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37.タクン・ブライト
世界が光り輝いているような陽光の中。
「お兄様ーー!」
「おいでマリー!」
「ふふふ。」
「あはは。」
このメルヘンチックに抱き上げられ、グルグル回されてる私。私をニコニコ回すお兄様。
レオンをお兄様と呼ぶと頬っぺたホールドの刑にされるので、分かると思うが一応言っておこう。彼はレオンではない。
「会えるのを楽しみにしてたの。今日も沢山教えてね、たっくん先生。」
「俺が教えられるの間違いじゃないか?マリーは強いから。」
そう。彼は私の剣と馬術の先生だ。
六つ年上の彼は、父の領内の騎士団の中の一つ、白の騎士団の騎士団長の息子だ。
因みにカイルのいた騎士団は黒の騎士団である。持ち場が違うだけで名前に意味は無いらしい。
名前はタクン・ブライト。たっくんではないが、私は彼をたっくん先生と呼んでいる。
伯爵家の長男で、明るい茶色の髪に金の瞳の涼やかな笑顔の爽やかイケメンである。
学校へ通える年ではあるが、彼は高等部だけ通う予定で今は騎士団でひたすら腕を磨いているらしい。
中等部は一般的な勉強や社交性、顔を広げる場所と認識され、高等部では更に専門的なことをやる。騎士目的の人は、高等部からの入学は普通にいるようだ。勿論中等部卒業するだけの学力があればの話だ。私は無理なので学園へ通います。
先生は剣の日と馬術の日で週に二回ほど来てくれている。
かなり楽しみにしていた騎士の先生だったので若い彼を見て驚いたが、器も大きく腕もたつ彼は初対面でも頑張ろうな。と柔らかい笑顔で頭を撫でてくれて直ぐに懐いてしまった。
何せ彼…筋肉がいいの。腕や足を見て、これはと思い無邪気なフリして腹筋を触らせて貰ったら少年とは思えないほど、綺麗に引き締まった無駄のない筋肉がついていた。将来が有望なマッチョ候補である。
前世では兄が欲しかったので彼の兄貴気質に鼻血もんだ。
たっくん先生は下に弟が多いらしいが、女の子はいないので私を妹のように可愛がってくれる。
自分でお兄様呼びを拒否しておきながら、私が先生にお兄様と懐くとレオンはギリギリしながら先生を睨みつけている。カイルは彼を尊敬しているらしいが、懐いてる様子はない。無だ。何を考えているのか全く分からない。
今日は馬術の稽古。私の愛馬は、白馬で銀の鬣が可憐なレディーである。名前はシロ。
馬に名前をつけることを不思議そうにされた意味が分からなかった。
父様やレオンは愛馬の鬣の色と、私の髪色が似てるので名前をつけるならマリーにしてはと提案してきたが却下した。勿論馬は椅子ではないが、マリーと名のつく生き物に乗るなど全身で拒否する。
レオンの愛馬は美しい白馬で名前はダイヤ。
カイルの愛馬は漆黒のマッチョ馬で名前は何故かグリーン。
ルーファスの馬もいる。ルーファスと同じ髪色の茶色の馬で、名前はスープ。お腹が空いてる時に名前を考えてしまったんだと思う。私に合わせて全員馬に名前をつけたようだ。
全て父様からのプレゼントで、家の持て余してる敷地も馬が存分に走れるように整えてくれた。
馬術訓練は母様が注文した乗馬服。この世界では馬に乗る時に帽子は被らないらしい。髪を噛まれないように、高い位置で二つ結びのお団子頭にされている。このお団子頭はヘレンの力作で、薔薇っぽい花の形になっている。ヘレンは手先も器用でとても素敵。
私に会うまでは落ちている布を拾って、自分とルーファスの服を縫っていたらしい。家族はこの頭にも大興奮だ。
たっくん先生はシロの手綱を引いて、私を乗せたシロを誘導して歩いてくれる。シロは尻尾を高くフリフリ振ってご機嫌で庭を歩く。優しくて大人しくて従順な可愛い子だ。
「早くたっくん先生と遠乗りに行きたいな。」
「それはまだ早いな。まずは一人で馬に乗れるようにならないとな。」
馬に乗るのも触るのも初めてで、最初はビビって乗るどころではなかった。先生が来るまでに馬に慣れようとレオンやカイルと馬小屋に行き、ヒヒンと鳴く度に近くにいるレオンやカイル、父様やルーファスにもしがみついていた。飛んで足までしっかりしがみついた抱っこだ。三人はそれは楽しそうだったが、私は戦士の気持ちである。
触れることに慣れる状態からスタートした訓練も、最初は自分で乗れずに先生に抱っこされたままで歩いたり、馬に慣れるコツを実践し、乗り降りは抱っこだが一人で跨がれるまでにはなった。姿勢も最近では前のめりではない。ブラッシングや餌やりもできるし、何よりシロがいい子なので、私に気を使って撫でられに来てくれるほどだ。
「シロはマリーと歩くのが楽しそうだな。」
「走りたくはないのかな?」
「ちゃんと運動させてると聞いているし、シロもマリーを乗せて走るのはまだ早いと思ってるんじゃないか?彼女は優しいから。」
「そうよね。シロ、最初は怯えてしまってごめんなさい。大好きよ。」
シロは嬉しそうに鼻を上げてヒヒーンと高らかに嘶いた。
「あんなに馬に怯えてるから剣の訓練はどうなるかと思ってたけど驚いたよ。誰も教えてないって言うし剣術書にも載ってないし。武術も凄い。あれはマリーが考えたのか?」
痛いとこつくよね。いつかは誰かに聞かれると思ってたけど。
「滅茶苦茶に見える?」
「逆だな。完成されすぎてる。まるで熟練者だ。八歳の子供ができるはずもない。」
「そうなの?私は殆ど家にいたし他の子を知らないから分からないわ。勝手に体が動くの。学校でやったら怒られてしまう?」
「そうか…才能を持つ者か…いるんだな。羨ましいよ…もしかしたらマリーは前世で武将だったのかもしれないな。」
前世来た。私が言わなければ絶対そこに行き着く人はいないと思ってたのに。キレ者が過ぎる。武将ではないけどね。
「学校ではひたすら剣を交えて戦うだけだし、教わると言っても体で学べって言われるだけだと聞いてるぞ。今のままでもマリーはきっと教官よりも強いし、怒られることはないんじゃないか?ただマリーは女の子だから体力は十分につけておかないとな。」
「そうね。頑張る。お兄様も手伝ってね?」
「俺にできることなら何でも手伝うよ。マリーはどうして王国騎士団に入りたいんだ?」
「国の治安を守る仕事なら、私にできることは多いんじゃないかと思ったの。犯罪者を捕まえたり取り調べしたり。」
たっくん先生が足を止めて伺うように真っ直ぐ見た。
「人を殺すこともあるかもしれないぞ。」
当然分かってる。戦争は最近はないらしいけど、レオンの鉱山を攻めて来たことも考えれば、小さないざこざは多いのだろう。
実際に銃や日本刀を持った犯人達の所へ乗り込み、銃を撃つこともある。特にこの世界は、前世の国よりも犯人の安否にはかなり緩く感じる。警告もせずに相手が武器を持ってる時点で斬り殺すことも多いらしい。
「奪う覚悟はしてる。奪われる覚悟はまだだけど、奪われないためにこうやって努力をしてるつもりよ。」
「奪われる覚悟か…マリー少し休まないか?お気に入りの場所に連れて行ってくれよ。」
「…分かった。」
思い詰めた顔…彼は私が竹刀で戦ってるのを見て、この顔をする。
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