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寒洞に眠る

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 白い壁が何処までも続いている。上から滴ってくるのは、透明でもなく乳白色の幾つもの雫。氷の粒なのか、何千年も間に閉じ込められた人々の恨みが積み重なった物なのか、逆境に慣れた瑠璃香の体に、冷たさが、槍となって突き刺さった。
「はぁ。。。」
瑠璃香は、細い面差しを上げた。天井から、地上から氷の塔がそびえている。両腕は、細い蜘蛛の糸らしき細い糸が、食い込んでいる。両足にも体にも、その細い体は、不自由な位に曲がり、頭を下にして、宙に浮いていた。
「あいつら、うまく、逃げたものか」
少しでも、動こうとすると、細い糸は、白い体に食い込んでいた。背中まで、ある黒髪は、乱れ宙に散り、着ていた水干は、あちこち裂けており、間からは、紅血が滲んでいた。
「目が覚めてたのかな」
頭の上から声が聞こえたが、そこを見る事は、できない。
「あいにくだが、まだ、覚めてもいない」
瑠璃香は、誰に声を掛けられたのかは、わかっていた。
「久しぶりと言いたいところだけど」
瑠璃香は、答えた。
「また、ここに入る事になろうとはね」
細い糸が、ゆっくりと揺れていた。瑠璃香の顔の側に、もう一つの影が姿を現した。瑠璃香とよく似た、否、瑠璃香よりも、冷たく、感情のない冷めた眼をした男が、瑠璃香の顏を見下ろしていた。
「東の国で、静かに暮らしていけると思っていたのか?」
「阿聚。。」
瑠璃香は、その名を呟いた。阿聚と呼ばれた男は、瑠璃香の糸に絡み取られた手を取った。重ねられた手との間は、少し、光を帯びたが、すぐ、元に戻った。
阿聚は、更に厳しい顔になって、瑠璃香に、詰め寄った。
「どこに。。?やった?」
「どこに?」
瑠璃香は、笑った。
「探しているものなんか、最初からない。残念だったな」
阿聚は、瑠璃香の細く尖った顔を掴むと言い放った。
「お前が、持ち出した。ここにあるべきものを」
「ここに、あるべき?」
瑠璃香は、顔を振った。
「そんなものは、元からない。阿聚!私達は、騙されていたんだ」
阿聚は、瑠璃香の双眸をじっと見つめていた。
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