皇帝より鬼神になりたい香の魔道士

蘇 陶華

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美しき妖の姫

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 紗々姫は、少し違う。誰もが気づいていたが、真実の姿は、誰の想像より上まっていた。三華の塔は、紗々姫の塔。そこには、真実の姿があった。いつからか、この国を転覆したいという呪いは、紗々姫とある物を結びつけていた。集めていた怪しい物に宿る魄が、また妖を呼び、凝り固まった中に紗々姫は居た。天と地を結ぶ香は、多種多様が集まり、紗々姫は、思うままに妖達を操った。
「もう少しで、手に入る故」
香を操る陰陽師とも、大陸より渡らし魔導師。その能力こそ、紗々姫の手に入れたい物。三華の塔に眠る俗物など、何の、魅力もない。
「必ず。。手に入れるのだぞ。紗々姫」
紗々姫の影から、誰かが呟いた。
「安心してくださいませ。必ず、手に入れます」
紗々姫は、天を見上げた。望む瑠璃香が、剣を放ち、真っ直ぐに、三華の塔目掛けて降り立とうとしている。
「主を守る青龍剣は、ないと見た」
紗々姫の袂から、黄熟香が、飛び出してきた。扇状に広がり、細い糸のように絡まり合い、天に広がる。
「私の腕も、なかなかよのう」
紗々姫の髪が、長く伸び糸となった香と絡まり、広がっていく。紗々姫の体が、ふわりと浮き上がった。いや、浮き上がったのではなく、長く伸びていった。そう蛇のように。
「うわ。。」
まさに、三華の塔に降り立とうとしていた瑠璃香は、足元から伸び上がってくる気配を察し、急に、意気消沈した。幾つもの妖と戦ってきたが瑠璃香には、苦手な物がある。
「細くて。。長くて。。鱗のある物」
そう蛇の妖。
「ウエェ」
呻いたが、時すでに遅し。紗々姫は、変化した体で、塔の上に踊り出、瑠璃香は、いやいや塔の上に降り立った。
「これは。。また、麗しの姫」
瑠璃香は、恭しくお辞儀していた。
「わざわざ、そちらから、おいで頂くとは。。」
紗々姫は、瑠璃香の顔を、正面からまじまじと見ていた。見れば、見るほど美しい。ますます手に入れたくなり、紗々姫の目は、瑠璃香の顔から目が離せなくなっていた。
「私が、ここにきたのは、あなたに用があったからではないんですよ」
瑠璃香は、扇子で、口元を覆った。ねばつく視線を少しでも、外したかった。
「ふん。。」
紗々姫は、笑った。
「大陸には、香を用いる術師がいると聞いて、一度、逢いたかった。この塔の中には、お主らが、欲しいものが、たくさん眠っているからのう」
「えぇ。。少しだけ、用があったんです。ここに持ち込まれた物を返してほしいと」
瑠璃香が、言い終わらぬうちに、紗々姫の着物の裾が、宙に浮いた。煌びやかな着物の中から、ゾロッとした姿が、見え隠れする。
「ますます。。無理だ」
襲い掛かる紗々姫の、胴を身軽にかわしながら、瑠璃香は、紗々姫の姿に嫌悪を覚えた。天上では、変化した紫凰が、神獣と闘っている。
「紫凰!」
瑠璃香は、着物の懐から、香を取り出し印を結んだ。
「天を結び、地を繋ぎ、我に、道を」
紫凰の体が、ピクンと、跳ね上がり、瑠璃香の体が、一瞬のうちに、光に消えた。
「まて」
何としても、瑠璃香を手に入れたい紗々姫が、鱗だらけの手を伸ばした先には、位置を反転した紫凰が、姿を表していた。
「あれ」
揉み合っていた神獣から、鱗の化け物に変わり、紫凰は、目を見張った。
「ずる!」
「紫凰」
神獣を両手で押さえながら、瑠璃香は、叫んだ。その手には、青龍剣が握られていた。
「消滅させてはならない」
「え?」
紗々姫は、焦っていた。目の目にいた美しい手に入れたいと願っていた瑠璃香が、鳥の化け物に変わったのだから。目は、赤く燃えていた。両翼が、恐ろしく大きく、両手の先には、長い爪が生えていた。その爪は、紗々姫の喉元を裂こうと迫っていた。
「紗々姫様!」
玉枝御前だった。差し出した両手の中には、光り輝く香炉が、あった。
「これを」
瑠璃香の関心が一瞬それた。それは、紫凰も同じだった。喉元を引き裂こうとした手元が狂った。
「ぎゃっ」
紗々姫の悲鳴が上がり、緑色の生臭い血飛沫が、宙に散った。それを見た玉枝御前は、香炉を宙に放り投げた。スローモーションのように、紫凰や瑠璃香が、香炉を掬い上げようと身を乗り出した。
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