ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

文字の大きさ
71 / 106

彼がいたから、ここまで来れた。

しおりを挟む
莉子が救急搬送された頃、綾葉は、架の態度から、何かが起きたと感じていた。お腹の子供は、認知してもらえるとしても、不遇の人生を送るのではないかと、心配していた。自分の生活は、架が、責任を持ってくれるという。優秀なピアニストに育てたいという思いは、自分も架も同じだったが、これからの環境を考えると、難しい事はわかっていた。
「何が、望みなの?」
突然、現れた心陽葉、綾葉に聞いた。
「過去の関係を求めても、架の気持ちは、あなたにないわよ。気づいていた筈」
「そんな事ないわ」
架は、自分との時間を愛しんでいてくれる。お互いを認め合い、レッスンに費やした日々が、自分達を支えている。
「人の気持ちは変わるの。架は、あなたを踏み台にして、自分に合う女性を見つけるの」
自分は、妊婦を相手になんて、酷い事を言うのだろう。心陽葉、思ったが、怒りが湧き起こり止められない。過去の関係を引きずり、架を巻き込んでいる事が許せない。もう、過去の女性なのに。ずるずると関係を続け、子供まで、作った。
「莉子に子供ができないから、あなたの子供を認めたのでしょうけど、周りが、認めるかしら?」
「どういう事ですか?」
「架は、莉子を離さない。それは、そうね。会社の強い後ろ盾ですもの。子供ができないから、あなたの子供を養子として、受け入れたとしても、他の女性が莉子の代わりに、現れたら、どうなのかしら?」
心陽の発言に綾葉の顔色が変わった。
「架に、他の女性ですって?」
「架が、どういう人間なのか、あなたが良く知っているはずよ。自分が傷ついている時は、相手が、傷ついていても、構わない人よ。今、彼がどんな思いでいるか、わかるの?」
綾葉は、次第にお腹が、張ってくるのがわかった。息が荒く、目眩を起こしかけていた。
「子供は、諦めなさい。きっと、幸せになれない。あなたには、あなたにあった、生活があるはず」
「あなたは、どうなの?」
「私は、架に近い世界の人間なのよ」
心陽葉、自身に満ち溢れている。
「架の才能は、私が伸ばしてみせる。誰にも、架の人生を壊す事は、許さない」
「架は、自分の手が治る事を望んでいない」
綾葉は、自分だけが、架の思いを理解していると思っていた。心陽に、自分が1番に理解者だと言いたかった。
「どうして、治そうとしないのか、考えた事あるの?」
心陽の言葉は、冷たかった。
「諦める理由が欲しかったのよ。架は、本当は、ピアノが好きなのよ。誰も、わかっていない。勿論、莉子もね。彼女も、見えていないの。」
これ以上、綾葉と言い争っても、どうにもならない。心陽葉、携帯を取り出すと、綾葉に言った。
「これから、架に逢うの。自信を失っているから、いいタイミングだわ」
「あなた・・・一体、架とは、どういう?」
心陽は、笑った。
「昔は、彼が居たから、頑張れた・・・。これからも、そうしたいのよ」
お腹が張って、跪く、綾葉を鼻で笑って、心陽は、ヒールを鳴らしながら去っていった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―

柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。 最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。 しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。 カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。 離婚届の上に、涙が落ちる。 それでもシャルロッテは信じたい。 あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。 すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ほんの少しの仕返し

turarin
恋愛
公爵夫人のアリーは気づいてしまった。夫のイディオンが、離婚して戻ってきた従姉妹フリンと恋をしていることを。 アリーの実家クレバー侯爵家は、王国一の商会を経営している。その財力を頼られての政略結婚であった。 アリーは皇太子マークと幼なじみであり、マークには皇太子妃にと求められていたが、クレバー侯爵家の影響力が大きくなることを恐れた国王が認めなかった。 皇太子妃教育まで終えている、優秀なアリーは、陰に日向にイディオンを支えてきたが、真実を知って、怒りに震えた。侯爵家からの離縁は難しい。 ならば、周りから、離縁を勧めてもらいましょう。日々、ちょっとずつ、仕返ししていけばいいのです。 もうすぐです。 さようなら、イディオン たくさんのお気に入りや♥ありがとうございます。感激しています。

処理中です...