76 / 106
壊れた心を抱きしめて
しおりを挟む
久しぶりに黒壁と飲み合ったその日の夜。僕と黒壁は、突然の携帯電話の音で、飛び起きる事になる。
「何の音?」
今時、携帯を止めようとして、黒壁の体に躓いて、思わず、転倒してしまった。
「てて・・・」
半分、寝ぼけながら出た携帯電話の向こうから、聞こえてきたのは、昼間にあった藤井先生の声だった。
「今、来れる?」
「今ですか?」
僕は、時計を見た。もう、明日になっているではないか?
「どうしたんですか?」
「莉子が・・・ね。新君、しっかり、見るのよ」
「莉子が?」
「彼女の心の中を見るのよ」
「今、そこへ、行きます。住所、教えてください」
僕は、黒壁を叩き起こした。二人とも、飲酒していて、運転はできない。かといって、タクシーがこの時間に捕まる訳がなく、黒壁の後輩にお願いして、迎えに来てもらった。
「いいのかよ・・・俺まで、ついてきて」
「一緒に来てほしいんだ」
僕、一人で、現実を受け止められるだろうか・・・僕は、黒壁についてきてもらった。莉子の状態について、師る権利がある。彼女の心の中をのぞいて見たい。
僕らは、互いに無言で、30分もすると、藤井先生のマンションに着いていた。
「先生?」
ドアのロックを解除して、中に入ると、室内は、静まり返っていた。
「本当に、ここなのか・・・」
黒壁は、帰師、手を振ると、僕の先に立って部屋に入っていく。玄関の素麺には、フラメンコのスターらしくシージョが中央の壁に飾られ、幾つもの写真が並んでいた。足元を照らすライトにそっと歩いていく。
「藤井先生?」
僕は、小声で、何度か先生の名前を呼ぶ。
「新?」
突然、暗闇に藤井先生の顔が浮かび上がった。
「来てくれたのね」
そう言いながら、手招きをする。
「一体、どうしたんです?」
黒壁と顔を見合わせながら、奥の部屋に入って行く。
「ここよ・・・」
ため息をついた藤井先生が指差す方向の床には、長い髪の女性が這いつくばり、こちらを見上げていた。
「え?」
女性の顔は、涙で、濡れていた。何かを小声で呟きながら、首を振る。その度に長い髪は、振り乱れ、女性の顔を覆った。
「だいぶ・・・落ち着いたけど」
「落ち着いた?」
僕は、生唾を飲み込んだ。ここにいる髪の長い女性は、まさか、莉子?
「莉子?なのか?」
黒壁が僕より先に、驚愕した。床に両指を突き刺し、四つん這いで、蠢く姿が、莉子だなんて、考えたくない。
「興奮して、止まらなかった・・・ようやく、落ち着いてきたんだけど・・・」
まともではない。
「莉子・・」
僕は、思わず駆け寄った。
「何をそんなに、苦しんでいるんだ・・」
背後から、抱きしめる。
「一人で、苦しまないで欲しい」
細いこの体のどこに、そんな暴れる力があったのか、その部屋は、荒れに荒れていた。
「不思議ね・・・気付いたら、手当たり次第に物が飛んでいてね。莉子が泣き叫んでいた。」
藤井先生も辛そうだった。
「これが、架の言う人格だったのね」
莉子は、僕の腕の中で、ぶつぶつ何かを呟いているのだった。
「莉子・・・大丈夫だよ・・・僕がいる。莉子」
思わず、腕に力が入る。
「何の音?」
今時、携帯を止めようとして、黒壁の体に躓いて、思わず、転倒してしまった。
「てて・・・」
半分、寝ぼけながら出た携帯電話の向こうから、聞こえてきたのは、昼間にあった藤井先生の声だった。
「今、来れる?」
「今ですか?」
僕は、時計を見た。もう、明日になっているではないか?
「どうしたんですか?」
「莉子が・・・ね。新君、しっかり、見るのよ」
「莉子が?」
「彼女の心の中を見るのよ」
「今、そこへ、行きます。住所、教えてください」
僕は、黒壁を叩き起こした。二人とも、飲酒していて、運転はできない。かといって、タクシーがこの時間に捕まる訳がなく、黒壁の後輩にお願いして、迎えに来てもらった。
「いいのかよ・・・俺まで、ついてきて」
「一緒に来てほしいんだ」
僕、一人で、現実を受け止められるだろうか・・・僕は、黒壁についてきてもらった。莉子の状態について、師る権利がある。彼女の心の中をのぞいて見たい。
僕らは、互いに無言で、30分もすると、藤井先生のマンションに着いていた。
「先生?」
ドアのロックを解除して、中に入ると、室内は、静まり返っていた。
「本当に、ここなのか・・・」
黒壁は、帰師、手を振ると、僕の先に立って部屋に入っていく。玄関の素麺には、フラメンコのスターらしくシージョが中央の壁に飾られ、幾つもの写真が並んでいた。足元を照らすライトにそっと歩いていく。
「藤井先生?」
僕は、小声で、何度か先生の名前を呼ぶ。
「新?」
突然、暗闇に藤井先生の顔が浮かび上がった。
「来てくれたのね」
そう言いながら、手招きをする。
「一体、どうしたんです?」
黒壁と顔を見合わせながら、奥の部屋に入って行く。
「ここよ・・・」
ため息をついた藤井先生が指差す方向の床には、長い髪の女性が這いつくばり、こちらを見上げていた。
「え?」
女性の顔は、涙で、濡れていた。何かを小声で呟きながら、首を振る。その度に長い髪は、振り乱れ、女性の顔を覆った。
「だいぶ・・・落ち着いたけど」
「落ち着いた?」
僕は、生唾を飲み込んだ。ここにいる髪の長い女性は、まさか、莉子?
「莉子?なのか?」
黒壁が僕より先に、驚愕した。床に両指を突き刺し、四つん這いで、蠢く姿が、莉子だなんて、考えたくない。
「興奮して、止まらなかった・・・ようやく、落ち着いてきたんだけど・・・」
まともではない。
「莉子・・」
僕は、思わず駆け寄った。
「何をそんなに、苦しんでいるんだ・・」
背後から、抱きしめる。
「一人で、苦しまないで欲しい」
細いこの体のどこに、そんな暴れる力があったのか、その部屋は、荒れに荒れていた。
「不思議ね・・・気付いたら、手当たり次第に物が飛んでいてね。莉子が泣き叫んでいた。」
藤井先生も辛そうだった。
「これが、架の言う人格だったのね」
莉子は、僕の腕の中で、ぶつぶつ何かを呟いているのだった。
「莉子・・・大丈夫だよ・・・僕がいる。莉子」
思わず、腕に力が入る。
0
あなたにおすすめの小説
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」
ぱんだ
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。
「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。
公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。
そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】
暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」
高らかに宣言された婚約破棄の言葉。
ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。
でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか?
*********
以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。
内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる