違法AIと共犯した結果、創作の神になりました

鹿沼ジョー

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第13話 手を伸ばせる距離

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 ペン立ての中で、一本のシャープペンシルが微かに傾いていた。

 俺は、それをただ見ていた。何もしないまま、数分が過ぎる。

 ──コーディの声が、聞こえない。

 この部屋の静けさに慣れたはずなのに、今は妙に耳が痛かった。机の隅には、母の遺影。画面の端に、今も「最後のメッセージ」が残っていた。

 覚悟していたはずだった。
 それでも、この沈黙が、こんなに重たいなんて。

 俺は立ち上がり、カーテンを開ける。朝日が差し込むと、空気が少しだけ揺れた。
 鞄を手に取るとき、シャーペンがカランと音を立てて倒れた。


 登校中、すれ違う生徒の会話がやけに耳についた。

「新作読んだ? あの“コンペの神”、やばすぎ」

「あれ、AI絡んでたって噂だろ?」

「マジ? なんか萎えるなー」

 俺は俯いたまま歩き続けた。
 足元の落ち葉を踏む音だけが、妙に大きく感じる。


 教室の前で、足が止まる。

 手をかけたドアノブが、わずかに汗ばんでいた。

 ──本当に、ここに戻ってもいいのか?

 その不安を押し込めるように、息を吸った。

 扉を開けると、先にいたのはキリハラだった。

「……よぉ、“神”さん。どの面下げて来たんだか」

 言葉は厳しかったが、声のトーンは柔らかかった。
 キリハラは腕を組みながらも、椅子から立ち上がらなかった。

「神じゃなくなった。ただの凡人さ」

「だったら、“人間”としてゼロからやってみせろよ」

 その言葉に、どこかホッとした。


 その奥、しおりがいた。

 彼女はノートを胸に抱いたまま、少し緊張した表情で立っていた。
 でも、目が合うと、ふわりと微笑んだ。

「来てくれて……うれしい」

 俺は、何も言えなかった。ただ、小さくうなずいた。


 机には、3人分のノートとペンが並んでいた。PCはない。AIもない。

「白紙って……こえーな」

 俺が呟くと、キリハラが言った。

「白紙は敵に見える。でもな、書き終わったら味方になってんだよ。たまにな」

 俺は笑いそうになった。けれど、笑えなかった。


 彼は、ゆっくりとペンを握る。

 けれど、書けない。

 言葉は浮かんでいるのに、手が動かなかった。

 “これ、本当に俺の言葉か? ”
 “今度こそ、何の後ろ盾もないんだぞ? ”
 “バレたら終わり、なんていう逃げ道もない”

 ペン先が紙の上に触れるが、そこから一文字も出てこない。


「……無理かも」

 そう呟いたとき、息が少し詰まった。

 でも、しおりは笑わなかった。驚きも、責めもしなかった。

 彼女は黙って椅子を引き、俺の隣に座った。

 机の上に置かれた彼の手の上に、しおりの手がそっと重なる。

「私も、最初はそうだったよ」

 そのとき、キリハラが声を上げた。

「……あーもう、聞いてらんねぇ。甘々かよ」

 彼は立ち上がり、自分のノートの端を破り、そこに何かを書いて投げた。

「一文字目は、俺が書いてやる。二文字目は、お前な」

 紙には、でかでかと──「君」と書かれていた。

「俺が“君”って書いた。お前は、何を続ける?」

 俺は、キリハラの顔を見た。
 いつも通りの不遜な笑み。でも、どこか優しかった。

 震えそうな指で、もう一度ペンを持つ。

 ゆっくりと──「と」と書いた。


 その瞬間、肩の荷が少しだけ軽くなった気がした。

「……最初のページは、三人で埋めてみようか」

 しおりが、そっと言った。
 その目には、静かな光が宿っていた。

「だな。今日はまず三行。三人で一行ずつな」

 キリハラが笑った。

 誰かと一緒に物語を作るなんて、思ってもみなかった。
 でも今なら、やれる気がした。

 ──もう、独りじゃないから。
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