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毒は甘く、そして、痺れさせる

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僕は、莉子の病室に通い、莉子の言うとおりに夫を演じている。目を輝かせ、僕を夫と信じる莉子と一緒にいる事が、楽しく、甘美な時間を過ごす事ができた。手術の経過は、良好で、無事、退院する日が近づいてきた。
「いい時間が過ごせただろう」
僕は、莉子の夫、架と連絡を取り合うようになっていた。勿論、莉子の状態を家族に知らせる必要があった為だが、どうしても、心の奥に引っかかる事があった。僕は、莉子を通して、架の姿を見ている。本当に、彼は、冷たい、利己的な人間なのだろうか?莉子に冷たく当たる根本的な理由が知りたいし、莉子も人格が豹変するのは、どんな時なのか、知りたかった。豹変の理由はが、硬膜下血腫だとは、思えない。それに、莉子が車椅子でいる本当の理由が知りたかった。莉子をリハビリするのは、身体を元に戻すためだけ?違う。僕らは、身体機能をリハビリするだけではない。莉子が踊れなくなった理由。硬膜下血腫とは、切り離して考えよう。そもそも、彼女の転落は、何故なのか?莉子の本当の姿を僕は、知らなくてはいけない。お人形の様に、ただ、座って微笑んでいる姿が、真実ではない。心陽を本当に、信じているのか?僕は、莉子を知らなすぎる。
「あなたは、莉子と居て、いい時間を過ごせていたんですか?」
架は、電話の奥で笑った。
「もちろんだよ。決まっているじゃないか?僕に、いろいろ与えてくれる彼女を大事にするに決まっている」
「どうして、僕の前では、悪ぶるんですか?」
「え?」
電話の向こうで、呼吸音が聞こえる。
「あなたは、莉子に向かい合おうとしていたんじゃないですか?」
「何を急に言うんだい?夫婦なんだから、当たり前だろう」
「何を演じているんですか?」
絡み合って、行き違いになっている。莉子も架も、似た者同士だと思う。僕の問いかけに答える事なく、架の電話は、切れた。退院したら、莉子は、マンションに戻る。僕は、引っ越しを控え、黒壁のアパートで、荷物をまとめていた。莉子も退院の時も、夫の架が、来ないので、合間を縫って、病院に来ていた。
「莉子・・・」
僕の顔を見て、微笑む莉子の僕は、冷たい事を言えるのか?
「僕には、本当の事を言って欲しい」
「え?何を言っているの?」
莉子は、ちょうど、退院する為の支度をしていた。
「今回の手術は、簡単なものだったって、聞いている。どうしても、僕が、腑に落ちない事がある」
「何かあったの?」
「僕の目の前にいる君が、本当の姿なのか、わからなくなる」
莉子の表情が固くなった。瞼が、微かに震える。
「僕が、誰かわかる?」
「あなたは・・・」
そう言い、首を横に振る。
「本当は、僕が誰なのか、わかっているよね」
莉子は、唇を固く閉ざしてしまった。
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