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序章 

(2)仮想敵国Xが日本に侵略してきた

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双子として一緒に育ってきたのに
俺も太陽もどうしてこんなにも違うのだろうか。

物心ついたときから太陽のことを
「お兄ちゃん」や「兄貴」と呼んだことがない。

「たいよう」と呼び捨てでしか呼んだことが
なかった。

太陽も俺のことを満月(みつき)としか呼ばない。

太陽も俺も今やもう35歳。

太陽には奥さんがいて子供も2人いる。
暖かい家庭を持ちながら、
仕事でも出世コースをまっしぐら。

俺から見てもまぶしいくらい
輝いている人生を歩んでいる。

かたや俺は上司のパワハラによって休職中。

そんな状況の最中に......


・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


それは突然の出来事だった。

年々増える防衛費に税金の垂れ流し。

いつそれを実践で使うのかと
政府をバカにしていた俺。

その仮想敵国が仮想ではなくなったのだ。

突然のミサイルの飛来。

鳴り響く警報と携帯のアラーム。

道路には逃げ惑う人々。

休職中だった俺は意外に冷静だった。

どうすれば一番よいのかを考えていた。

難しい……

最適解が浮かばない。

というようなことを考えながら携帯を見る。

LINEが届いている。太陽からだ。

「曜子と火鞠(ひまり)・水聖(すいせい)と
 父母を頼む」

まさか本当に戦争になるとは。

いや、日本国は敵国Xに攻撃をしていないから
侵略されているだけか。

まさか日本でこんな理不尽なことを経験するとは
思ってもいなかった。

携帯電話はパンクして繋がらない。
LINEもメールも音信不通に。

こんなにもいたのかと思うほど道路には
人も車も溢れている。

「みんな、どこにいくのだろう......」

と冷静に外を眺めている。

太陽に届かないLINEを送る。

「とりあえず今から太陽の家に行きます。
その後、お父さんとお母さんのところにいくよ」

もちろん、既読にはならない。

走って10分くらいで着く太陽の家に向かう。

道路に溢れ出た人間に目が奪われる。

子供を抱きかかえながら逃げる家族、
走れないおじいちゃん、おばあちゃん、
車のクラクションを鳴らす自己中な男。

それを見て俺は呟いた。

「まじ、戦争ふっかけるやつありえない」

「敵国Xの総書記、意味わからない」

「権力者、死ねっ」


・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


「太陽も俺も権力者を憎んだ」

「だから俺も太陽も権力者に転生したのか......」
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