ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

文字の大きさ
62 / 77
第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

銀世界に燻る熱

しおりを挟む
 湖を迂回してたどり着いた広大な森が広がっており、よく目を凝らして見れば所々、遺跡のような石像や建物が残っている。もしかしたたら、内戦に巻き込まれた街や村の痕跡かもしれない、考古学的な事柄はさっぱりだったが、それでも好奇心と探究心が擽られ、少しドキドキしながら、森の中へと入っていった。

 森はやはり、氷と雪で覆われた銀世界そのままだった。
 ヴィルゴの提案で俺たちはここでキャンプを張る事にした。
 死者の眠る土地でキャンプをするのは少し申し訳ない気分にさせるが仕方がない。
 空は夜の帳が落ちており、暗い道を危険を侵してまで進むことはないだろうという判断だった。

 アルは慣れた手つきで今日の寝床となるテントの準備をしている。そのすぐ隣でロガもアルを手伝いながら、見よう見真似でもう一つテントを張ろうと悪戦苦闘していた。
 二人の間に流れる空気が、俺とウィルのそれに似ていると感じるのは、もう気のせいではないだろう。

 ヴィルゴは食事の用意をしている。
 以外にも手先は器用で、巧みな手さばきで持ってきた材料や道中手に入れた鳥といった食材を処理し、鍋にどんどんと敷き詰めていく。乾燥させたニンジンやジャガイモ、キノコなどボリューム満点だ。

 俺とウィルは森の近くに落ちている枯葉や落ち木を拾い集めて焚き火の準備をする。
 かき集めたそれらを盛って、ヴィルゴが控えめ程度の炎を吐き出し、燃え盛る焚き火に先程準備した鍋を掛ける。
 味付けは塩のみ。旨みは食材から出るから問題ないとヴィルゴは言うけれど、少し不安ではあった。
 しかし、その心配は杞憂だったようだ。しばらくすると、鼻孔を擽るいい香りがあたりを漂いはじめた。
 食欲をそそる匂いで腹の虫が盛大に鳴った。

「うっま! 味付け本当に塩だけ?!」
 ロガが口いっぱいに含みながらモグモグと忙しなく動かしながら叫んだ。
 俺も喋るのがもったいないくらい忙しなくモグモグと咀嚼を続けている。
 マジでうまい。
「うむ。旨みはある程度食材から出るからな。塩も二摘み程度しか入れていない」
「驚きました。ヴィルゴ様がこんなに料理が上手だったなんて」
 俺の隣に座ったウィルが尊敬の眼差しをヴィルゴに向けている。俺はウィルの作る料理も美味いと思うけどな。
 そう言ってやりたかったが、悪い、今は口がいそがしい。
「ただ切って鍋に入れただけだがな」
「それでも美味しいです。ありがとうございます」
 にっこりと花が綻ぶようにウィルは微笑んだ。
「……よく噛んで食え。おかわりもあるからな」

 ――……ウィルゴ様、照れてる?

 と、誰もが思い、目を細め、その様子を微笑ましく眺めた。
 以外にもヴィルゴは世話焼きなドラゴンだったという一面を垣間見れて、穏やかな時間が流れる。
 美味しい夕食と共に身体が中から温まっていく。
 あれだけあった鍋の中身はあっという間に空になった。腹を満たし、他愛無い雑談をしてから早々に床につくことにした。
 生き物を生きることは難しい北の大地だが、野生の獣がいないわけではない。遭遇率は稀だが、念のため見張りを交代で行うことにした。

 最初は俺が見張りを担当した。
 シン、と静まり帰った銀世界の夜の中、焚き火のパチパチと薪が爆ぜる音と遠くの方で微かに聞こえる。
 狼だろうか。彼らの遠吠えがやけに鮮明に耳に聞こえた。

 火を消さないように継ぎ足しで乾燥した木を放り投げた。
 そのとき、雪を踏みしめる音を聞いて、視線をそちらへとやる。
「どうした、ウィル。寝れねぇの?」
「うん。身体は疲れているはずなんだけどね」
 隣、いい? と聞いてきたウィルに「おお」と言いながら少し横にずれてやる。
 目前の焚き火を二人で見つめた。会話はなかった。それでも触れるウィルの体温をすぐ横に感じて、それだけで心地良いと思った。
 一緒に入る? とウィルが持ってきた一枚の毛布を二人で共有して、俺たちはその中で無意識に手を繋ぎ合せていた。上下重ねるように、少し高めの体温が少しずつ共有されて同じ温度になる。
 ウィルと一緒にいると安心できる。
 どんなに苦しくても乗り越えていける。そんなふうに思ってしまう。
 彼はどうなんだろう。
 どう感じているのか。
 同じ気持ちだと嬉しい。
 繋いだ手に力を込めて、俺の想いをそれに乗せる。すると、ウィルも頷くように握り返してきて、俺の肩に頭を預けてきた。その思わぬ行動にドキリ、と心臓が跳ねたが、柔らかい髪が少しくすぐったくて、笑みが零れた。
 その頭部に唇を落とすように顔を埋めた。
 ウィルの匂いが鼻孔を通って肺いっぱいに満たされていく。
 少しだけ熱が下肢に集まって、顔が、身体が熱くなる。
 それはウィルも同様だったようで、熱に濡れたアメジストの瞳が俺に何かを訴えるかのように真っ直ぐに見つめてくる。
 どうにかその熱を逃がそうと、少し強引にウィルの唇を塞いだ。
「ん、ふっ、ん」
 角度を変える度に耳に聞こえる水音がやけに大きく聞こえた。さらにウィルの甘いとろけるような喘ぎ声が拍車をかける。
 イケナイとわかっていても、手は勝手に動き出し、俺たちは共謀してその熱を追い返すためにお互いの下肢に手を伸ばした。
 ファスナーを降ろして下着を押し上げている熱を掴むとどちらからともなく上下に扱き合った。
 声がこれ以上大きくならないように互いの唇で塞ぎあって、熱の発散を促していく。
 くち゛ゅ、ぐちゅり、と卑猥な水音はシンと静まり返った夜の銀世界に溶け込むように響いて消えていく。
 早く早くと急かすように上下に扱く手の動きも急速にその律動を早くする。亀頭の鈴口に爪を立てて最後の追い込みに掛かる。
 お互いを扱く手を重ねながらするオナニーは最高に気持ちが良くて、めまいがするほど興奮する。
 ふっ、ふっ、と呼吸も荒く、最後、指先に力を入れた。せり上げる射精感に俺もウィルも限界が近づき、頭がぼぅ、と蕩けて意識がすべて快楽へと引き摺られていく。
 絶頂の波が引いては寄せてを繰り返し、一際大きな波が競りあがる。
 声を押し殺した。
 チカチカと星が散らばった。
 ビクッ、ビクンッ、と足が跳ねて肩を震わせながら、声にならない声が耳に聞こえた。
 互いの両手に大量の白濁を吐き出し、ねっとりした欲望の熱にうっとりとする思考の中、俺たちはたゆたう余韻を心地よく感じながら、小さくリップ音を鳴らして舌を絡めて、唇を何度も重ね合わせた。



 衝動的な行動の裏で、きっと俺もウィルも怖くて、怯えていたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...