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255.森の教会
夜は早く眠り、朝は日の出の眩しさで目を開けた。
目の前に長い深紅色の睫毛を伏せた、美しい寝顔で眠る愛しい人がいた。ルアの寝顔初めて見た…綺麗で色気がダダ漏れだ。上半身裸で、私を抱いて眠るルアから目が離せず見つめていると、ピクリともせずゆっくり瞼が開いて、朝日を受けてキラキラ輝く紫の瞳が私を捉えて優しく微笑み…額にキスをくれた。
「おはようマリア。」
「おはようルア。綺麗な曼珠沙華が咲いていると思ったらこんなに綺麗な紫の宝石を隠して…ん!」
キスで口を塞がれて離されるとルアはスッと起き上がった。
「…まだ早いけど行くか。」
「うん。ルアの寝顔初めて見たけど、あまりの美しさに見惚れてしまったわ。寝ていても色気が」
ポフッ。
ルアにシーツを被せられた。口封じだろうか。
「…風邪引くぞ。」
「はーい。」
ルアに用意されていた薄い藤色のワンピースドレスに着替え、ルアのエスコートで馬車に乗る。小一時間ほどの道のりを馬車に揺られ、到着したのは静かな森が囲まれた小さな教会。木の扉を開けると、中は十字架にステンドグラスの光と影が集まり、綺麗に魅せた神秘的で清らかな神聖に包まれていた。
「綺麗…あの十字架。」
「そこが気に入った。あそこだけなのがいいよな。」
「うん。そこがいいね。周りが森なのもいい。大きさもいい。」
「そうだな。」
「ルアとここを歩けるのが一番いいけどね。誰を呼ぶの?」
「マリアの両親と、ダークとフィンとジュエルルージュ。」
「ルイは呼ばないの?」
「…呼ばないよ。呼ぼうとするなよ。」
「分かった。私の方の身内だけでいいの?リンは?ルアのお友達でしょう?」
「そうだけど…来たがるか?」
「どうだろう。リンを呼ぶならポチもね。ルーファスとヘレンは?」
「それもどうかな。あの二人はマリアの兄様の側だろ?」
「ヘレンは完全に私の側。ルーファスはみんな好きだろうね。呼ばれないのは寂しいよ。」
「俺から聞いてみるよ。」
「うん。」
ルーファス…謎の組織。
ルアと教会の中と、外の森をのんびり歩く。ルアの雰囲気はずっと優しい。幸せオーラを出している。
柔らかな木漏れ日の差す森の中にあるベンチに座り、手を添えて甘い空気で鳥のさえずりを聞く。
「いい所…最初のルアのイメージと真逆の場所だな。」
「最初のイメージ?」
「最初は茨みたいなトゲトゲしてる雰囲気だったから。」
「俺が変わったのは全部マリアの影響だろうな。この自然もマリアの庭に行くまでの空間に似てると思ったからだよ。」
「優しくなったし。」
「マリアだけ特別。外ではずっと怖がられてるよ。」
「ふふ、綺麗すぎて怖いのかな?支配ダダ漏れなのかな?」
「結局支配って何だよ。」
今更ですか。無自覚でしたか。
「ルアに空間を支配されてるような感覚がするの。空気がピリピリして、下手に動いてもいけないような感覚。」
「ふぅん。」
「ルアがピリピリしてる時はみんな言うこと聞いちゃってる?」
「聞いちゃってる。怯えて誰も喋らなくなる。」
「支配出てるぞルア。とか支配出てますぅ。って言ってくれればいいのにね。ふふ…。」
「ふふ…そうだよな。」
「後ろが分かるのとか、ドアの外が分かるのは生まれつきの支配の人だけだって。」
「ふぅん。」
「部屋の中で何が起きてるか常に分かるわけじゃない?どこまでの範囲分かるの?」
「何かに気が取られたり集中すると行動までは分からないな。範囲はドアの外程度。神経使えば広めに分かるよ。」
「そうなんだ。生まれつきそうなら、分からないことが分からないだろうね。」
「考えられないな。だからリンは少し怖かったよ。」
「分からないって言ってたもんね。」
「そう。あいつ最初の方、俺の後ろに立って足音で振り返ったらニヤッと笑ってきてたんだよ。」
嫌なワンコだな。絶対ワザとじゃん。性格が嫌ですぅ。って言われるぞ?
「人にぶつかったのも初めてだったし。」
「ぶつかって文句言われた?」
「当たるたびに言われた。痛いですとか、気をつけてくれます?とか折れちゃいます。とかまたですか。とか注意力が無さ過ぎです。とか目玉ついてます?とか。」
どんだけぶつかってんだよ。
「最後は変態って言われた。」
「ふふふ。それだけぶつかってたら狙ってると思うかもね。お互い様だろうけど。」
「ふっ…お互い様だよな。最初からあんなに思いっきり面と向かって悪態つかれたのも初めてだったから驚いたよ。」
「ふふ…仲良くなれて良かったね。感性も似てると思うし。街にも一緒に行ってたよね。ルアが誘ったの?」
「絵が完成したのに、欲しい額縁の特注に時間掛かるから困ってるって言われて、俺の知ってる店に連れて行っただけ。」
「手に入ったの?」
「入った。喜んでたよ。」
「ふふ…良かった。」
お友達に嫌な印象があったリンから出たお友達の言葉を、温かい気持ちで言ってたから後日聞いたら、お友達の違いはもう分かるんでぇ、お友達じゃない人間をお友達とは言わないですぅ。お友達はお友達ですぅ。って言っていた。
「リンにこの教会の絵を描いてもらったらいいんじゃない?」
「それいいな。」
「ずっと結婚式みたいだね。ずっと新婚さん。」
「新婚じゃなくてもずっと大事にするよ。一生マリアに恋をし続ける。」
ルアと微笑み合って時間が来るまで穏やかに過ごし、教会を二人でジッと見てから優しい雰囲気で馬車に乗る。馬車の中では手を握り、会話を楽しんでいるとあっという間にジュエルルージュ家へ到着した。
まだアルニムの馬車はまだ到着していない。玄関前にはシェリ様とアオちゃんと叔父様が待機していて、いい笑顔で中へ迎え入れてくれた。
「うふふ。いい人と結婚できて良かったわねマリア。」
「はい。ありがとうございますシェリ様。」
「羨ましいわ!マリー!」
「んふっ。」
「ルアさんは婚約パーティーにも呼んでくれていたし婚約の挨拶にも来てくれたし、しっかりしたいい方だと感心していたのよ。」
「そうなの!?」
「あら。聞いてないの?」
「当然のことですから。言うまでもないでしょう。」
「そうよね!パーティーの時はごめんなさいね。イラの後継ぎが呼んでいないから行けなかったのよ。」
「分かってますよ。結婚式には是非いらしてください。」
「必ず行くわ。」
「私も行くわ!!」
「ありがとうございます。」
「んふ。」
穏やかに挨拶もできて、和やかに談笑をしながら父様と母様を待っていると…また叔父様がやらかした。
「しかしマリアの相手がシーク家の長男だとはね。あそこは黒い噂があったけど実際はどうなんだい?」
「…俺はシーク家とは関わりないですから。」
「ほら、王宮を乗っ取ろうとしてるんじゃないかって言われてた時があっただろう?黒い噂は十年前位にピタリと不自然なくらいに沈静したけど。不思議だね。」
「……。」
それルアが止めたんだろうね。それ言っちゃいかんやつよ叔父様。シェリ様超怖いぞ。
「不思議なのは貴方よ…ちょっといらっしゃい。」
「どこに行くんですかお母様?」
シェリ様に連行された叔父様は少ししてから、しょんぼりして帰って来た。
「ごめんなさいねルアさん。お馬鹿なの。」
「いえ…。」
「あら、美しいイラ様の馬車が来たわよ。」
何故か母様をカウントしなかったアオちゃんと、シェリ様とルアとしょんぼり叔父様と玄関でお出迎え。
父様と母様はいい笑顔だ。全員でリビングに移動して、幸せそうな両親の方がイチャイチャしている。
「うふふ。本当に良かったわ。ルアさんならマリーを任せられるわ。」
「うふふ。そうね。ずっと前の王宮のパーティーでお見掛けした時は、今と雰囲気が全然違かったからマリアの婚約者として挨拶にいらしてくれた時は驚いたのよ。素敵になったわ。」
「うふふふ。羨ましいわぁ。」
「そうだね。ルア君は本当に我が家からの後継はいらないのかい?」
「はい。マリアがいればそれで何もいりません。仕事は手伝いますよ。身内として。」
「それは頼もし」
「まぁ素敵!!!」
カチャン!
「ごめんなさい…アオちゃんにびっくりしました。」
「まぁ!何よ今更!浮かれてんのかしら?うふふふふふ。」
あまりの声のデカさに紅茶のカップを落としそうになった。
「かからなかったか?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「うふふ、優しいわぁ。顔…いいわぁ。」
心配して手を見てくれるルア。その光景も両親とシェリ様は和やかに見ている。
「おや?マリアは相変わらずのようだね。」
「…お兄様?マリーは驚いただけですわよ。」
「そうですよお兄様。誰でもアオには驚きますよ。」
「あらヤダ。私の美しさに驚くのかしら?うふふ。」
「いやほら、紅茶を飲んで大泣きしたことがあっただろう?あの時はミルクでウサギの絵を描いたアートティーを見て騒いでいたよね。」
知らんけど…やめてくれない?忘れてくれない?
「ウサギの首が取れてはいっしゃっしゃっ!って騒いでカップを持って走り回っていたよね。」
「ふっ…。」
ルアに笑われたぞ叔父様。やめてくれない?
「首飲んじゃっしゃ!って騒いで泣いてたね。紅茶にウサギの首なんて入ってないのにおかしな子だなって思ってたんだよ。」
そう解釈しましたか。恐ろしいうっかりさんだな。
「そんなこともあったわね…幼い子は純粋ですからね。」
「そうですよお兄様。純粋な子供の可愛い勘違いです。」
「首といえば、フローラは小さい頃に初めてイラ君と会った時に、鍵付きの首輪を付けていたけど、あれはマリアが引き継いだのかい?」
「お兄様…ちょっといらっしゃい。」
「どこに行くんだい?」
「お母様も行くわ…。」
「えぇ…お願いします。」
首輪…レオンが引き継いでゼンに付けたのではないだろうか。
ダブル母様が去り際にこっちを見たので、全員で外を見ていて聞いてなかったフリをしたら、頷いて叔父様を連行していった。
「……ただのネックレスだよ。」
「「…はい。」」
「激しいわぁ。」
その日、叔父様は帰って来なかった。
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