ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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あなたがいなければ

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莉子とは、ずっと親友だと思っていた。小さい時から、ピアノを習っていて、いつも、莉子は、躓いてばかりいた。酷かったのは、片手から両手に変わった時。ピアノを辞めると言い張る莉子と続けさせたい莉子の母親と喧嘩して、家出もどきの事件があった。裕福な家庭で、運動も勉強もできる莉子なのに、ピアノのセンスは全くなかった。発表会でも失敗ばかりして、先生が呼吸困難になった事もあった。正直、莉子がピアノを辞めてホッとしたのは、心陽だった。
「心陽さん教えてあげて。何度、教えても、莉子ちゃん、覚えられないの」
妹みたいに面倒見ろと言われてきた。いつも、莉子は、くっついてきて、心陽が面倒見てきた気がする。莉子がピアノを辞めてくれて、やっと自分の練習ができる様になった。コンクールでも賞をとり、夢が次から次へと叶っていった。
「ピアノで食べていく」
そう言う自分を莉子は、応援すると言ってくれた。練習に励む心陽をよそに、莉子は、仕事や旅行をtの死んでいる様だった。
「紹介したい人がいる」
莉子が、恋人を紹介してくれた。羨ましかった。育ちもよく、品の言い男性だった。心陽は、莉子の彼氏に一目惚れした。すく夢中になり、莉子から、心陽へと乗り換えさせた。
「もう、興味がない」
莉子から奪った彼氏もすぐに、興味がなくなった。莉子は、最初のうちは、落ち音でいたものの、すぐ、新しい興味を惹くものを見つけてきていた。
「フラメンコ」
だった。全身で、自分の感じるままに体を動かすフラメンコは、莉子にピッタリだった。元々、楽譜を読むのが苦手な莉子は、独特の感性で、フラメンコのセンスを掴んで、登り詰めていった。あの音も、リズムも、心陽には、理解できなかった。極め付けは、心陽が密かに憧れていた男性との婚姻を莉子が叶えた事だった。
「ごめん・・・恋人がいる」
架に思い切って、告白した事があった。あの時、彼女がいた筈である。なのに、彼は、恋人を捨てて、莉子を選んだ。莉子は、誰にも縛られず、欲しい物を手に入れている。心底、莉子を羨んでしまった。
「あれは、誰なの?」
莉子がリハビリをすると告白した翌週、心陽が覗いたスタジオで見たのが、新だった。
「あら?莉子ちゃんから聞いていないの?藤井先生が、ストレッチの先生として、週末だけ、頼んでいるの」
「へぇ!」
「心陽ちゃん、イケメンだからって、ダメよ。彼女がいるみたいよ」
「挨拶する位いいじゃない?」
心陽は、スタジオから出てくる新を待って、声を掛けてみようと思った。自分は、そこそこ美人である。自分が挨拶すれば、微笑み位、向けてくれるだろう。
そう思って、スタジオから出てくる新を待った。
「こんにちは!莉子の友人の心陽です」
満面の笑顔で、挨拶してみた。
「はぁ?」
新は、そっけない態度で、通り過ぎてしまった。
「え?」
「ごめん・・・」
遠くから莉子が両手を合わせていた。
「何かね。今日、機嫌が悪いみたいなの」
そう聞いたが、その後の彼の様子は、莉子に優しかった。
「何なの・・・」
自分を振り向かせたいと思った。いつも、落ちこぼれだった莉子が、自分よりいいなんて。莉子には、夫だっているのに・・・。莉子が羨ましくて仕方がない。
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