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皐月あぢゃ

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EP4:オーナーの休日

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 今日は店の定休日。夕方までに済ませなければという気負いがないから比較的なんでもできる…けど、これといって何がしたいわけでもないんだよな…

「ワフッ」
「ん?どうしたパグ蔵」

 足元に寄ってきて一声鳴いた愛犬を抱き上げる。真っ黒で小柄なパグ、名前はそのままパグ蔵数年前にフラッと立ち寄ったペットショップで目を惹かれてそのまま引き取って帰ってきたのも懐かしい。

「パグ蔵、俺今日何すればいいと思う?」
「?」

 問いかけたところで、首を傾げられるだけなのは分かっているがやはり独り身でペットと過ごしていると話しかけてしまうのは人の常である。
 久しぶりに薫を誘って出かけようかな。たまには兄弟で出かけるのもわるくないだろう。そんな事を思いながらスマホに登録されている弟の電話番号を選択し電話をかける。5コール程鳴ると気怠げな声が返ってくる。

「…何…こんな朝っぱらから…」
「おはよう薫。朝っぱらって言っても昼前だよ?休みだし、久しぶりに兄弟水いらずで出かけない?」
「学…あんたね、何が悲しくて休みの日まで店の人間と顔合わせなきゃいけないのよ。いくら兄弟でも飽きるわよっ…あんたも休みの日ぐらい店のこと忘れて過ごしなさいよ」

 言うなり相手は電話を切った。相変わらず寝起きは機嫌が悪いんだな、とか思いながらとりあえず身支度をすることにした。抱き上げていたパグ蔵を床に下し着替えるために部屋に向かう。洒落込む必要はないし、ラフな格好でいいだろうと適当に衣装棚にしまってある服を手に取り着替える。足元には後をついてきてウロウロしているパグ蔵がいるが、慣れたもので特に気にするでもなく俺はそのまま着替えを済ませた。

「じゃあパグ蔵。ちょっと出かけてくるね」
「ワフッ」

 俺の言葉に返事をするように鳴いたパグ蔵の頭を軽く撫でてから家を出た。
 どこに行こうか、特に目的もないけれど久しぶりに隣駅にある商店街にでも行ってみるか。家からすぐの駅から電車に乗る。平日かつ昼前というのと、あまり人が多い地域ではないことも手伝って電車内は空いていた。席は充分に空いているが、一駅しか乗らないのだからとドアの前に立って過ごすことにした。窓から見える流れる外の景色をぼんやりと眺める。特段珍しいものがあるわけでもない、夕方出勤時に自分もこの街の風景になっているのかとか不意に思ったりした。物思いに耽るほどの時間もなく目的の隣駅に到着を告げるアナウンスが鳴る。ドアが開くと思い一歩下がるが、開いたのは自分がいるのとは反対側のドアだった…人が少なくてよかった。大勢に見られては少し恥ずかしい行動である。そそくさと自分の後方で開いたドアからホームに降りる。改札を出て目的地としていた商店街を散策することにした。
 商店街にはよくある小規模なスーパーや喫茶店をはじめ、昔ながらのおもちゃ屋や靴屋なんかも軒を並べている。店先に並ぶ商品を横目で眺めながらそのまま進んでいくと、商店街のはずれ近くに小洒落た輸入雑貨の店があるのが目に留まった。

「こんな店あるんだ…」

 店の前に立ち止まり、ショーウィンドウを軽く見てから店内に入ることにした。ドアを開けると同時にドアに下げられたウィンドチャイムが綺麗な高音を鳴らす。店の奥にあるレジあたりから店主と思しき女性が控えめに「どうぞごゆっくり」と告げる。店内を見て回るとなかなか他では見ないような雑貨が並んでいる。アンティークなんだろうか、センスの良いガラス製の置物に目が止まり思わず手に取った。

「へー…これ店に飾ったら可愛いかな…」

 置くのならどこに飾ろうかと自分の店の店内を思い出す。

「…あ…また店の事考えてた…こんなんじゃまた薫に怒られちゃうな…」

 弟が眉間に皺を寄せたふくれっ面を思い出し苦笑いした。買って帰ろうか少し悩んだが、置き場所も確保していない状態で買っても悪い気がしてそのまま棚に戻した。流石に何も買わずに店を出るのは申し訳なく感じ、レジ前の冷蔵庫に並んでいた海外産のビールを2本手に取りレジに出す。言われた金額を支払って購入したビールを受け取り店を出た。
 さて、この後はどうしようか…小腹がすいていることに気づき駅に戻る道すがらにあった喫茶店に入り遅めのランチを食べる事にした。小洒落たカフェではなく、少し古いタイプの喫茶店だったのでそれなりのランチプレートを注文した。食べ終わり、食後のコーヒーを飲み終え店を後にする。
 さて、どうしたものか。商店街で見たい店ももうないし…これ以上出歩くのも気乗りしない。

「ワンッ」
「ん?」

 少しぼんやりとしていると、傍を小型犬を散歩させている人が通り過ぎる。

「あ…パグ蔵の散歩行こう」

 我なが良い考えだと少し上機嫌になりながら、駅に向かい電車に乗る。大した時間を過ごしたわけではないけれど、それなりに満足はした。自宅の最寄り駅に到着し、家に向かう。
 玄関を開けると、パグ蔵が嬉しそうに無いに等しい尻尾をお尻ごと振りながら出迎えてくれる。

「ただいまーパグ蔵」
「ワフッ」
「パグ蔵、散歩行くよー」

 嬉しそうにその場でグルグルと走り回る。散歩用のリードを取り付け今帰ってきたばかりではあるがパグ蔵と一緒に再び家を出る。
 近所に都合よく広めの芝生公園があるので、そこへ向かう。公園に着くとパグ蔵は慣れた足取りで公園内を散策する。公園内であればそこまで人の迷惑にもならないし、事故に遭うこともないため基本的にパグ蔵の行きたい方向へ進む事にしている。

「ワフッワフッ」
「あれ?」
「他にする事ないわけ?」
「そういう薫もなんで公園?」

 パグ蔵が嬉しそうに鳴いた先には見慣れた弟の姿があった。ベンチに腰掛けどうやら読書していたようだ。見かけによらずと本人に言ったら気分を害しそうなので言わないが、案外こういう大人しい趣味があるんだよな、と微笑ましく思う。

「俺も特にやる事なかったし…天気いいしまだ暑くもないし。ちょうどいいと思って」
「なるほど」
「それに…」
「ん?」
「朝ちょっと言いすぎたから…公園いればパグ蔵の散歩で来るかと思って…」
「…」
「笑うなっ」
「ごめんごめん。でも薫そういうとこ可愛いよね」
「兄貴に言われても嬉しくないわよ」

 照れ隠しで憎まれ口を叩きながらも、特段怒っているわけではないのは見てとれる。

「お互いやる事ないし、パグ蔵も薫に遊んで欲しそうだから家で夜鍋でも食べてく?さっき珍しいビールも買ったから一緒に飲もうよ」
「チゲ鍋なら行ってあげる」
「はいはい。じゃ。3人で買い物行こっか」

 弟と愛犬と並んで歩き、近くのスーパーへ向かった。特別なものがあるわけじゃないけど、こんな休日も悪くないか

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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.09 花雨

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2021.08.09 皐月あぢゃ

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解除

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