ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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誤った選択

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架は、焦っていた。綾葉との付き合いは、長い。いつも、そばにいて、自分を立ててくれた。繊細で、病的な一面もある架にとって、綾葉は、姉のような存在だった。支え合う間が、愛情に変わった。携帯を何度も、掛け直すが、綾葉には、通じない。綾葉の育ての親である祖母に確認しようかと思ったが、心配をかけると思って辞めた。
「何を言った?」
「本当の事を言ったまで」
「本当の事?」
「架のピアニストとしての道を邪魔しているのは、あなたよって言ったわ」
心陽は、持っていたバックを、机の上にドスンと置くと、腰掛けた。
「莉子の隣で、我慢していたのよ。私。でも、莉子より、一番、許せないのは、綾葉だった」
「莉子の隣って、友人だろう?」
「そうよ。友人だったわ。まさか、あなたが、莉子の夫になるなんて、思っていなかったから。だけど、もっと、許せないのが、あんな冴えない女との間に子供ができた事よ」
架は、笑った。
「僕と綾葉、そして、莉子との問題だ。どうして、君が関係する?」
架の顔が冷たく笑っている。
「関係あるわ。私がピアノから反れられない理由は、あなただから。あなたが、ピアノを辞めてしまうなんて、私には、考えられないから」
ピアノは、辞めたんではなく、もう、右手の震えが止まらず、弾けないんだ。そう言いたかったが、架は、黙っていた。
「事故で、弾けなくなるなんて・・・そのせいで、あなたの人生は変わってしまった」
「君が、心配する事ではないよ。」
架は、電話で、警備員を呼んだ。
「お帰りの時間だ」
心陽のバックを渡す。
「綾葉の事を心配する事ね。」
そう言い放つと、現れた警備員に促されるまま、架の部屋から出て行った。
「心陽か・・・面倒な女になったものだ」
そんな女性だったか?才能に溢れ、羨ましくも思った時期があった。自分か、心陽かと、ネットニュースを賑わした事もあったが、莉子の隣で、そんな事を思っていたなんて。
「だが・・・少し、待て」
だとしたら、あの日。莉子がマンションのホールで転落した日。発見者だったのは、本当に心陽だったのか?発見者ではなく、加害者ではなかったのか。
「あの日の事は、莉子は、覚えていない。どうして、莉子は、心陽と合う約束をしていたのか?」
あの日に、何をしていたのか、莉子は、覚えていない。心陽葉、意図的に莉子の友人の顔をしているのか。しばらくして、携帯が鳴った。綾葉からだった。
「大丈夫か?」
「何か、あったの?何度も、着信があったから」
何でも、なかった様子だ。思い違いかも。
「最近、変な事件があるから気をつけて」
「えぇ・・・お隣の家に、強盗が入ったって、物騒ね」
「隣に?」
「何も、盗られなかったらしいけど」
「気をつけて」
思い当たる事があって、架h、電話を切った。以前、マンションの隣の部屋に、泥棒が入った。何も、盗られなかったが、何故か、架の家から、幾つもの盗聴器が見つかった。
「まさか・・・」
急いで、マンションに戻り、何度も、隅々まで、探すと、莉子の部屋のコンセントの中から、幾つか、見つかった。
「いったい・・・誰が?」
思い当たるのは、一人だけだった。
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