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1章

俺より杏子先生の方が深刻だった。

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俺は放課後部室に行った。
まだ誰も来ていないようだ。

今日も見事に柳田には安眠妨害された。
その分ここで眠るぞ!

・・・・・・・・・・

ガラガラガラ、扉の開く音がする。
未知さんかな?くるみかな?と思いながら
顔を上げる。

杏子先生だった。
険しい顔をしていた。

俺の顔を見た瞬間、にこっと笑顔になる。
いや、ただしくは笑顔を作ったが正解だ。

「杏子先生、おつかれですか?
 顔にもう限界!って印字されていますよ?」

「もう。藍原くん」
いつもの明るい感じで受け答えしてくれる。

「今日まだ未知さんもくるみも来てないです」

「たしかに、みっちーもくるみちゃんも
 委員会で遅くなるって言ってた」

「そうなんですね。ところでせんせい、
 おれのためにありがとうございました」

「えっ?なんのこと?」

「古文の柳田先生が俺に意地悪するから
 直接文句言いに行ってくれたって他の生徒から聞いたから」

「あら、職員室で見られてたのかしら。
 ぜんぜんいいの。だって藍原君は
 私の大事な部員だからね」

笑顔がかわいい。この先生が顧問で担任でよかった。

「それでも今日もまたいじめられたんだよね...」

「えっ!なにされたの?」
杏子先生は表情がさっきのように険しくなる。

「すべての問題を俺だけに答えさせるっていう
 とっても陰湿なこと」

「なにそれ!!」
先生の表情がもっと険しくなる。

「先生、かわいいのが台無しになるから笑って。
 おれまったく平気だから
 むしろたのしんでるくらいだから大丈夫だよ」

「でも......」

「おれよりも先生のことの方が気になるよ。
 さっきもこの部屋入ってくるときすごい表情だったよ」

杏子は自分に起きていることを思い出して
表情がまた険しくなる。
そしてどこか一点を見つめて少し震えている。

「せんせい!」
おれは呼びかけた。

はっ!と我に返る杏子先生。

「なにがあったの?話して。先生」

「いや、でも...」

「いいからはなして!」
拉致があかないと思い強引に話をさせようとする。

「別れた彼氏がストーカーになったみたいで。
 最近つけられている感じもしてちょっと怖くて」

「元彼がストーカーで確定なの?」

「たぶん、前の家に盗聴器があって
 怖くてつい最近引っ越ししたばかりなの。
 家に盗聴器つけられるのって
 合鍵持ってた元彼ぐらいだと思って」

「そうだね。その可能性が高いね」

「新しい家はばれてないと思うけど
 最近つけられてるような気がして
 いつかばれそうで怖いの...」

「先生の家ってどの辺?」
おれは正義感でなにかあったら
すぐにかけつけれるようにしたいと思った。

「康生通りにある『さくら荘』ていうアパート」

「セキュリティはしっかりしているアパートなの?」

「ううん。ぜんぜん。ぼろアパートだから。
 見つかったら簡単に入られそう...」

「マンションとかに引っ越しできないの?」

「私両親いなくて帰るところもなくて生活も手一杯なの。
 マンションなんて住む余裕も無くて」

おれはびっくりした。
あんなにかわいくて学校のマドンナの先生が
そんな生い立ちと質素な生活をしてるなんて。

いままでこのストーカーの話を誰にもできなかったんだろう。
話すことによってすこし安堵感が先生に生れているのがわかった。

..............

「杏子先生、俺と一緒に住もう」

「えっ」
「えっ」
「えっ」

驚いた声が3つ同時に聞こえてきた。

もちろん俺もなんで3つも声がするのという
4つ目の『えっ?』だ。

おれと先生の後ろの扉付近には未知さんとくるみが立っていた。
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