン……いつものロベリアとは思えない」
「そうなのか……もしかすると、これが呪術具の効果かもしれない」
「そ、そうね」
私は頷く。
呪術具で行動や考え方を変えられてしまっているのであれば、なんて恐ろしい力だろうか。
「何かご用かしら? 忙しいものだから手短に……」
「ロベリア嬢、最近チャームの付いた鞄を買ったと伺ったのだが、見せていただけないだろうか」
「鞄? 構わないけれど……」
ロベリアはすぐにでもレッスンに戻りたそうにソワソワしている。それでもレオンがいたからか、素直に鞄を持ってきてくれた。
「ロベリア、その鞄がこないだ言っていたおまじないチャームの付いている鞄なのよね?」
「ええ、そうよ。この鞄を買ってからすごく力が湧いてくるの! 全然疲れないし調子がいいわ。きっとおまじないチャームのおかげなのだと思うわ!」
そうは言うけれど、どう見ても体を損ないかけている。このまま放っておけば倒れたり病気になってしまいそうだった。
「失礼、手に取らせてもらう」
「大事に扱ってくださいね」
レオンはロベリアの鞄を手に取り、クルクルと回した。金色のチャームは羽の形をしている。鞄を動かすとチャラッと音を立てた。
「チャームは羽ね」
「さっきの本にあった、才能を伸ばすってことか」
確かに、元々才能のあるロベリアが寝食を忘れるくらい取り組めば、才能もよりいっそう伸びるだろう。しかしそれで健康を損なっては本末転倒だ。
ロベリアがこんなにもやつれ、なのに目をギラギラとさせているのはただごとではない。
レオンは集中する様に鞄に手を当て目を閉じた。
「確かにこれだ。このチャームから呪術の力を感じる。俺にはそれ以上わからない。詳しいことは専門家に調査してもらう必要があるが……」
レオンは眉を顰めている。
「ロベリア嬢、申し訳ないが、この鞄は魔術騎士団で預からせてもらう」
「えっ、そんな……困ります! 返してください!」
ロベリアは血相を変え、鞄を取り返そうとレオンに掴みかかった。
「ロ、ロベリア! 落ち着いて、この鞄は……」
「でも、私、それがないと! 返して!!」
真っ青な顔で鞄を取り返そうとするロベリアは鬼気迫る様子だった。
「少し落ち着かせよう。グレイス、この鞄を持って離れていてくれ」
レオンは私に鞄を渡してくる。
それを受け取った瞬間、静電気のような軽い痛みが指に走った。
「いたっ!」
ピリッとした痛みに鞄を取り落としてしまった。慌てて拾おうとした私の手のひらに羽の形のあざが浮かんでいた。
その羽の形はロベリアの鞄のチャームと同じものだ。
突然、ずっしりと体が鉛のように重くなる。
「……あれ」
ゾクッと寒気がして、熱が出た時の悪寒が体中に走った。
「グレイス! 今何をしたんだ!?」
「え……?」
レオンにそう言われて気が付いたが、つい先程まで鬼気迫る表情で鞄を取り返そうとしていたロベリアが座り込んで大人しくなっていた。
「え、私……何して……」
目を瞬かせながらきょとんとした顔で呟くロベリアは、あのギラギラした目をもうしていない。疲れてはいそうだが、いつものロベリアに見えた。
「グレイス!」
レオンは私のもとに走り寄ってくる。
「彼女の様子が戻ったと思ったら、今度は君の顔色が悪くなっている。一体何があったんだ?」
私はレオンに手のひらを見せた。
羽の模様のあざがくっきりと浮かんでいる。
「鞄のチャームに触れてしまったら、手にあざが浮き出て……何だか急に熱が出てきたみたいなの……」
「これは……矢羽のあざの時と同じなのだろうか」
「多分……あの時は肩に出来たけど」
ふらふらして、私はレオンに寄りかかった。熱があって体が思うように動かない。
「チャームに触れたのは、手のこの部分で間違いないな? 触ってもいいか? もしかしたら少し痛いかもしれない」
「ん……平気。私、レオンを信じてるから」
私は頷いた。
レオンは幼い頃、私をいじめてきた。少し前ならこうして信用して体を預けることは難しかっただろう。
しかし、少しの間に今のレオンは私にひどいことはしないと信頼していた。
きっとレオンならなんとかできるはず。
「……俺を信じてくれてありがとう」
レオンがあざが浮き出た私の手をしっかりと握る。
途端、バチッと強い火花が散った。その光は肩のあざが消えた時と同じだった。
「グレイス、手を開いてごらん」
「あ……あざが消えてるわ」
「痛いところとかは?」
「全然! もうなんともない」
手のひらの羽の形のあざは消え、さらに体がふらつく高熱も治まっている。だるさすら残っていない。
「良かった。もう大丈夫だ。この鞄のチャームからも呪術の力は失われている。グレイスだけじゃなく、ロベリア嬢もだ」
「グレイス、レオン様、今の光はいったい……」
すっかり呪術の影響力から解放されたロベリアはきょとんとしてから己の頬に手を這わせて叫んだ。
「やだっ! 肌がガッサガサだし髪もボロボロ! 私どうしちゃったの!? なんであんな不眠不休でレッスンしてたわけ!?」
ロベリアは自分がおかしかった記憶は残されているようだ。しかし呪術のせいという実感はないらしい。
肌はともかく、すっかりいつも通りのロベリアの姿に私はホッと息を吐いた。
「呪力は消えたとはいえ、呪術痕跡くらいは辿れるかもしれない。グレイスとロベリア嬢は俺と一緒に魔術騎士団に向かってもらう」
レオンは私が取り落とした鞄を拾い上げる。
金色に光っていたはずの羽のチャームが黒ずんでいた。
「あの……待ってください。行く前にお風呂に入らせて……あと着替えとお化粧も!」
そう言い張るロベリアをなんとか宥めて馬車に乗せ、私たちは魔術騎士団の本拠地へ向かったのだった。
「そうなのか……もしかすると、これが呪術具の効果かもしれない」
「そ、そうね」
私は頷く。
呪術具で行動や考え方を変えられてしまっているのであれば、なんて恐ろしい力だろうか。
「何かご用かしら? 忙しいものだから手短に……」
「ロベリア嬢、最近チャームの付いた鞄を買ったと伺ったのだが、見せていただけないだろうか」
「鞄? 構わないけれど……」
ロベリアはすぐにでもレッスンに戻りたそうにソワソワしている。それでもレオンがいたからか、素直に鞄を持ってきてくれた。
「ロベリア、その鞄がこないだ言っていたおまじないチャームの付いている鞄なのよね?」
「ええ、そうよ。この鞄を買ってからすごく力が湧いてくるの! 全然疲れないし調子がいいわ。きっとおまじないチャームのおかげなのだと思うわ!」
そうは言うけれど、どう見ても体を損ないかけている。このまま放っておけば倒れたり病気になってしまいそうだった。
「失礼、手に取らせてもらう」
「大事に扱ってくださいね」
レオンはロベリアの鞄を手に取り、クルクルと回した。金色のチャームは羽の形をしている。鞄を動かすとチャラッと音を立てた。
「チャームは羽ね」
「さっきの本にあった、才能を伸ばすってことか」
確かに、元々才能のあるロベリアが寝食を忘れるくらい取り組めば、才能もよりいっそう伸びるだろう。しかしそれで健康を損なっては本末転倒だ。
ロベリアがこんなにもやつれ、なのに目をギラギラとさせているのはただごとではない。
レオンは集中する様に鞄に手を当て目を閉じた。
「確かにこれだ。このチャームから呪術の力を感じる。俺にはそれ以上わからない。詳しいことは専門家に調査してもらう必要があるが……」
レオンは眉を顰めている。
「ロベリア嬢、申し訳ないが、この鞄は魔術騎士団で預からせてもらう」
「えっ、そんな……困ります! 返してください!」
ロベリアは血相を変え、鞄を取り返そうとレオンに掴みかかった。
「ロ、ロベリア! 落ち着いて、この鞄は……」
「でも、私、それがないと! 返して!!」
真っ青な顔で鞄を取り返そうとするロベリアは鬼気迫る様子だった。
「少し落ち着かせよう。グレイス、この鞄を持って離れていてくれ」
レオンは私に鞄を渡してくる。
それを受け取った瞬間、静電気のような軽い痛みが指に走った。
「いたっ!」
ピリッとした痛みに鞄を取り落としてしまった。慌てて拾おうとした私の手のひらに羽の形のあざが浮かんでいた。
その羽の形はロベリアの鞄のチャームと同じものだ。
突然、ずっしりと体が鉛のように重くなる。
「……あれ」
ゾクッと寒気がして、熱が出た時の悪寒が体中に走った。
「グレイス! 今何をしたんだ!?」
「え……?」
レオンにそう言われて気が付いたが、つい先程まで鬼気迫る表情で鞄を取り返そうとしていたロベリアが座り込んで大人しくなっていた。
「え、私……何して……」
目を瞬かせながらきょとんとした顔で呟くロベリアは、あのギラギラした目をもうしていない。疲れてはいそうだが、いつものロベリアに見えた。
「グレイス!」
レオンは私のもとに走り寄ってくる。
「彼女の様子が戻ったと思ったら、今度は君の顔色が悪くなっている。一体何があったんだ?」
私はレオンに手のひらを見せた。
羽の模様のあざがくっきりと浮かんでいる。
「鞄のチャームに触れてしまったら、手にあざが浮き出て……何だか急に熱が出てきたみたいなの……」
「これは……矢羽のあざの時と同じなのだろうか」
「多分……あの時は肩に出来たけど」
ふらふらして、私はレオンに寄りかかった。熱があって体が思うように動かない。
「チャームに触れたのは、手のこの部分で間違いないな? 触ってもいいか? もしかしたら少し痛いかもしれない」
「ん……平気。私、レオンを信じてるから」
私は頷いた。
レオンは幼い頃、私をいじめてきた。少し前ならこうして信用して体を預けることは難しかっただろう。
しかし、少しの間に今のレオンは私にひどいことはしないと信頼していた。
きっとレオンならなんとかできるはず。
「……俺を信じてくれてありがとう」
レオンがあざが浮き出た私の手をしっかりと握る。
途端、バチッと強い火花が散った。その光は肩のあざが消えた時と同じだった。
「グレイス、手を開いてごらん」
「あ……あざが消えてるわ」
「痛いところとかは?」
「全然! もうなんともない」
手のひらの羽の形のあざは消え、さらに体がふらつく高熱も治まっている。だるさすら残っていない。
「良かった。もう大丈夫だ。この鞄のチャームからも呪術の力は失われている。グレイスだけじゃなく、ロベリア嬢もだ」
「グレイス、レオン様、今の光はいったい……」
すっかり呪術の影響力から解放されたロベリアはきょとんとしてから己の頬に手を這わせて叫んだ。
「やだっ! 肌がガッサガサだし髪もボロボロ! 私どうしちゃったの!? なんであんな不眠不休でレッスンしてたわけ!?」
ロベリアは自分がおかしかった記憶は残されているようだ。しかし呪術のせいという実感はないらしい。
肌はともかく、すっかりいつも通りのロベリアの姿に私はホッと息を吐いた。
「呪力は消えたとはいえ、呪術痕跡くらいは辿れるかもしれない。グレイスとロベリア嬢は俺と一緒に魔術騎士団に向かってもらう」
レオンは私が取り落とした鞄を拾い上げる。
金色に光っていたはずの羽のチャームが黒ずんでいた。
「あの……待ってください。行く前にお風呂に入らせて……あと着替えとお化粧も!」
そう言い張るロベリアをなんとか宥めて馬車に乗せ、私たちは魔術騎士団の本拠地へ向かったのだった。
62
あなたにおすすめの小説
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」
岬 空弥
恋愛
ある日、シオンの前に現れた、優しそうな継母と意地悪そうな姉。
しかし、その第一印象が崩れるのに時間はかからなかった。その日より始まった新しい生活は、優しそうな継母に虐げられる弟のシオンを、意地悪そうな姉のフローレンスが護る日々の始まりだったから。
血の繋がらない姉弟が、お互いを思いやりながら、子供なりに知恵を絞って頑張って生きて行くお話。
子供だった二人が立派に成長を遂げる頃、弟の強い愛情に戸惑う姉を描いています。
無臭の公爵様は香りの令嬢を手放さない~契約婚約のはずが、私の香りで極甘に覚醒しました!?~
黒崎隼人
恋愛
前世で香水の研究員だった記憶を持つ見習い調香師のリリアーナ。
彼女の持つ特別な能力は、眠ると「運命の相手の香り」を夢で予知できること。
ある日、王命によってクロフォード公爵エリオットの元へ派遣される。
彼はあらゆる香りを拒絶する特異体質で、常に無表情な「鉄仮面公爵」として恐れられていた。
しかも、彼自身からは何の匂いもしない「無臭」だった。
リリアーナの作る自然な香りだけがエリオットの痛みを和らげることが判明し、二人は体質改善のための「偽りの契約婚約」を結ぶことに。
一緒に過ごすうち、冷徹だと思っていたエリオットの不器用な優しさに触れ、リリアーナは少しずつ心を開いていく。
そして、彼女の調合した「解毒の香り」が、公爵の体に隠された恐ろしい呪いと陰謀を解き明かし――!?
匂いを感じない公爵が、やがて愛しい人の香りに目覚め、極上の溺愛を見せる。
香りに導かれた二人が紡ぐ、甘く切ない異世界ラブファンタジー!
どうぞ添い遂げてください
あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。
ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる