風の魔導師はおとなしくしてくれない

文字の大きさ
113 / 134
後日談2 星の見えるところ

冒頭


 ――愛するルイがリーゲンスに戻ってきた。とても喜ばしいことだ。俺のかわいいルイ……きっときみは、少し見ないあいだにさらに美しく成長しているに違いない。早く会いたい。その華奢な体を抱きしめて、俺がずっときみの帰りを待っていたことを教えてあげたい。

 だが、もたらされた知らせはよいものばかりではなかった。なんと、ルイは海の国の王太子と婚約したらしい。それで王太子が女王に挨拶しに来ることになり、ルイも一緒に帰ってきたようだ。

 どうしてそんなことになったのか、まったく理解できなかった。だって、ルイは俺の婚約者なのに。なんの手違いでそんなことになってしまったのだろうか。

 最初はわけがわからなかったが、冷静に考えてみると、なんとなく想像がついてきた。ルイはあの通りかわいらしい人だ。本人は自分のことを地味でなんの取り柄もない人間だと思っているようだが、あんなに魅力的な人はそうそういない。そんな自分のことに鈍感で純真なところもたまらない。

 ルイは色事に疎いらしく、以前、愛の言葉を二言三言囁いただけで頬を赤くして恥ずかしそうに下を向いてしまった。思わず礼儀をかなぐり捨ててキスして押し倒したいと思ってしまったことは、ルイには内緒だ。俺でなくとも、あんな姿を見せられたら男は全員彼の虜になるだろう。

 そんなかわいらしい人だから、海の国の王太子に目をつけられてしまったに違いない。無理やり海の国に連れて行かれて、婚約させられてしまったんだろう。かわいそうなルイ。俺が助けてあげないと。



 ティグラノスのパーティーでルイに会えるはずだったが、それまで待てずアウロラまで来てしまった。まず城の状況を調べることにした。そこで、城に勤めている友人を夕食に誘って話を聞いてみた。

 彼の話では、城に戻ってきたルイは見違えるように明るく元気になり、笑顔を見せるようになっているそうだ。そして、海の国の王太子ととても仲がよさそうだとのことだった。

 果たしてそれは本当だろうか。笑顔になったのは、リーゲンスに戻ってこられて嬉しいからだろう。だが、仲がよさそうに見えるといっても、王太子の機嫌を損ねないようにしているだけかもしれない。友人はいいやつだが、ちょっと鈍いところがあるので、話の全部を鵜呑みにはできない。

 ここはやはり、ルイをよく知っている自分自身の目で確かめないといけないだろう。大事な客人が来ているので、城には許可のない者は立ち入れないようになっている。城に行ってルイに会うことは不可能だ。だが、友人の話では、先日完成したミラビレスの塔をルイも見に行くらしい。俺もそこに行ってみることにしよう。



 翌日、俺はアウロラの寺院に向かった。寺院の敷地内には、ミラビレスの塔を見に来た見物客が押し寄せていた。人混みをかき分けてミラビレスの塔に近づいてみると、奥に近衛兵の姿が見えた。そちらのほうに行ってみよう。

 近衛兵に囲まれた先に、ルイがいた。久々にルイの姿を見られて心が躍った。少し大人びた気がする。でもその面差しは以前のままだ。白い肌にくりくりした青い目のかわいい俺のルイだ。

 ルイの隣に背の高い男がいた。あいつが海の国の王太子に違いない。友人の言っていた通り、紺色の髪のいやに美形の男だ。城の侍女という侍女が骨抜きにされているのだとか。とんでもないたらし野郎だ。

 王太子は少しかがんでルイの耳元に話しかけた。ルイは王太子を見上げ、はにかみながらなにか言った。

 二人が楽しそうに話しているのを見て、俺の気分は急降下した。ルイのあんな笑顔は見たことがない。ルイはいつも奥ゆかしい笑みをたたえるばかりだった。ルイが俺にあんな風に無邪気に笑いかけてくれたことなど、一度もない。

 まるで本当に親しくしているように見える。信じられない。信じたくない。きっとなにか事情があるはずだ。ルイは俺の婚約者なんだ。自分のものになるはずだった彼をかすめとるなんて許せない。

 絶対に、許さない――

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091