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#035 少年少女のひと夏の旅
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偽りの預言者、天樹錬との死闘から、早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。
彼の残した不気味な予言は、今も僕たちの心に小さな棘のように残ってはいるものの、学園には、嵐が過ぎ去った後の、穏やかな日常が戻ってきていた。
メイド服を着て美王先生や杏那さん、真角くんにまでご奉仕したり、アイドル活動してみたり……
そんなこんなで日は流れ、蝉時雨が降り注ぐ七月の終わり。じりじりと肌を焼くような日差しと、むせ返るような緑の匂いが、夏休みがすぐそこまで来ていることを告げている。クラスメイトたちは、旅行の計画や、恋の噂話に花を咲かせ、どこか浮き足立っているようだった。
だが僕と、杏那さん、真角くん、そして怜士くんの四人は、そんな賑やかな教室の空気から、どこか取り残されたような感覚を覚えていた。
あの日、僕たちは確かに勝利した。
だが、あの戦いで僕たちが目の当たりにしたのは、自分たちのあまりにもな未熟さだった。
精神攻撃に動揺し、満足に動けなかった僕と怜士くん。
圧倒的な物量の前に、決定打を欠いた杏那さんと真角くん。
そして、そんな僕たちを遥かに凌駕する力で、守り、導いてくれた、玖代会長と肆谷副会長という、二つの偉大な背中。
「……全然、足りねぇよな」
放課後の機術研究部の部室。珍しく、怜士くんが弱音とも取れる言葉を漏らした。
「俺たちは、結局、あの人たちに助けられただけだ。もし、会長や副会長がいなかったら……俺たちは、天樹錬に勝てなかった」
彼の言葉に、誰も反論できなかった。それは、僕たち全員が、心の底で痛感していた事実だったからだ。
「……次の戦いでは、僕たちが、あの人の隣に立って戦えるくらい、強くならなくちゃいけない」
真角くんが、静かに、しかし熱を込めて言った。
「そうですわ。いつまでも、守られてばかりではいられません。今度は、私たちが、会長や副会長の『力』になるのです」
杏那さんの瞳にも、強い決意の光が宿っていた。
僕も、同じ気持ちだった。
あの日、心に誓った。「あの人たちみたいに、強くなりたい」と。
それは、ただの憧れなんかじゃない。仲間として、共に戦う者としての、最低限の責務のはずだ。
もっと、強く。
もっと、もっと、強くならなければ。
僕たち四人の心は、完全に一つになっていた。
「――と、いうわけなんです! お願いします、美王先生! 僕たちを、もっと強くしてください!」
僕たちは、机に向かっていた美王先生の前に四人並んで、深々と頭を下げた。
僕たちの必死の懇願に、彼女はきょとんとした顔でこちらを振り返ると、次の瞬間、悪戯っぽく、そして、どこか嬉しそうに、その妖艶な唇を綻ばせた。
「あらあら、可愛いハルくんたちが、そんなに熱心にお願いしてくれるなんて……先生、感激しちゃった♡――というわけで♡ 夏休み特別企画! 美王先生と行く、ドキドキ♡無人島強化合宿に、ご招待しちゃいまーす!」
僕たち四人を前に、美王先生はウインク付きで、一枚のパンフレットをひらひらとさせてみせた。そこに写っていたのは、どこまでも青い空、純白の砂浜、そしてエメラルドグリーンの海に囲まれた、楽園のようなリゾートアイランドの写真だった。
「……は?」
怜士くんが素っ頓狂な声をあげる。それもそのはず、最初から僕たちがこう言うのを見透かしていたかのように、美王先生はそのパンフレットを取り出したのだから。
「ご招待、と言いましても、これは強制参加ですわよね? お姉様。恐らく私たちが言い出さなかったとしても、そちらから声をかけていたはず」
呆れたように杏那さんが言うと、美王先生は「あら、バレちゃった?」と悪戯っぽく舌を出す。
「いくら何でも準備が良すぎですよ……」
「研究室の傍らで何やらそんなものを用意していたの、見えてましたからね」
こうして、夏休みを利用した、僕たち四人の特別な強化合宿が、半ば強制的に開催されることになったのだ。
そして、数日後。
僕たちはクルーザーに乗って、その楽園へと降り立った。
眼下に広がるのは、パンフレットの写真と寸分違わぬ、絶景だった。
照りつける太陽、頬を撫でる潮風、どこまでも続く水平線。アーク・リベリオンとの死闘が、まるで嘘だったかのように感じられる、完璧なまでの南国の風景。
「すっげぇ……! マジでリゾートじゃん!」
怜士くんが、子供のようにはしゃいでいる。彼の言う通り、島の中央には、ガラス張りの壁が美しい、近代的なリゾートホテルがそびえ立っていた。ここが、僕たちの合宿の拠点となる場所らしい。
だが、僕はこの島に降り立った瞬間から、どこか違和感を覚えていた。
あまりにも、静かすぎるのだ。鳥の声も、虫の音も、ほとんど聞こえない。まるで、作り物のセットの中にいるような、不自然なまでの静寂。
ホテルに案内された僕たちを待っていたのは、美王先生一人だけだった。従業員の姿は、どこにも見当たらない。
「ふふふ、ようこそ。あたしの実験島へ♡」
ラフなTシャツにショートパンツという姿で、美王先生は僕たちを出迎えた。その見た目があまりにも刺激的で、つい目を逸らしてしまう。
「実験島……?」
僕が問い返すと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「そうよ。ここは、表向きは学園所有のプライベートリゾートだけど、その実態は、あたしの研究施設が点在する、まるごと全部が実験場なの。君たちが今から受けるのは、ただのバカンスじゃなくて、あたしの用意した、とっておきの『実験』……ううん、『特別授業』なんだから♡」
荷物をそれぞれの部屋に置いた後、僕たちは早速ホテルの一室に集められた。そこは、学校の教室を模したような講義室だった。ホワイトボードが置かれ、いくつものモニターが壁に設置されている。
「さーて、それじゃあ、最初の授業を始めましょうか」
教壇に立った美王先生が、パン、と手を叩いた。その表情は、いつもの悪戯っぽいものではなく、研究者としての真剣なそれに変わっていた。無論服装も、礼儀正しいスーツ姿に変わっている。
「君たちは、『強くなりたい』と言ったわね。その気持ちは、とても大事。でも、ただやみくもに力を求めても、いずれ壁にぶつかるわ。……あるいは、道を誤るか、ね」
彼女の言葉は、かつての怜士くんや、アーク・リベリオンの信者たちのことを指しているのだろう。
「だから、まずは、君たちが扱っている『力』の、本当の仕組みを、もう一度基礎から学んでもらう。なぜ、機術学園の生徒は、デバイスを使いながらも、心と体を鍛える必要があるのか。――その答えをね。これまでの授業の復習と予習を1日でやり切るから、しっかりついてくるのよ」
彼女はそう言うと、手元のリモコンを操作した。
「君たちは、アーク・リベリオンとの戦いを通じて、命のやり取りや、憎悪みたいなドロドロした情念渦巻く戦いを、身をもって経験してきた。だからこそ、今、改めて意識してほしいの。君たちがいるこの『機術学園』が、そもそも、何のために存在する場所なのか、ってことをね」
美王先生は、いつもの軽薄な笑みを消し、真剣な眼差しで僕たち四人を見つめていた。
「だから、今日の最初の授業は、原点回帰。この学園の成り立ちと、君たちが日々受けている授業の、本当の意味についてよ」
彼の残した不気味な予言は、今も僕たちの心に小さな棘のように残ってはいるものの、学園には、嵐が過ぎ去った後の、穏やかな日常が戻ってきていた。
メイド服を着て美王先生や杏那さん、真角くんにまでご奉仕したり、アイドル活動してみたり……
そんなこんなで日は流れ、蝉時雨が降り注ぐ七月の終わり。じりじりと肌を焼くような日差しと、むせ返るような緑の匂いが、夏休みがすぐそこまで来ていることを告げている。クラスメイトたちは、旅行の計画や、恋の噂話に花を咲かせ、どこか浮き足立っているようだった。
だが僕と、杏那さん、真角くん、そして怜士くんの四人は、そんな賑やかな教室の空気から、どこか取り残されたような感覚を覚えていた。
あの日、僕たちは確かに勝利した。
だが、あの戦いで僕たちが目の当たりにしたのは、自分たちのあまりにもな未熟さだった。
精神攻撃に動揺し、満足に動けなかった僕と怜士くん。
圧倒的な物量の前に、決定打を欠いた杏那さんと真角くん。
そして、そんな僕たちを遥かに凌駕する力で、守り、導いてくれた、玖代会長と肆谷副会長という、二つの偉大な背中。
「……全然、足りねぇよな」
放課後の機術研究部の部室。珍しく、怜士くんが弱音とも取れる言葉を漏らした。
「俺たちは、結局、あの人たちに助けられただけだ。もし、会長や副会長がいなかったら……俺たちは、天樹錬に勝てなかった」
彼の言葉に、誰も反論できなかった。それは、僕たち全員が、心の底で痛感していた事実だったからだ。
「……次の戦いでは、僕たちが、あの人の隣に立って戦えるくらい、強くならなくちゃいけない」
真角くんが、静かに、しかし熱を込めて言った。
「そうですわ。いつまでも、守られてばかりではいられません。今度は、私たちが、会長や副会長の『力』になるのです」
杏那さんの瞳にも、強い決意の光が宿っていた。
僕も、同じ気持ちだった。
あの日、心に誓った。「あの人たちみたいに、強くなりたい」と。
それは、ただの憧れなんかじゃない。仲間として、共に戦う者としての、最低限の責務のはずだ。
もっと、強く。
もっと、もっと、強くならなければ。
僕たち四人の心は、完全に一つになっていた。
「――と、いうわけなんです! お願いします、美王先生! 僕たちを、もっと強くしてください!」
僕たちは、机に向かっていた美王先生の前に四人並んで、深々と頭を下げた。
僕たちの必死の懇願に、彼女はきょとんとした顔でこちらを振り返ると、次の瞬間、悪戯っぽく、そして、どこか嬉しそうに、その妖艶な唇を綻ばせた。
「あらあら、可愛いハルくんたちが、そんなに熱心にお願いしてくれるなんて……先生、感激しちゃった♡――というわけで♡ 夏休み特別企画! 美王先生と行く、ドキドキ♡無人島強化合宿に、ご招待しちゃいまーす!」
僕たち四人を前に、美王先生はウインク付きで、一枚のパンフレットをひらひらとさせてみせた。そこに写っていたのは、どこまでも青い空、純白の砂浜、そしてエメラルドグリーンの海に囲まれた、楽園のようなリゾートアイランドの写真だった。
「……は?」
怜士くんが素っ頓狂な声をあげる。それもそのはず、最初から僕たちがこう言うのを見透かしていたかのように、美王先生はそのパンフレットを取り出したのだから。
「ご招待、と言いましても、これは強制参加ですわよね? お姉様。恐らく私たちが言い出さなかったとしても、そちらから声をかけていたはず」
呆れたように杏那さんが言うと、美王先生は「あら、バレちゃった?」と悪戯っぽく舌を出す。
「いくら何でも準備が良すぎですよ……」
「研究室の傍らで何やらそんなものを用意していたの、見えてましたからね」
こうして、夏休みを利用した、僕たち四人の特別な強化合宿が、半ば強制的に開催されることになったのだ。
そして、数日後。
僕たちはクルーザーに乗って、その楽園へと降り立った。
眼下に広がるのは、パンフレットの写真と寸分違わぬ、絶景だった。
照りつける太陽、頬を撫でる潮風、どこまでも続く水平線。アーク・リベリオンとの死闘が、まるで嘘だったかのように感じられる、完璧なまでの南国の風景。
「すっげぇ……! マジでリゾートじゃん!」
怜士くんが、子供のようにはしゃいでいる。彼の言う通り、島の中央には、ガラス張りの壁が美しい、近代的なリゾートホテルがそびえ立っていた。ここが、僕たちの合宿の拠点となる場所らしい。
だが、僕はこの島に降り立った瞬間から、どこか違和感を覚えていた。
あまりにも、静かすぎるのだ。鳥の声も、虫の音も、ほとんど聞こえない。まるで、作り物のセットの中にいるような、不自然なまでの静寂。
ホテルに案内された僕たちを待っていたのは、美王先生一人だけだった。従業員の姿は、どこにも見当たらない。
「ふふふ、ようこそ。あたしの実験島へ♡」
ラフなTシャツにショートパンツという姿で、美王先生は僕たちを出迎えた。その見た目があまりにも刺激的で、つい目を逸らしてしまう。
「実験島……?」
僕が問い返すと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「そうよ。ここは、表向きは学園所有のプライベートリゾートだけど、その実態は、あたしの研究施設が点在する、まるごと全部が実験場なの。君たちが今から受けるのは、ただのバカンスじゃなくて、あたしの用意した、とっておきの『実験』……ううん、『特別授業』なんだから♡」
荷物をそれぞれの部屋に置いた後、僕たちは早速ホテルの一室に集められた。そこは、学校の教室を模したような講義室だった。ホワイトボードが置かれ、いくつものモニターが壁に設置されている。
「さーて、それじゃあ、最初の授業を始めましょうか」
教壇に立った美王先生が、パン、と手を叩いた。その表情は、いつもの悪戯っぽいものではなく、研究者としての真剣なそれに変わっていた。無論服装も、礼儀正しいスーツ姿に変わっている。
「君たちは、『強くなりたい』と言ったわね。その気持ちは、とても大事。でも、ただやみくもに力を求めても、いずれ壁にぶつかるわ。……あるいは、道を誤るか、ね」
彼女の言葉は、かつての怜士くんや、アーク・リベリオンの信者たちのことを指しているのだろう。
「だから、まずは、君たちが扱っている『力』の、本当の仕組みを、もう一度基礎から学んでもらう。なぜ、機術学園の生徒は、デバイスを使いながらも、心と体を鍛える必要があるのか。――その答えをね。これまでの授業の復習と予習を1日でやり切るから、しっかりついてくるのよ」
彼女はそう言うと、手元のリモコンを操作した。
「君たちは、アーク・リベリオンとの戦いを通じて、命のやり取りや、憎悪みたいなドロドロした情念渦巻く戦いを、身をもって経験してきた。だからこそ、今、改めて意識してほしいの。君たちがいるこの『機術学園』が、そもそも、何のために存在する場所なのか、ってことをね」
美王先生は、いつもの軽薄な笑みを消し、真剣な眼差しで僕たち四人を見つめていた。
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