放課後の二人

きさい

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「ねぇ、首のなくなった人間に人権はあると思う?」
「は?」
放課後に誰もいなくなった教室で、銃声と二人の声だけが響く。
「このゲームみたいにヘッドショットを入れられた人間がってことか?」
「いや、そうじゃなくて。」
銃声がやみ、安っぽい勝利演出がスマホの画面に流れる。
「首から下だけを延命し続ける機械があったとしたら、」
「脳死よりも確実に死んでるだろ、それ。」
「確かに。」
また画面の中に銃弾の雨が走る。
「ま、植物状態の人間を死んでるって断定するのもどうかとは思うけどな。」
「うん。」
「何にでも線を引かなきゃいけない、現代の悲しい性質だよ。」
「なるほど。あ、」
敗北画面のほうが二割増しで安っぽく見えるのは、気のせいだろうか。
「負けちった。まだいけっか?」
「うん。」
初夏の涼しい日だった。外からは運動部の声がかすかに聞こえてくる。尤も二人には、敵を撃ち殺す銃声しか耳に入ってこない。
「じゃあ、首から上が入れ変えられるようになったら?」
「へ?」
「さっきの続きだよ。」
「ああ……」
「首から上をそのまま代替する機械があったとしたらどう?」
「ん、記憶もか?」
「記憶は、そうだな、記憶はなしで。」
「記憶が無かったら別人なんじゃないか?当然、人権はあると思うけど。」
銃声が止む。鬱陶しい画面から目をそらすも、敗北を告げる音声が耳に入ってくる。
「あークソ、もうやめとこうぜぶっ壊しちまいそうだ。」
「んふふ、そうだね。」
鞄を持って廊下に出る彼。夕陽が眩しく目に差し込む。
「なぁ、」
「うん?」
何となく声が出た。
「あー、帰りコンビニ寄ろうぜ。」
「うん。」
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