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真実の皇帝は、龍王

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アルタイ国が侵略してきた一報や陽の元の国の来襲の知らせは、皇宮を混乱に陥らせた。成徳の術で操られていた風蘭は、解毒こそ出来たが、先陣を切って、兵を引き連れて出陣する体力はない様子で、床に伏せていた。それでも、状況を聞くと、鎧を身につけ、出陣すると言い張る。聚周に、術枷を解かれた瑠璃光は、風蘭が着るはずだった皇帝の鎧を着込んで、風蘭の前に現れていた。
「これから先の事は、ゆっくり考えればいい」
「操られていたとはいえ、私は・・・」
「解毒は済んでいる。国が無くなってしまえば、争っている暇もなくなる。この続きは、また、後で」
部屋の隅で、小さくなっている成徳に声をかける。
「一番、望んでいない結果になったな」
「仕方がない選択で、歯痒い思いだが、仕方あるまい。国がなくなれば、座る玉座もなくなる」
「なくなるだけでなく、高官達は、間違いなく死刑だな』
瑠璃光は、笑う。
「私とて、好きで、こんなのを着ている訳ではないが」
正当な皇帝の着位を知らせる必要があった。
「魔導士ではなく、皇帝にお使えします」
聚周は、片腕の将軍として出陣する事に満足していた。仇として、追いかけ、瑠璃光を手に入れることに執着していたが、自分の存在を認めてもらい、一緒に戦場に立てる事に、満足し、天にも昇る気持ちだった。自分が、求めていたのは、瑠璃光に相棒として認めてもらう事だったのだ。
「青嵐。後は、頼む」
青嵐は、頷くと風蘭の護衛らしく、部屋の外に出た。成徳とすれ違い様に、きつく睨みつけると、チッと口を鳴らした。隙あれば、蛟の精ごと、浄化の炎で空き尽くすつもりだった。
「老耄が・・」
青嵐は、荒々しく扉を閉めた。
「では、瑠璃光」
紫鳳は、龍神に返したはずの剣を持ってきていた。
「これを」
使う者を守るという青龍の剣だった。
「ふむ。どこまで、効力が合うか」
「えぇ・・・アルタイ国にも、強力なシャーマンがいると聞いています。なんでも、100年以上は、生きているそうな」
紫鳳は、両手をあげた。
「その話から察するに、私と同じ類かも」
「かもな」
室内を瑠璃光は、ぐるっと見回す。
「紗々姫は、先に出たようだな」
陽の元の国の軍は、紗々姫の加勢に来たのだが、結局、紗々姫と合流しアルタイ国と対峙する為、本陣に真っ向から攻め入るつもりだった。
「真っ向から?」
打ち合わせの時に青蘭は、引き留めたが、瑠璃光は、紗々姫の提案通り、正面からの対決を認めた。
「何を連れて来たのか、楽しみだな」
瑠璃光は、笑みを浮かべると、聚周と紫鳳に合図した。
「いくぞ」
本物の皇帝が先陣をきって、出陣する。
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