死神の守人

蘇 陶華

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さあ、そろそろ起きようか?

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僕は、息を呑んでいた。それは、人の形をしていたけど、いや。。ミイラ男の様に、包帯が全身を覆っており、臭気が漂っていた。覆った包帯は、赤や黒い色をしており、あちこちに浸出液が、こびりついていた。顔を覆う包帯の間から、二つの瞼のない目が、僕を見ていた。
「こ。。。こんにちは」
とりあえず、僕は、声を出していた。なんて事だ。市神め。わかっていて、僕をおくりこんだのか?
包帯の下で、何かが蠢いていた。膨れ上がり、赤黒い血が、吹き出す。あぁ。。これは。僕は、目を見開いた。
「よく見て、くださいよ。」
奥から、あの妻が顔を覗かせていた。
「あなたが、来るのを待っていたのだから」
肩の包帯が、ずるっと落ちていった。本人は、ハッとして、包帯を引き上げようとしたが、僕には、見えてしまった。包帯が、うず高くなっているそこには、人の顔があった。いくつも、いくつも、包帯で、隠されているけど、その下には、たくさんの顔が隠れていた。その顔は、目がなく、鼻と口だけが、空いており、そこから、たくさんの血を流し、呟いていた。
「おい!何とかしろよ」
妻は、言った。僕は、目が離せなくなっていた。実物を見るのは、初めてだった。見えないものを見てきたけど、これは、現実にあるものだった。千顔孔。誰が、彼を追い込み、縛り付けたのか、恐ろしい呪縛が、ここにはあった。
「あの。。。これは、傷なんですか?治療は、どうしたんですか?」
僕は、すっとぼけた。
「今まで、何人も、来たんだよ、あなたみたいな人が、でもさ。。。」
長男が、冷たい声で、話していた。
「誰も、無事に帰った人は、いないんだよね。おかげで、僕も、ここに縛られていてさ」
長男は、着ていたシャツの前を開き、僕に、何があるのかを見せた。
「おかしいだろう?こんな姿で、いるなんて」
はだけた胸には、真っ過ぎに、何かが刺さって見えた。木の棒?違う。その木の棒の当たった周りは、赤黒い血に染まっていた。一本の包丁が、根元まで刺さったままになっていた。
「あり得ないだろう?」
長男は、笑った。
「あなたには、どう見える?」
「いえ。。。」
僕は、目を凝らした。包丁が刺さったらしい箇所には、何も見えなくなっていた。根元まで、刺さっているように見えた胸の辺りは、何もなかった。
「何も、」
余計な事は言わなかった。長男は、疑わしい顔で、僕の顔を覗き込んだ。
「何も?」
血の気のない、恐ろしい顔だった。
「そうかね」
長男と妻は、顔を見合わせていた。その時だった、突然、包帯男が、苦しみ出した。嘔吐したいのか、胸を掻きむしり始めた。僕は、恐ろしいのも、忘れて、駆け寄っていた。
「だ。。大丈夫ですか?」
僕が、駆け寄るのを待っていたかのように、包帯男は、僕の方に齧り付いてきた。
「うわ。。」
僕は、ひるんだ。こんな攻撃をされるなんて、初めてで、頭の中は、混乱していた。市神は、わかって、僕を差し向けたのか?
「やめて、ください」
僕は、もがいたが、すごい顎の力で、僕の肩の骨を噛み砕こうとしていた。
「はなせ!」
手で、抵抗するが、敵わない。僕の細腕では、敵わないのか、このまま、噛み裂かれてしまうのか?
「うぅ!」
僕の頭の中で、何かが、叫んでいて。額が、割れるように痛い。離せ!離さない?離さないと?何なんだ?僕は、何を言おうとしてる?と思った瞬間だった。
「やめなさい」
市神?僕の肩が自由になった。包帯男が、誰かに弾かれ、あの妻が、驚嘆し、長男が、後ずさった。誰?そう思った僕の前に、一人の女性が立ちはだかっていた。
「紗羅?」
あの悪意の天使が、僕の前に現れていた。


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