25 / 39
第25話 1535年 5歳 信濃高梨訪問 —越乃枇杷酒が結ぶ新たな絆だぞ
しおりを挟む
堺から越後へ戻ると、まず驚くことがあった。
──俺に弟が生まれていたのだ。
名前は犬千代。
史実とは違う流れが生まれていた。
父・晴景は、俺とほとんど口をきかないのを気にし、
新しい子が欲しくなったのかもしれない。
いずれ俺に何かあれば、犬千代か、あるいは謙信が家督を継ぐのだろう。
春日山城に着いた俺は、父と祖父・上杉定実に堺土産を渡し、
まずはご機嫌をとった。
その後、祖父・晴景に
「親戚回りをしてこい」
と命じられる。
ただし──
晴景「上条定憲には行くな。あやつは反乱を起こしかねん」
素直に従うことにした。
次に信濃の高梨政盛を訪れることにした。
高梨氏は祖父・長尾為景の正妻、つまり俺の祖母の家系だ。
戦では幾度も為景を助けてきた名門である。
同行は安田、風馬、水斗の三名に、従者二名。計六名。
案内された座敷で、俺は堺土産の和菓子、香木、
そしていつもの三点セット──越乃柿酒、石けん、蜂蜜を献上した。
高梨政盛は上機嫌だった。
高梨政頼
「まずは、このような立派な物を頂きかたじけない。
ところで龍義よ……将軍様から名を賜ったというのは真か?」
俺
「左様でございます」
高梨政頼
「五歳前の元服もしておらぬ子が将軍から名を頂くとは異例。
これは幕府が龍義を認めるという意思表示であろう。
……神の声が聞こえるという噂も、それゆえかもしれぬな」
俺
「そうかもしれませぬ」
高梨政頼
「龍義の父・晴景は頼りにならぬが……
我が家は龍義を支持していくことにしようぞ。
今宵はゆっくりしていけ。元服しておれば酒でも飲んだものを」
俺
「酒がお好きでしたら、新しく仕込みました越乃枇杷酒をどうぞ」
高梨政頼
「美味いのか?」
俺は安田に目配せした。
安田
「米酒とはまた違い、甘みと辛みが共存し、美味でございます」
高梨政頼は酒が好きなのだろう。
目尻が緩み、従者に樽を傾けさせる。
高梨政頼
「まずかったら龍義の支持は無しだぞ!」
冗談とはいえ、刺すような笑いだった。
だが次の瞬間──
高梨政頼
「……美味い! こんな酒、今まで飲んだことがない!
これしか飲みたくない。儂専用だ!」
俺
「足りなくなれば、またお申し付けください」
高梨政頼
「こんな樽、一日で空けてやる!」
(やめてくれ……アルコール40%を18リットル飲んだら死ぬ!)
死なせれば高梨氏が敵になる。
だが与えねば、やはり敵になる。
困った俺は言葉を選んだ。
俺
「実はこの酒、長生きにも効く薬酒でございまして……
過ぎたるは身体に毒となります。
さすれば、この明国の杯に半分だけ注ぎ、
残りを水で満たせば、より身体に良く、気持ちよく飲めまする」
高梨政頼
「龍義……お主、本当に五歳か?
間違いなく神の子だ」
どうやら、俺がどう答えるか試していたらしい。
高梨政頼
「我が亡き後は、一族を頼むぞ」
俺
「承知しました」
退室すると、安田が汗を拭きながら言った。
安田
「高梨殿は気難しいことで有名なんですよ……。
いやぁ、さすが若様です」
褒め上手がそばにいると、心が軽くなる。
──俺に弟が生まれていたのだ。
名前は犬千代。
史実とは違う流れが生まれていた。
父・晴景は、俺とほとんど口をきかないのを気にし、
新しい子が欲しくなったのかもしれない。
いずれ俺に何かあれば、犬千代か、あるいは謙信が家督を継ぐのだろう。
春日山城に着いた俺は、父と祖父・上杉定実に堺土産を渡し、
まずはご機嫌をとった。
その後、祖父・晴景に
「親戚回りをしてこい」
と命じられる。
ただし──
晴景「上条定憲には行くな。あやつは反乱を起こしかねん」
素直に従うことにした。
次に信濃の高梨政盛を訪れることにした。
高梨氏は祖父・長尾為景の正妻、つまり俺の祖母の家系だ。
戦では幾度も為景を助けてきた名門である。
同行は安田、風馬、水斗の三名に、従者二名。計六名。
案内された座敷で、俺は堺土産の和菓子、香木、
そしていつもの三点セット──越乃柿酒、石けん、蜂蜜を献上した。
高梨政盛は上機嫌だった。
高梨政頼
「まずは、このような立派な物を頂きかたじけない。
ところで龍義よ……将軍様から名を賜ったというのは真か?」
俺
「左様でございます」
高梨政頼
「五歳前の元服もしておらぬ子が将軍から名を頂くとは異例。
これは幕府が龍義を認めるという意思表示であろう。
……神の声が聞こえるという噂も、それゆえかもしれぬな」
俺
「そうかもしれませぬ」
高梨政頼
「龍義の父・晴景は頼りにならぬが……
我が家は龍義を支持していくことにしようぞ。
今宵はゆっくりしていけ。元服しておれば酒でも飲んだものを」
俺
「酒がお好きでしたら、新しく仕込みました越乃枇杷酒をどうぞ」
高梨政頼
「美味いのか?」
俺は安田に目配せした。
安田
「米酒とはまた違い、甘みと辛みが共存し、美味でございます」
高梨政頼は酒が好きなのだろう。
目尻が緩み、従者に樽を傾けさせる。
高梨政頼
「まずかったら龍義の支持は無しだぞ!」
冗談とはいえ、刺すような笑いだった。
だが次の瞬間──
高梨政頼
「……美味い! こんな酒、今まで飲んだことがない!
これしか飲みたくない。儂専用だ!」
俺
「足りなくなれば、またお申し付けください」
高梨政頼
「こんな樽、一日で空けてやる!」
(やめてくれ……アルコール40%を18リットル飲んだら死ぬ!)
死なせれば高梨氏が敵になる。
だが与えねば、やはり敵になる。
困った俺は言葉を選んだ。
俺
「実はこの酒、長生きにも効く薬酒でございまして……
過ぎたるは身体に毒となります。
さすれば、この明国の杯に半分だけ注ぎ、
残りを水で満たせば、より身体に良く、気持ちよく飲めまする」
高梨政頼
「龍義……お主、本当に五歳か?
間違いなく神の子だ」
どうやら、俺がどう答えるか試していたらしい。
高梨政頼
「我が亡き後は、一族を頼むぞ」
俺
「承知しました」
退室すると、安田が汗を拭きながら言った。
安田
「高梨殿は気難しいことで有名なんですよ……。
いやぁ、さすが若様です」
褒め上手がそばにいると、心が軽くなる。
0
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる