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5回目
4回死んだ。
死に戻ったところでたった10分程度しか生きられない。それが、4回も。
頭がおかしくなりそうだ。いや、すでにおかしくなっているのかもしれない。
目を開いた私は、今までと同じく王城の年越しパーティーの会場にいた。目の前でマルセルが婚約破棄を言い渡している。
私は、ふう、とため息を吐いて周囲を見渡した。
周囲の貴族たちはマルセルと私のやり取りなど娯楽の一つのように楽しんでいる。
けれどそれだけではなく、眉を顰めたり、私に同情の視線を投げかけている人も少数ながらいてくれた。
笑いものにするのではなく、眉を顰めてくれるような人と仲良くなれたらよかったのにな。
目の前には大きな時計。カラクリ時計で、新年を迎えると賑やかなメロディが鳴る。もう何度も聞いた。けれど最後まで聞いていないのが少し残念だ。
マルセルはまだ何事かを喋っており、その横のシャロンも笑っている。けれど彼らはもうどうでもよかった。
心はひどく凪いでいる。
私は淡々と周囲を見回し、目当てのものを見つけ出した。
あれは3回目の死の時だっただろうか。
私はシャロンに背後から刺されて死んだのだ。
その刃物は、私がいる場所から少し離れたところで肉料理を切り分けるのに使われていた。手入れされたよく切れそうな刃物だ。いや、女性の力でも私に深々と刺さるくらい、とてもよく切れたのだ。
私はそちらに向かって進み、切り分けをしている給仕の制止も聞かずに、銀色に輝く刃物を手に取った。
そして、即座に自分の首に深々と刺した。
パーティー会場に悲鳴がこだまする。
私はそのままバッタリと大理石の床に倒れた。
「……な、なんてことをっ!」
誰かが駆け寄る音が聞こえる。
24時までまだ何分もある。いつもギリギリに死んで大時計のメロディが鳴るのを聞いていた。そして鳴り止む前に死んでいたのだが、今回は大時計のメロディが鳴ることすら聞かずに死ぬ。
それでどうなるかもわからない。多分、また時間は巻き戻るのではないだろうか。
けれどもう何もかもがうんざりしていて、何もかも投げ出したかった。
これで終わるなら、それでいい。
血を流しすぎて、もう瞼を開けていられない。
ふと、私の右手が温かくなった。誰かが握ってくれている。
「死なないでくれ……っ!」
誰だろう。知らない男性の声だ。いや、どこかで聞いた気もするのだが、思い出せない。マルセルのネチョッとした声とは違う。
低くて、なのに発音がはっきりしていてよく響く。訛りもなく、どこか甘さを含んだ声。
思い出せないまま死にゆく私の頬に、ポタリと水滴が落ちた感触があった。
これは涙だ。
誰かわからないこの人は、私の死を悲しんで泣いてくれているのだ。
私は本当にひどいことを考えてしまった。死に際に誰かが泣いてくれるというのは、こんなにも心地がいいものなのだ、と。
そしてそれが私の最後の思考だった。
死に戻ったところでたった10分程度しか生きられない。それが、4回も。
頭がおかしくなりそうだ。いや、すでにおかしくなっているのかもしれない。
目を開いた私は、今までと同じく王城の年越しパーティーの会場にいた。目の前でマルセルが婚約破棄を言い渡している。
私は、ふう、とため息を吐いて周囲を見渡した。
周囲の貴族たちはマルセルと私のやり取りなど娯楽の一つのように楽しんでいる。
けれどそれだけではなく、眉を顰めたり、私に同情の視線を投げかけている人も少数ながらいてくれた。
笑いものにするのではなく、眉を顰めてくれるような人と仲良くなれたらよかったのにな。
目の前には大きな時計。カラクリ時計で、新年を迎えると賑やかなメロディが鳴る。もう何度も聞いた。けれど最後まで聞いていないのが少し残念だ。
マルセルはまだ何事かを喋っており、その横のシャロンも笑っている。けれど彼らはもうどうでもよかった。
心はひどく凪いでいる。
私は淡々と周囲を見回し、目当てのものを見つけ出した。
あれは3回目の死の時だっただろうか。
私はシャロンに背後から刺されて死んだのだ。
その刃物は、私がいる場所から少し離れたところで肉料理を切り分けるのに使われていた。手入れされたよく切れそうな刃物だ。いや、女性の力でも私に深々と刺さるくらい、とてもよく切れたのだ。
私はそちらに向かって進み、切り分けをしている給仕の制止も聞かずに、銀色に輝く刃物を手に取った。
そして、即座に自分の首に深々と刺した。
パーティー会場に悲鳴がこだまする。
私はそのままバッタリと大理石の床に倒れた。
「……な、なんてことをっ!」
誰かが駆け寄る音が聞こえる。
24時までまだ何分もある。いつもギリギリに死んで大時計のメロディが鳴るのを聞いていた。そして鳴り止む前に死んでいたのだが、今回は大時計のメロディが鳴ることすら聞かずに死ぬ。
それでどうなるかもわからない。多分、また時間は巻き戻るのではないだろうか。
けれどもう何もかもがうんざりしていて、何もかも投げ出したかった。
これで終わるなら、それでいい。
血を流しすぎて、もう瞼を開けていられない。
ふと、私の右手が温かくなった。誰かが握ってくれている。
「死なないでくれ……っ!」
誰だろう。知らない男性の声だ。いや、どこかで聞いた気もするのだが、思い出せない。マルセルのネチョッとした声とは違う。
低くて、なのに発音がはっきりしていてよく響く。訛りもなく、どこか甘さを含んだ声。
思い出せないまま死にゆく私の頬に、ポタリと水滴が落ちた感触があった。
これは涙だ。
誰かわからないこの人は、私の死を悲しんで泣いてくれているのだ。
私は本当にひどいことを考えてしまった。死に際に誰かが泣いてくれるというのは、こんなにも心地がいいものなのだ、と。
そしてそれが私の最後の思考だった。
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