37 / 45
第11章 クライマックスへの序曲なんてきいたことがねぇ。えぇまったく記憶にございませんってか
11-3
しおりを挟む
「作戦は以上で間違いが無いな、ユウ・アティア?」
「はい、元帥、もう少しでこの国は一つになり、元帥の目的がなされる時はもうすぐでしょう」
「ふむ、それまで気を抜かぬように、各師団にも伝令を出し、教皇庁の騎士団とも連携の形だけは作っておくようにな」
「はいっ抜かりなく」
一見、ただの作戦と命令のやり取りをしている様に聞こえるのだが、その実、いったいこの場で何が行われているのかはっきりと説明できるものはいない。私は何となく推測も交えれば説明が出来るが、出来ればこのおぞましい状態を望んで説明したい状況にはない。
気を抜けば、と彼は言ったが、この場に生きている人間で気うぃ抜いている人間等皆無だろう。気を抜けば足元を這う触手がすぐに首筋や足首手首などの弱く血管が集中している箇所に飛びつき、その人の生命力を革袋からワインを吸い出すように、絞り始める。
そうなると自我を保っていられるのは数分で、その後は干からびるまで恍惚とした笑顔のままだ。
その原因は判っている、
王国元帥の背後にいる、真っ白な毛皮を着て背中に黒い翼を持つ、魔族とも違う生物が原因だ。彼?もしくは彼女かもしれないけれど、の足元から数十、数百と触手が床に広がっている。ダンカンには見えていない様だ。というか多分、イの一番に彼が背後の異形の生物に精神を乗っ取られたのだろう。そうで無ければ彼は勇者と共に歩むべく鍛錬を重ねた英雄候補なのだ、勇者と敵対するにせよ、王国を手中に収めるにせよこんな破滅的な状況にはなっていない筈。
しかし、彼の口からは景気の良いセリフしか出てこず、現在進行形で魔力をあまり持たない中堅どころの指揮官たちが次々と体調不良を訴えだしている事実は語られない。王国軍はその見た目とは裏腹に壊滅寸前だった。
私の様に相当量魔力を持っていれば、触手は遠巻きにしているだけで近づいては来ない。この触手は魔力がある程度高くないと見えない様で、王国元帥の事を何となく不気味
に思っていても背後の異形の生物に気づいているのは私だけ。
言いたくはないのだけど、本当になんでこうなったの?
私が彼の元に来たのは2年と少し前。
私は魔女の郷を仕切る魔女会議のぬるくてスローなやり方に反発を覚えて各地を放浪し、刺激的でエキセントリックな勇者の噂に引かれた。
夢を持っていても家庭の事情から、諦めを受け入れていた少年を無理やり助け起こして、家庭崩壊にもっていったり、農作物を荒らす魔物を退治してほしいという依頼に、魔物の巣ごと完膚なきまでに破壊し、ついでに川の流れまで変えてしまって、依頼主の村が水没しかかったとか。本当に荒唐無稽で、吟遊詩人がたまに聞かせる笑い詩でもありえない内容に、私は年甲斐もなくわくわくしたわ。
御伽噺の優等生で、神様に言いなりで、最後は曖昧に書かれている勇者よりは千倍も面白そう。
大体、魔女に伝わる真実の勇者伝説は、割と優等生で、人類の為に魔族と戦って、戦って、戦い続けて、最後はその力を恐れた人類が魔女の力を借りて抹殺しちゃう話だ。
これが本当の話なら、勇者って存在は救いようがないお莫迦さんだけど、1000年近く生きている、干物みたいな魔女の婆様たちが反論しないところを見ると、魔女の郷に伝わる勇者伝説は本当の事みたい。
でも、今回の勇者はそんな過去の勇者とはかなり違って、神様の言う事なんかまったく信じてなさそうだし、物語的に設定された姫との恋バナよりも、あちこちであふれ出る感謝を返すには体を捧げるしかない娘たちとよろしくやりまくってるらしい。無理やり奪うだけの女の敵だったらちょっと興ざめだけど、どうも求められたら断れない性格?とでも言えばいいのか。勇者の部屋の前には勇者のお情けを頂戴したい娘たちが列をなしているとか何とか・・。誰だってちょっとの誇りがあれば、無償の救済は心苦しい。なにか代償を捧げたい感情が芽生える物だ。金銭も宝物もなければ、差し出せるものはおのずと限られてくるけれど・・・。
一瞬、ほんの一瞬だけど、その烈に並べば私も勇者に抱いてもらえるのかしら?とか考えて、いい歳したおばさんが何を言ってるんだわい、と赤くなった頬を叩いたりした。
見た目だけならまだまだ人間の20歳ぐらいには負けないけれど、実年齢は200に近いからねぇ・・・。
抱く抱かれるは、置いといて、私は面白うそうだからと勇者一行に近づくことにした。一行には魔女見習いの小娘がついていたが、所詮まだ男を知らない魔法少女でしかな
い餓鬼だ。相手にとっては不足もいいところ。敵じゃないわね。
そんな自信をもって勇者の前に出ようととし時に、はたと、勇者の横で憎まれ口を叩きながら和気あいあいと歩いている異生物を発見した。
気づいていたが、私の脳が認めたくなかったんだ、私よりも先に勇者にガチ恋してて、勇者の隣というポジションを不倶戴天の敵、エルフに奪われるなんて!
エルフと魔女は、とにかく仲が悪い。
魔法少女はまだ魔女ではないから、仕方がないかもしれないけれど、魔女はその本能からエルフが嫌いだし、エルフも魔法少女とは仲良くできても魔女とは仲良くなれない筈。
魔法少女の時は親友同士だったエルフと魔法少女が、魔女に進化したら弓矢で射殺されたと言う話は、教室で一番最初に学ぶ対エルフ学の最初の逸話だ。エルフ側でも似た様な教育をしていると思う。
とにかくエルフと魔女は顔を合わせたら、どちらかはそこで命を散らすことになる種族だ。
私は自重して、こっそり後をついて行き、その先であっさりと捕まった。相手は王国戦士とか言う頑丈そうな偉丈夫。ただ本当に捕まったのがこの男なのかは怪しい。ただの男に捕まるほど魔女はヤワな種族じゃないし、この男は戦士を名乗りながら、魔法術式の扱いを理解していた。怪しいとは思いつつも、この男が勇者を打倒する野望を持っている事が気に入り、行動を共にすることにした。とは言え婚約者である妹姫や、なんか篭絡しかけている魔法少女が居たので日中は近づかず、夜にこっそりと逢瀬を重ねた。
勇者に抱かれたがっていたくせに、何故かそのパーティーメンバーに抱かれている事に少しの恥じもあったけど、強い男に抱かれるのは魔女の得られる快楽としては上級の物なので、いつしか気にならなくなっていた。それに、抱かれる度に、彼の背後にいる何者かが感じられる様になって、興味も沸いて来た。
あのあたりで辞めとけべば良かった。勇者を打倒するために魔女固有の術式を込めた呪いを伝授し、その昔、平和をもたらした勇者を封じた魔法の道具の存在を明かした。
この辺りで逃げていれば、ただの愉快犯で、それは魔女の二つ名みたいなものだから、なんにも気兼ねなかったんだけれど、好奇心は猫だけじゃなくて魔女をも殺す。
彼の背後の化け物が成長していくと共に王国戦士の行動は過激になり、王様を殺して、姉姫様も殺して、そして私の為ではないけれど、不倶戴天の敵であるエルフも殺した。
まだ大丈夫、もう少しだけ、この結末が見えるところまで・・・。
そんな事を思っているうちに、王国戦士は王国元帥と言う名に変わり、厳しくて強圧的で、見る物を畏怖させるけれど、どこか人間臭さがあって、強さには敬意を払っていた王国戦士はいなくなり、今の様な狂人になってしまっていた。
逃げよう!やっとその危険から逃げようと決心したけれど、実際に逃げることは出来なかった。彼の背後の存在が触手を伸ばし、彼だけではなくて周囲すべての者に干渉を始めていたから。
いくら魔女が強いとは言っても、歴戦の騎士が100名単位で来れば逃げる事も出来ない。それに弱った私を化け物をやっと殺せると、触手を伸ばして自らの糧とするだろう。
逃げようとすれば死、逃げなくてもそれほどの時を待たずに死。
200年以上を生きて来たけれど、十分生き切ったとはまだ思えない。
私は1000年を生きる魔女にとして大陸中に名を轟かせるんだから。
王国軍の進路は、妹姫様と教皇庁の敵である姫巫女が立て籠もる城塞都市フラニタス。
教皇庁の軍と共同して、城塞と呼ばれる年を占拠、それぞれ姉姫様と巫女姫を捕らえるのが目的となっているけれど、どちらの軍も生かして捕らえるつもりはない。
王国戦士であった頃なら、妹姫を殺すなんて言葉の上でも言わなかっただろうに、今では血走った目で、首だけでも構わんとか言っていたり・・・。
はぁつまらないわ、こんな男に成り下がるなんて。すでに実体は背後の化け物に奪われているのだろうけれど、三文芝居の悪役台詞に飽きが来る。
機会を逃さずに、とんずらよ。
「そろそろ魔賊側も近いだろう、教皇庁の騎士を油断させて壊滅させる手助けを言え」
「そうねぇ、一番は王国元帥が教皇庁の本営に挨拶とか言えば、警戒よりも歓迎の動きに変わるし、なによりこちらが何か企んでるとは思わないでしょうね、でもそうなるとこっちっがガラ空きになるわね」
王国元帥が教皇庁本営に表敬訪問してる間の留守部隊なんか魔法でどうにでも出来る。逃げるならここだ。
「いかんな、私は軍の代表で指揮官だ、表敬訪問などとやっている暇はない、指揮官のいない軍など張り子の虎よ」
多分あんたは気づいてないかも知れないけれど、既に王国軍は張り子の虎もいいところよ。魔力持ちの中級士官が軒並み触手にやられているし、魔力量が強い上級士官は私と同じで隙を見て逃げようと考えてることだろう。魔力を持たない下級の兵は触手に何も奪われていないので体調は崩していないけど、上司たちの異常には敏感に気づいていて、戦意なんか欠片も持っていない。
救いの象徴だった勇者も妹姫様も居ない王国軍は案山子の集団よりもなお悪い、戦闘即必敗の最弱の軍勢だ。背後の化け物が浸食を強くする前の王国戦士だったならば、当たり前だけどこんな軍で出撃しようとはしなかったし、周りもさせようとはしなかっただろうね。
「そうすると、私が教皇庁の奴らに気合いを入れて、こっちを怪しまれない様にってことだね、面倒だけど、判ったわやってあげる」
その後にここに戻ってくる約束は出来ないけどね。ちょっと義理を欠いちゃいるけれど誰だって命が大事なのだ。もちろん私もね。
「うむ、頼んだぞユウ・アティア」
「お任せを、王国元帥・・・」
もう二度と会う事は無いだろう男の狂気に満ちた瞳に見送られ、私は王国軍の陣を出る。
その私の動きを、抜け目なく見ている輩は一人や二人じゃないだろう。
皆、王国元帥の前に出るとまともな事が言えないくせに、隠れてこそこそと、逃げるのが正解か、それとも仲間を募って王国元帥の首を妹姫様あたりに献上した方が得かと考えながら左右の元同僚たちを疑心暗鬼で見つめている。
でもね、貴方たちはもう遅いの。ほらっ足元に真っ黒な影に包まれた触手が迫っているのだから。誰一人悲鳴を上げる事無く、沈黙の世界のただなかに一人で王国元帥はどうするつもりなのかしらね?
焦る心を秘して、あくまでも余裕である様な魔女の仮面をかぶったまま、周囲の王国兵に違和感を覚えさせない速度で急ぐ。
余裕を見せつつ、そのまま私も触手の餌食となりたくはない。
「さて、教皇庁の騎士団へ気合を入れるとかって話をまともにやる意味は無いわよね、ここでオサラバした方が身のため、何せ勇者にも姫巫女にも呪いをかけたことがバレてるみたいだから、もういっそ古大陸を離れようかしら?」
王国軍の姿が見えなくなったところで、しばし考える。王国元帥の言う通りに教皇庁の騎士団に向かうのは下策。もう王国元帥とは袂を別ったのだから、言うとおりにする意味は無いし、それに、教皇庁・・・、つまり神様とだって魔女は仲が悪い、一昔前には神の名による魔女狩りなんて事もあった位。そもそも私たち魔法術式が得意すぎて、勇者でさえ封じる力を持つ魔女を好んでいる神様なんて聞いた事が無い。
「古大陸を出て、新大陸に行くか、それとも・・・」
魔族領に遥か奥には魔族により統治されている大陸がまたあると言う。実際に行った事は無いけれど、今よりは悠々自適に暮らせるかもしれない。
魔女の郷に戻る事も考えたけれど、すぐ帰るとまだうるさい婆様たちが健在そうだからやめた。
「え?」
古大陸の今回の戦乱に少なからず責任があった、ユウ・アティアはその責を果たすことも無く、人類が知らない土地へと逃避しようとした刹那に、その首を獰猛な鉄爪でバッサリと斬り落とされた。
その相手は、彼女が呪いを与えた片方、姫巫女を敬愛し懸想し、そのおかげで兄である魔王の命を果たさずに、心苦しく生きていた一人の魔族だった。
「はい、元帥、もう少しでこの国は一つになり、元帥の目的がなされる時はもうすぐでしょう」
「ふむ、それまで気を抜かぬように、各師団にも伝令を出し、教皇庁の騎士団とも連携の形だけは作っておくようにな」
「はいっ抜かりなく」
一見、ただの作戦と命令のやり取りをしている様に聞こえるのだが、その実、いったいこの場で何が行われているのかはっきりと説明できるものはいない。私は何となく推測も交えれば説明が出来るが、出来ればこのおぞましい状態を望んで説明したい状況にはない。
気を抜けば、と彼は言ったが、この場に生きている人間で気うぃ抜いている人間等皆無だろう。気を抜けば足元を這う触手がすぐに首筋や足首手首などの弱く血管が集中している箇所に飛びつき、その人の生命力を革袋からワインを吸い出すように、絞り始める。
そうなると自我を保っていられるのは数分で、その後は干からびるまで恍惚とした笑顔のままだ。
その原因は判っている、
王国元帥の背後にいる、真っ白な毛皮を着て背中に黒い翼を持つ、魔族とも違う生物が原因だ。彼?もしくは彼女かもしれないけれど、の足元から数十、数百と触手が床に広がっている。ダンカンには見えていない様だ。というか多分、イの一番に彼が背後の異形の生物に精神を乗っ取られたのだろう。そうで無ければ彼は勇者と共に歩むべく鍛錬を重ねた英雄候補なのだ、勇者と敵対するにせよ、王国を手中に収めるにせよこんな破滅的な状況にはなっていない筈。
しかし、彼の口からは景気の良いセリフしか出てこず、現在進行形で魔力をあまり持たない中堅どころの指揮官たちが次々と体調不良を訴えだしている事実は語られない。王国軍はその見た目とは裏腹に壊滅寸前だった。
私の様に相当量魔力を持っていれば、触手は遠巻きにしているだけで近づいては来ない。この触手は魔力がある程度高くないと見えない様で、王国元帥の事を何となく不気味
に思っていても背後の異形の生物に気づいているのは私だけ。
言いたくはないのだけど、本当になんでこうなったの?
私が彼の元に来たのは2年と少し前。
私は魔女の郷を仕切る魔女会議のぬるくてスローなやり方に反発を覚えて各地を放浪し、刺激的でエキセントリックな勇者の噂に引かれた。
夢を持っていても家庭の事情から、諦めを受け入れていた少年を無理やり助け起こして、家庭崩壊にもっていったり、農作物を荒らす魔物を退治してほしいという依頼に、魔物の巣ごと完膚なきまでに破壊し、ついでに川の流れまで変えてしまって、依頼主の村が水没しかかったとか。本当に荒唐無稽で、吟遊詩人がたまに聞かせる笑い詩でもありえない内容に、私は年甲斐もなくわくわくしたわ。
御伽噺の優等生で、神様に言いなりで、最後は曖昧に書かれている勇者よりは千倍も面白そう。
大体、魔女に伝わる真実の勇者伝説は、割と優等生で、人類の為に魔族と戦って、戦って、戦い続けて、最後はその力を恐れた人類が魔女の力を借りて抹殺しちゃう話だ。
これが本当の話なら、勇者って存在は救いようがないお莫迦さんだけど、1000年近く生きている、干物みたいな魔女の婆様たちが反論しないところを見ると、魔女の郷に伝わる勇者伝説は本当の事みたい。
でも、今回の勇者はそんな過去の勇者とはかなり違って、神様の言う事なんかまったく信じてなさそうだし、物語的に設定された姫との恋バナよりも、あちこちであふれ出る感謝を返すには体を捧げるしかない娘たちとよろしくやりまくってるらしい。無理やり奪うだけの女の敵だったらちょっと興ざめだけど、どうも求められたら断れない性格?とでも言えばいいのか。勇者の部屋の前には勇者のお情けを頂戴したい娘たちが列をなしているとか何とか・・。誰だってちょっとの誇りがあれば、無償の救済は心苦しい。なにか代償を捧げたい感情が芽生える物だ。金銭も宝物もなければ、差し出せるものはおのずと限られてくるけれど・・・。
一瞬、ほんの一瞬だけど、その烈に並べば私も勇者に抱いてもらえるのかしら?とか考えて、いい歳したおばさんが何を言ってるんだわい、と赤くなった頬を叩いたりした。
見た目だけならまだまだ人間の20歳ぐらいには負けないけれど、実年齢は200に近いからねぇ・・・。
抱く抱かれるは、置いといて、私は面白うそうだからと勇者一行に近づくことにした。一行には魔女見習いの小娘がついていたが、所詮まだ男を知らない魔法少女でしかな
い餓鬼だ。相手にとっては不足もいいところ。敵じゃないわね。
そんな自信をもって勇者の前に出ようととし時に、はたと、勇者の横で憎まれ口を叩きながら和気あいあいと歩いている異生物を発見した。
気づいていたが、私の脳が認めたくなかったんだ、私よりも先に勇者にガチ恋してて、勇者の隣というポジションを不倶戴天の敵、エルフに奪われるなんて!
エルフと魔女は、とにかく仲が悪い。
魔法少女はまだ魔女ではないから、仕方がないかもしれないけれど、魔女はその本能からエルフが嫌いだし、エルフも魔法少女とは仲良くできても魔女とは仲良くなれない筈。
魔法少女の時は親友同士だったエルフと魔法少女が、魔女に進化したら弓矢で射殺されたと言う話は、教室で一番最初に学ぶ対エルフ学の最初の逸話だ。エルフ側でも似た様な教育をしていると思う。
とにかくエルフと魔女は顔を合わせたら、どちらかはそこで命を散らすことになる種族だ。
私は自重して、こっそり後をついて行き、その先であっさりと捕まった。相手は王国戦士とか言う頑丈そうな偉丈夫。ただ本当に捕まったのがこの男なのかは怪しい。ただの男に捕まるほど魔女はヤワな種族じゃないし、この男は戦士を名乗りながら、魔法術式の扱いを理解していた。怪しいとは思いつつも、この男が勇者を打倒する野望を持っている事が気に入り、行動を共にすることにした。とは言え婚約者である妹姫や、なんか篭絡しかけている魔法少女が居たので日中は近づかず、夜にこっそりと逢瀬を重ねた。
勇者に抱かれたがっていたくせに、何故かそのパーティーメンバーに抱かれている事に少しの恥じもあったけど、強い男に抱かれるのは魔女の得られる快楽としては上級の物なので、いつしか気にならなくなっていた。それに、抱かれる度に、彼の背後にいる何者かが感じられる様になって、興味も沸いて来た。
あのあたりで辞めとけべば良かった。勇者を打倒するために魔女固有の術式を込めた呪いを伝授し、その昔、平和をもたらした勇者を封じた魔法の道具の存在を明かした。
この辺りで逃げていれば、ただの愉快犯で、それは魔女の二つ名みたいなものだから、なんにも気兼ねなかったんだけれど、好奇心は猫だけじゃなくて魔女をも殺す。
彼の背後の化け物が成長していくと共に王国戦士の行動は過激になり、王様を殺して、姉姫様も殺して、そして私の為ではないけれど、不倶戴天の敵であるエルフも殺した。
まだ大丈夫、もう少しだけ、この結末が見えるところまで・・・。
そんな事を思っているうちに、王国戦士は王国元帥と言う名に変わり、厳しくて強圧的で、見る物を畏怖させるけれど、どこか人間臭さがあって、強さには敬意を払っていた王国戦士はいなくなり、今の様な狂人になってしまっていた。
逃げよう!やっとその危険から逃げようと決心したけれど、実際に逃げることは出来なかった。彼の背後の存在が触手を伸ばし、彼だけではなくて周囲すべての者に干渉を始めていたから。
いくら魔女が強いとは言っても、歴戦の騎士が100名単位で来れば逃げる事も出来ない。それに弱った私を化け物をやっと殺せると、触手を伸ばして自らの糧とするだろう。
逃げようとすれば死、逃げなくてもそれほどの時を待たずに死。
200年以上を生きて来たけれど、十分生き切ったとはまだ思えない。
私は1000年を生きる魔女にとして大陸中に名を轟かせるんだから。
王国軍の進路は、妹姫様と教皇庁の敵である姫巫女が立て籠もる城塞都市フラニタス。
教皇庁の軍と共同して、城塞と呼ばれる年を占拠、それぞれ姉姫様と巫女姫を捕らえるのが目的となっているけれど、どちらの軍も生かして捕らえるつもりはない。
王国戦士であった頃なら、妹姫を殺すなんて言葉の上でも言わなかっただろうに、今では血走った目で、首だけでも構わんとか言っていたり・・・。
はぁつまらないわ、こんな男に成り下がるなんて。すでに実体は背後の化け物に奪われているのだろうけれど、三文芝居の悪役台詞に飽きが来る。
機会を逃さずに、とんずらよ。
「そろそろ魔賊側も近いだろう、教皇庁の騎士を油断させて壊滅させる手助けを言え」
「そうねぇ、一番は王国元帥が教皇庁の本営に挨拶とか言えば、警戒よりも歓迎の動きに変わるし、なによりこちらが何か企んでるとは思わないでしょうね、でもそうなるとこっちっがガラ空きになるわね」
王国元帥が教皇庁本営に表敬訪問してる間の留守部隊なんか魔法でどうにでも出来る。逃げるならここだ。
「いかんな、私は軍の代表で指揮官だ、表敬訪問などとやっている暇はない、指揮官のいない軍など張り子の虎よ」
多分あんたは気づいてないかも知れないけれど、既に王国軍は張り子の虎もいいところよ。魔力持ちの中級士官が軒並み触手にやられているし、魔力量が強い上級士官は私と同じで隙を見て逃げようと考えてることだろう。魔力を持たない下級の兵は触手に何も奪われていないので体調は崩していないけど、上司たちの異常には敏感に気づいていて、戦意なんか欠片も持っていない。
救いの象徴だった勇者も妹姫様も居ない王国軍は案山子の集団よりもなお悪い、戦闘即必敗の最弱の軍勢だ。背後の化け物が浸食を強くする前の王国戦士だったならば、当たり前だけどこんな軍で出撃しようとはしなかったし、周りもさせようとはしなかっただろうね。
「そうすると、私が教皇庁の奴らに気合いを入れて、こっちを怪しまれない様にってことだね、面倒だけど、判ったわやってあげる」
その後にここに戻ってくる約束は出来ないけどね。ちょっと義理を欠いちゃいるけれど誰だって命が大事なのだ。もちろん私もね。
「うむ、頼んだぞユウ・アティア」
「お任せを、王国元帥・・・」
もう二度と会う事は無いだろう男の狂気に満ちた瞳に見送られ、私は王国軍の陣を出る。
その私の動きを、抜け目なく見ている輩は一人や二人じゃないだろう。
皆、王国元帥の前に出るとまともな事が言えないくせに、隠れてこそこそと、逃げるのが正解か、それとも仲間を募って王国元帥の首を妹姫様あたりに献上した方が得かと考えながら左右の元同僚たちを疑心暗鬼で見つめている。
でもね、貴方たちはもう遅いの。ほらっ足元に真っ黒な影に包まれた触手が迫っているのだから。誰一人悲鳴を上げる事無く、沈黙の世界のただなかに一人で王国元帥はどうするつもりなのかしらね?
焦る心を秘して、あくまでも余裕である様な魔女の仮面をかぶったまま、周囲の王国兵に違和感を覚えさせない速度で急ぐ。
余裕を見せつつ、そのまま私も触手の餌食となりたくはない。
「さて、教皇庁の騎士団へ気合を入れるとかって話をまともにやる意味は無いわよね、ここでオサラバした方が身のため、何せ勇者にも姫巫女にも呪いをかけたことがバレてるみたいだから、もういっそ古大陸を離れようかしら?」
王国軍の姿が見えなくなったところで、しばし考える。王国元帥の言う通りに教皇庁の騎士団に向かうのは下策。もう王国元帥とは袂を別ったのだから、言うとおりにする意味は無いし、それに、教皇庁・・・、つまり神様とだって魔女は仲が悪い、一昔前には神の名による魔女狩りなんて事もあった位。そもそも私たち魔法術式が得意すぎて、勇者でさえ封じる力を持つ魔女を好んでいる神様なんて聞いた事が無い。
「古大陸を出て、新大陸に行くか、それとも・・・」
魔族領に遥か奥には魔族により統治されている大陸がまたあると言う。実際に行った事は無いけれど、今よりは悠々自適に暮らせるかもしれない。
魔女の郷に戻る事も考えたけれど、すぐ帰るとまだうるさい婆様たちが健在そうだからやめた。
「え?」
古大陸の今回の戦乱に少なからず責任があった、ユウ・アティアはその責を果たすことも無く、人類が知らない土地へと逃避しようとした刹那に、その首を獰猛な鉄爪でバッサリと斬り落とされた。
その相手は、彼女が呪いを与えた片方、姫巫女を敬愛し懸想し、そのおかげで兄である魔王の命を果たさずに、心苦しく生きていた一人の魔族だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる