ガラスの靴は、もう履かない。

蘇 陶華

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翻弄される人

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認めたくなかった事実。自分の右手が、ピアノを弾けなくたった事を告白していたら、治療を受け、リハビリをしていたら、もっと、別の人生だったかもしれない。莉子との結婚は、強引だった。復讐の為に、莉子を選んだ。
「少しだけ・・・」
架は、綾葉と話したいと思った。自分を待っていてくれたのは、綾葉だった。
「見た?」
莉子の父親のニュースを、見たら、次に何が起きるのか、予測がつくだろう。綾葉は、電話の向こうで、黙っていた。少し、啜り泣く声が聞こえてきた。
「もっと、現実を見ればよかった」
架は、後悔した。
「それでも、あなたでいる事に、変わらない」
「勝手すぎるよな」
「気付いてくれたならいい」
綾葉は、言葉を絞り出した。最初から、何もなかった。架は、自分の才能と引き換えに自分の地位を得た。
「待ってて、来れる?」
架は、恐る恐る聞いた。勝手な事を言っていると思う。子供の認知だけは、すると言って、自分の行き場がなくなったら、綾葉に行こうとしている。
「待ってる・・・いつまでも、待ってる」
「必ず、迎えに行くから、待ってて」
「待ってる」
ようやく、架が、振り向いてくれた。莉子ではなく、自分に戻ってくる。そうしたら、生まれてくる3人で、暮らそう。待ちに待った瞬間だった。綾葉は、電話を切ると、コンビニの前に立った。
「すぐ、お腹が空くのよね」
コンビニで買い物した荷物の確認をしてみた。色々、食べ物には、気を付けなくてはならない。信号待ちをしながら、買い忘れがないか、確認していた。教室の子供達にも、お菓子のプレゼントをしてあげよう。一緒にお祝いがしたい信号が、赤から青に変わり、人々が一斉に渡り始める。いつもより、人出が多かった。信号が変わった瞬間、人混みを避ける為に、少し、早めに横断し始めた。
「え?」
信号が、赤から青に変わったのに、止まりきれないバイクが一直線に走ってきていた。止まりきれず、驚いた様子で、こちらに向かってくる。
「あ!」
避けられる筈だった。ほんの一歩、後ろに居たから。だけど、止まりきれない誰かが、後ろに当たった。
「!!」
バイクの前に、飛び出す形になった。止まってほしい。ぶつかりたくない。一瞬、綾葉葉、自分のお腹を庇った。
「キャー!」
誰かが、悲鳴をあげた。バイクは、間一髪で、代わす事ができた。だが、無理な体制となり、思いっきり、前に転倒してしまった。
「大変だ。大丈夫か?」
遠くなる意識の中で、見覚えのある後ろ姿が見えていた。
「あれは・・・」
遠く見送る後ろ姿は、心陽。架を追いかける女性の姿が、視界の中に落ちていった。
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