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第5章 ここからは内政のターン!! だがプレイヤーは代理でってルールはOK?
5-3
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教皇領巡回騎士団の一翼、灰の壁騎士団500名。付き従うのは1000人の従僕部隊。
彼らは基本、戦闘に参加しないがそれ以外の事、馬の世話から、野営地の設営、糧食の手配などをこなす巡回騎士団には必須の組織だ。だからと言って戦闘力がないわけではない。そこら辺の騎士よりは、経験も実力もある。巡回騎士団は古大陸、新大陸を問わず各地に分散している教皇領の治安を守るために常に戦いに臨んでいる。そんな騎士を支える職務は王宮を警備しているだけの騎士が敵う者ではない。
大陸中の信徒から選抜されているので、素質も高い。
古大陸、新大陸問わずこの世界の国々で、同数であれば圧勝出来る。
「騎士団長、緩衝地帯前面に何やら建造物があり、砦の様相、ただし敵は見えずとの事です」
「ふむ、ならば少数で偵察の後に大隊で砦を占拠するように、魔物への警戒を怠るな、特に獰猛な奴らが居るらしいが、腕試しで隊を分散させるなと伝えよ」
「はっ」
銀の鎧に青の布を襷掛けした伝令が走っていく。
その動きは騎士団長であるマズルーから見ても、キビキビとしていて練度に怠慢は見られない満足な物だ。
巡回騎士団として、今回の任務は通常の任務とはかけ離れており、王国の権力争いなど本来我々の仕事ではない。
王国が妹姫と王国戦士とに分裂し、内乱が起きたとしたら、それこそ教皇領にその戦火が飛び火しない様にすることこそが本来の任務だ。
王国内に教皇領の数は多く、担当している灰の壁騎士団の数は少ない。内乱となれば自分がすべてに対応する事など不可能で、そうなればいくつかの教皇領に住む信徒たちは見捨てなければならない。
そうなる前に、防備を強化させ、信徒から新たな兵を組織しなければならない。それでも戦力としては甚だ不安であるが、灰の壁騎士団が助けに現れるまでの時間稼ぎとはなるだろう。今のままでは、内乱に呼応した貴族の私兵に蹂躙されてしまう姿しか見えない。
それなのにだ。
「こんなことに時間を使っている余裕などないのだがな」
「それは、神に対する不敬ではないですかな、騎士団長殿は今回の教皇庁の決定に反対する気ですか?」
今回特別に教皇庁から派遣されてきた巡回神官の地区長が静かに呟く。
ここまで数週間旅を共にしてきたが、この喋り方がマズルーは気にくわない。断定的で、自分の意にそぐわないと直ぐに神の名を口にする。神とは簡単に口にしていい存在ではなく、それぞれの心の中に合って、自らの行いを律する時に初めて意識する物だとマズルーは考えている。信仰は確かに力となるが、戦場が信仰に侵されるのは気にくわない。
我らは信仰を守り、教えを信じる人々を護る為に存在する護りの騎士団。だからこその灰の壁騎士団なのだが。
「これから確実に起きる王国の内乱で、いくつかの教皇領とそこに住まう信徒の皆を守るのが任務と、そう考えていた者も多く、背後の不安が消えぬのですよ地区長殿」
「王国の内乱・・・確かに放置すれば教皇領の信徒たちが被害にあう可能性はありましょう、しかしながら我らは護ることによって起こる事態と、それよりも今回動くことの方が結果的に救済になると、そう決定したのですよ騎士団長殿、教皇庁の皆様方が」
新大陸の教皇領から従僕として採用されたマズルーは、教皇庁に対してなんの繋がりもないなか、戦果のみによって出世した現場主義な男だ。
その為、教皇庁とのつながりも薄く後ろ盾も無い。身分で言えば騎士団長と地区長では、騎士団長の方が上であるが、神の名を気軽に使う、教皇庁を後ろ盾にもつこの地区長の意見をマズルーは拒否できない。拒否すれば神に叛く異端者と指定され、地位も共に戦った部下たちを失うことになる。
「教皇庁の皆さまは我ら現場の騎士には考えつかぬ秘策をお持ちなのでしょうな、信徒を守る壁として我らは従うのみです、ただ戦場ではこちらに従ったいただきますぞ」
「それは結構な事です、戦はお任せいたします、神が求めるのは常に我らの献身と結果ですから」
「騎士団長!伝令っ、砦の様な建造物の奥に村が見えるとの事、偵察向かいますとの事」「緩衝地帯に砦があること自体変な事ではあったが、その奥に村があるだと?」
マズルーの知識では、この一帯は魔物が跋扈し、とても定住には不向きな地域であった
さらに人よりも個体能力の高い魔族の支配地域とも近く、わざわざ人が住む場所ではない。となると、砦と村は魔族の物である可能性が高い。
魔族は神を信じない。彼らの信じる神は個ではなく、自然の中に存在する精霊や、天災を起こす火山等を神として崇めている。教義も曖昧で、同じ神が地方によっては善神であったり悪神であったりするらしい。唯一絶対な物を持たない彼等魔族と、我ら神の信徒は相いれる事が出来ない。
だから彼らは敵だ。
魔族側も魔物が跋扈する場所を好んで占領したりはしない。魔物にとって人も魔族を、どっちも獲物で、どちらもが縄張りを冒す敵であることに変わりはない。
だから、この土地は緩衝地帯だったのだ。
だが、こちらが占拠する前に魔族が占拠していたと言う事か・・・。こちらが考える事ならば魔族も考えると言う事か。王国の混乱に乗じて、ここから魔族の支配地域を一気に拡張する作戦かもしれない。
「騎士団長殿、当然ではありますが魔族は敵です、この地が魔族の不浄なる地となっているのであれば、即刻奴らを八つ裂きにして、地を浄化せねばなりませぬぞ」
マズルーの予想通りの事を言う地区長。教皇領に所属する支配階級の者は魔族と聞くと即刻殺しつくそうする。ただの戦での勝ち負けと違い、殺しつくす掃討戦がどれほど労力を必要として、騎士団を疲弊させるのか理解しようともしない。
それにここには魔物が居る。幸い未だその姿は確認されていないが、大型の魔物とそれが従えている群れにでも襲われれば100名単位の被害も覚悟しなければならない。
魔族相手の掃討戦など無駄でしかない。
「地区長殿、魔族は確かに敵ではありますが、今の我らの目的は別にあるのではないかな、教皇庁の命は緩衝地帯に到達し、王国の背後から王国戦士派を圧迫する事ではなかったか、内乱が起きた時は、地区長殿が帯びている密命を遂行する事、そうですな?」
「それは人の間での話、人が魔族を殺すのは神と人との誓いです、誓約書の1項2章にもそのように神の教えとして伝わっております、我らは神の信徒で、魔族は滅ぼすべき敵、それ以外にはありませぬ」
こいつは、戦いもせずにただ誓約書に書かれている事を垂れ流すだけの人物か。実際にたたかう我らの事など露ほども気にしていないに違いない。
教えに従順で、ただひたすらに神と誓約書を信じている姿は信徒としては誇るべきところなのだろうが、現実にその教えを広げようとするならば足りない。
さて、どう妥協点を探り出すべきか・・・。
騎士団長として、無駄な疲弊は避けねばならないが、あからさまに地区長に反発すれば教皇庁との折り合いが悪くなる。
「続報です、村の様な場所はしっかりと農地開発がなされており、魔族ではなく人の手によるものと思われます、さらに村の中心には領主の館の様な大きめの建造物もあり、現在偵察隊は応援を待って内部の探索に入ります」
「うん、報告ご苦労、あくまでも慎重にあたるように、異常があったら手を出さずにこちらの判断を仰ぐことを忘れるなと伝えろ」
魔族は人よりも力を持って生まれてくることが多いが、人よりも文化的なレベルで言えば発展していない。人との長きにわたる戦いの為、戦闘用の物についてはそれなりに発展しているが、村のレベルで言えば、まだまだ農耕や牧畜などは人に追いついていない。その為魔族の村は狩猟に偏ることが多くの内が少ない。農地開発がしっかりと行われているのであれば、魔族ではない可能性がある。しかし魔物が跳梁跋扈するような土地で人が村をつくるだろうか?
こんな場所に村を作るのならば、もっと良い土地がどこにでもあると言うのに・・・。
しかし、この報告は使える。魔族の可能性が低くなれば地区長も横やりを入れがたい。
「お聞きになりましたかな地区長殿、どうやら村は魔族の物ではない模様、未だに村人を見つけられていないことから、我らに気づき逃げたのでしょう、即刻村を接収し、そこを拠点として次の動きに備えたいが、如何か?」
「そうですか・・・、確かに魔族が居ないのであれば本来の役目を優先するのが良いのでしょうな、村を拠点としたら、教皇庁に報告をいたしましょう」
やれやれ、これで最悪の中の最悪は回避できそうだ。それでもこの任務自体が最悪であることに変わりはないがな・・・。
マズルーは麾下の騎士団を村を包囲する形で前進させると共に、自分は直属の騎士たちを引き連れて村の中心部へと進んだ。
村は石と木を巧みに使った平屋の建物が狭い土地に複数立てられ、少ないが旨く水路を張り巡らし水車まで設置してある。農地には麦や大豆が植えられており、転作を行われている様子だ。家畜の姿は見えないが、人力だけでここまで開発が出来るわけもなく、村人と一緒に逃げたのだろう。
左右を見回してそう判断したマズルーの元にさらに新たな知らせが届く。
村の中央の建物の中庭で、始めての村人を発見したと言うのだ。
その人物は、館の中庭と見える場所に立ち、背後に大きな色付き水晶を守っていた。
華奢な女で、手には細身の剣、折れそうな程の体には着ているだけで疲れてしまいそうな金属の胸当てを装備していた。
ぱっと見ではどこかの傭兵団に所属している風で、女性でもある事から団長の娘あtりに思えた。
「おい娘、なんでお前はこんな場所にいる?他の村人はどうしたんだ」
別にこの女に対して敵意は無いが、それでもこんな場所で女が一人、剣を構えていたら怪しむのは当たり前だ。
剣を構えて、背後の色付き水晶を守ろうとしているのだから、逃げ遅れたとか、村人から見捨てらえたと言う事でもなく、この女は自らの意思でもって剣を構え、騎士団に対峙していると言うことだ。
「無礼な騎士殿ですね、か弱いわたくしを前に名も名乗らないとは、騎士とは見た目だけで、教皇領の者は皆、実は狂信者のみという噂は本当ですのね?」
偉そうな女だった。教皇領巡回騎士団長に対して剣を片手に、このような口を利くのは貴族の娘でもしない行為だ。それは教皇領の内部に限らず、王国でも同じであり、神と信仰と信徒が後ろ盾である自分に偉ぶる相手はそうはいない。
「ほう、そういうお前こそは何者なのだ?偉そうに御高説を垂れる前に、自らが実践すれば良いのではないかな?」
「ほほほ、これは失礼を、わたくしはレシエンティア・ライノール・エンヴァースと申します、無礼な騎士殿に名を覚えて頂かなくて結構ですので聞き流していただければ、しかしわたくしとしては、この名を出した以上、わたくしの矜持としてここから一歩も引くことは出来ませんのですけど、騎士殿は如何いたしますの?」
「我は教皇領巡回騎士団銀の盾団長マズルー・フロストウェイトだ、故あってこの場所を接収させていただく、何があるのかは知らんが、即刻出て行っていただけはしないか?その色付き水晶が大事と言う事であれば、手は出さないと神に誓う事もしよう、我らは一時的にこの場を借りたいだけなのだ」
「あらあら、思ったよりも紳士的ですわねマズルー様、しかし先ほども申しましたけれど、わたくし、この場から動けませんのよ、無理に出ていけとおっしゃるのならば、残念ですけれど、剣でお答えするしかないのです」
たとえ貴族の娘や騎士の娘で、剣の腕に覚えがあったとしても、騎士団長であるマズルーと部下の騎士がかかれば取り押さえる事は児戯に等しいだろう。
だが、この様な勇ましい戦乙女を無理に数で取り押さえると言う事が神の教えとして正しいとはマズルーには思えなかった。
「これは、どうしたものでしょうかねお嬢さん、出来れば紳士的に話で終わらせたいものなんだがね」
「団長殿!その女を捕らえてください!斬っても良い、この女が名乗ったのは王国の姫の名です、噂では自らの体を支えるのも難儀する女と聞いておりましたので、本人ではないでしょうが、それでも関係者の筈、今王国の者に我らの姿を見せて通報でもされれば教皇庁の命が!」
地区長だった。
彼曰く、この女は王国の姉姫の関係者らしい。
「しかしな地区長殿、女が一人いるだけですぞ、たかが女一人を斬り殺すなど、出来る話ではありませぬ」
「ええい、騎士団長殿がやらないならば、私がやる、教皇庁の命は神の命と同じことだ、出来ぬのならば、そこで見ておればよい、騎士たち、教皇庁の命だ、この女を殺せ!」
普段は気の良い奴らでl騎士団長である自分の命令を無視するような騎士たちではない
だが今は教皇庁の命と言う言葉と、それに逆らえぬ俺が止める言葉を発しないことから渋々と剣を抜き、レシエンティアと名乗った女に向けて構える。
歴戦の実力を有している教皇領巡回騎士団の精鋭たちだ。剣技をかじった程度の女なら瞬殺だろう。
だが、どこか気乗りしない騎士が、一斉には斬りかからず、一人ずつ順番に挑んだのがいけなかった。女はやる気がない騎士たちの剣を弾き、手甲を叩き、兜で覆われた側頭部を蹴りつけた。そのすべてが流れる様に遅滞なく行われ、動きそのもの、騎士たちが倒れるところまで一連の流れとして違和感がない。
「ぐっ、このっ、やるな」
女の技巧は確かに鋭く、騎士たちを一回ずつは倒せたが、女性の悲しさか、一撃の破壊力はかなり小さく、倒れたと言うよりは転ばされたようなものだった。
すぐに起き上がり、女に挑む騎士たち。
酷い絵面だ。
大の騎士様が、小さくか細い女を追っかけまわしては、翻弄されている。
どっからどう見ても、悪はこちらで、我が神が認めるのも、あちらの女になるだろうな。
「もういい、やめておけ、無駄に名誉を傷つける事は無いぞ、俺がやる」
いつも使う大剣ではなく、騎士の一人から中長中厚の剣を借り受ける。
この剣は騎士団全員が持って居る支給品の剣で、誰かの家名も伝説背負っていない。なので、気軽に借りられる量産品の剣だ。
「手合わせと行こうか・・・お嬢さん」
「よろしくてよ団長殿、わたくしは此処から動きませんの、だから掛かっていらっしゃいな」
彼らは基本、戦闘に参加しないがそれ以外の事、馬の世話から、野営地の設営、糧食の手配などをこなす巡回騎士団には必須の組織だ。だからと言って戦闘力がないわけではない。そこら辺の騎士よりは、経験も実力もある。巡回騎士団は古大陸、新大陸を問わず各地に分散している教皇領の治安を守るために常に戦いに臨んでいる。そんな騎士を支える職務は王宮を警備しているだけの騎士が敵う者ではない。
大陸中の信徒から選抜されているので、素質も高い。
古大陸、新大陸問わずこの世界の国々で、同数であれば圧勝出来る。
「騎士団長、緩衝地帯前面に何やら建造物があり、砦の様相、ただし敵は見えずとの事です」
「ふむ、ならば少数で偵察の後に大隊で砦を占拠するように、魔物への警戒を怠るな、特に獰猛な奴らが居るらしいが、腕試しで隊を分散させるなと伝えよ」
「はっ」
銀の鎧に青の布を襷掛けした伝令が走っていく。
その動きは騎士団長であるマズルーから見ても、キビキビとしていて練度に怠慢は見られない満足な物だ。
巡回騎士団として、今回の任務は通常の任務とはかけ離れており、王国の権力争いなど本来我々の仕事ではない。
王国が妹姫と王国戦士とに分裂し、内乱が起きたとしたら、それこそ教皇領にその戦火が飛び火しない様にすることこそが本来の任務だ。
王国内に教皇領の数は多く、担当している灰の壁騎士団の数は少ない。内乱となれば自分がすべてに対応する事など不可能で、そうなればいくつかの教皇領に住む信徒たちは見捨てなければならない。
そうなる前に、防備を強化させ、信徒から新たな兵を組織しなければならない。それでも戦力としては甚だ不安であるが、灰の壁騎士団が助けに現れるまでの時間稼ぎとはなるだろう。今のままでは、内乱に呼応した貴族の私兵に蹂躙されてしまう姿しか見えない。
それなのにだ。
「こんなことに時間を使っている余裕などないのだがな」
「それは、神に対する不敬ではないですかな、騎士団長殿は今回の教皇庁の決定に反対する気ですか?」
今回特別に教皇庁から派遣されてきた巡回神官の地区長が静かに呟く。
ここまで数週間旅を共にしてきたが、この喋り方がマズルーは気にくわない。断定的で、自分の意にそぐわないと直ぐに神の名を口にする。神とは簡単に口にしていい存在ではなく、それぞれの心の中に合って、自らの行いを律する時に初めて意識する物だとマズルーは考えている。信仰は確かに力となるが、戦場が信仰に侵されるのは気にくわない。
我らは信仰を守り、教えを信じる人々を護る為に存在する護りの騎士団。だからこその灰の壁騎士団なのだが。
「これから確実に起きる王国の内乱で、いくつかの教皇領とそこに住まう信徒の皆を守るのが任務と、そう考えていた者も多く、背後の不安が消えぬのですよ地区長殿」
「王国の内乱・・・確かに放置すれば教皇領の信徒たちが被害にあう可能性はありましょう、しかしながら我らは護ることによって起こる事態と、それよりも今回動くことの方が結果的に救済になると、そう決定したのですよ騎士団長殿、教皇庁の皆様方が」
新大陸の教皇領から従僕として採用されたマズルーは、教皇庁に対してなんの繋がりもないなか、戦果のみによって出世した現場主義な男だ。
その為、教皇庁とのつながりも薄く後ろ盾も無い。身分で言えば騎士団長と地区長では、騎士団長の方が上であるが、神の名を気軽に使う、教皇庁を後ろ盾にもつこの地区長の意見をマズルーは拒否できない。拒否すれば神に叛く異端者と指定され、地位も共に戦った部下たちを失うことになる。
「教皇庁の皆さまは我ら現場の騎士には考えつかぬ秘策をお持ちなのでしょうな、信徒を守る壁として我らは従うのみです、ただ戦場ではこちらに従ったいただきますぞ」
「それは結構な事です、戦はお任せいたします、神が求めるのは常に我らの献身と結果ですから」
「騎士団長!伝令っ、砦の様な建造物の奥に村が見えるとの事、偵察向かいますとの事」「緩衝地帯に砦があること自体変な事ではあったが、その奥に村があるだと?」
マズルーの知識では、この一帯は魔物が跋扈し、とても定住には不向きな地域であった
さらに人よりも個体能力の高い魔族の支配地域とも近く、わざわざ人が住む場所ではない。となると、砦と村は魔族の物である可能性が高い。
魔族は神を信じない。彼らの信じる神は個ではなく、自然の中に存在する精霊や、天災を起こす火山等を神として崇めている。教義も曖昧で、同じ神が地方によっては善神であったり悪神であったりするらしい。唯一絶対な物を持たない彼等魔族と、我ら神の信徒は相いれる事が出来ない。
だから彼らは敵だ。
魔族側も魔物が跋扈する場所を好んで占領したりはしない。魔物にとって人も魔族を、どっちも獲物で、どちらもが縄張りを冒す敵であることに変わりはない。
だから、この土地は緩衝地帯だったのだ。
だが、こちらが占拠する前に魔族が占拠していたと言う事か・・・。こちらが考える事ならば魔族も考えると言う事か。王国の混乱に乗じて、ここから魔族の支配地域を一気に拡張する作戦かもしれない。
「騎士団長殿、当然ではありますが魔族は敵です、この地が魔族の不浄なる地となっているのであれば、即刻奴らを八つ裂きにして、地を浄化せねばなりませぬぞ」
マズルーの予想通りの事を言う地区長。教皇領に所属する支配階級の者は魔族と聞くと即刻殺しつくそうする。ただの戦での勝ち負けと違い、殺しつくす掃討戦がどれほど労力を必要として、騎士団を疲弊させるのか理解しようともしない。
それにここには魔物が居る。幸い未だその姿は確認されていないが、大型の魔物とそれが従えている群れにでも襲われれば100名単位の被害も覚悟しなければならない。
魔族相手の掃討戦など無駄でしかない。
「地区長殿、魔族は確かに敵ではありますが、今の我らの目的は別にあるのではないかな、教皇庁の命は緩衝地帯に到達し、王国の背後から王国戦士派を圧迫する事ではなかったか、内乱が起きた時は、地区長殿が帯びている密命を遂行する事、そうですな?」
「それは人の間での話、人が魔族を殺すのは神と人との誓いです、誓約書の1項2章にもそのように神の教えとして伝わっております、我らは神の信徒で、魔族は滅ぼすべき敵、それ以外にはありませぬ」
こいつは、戦いもせずにただ誓約書に書かれている事を垂れ流すだけの人物か。実際にたたかう我らの事など露ほども気にしていないに違いない。
教えに従順で、ただひたすらに神と誓約書を信じている姿は信徒としては誇るべきところなのだろうが、現実にその教えを広げようとするならば足りない。
さて、どう妥協点を探り出すべきか・・・。
騎士団長として、無駄な疲弊は避けねばならないが、あからさまに地区長に反発すれば教皇庁との折り合いが悪くなる。
「続報です、村の様な場所はしっかりと農地開発がなされており、魔族ではなく人の手によるものと思われます、さらに村の中心には領主の館の様な大きめの建造物もあり、現在偵察隊は応援を待って内部の探索に入ります」
「うん、報告ご苦労、あくまでも慎重にあたるように、異常があったら手を出さずにこちらの判断を仰ぐことを忘れるなと伝えろ」
魔族は人よりも力を持って生まれてくることが多いが、人よりも文化的なレベルで言えば発展していない。人との長きにわたる戦いの為、戦闘用の物についてはそれなりに発展しているが、村のレベルで言えば、まだまだ農耕や牧畜などは人に追いついていない。その為魔族の村は狩猟に偏ることが多くの内が少ない。農地開発がしっかりと行われているのであれば、魔族ではない可能性がある。しかし魔物が跳梁跋扈するような土地で人が村をつくるだろうか?
こんな場所に村を作るのならば、もっと良い土地がどこにでもあると言うのに・・・。
しかし、この報告は使える。魔族の可能性が低くなれば地区長も横やりを入れがたい。
「お聞きになりましたかな地区長殿、どうやら村は魔族の物ではない模様、未だに村人を見つけられていないことから、我らに気づき逃げたのでしょう、即刻村を接収し、そこを拠点として次の動きに備えたいが、如何か?」
「そうですか・・・、確かに魔族が居ないのであれば本来の役目を優先するのが良いのでしょうな、村を拠点としたら、教皇庁に報告をいたしましょう」
やれやれ、これで最悪の中の最悪は回避できそうだ。それでもこの任務自体が最悪であることに変わりはないがな・・・。
マズルーは麾下の騎士団を村を包囲する形で前進させると共に、自分は直属の騎士たちを引き連れて村の中心部へと進んだ。
村は石と木を巧みに使った平屋の建物が狭い土地に複数立てられ、少ないが旨く水路を張り巡らし水車まで設置してある。農地には麦や大豆が植えられており、転作を行われている様子だ。家畜の姿は見えないが、人力だけでここまで開発が出来るわけもなく、村人と一緒に逃げたのだろう。
左右を見回してそう判断したマズルーの元にさらに新たな知らせが届く。
村の中央の建物の中庭で、始めての村人を発見したと言うのだ。
その人物は、館の中庭と見える場所に立ち、背後に大きな色付き水晶を守っていた。
華奢な女で、手には細身の剣、折れそうな程の体には着ているだけで疲れてしまいそうな金属の胸当てを装備していた。
ぱっと見ではどこかの傭兵団に所属している風で、女性でもある事から団長の娘あtりに思えた。
「おい娘、なんでお前はこんな場所にいる?他の村人はどうしたんだ」
別にこの女に対して敵意は無いが、それでもこんな場所で女が一人、剣を構えていたら怪しむのは当たり前だ。
剣を構えて、背後の色付き水晶を守ろうとしているのだから、逃げ遅れたとか、村人から見捨てらえたと言う事でもなく、この女は自らの意思でもって剣を構え、騎士団に対峙していると言うことだ。
「無礼な騎士殿ですね、か弱いわたくしを前に名も名乗らないとは、騎士とは見た目だけで、教皇領の者は皆、実は狂信者のみという噂は本当ですのね?」
偉そうな女だった。教皇領巡回騎士団長に対して剣を片手に、このような口を利くのは貴族の娘でもしない行為だ。それは教皇領の内部に限らず、王国でも同じであり、神と信仰と信徒が後ろ盾である自分に偉ぶる相手はそうはいない。
「ほう、そういうお前こそは何者なのだ?偉そうに御高説を垂れる前に、自らが実践すれば良いのではないかな?」
「ほほほ、これは失礼を、わたくしはレシエンティア・ライノール・エンヴァースと申します、無礼な騎士殿に名を覚えて頂かなくて結構ですので聞き流していただければ、しかしわたくしとしては、この名を出した以上、わたくしの矜持としてここから一歩も引くことは出来ませんのですけど、騎士殿は如何いたしますの?」
「我は教皇領巡回騎士団銀の盾団長マズルー・フロストウェイトだ、故あってこの場所を接収させていただく、何があるのかは知らんが、即刻出て行っていただけはしないか?その色付き水晶が大事と言う事であれば、手は出さないと神に誓う事もしよう、我らは一時的にこの場を借りたいだけなのだ」
「あらあら、思ったよりも紳士的ですわねマズルー様、しかし先ほども申しましたけれど、わたくし、この場から動けませんのよ、無理に出ていけとおっしゃるのならば、残念ですけれど、剣でお答えするしかないのです」
たとえ貴族の娘や騎士の娘で、剣の腕に覚えがあったとしても、騎士団長であるマズルーと部下の騎士がかかれば取り押さえる事は児戯に等しいだろう。
だが、この様な勇ましい戦乙女を無理に数で取り押さえると言う事が神の教えとして正しいとはマズルーには思えなかった。
「これは、どうしたものでしょうかねお嬢さん、出来れば紳士的に話で終わらせたいものなんだがね」
「団長殿!その女を捕らえてください!斬っても良い、この女が名乗ったのは王国の姫の名です、噂では自らの体を支えるのも難儀する女と聞いておりましたので、本人ではないでしょうが、それでも関係者の筈、今王国の者に我らの姿を見せて通報でもされれば教皇庁の命が!」
地区長だった。
彼曰く、この女は王国の姉姫の関係者らしい。
「しかしな地区長殿、女が一人いるだけですぞ、たかが女一人を斬り殺すなど、出来る話ではありませぬ」
「ええい、騎士団長殿がやらないならば、私がやる、教皇庁の命は神の命と同じことだ、出来ぬのならば、そこで見ておればよい、騎士たち、教皇庁の命だ、この女を殺せ!」
普段は気の良い奴らでl騎士団長である自分の命令を無視するような騎士たちではない
だが今は教皇庁の命と言う言葉と、それに逆らえぬ俺が止める言葉を発しないことから渋々と剣を抜き、レシエンティアと名乗った女に向けて構える。
歴戦の実力を有している教皇領巡回騎士団の精鋭たちだ。剣技をかじった程度の女なら瞬殺だろう。
だが、どこか気乗りしない騎士が、一斉には斬りかからず、一人ずつ順番に挑んだのがいけなかった。女はやる気がない騎士たちの剣を弾き、手甲を叩き、兜で覆われた側頭部を蹴りつけた。そのすべてが流れる様に遅滞なく行われ、動きそのもの、騎士たちが倒れるところまで一連の流れとして違和感がない。
「ぐっ、このっ、やるな」
女の技巧は確かに鋭く、騎士たちを一回ずつは倒せたが、女性の悲しさか、一撃の破壊力はかなり小さく、倒れたと言うよりは転ばされたようなものだった。
すぐに起き上がり、女に挑む騎士たち。
酷い絵面だ。
大の騎士様が、小さくか細い女を追っかけまわしては、翻弄されている。
どっからどう見ても、悪はこちらで、我が神が認めるのも、あちらの女になるだろうな。
「もういい、やめておけ、無駄に名誉を傷つける事は無いぞ、俺がやる」
いつも使う大剣ではなく、騎士の一人から中長中厚の剣を借り受ける。
この剣は騎士団全員が持って居る支給品の剣で、誰かの家名も伝説背負っていない。なので、気軽に借りられる量産品の剣だ。
「手合わせと行こうか・・・お嬢さん」
「よろしくてよ団長殿、わたくしは此処から動きませんの、だから掛かっていらっしゃいな」
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「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
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就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
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第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
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