ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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恐れていた三角関係

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藤井先生の入院が決まった。ほんの一週間だったけど、僕と黒壁との関係が微妙になるのには、十分だった。好意を持つ男性と女性が24時間一緒にいたら、どうなる?僕も黒壁も紳士的に接する事に、努めた。リハビリは、1対1になる事が、多い。好意を持つ男女が密室で、2人になるなんて、何も起きない方が不思議で、しかない。それは、黒壁の言葉で始まった
「ごめん・・・新。俺、無理かも」
「何が?」
僕は、藤井先生に代わって料理をしていた。なるべく、藤井先生のこだわりを取り入れ、ヨガの先生にも教えてもらったビーガン食に力を入れ始めていた。調理中の僕に、黒壁が水を飲みながら、話しかけてきた。
「俺は、隠しておくのが嫌だから、正直に言うけど。かなり、やばい」
僕は、良質のタンパク質をどうしたら、摂れるのか、莉子の栄養バランスに頭が一杯だった。10秒程度の立位保持まで出来るようになったが、立ち続けるには、まだまだ、筋力がついてなかった。筋肉を作るには、リハビリだけでは、ダメで、徹底した食事管理が必要になる。それを藤井先生にお願いしていたが、しばらくの間、僕が代行する事になった。ヨガの講師に聞きながら、自分の専門知識を駆使して、莉子の体を作っていた。だから
「何が、やばい訳?」
僕は、携帯のレシピを見る事に、夢中だった。
「俺・・・2人きりで、いる事に自信ない」
「誰と?安達?」
看護師の安達とくっつけようと言う時期があった。
「じゃなくてさ。理性保てないかも」
「なんで、それを僕に言う訳?」
「それはさ・・」
黒壁は、隣の部屋を指差す。莉子の部屋だ。
「え?」
「まじ。好きになっちゃうかも」
「は?」
僕は、黒壁の胸を叩いた。
「だからさ・・そうならないようにしたいんだけど。まさか、ここで、俺がマンション出たら、余計にまずい訳で」
確かに、僕と莉子の2人きりは、まずい。
「なるべく、俺との2人の時間は、裂けてくれない?」
「そうしたいけど」
僕は、憮然として答えた。僕にも、藤井先生との約束があり、スタジオのストレッチのバイトがある。
「じゃあさ、なるべく、2人きりにならないようにして」
「万が一の時は、ごめん」
「何を?」
「ははは・・」
確かに、黒壁も一人の男性だ。莉子と2人で、いたら、その気になってしまう。黒壁が莉子に惹かれているのは、十分にわかっていたが、それより、リハビリを急ぎたかった。藤井先生の思いをかけたい。
「お水、飲めるかな?」
莉子が顔を出した。僕らの思いに気づいてないのか、変わらない様子で。
「莉子。気をつけろよ!黒壁が、襲いかかるって言っていたぞ」
「やめろって!」
僕の冗談に莉子は、笑いながら
「そんな暇があったら、早く、歩けるようにしてちょうだい。時間がないんだから」
なんて、余裕で、答えていた。前日は、違う肝の座り方に、僕らは、莉子の覚悟を感じた。
「二人とも、驚かないでね。私、フラメンコ上手なんだから」
取り出したミネラルウォーターを一口飲むと車椅子の上で、踊って見せる。
「やばいよなー」
黒壁が、眩しそうに呟いていた。
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