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山神

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黒い羽根に包まれた1人の男は、ゆっくりとエルタカーゼと桂華に歩み寄ってきた。
「自分から、名乗るなんて、どういう事?」
「助けてやったのに、そう言うとは、失礼な奴らだな」
「助けた?あなたと同じ仲間の鴉に襲わせておいて、助けたっていうの」
「そうしなければ、この社に自ら、入る事は、なかっただろう」
「私達を、ここに呼ぶ為に、仲間を殺させたの?」
「死んではいない」
右手を鳴らすと、一瞬で、外の鴉達の気配は消えた。
「探し物を届けてあげようと思ったが、あちこち目や耳があってな」
菱王が、懐に入れていた右手を開くと、中から、小さな栗鼠が、頭をのぞかせていた。
「栗鼠?栗鼠なんて、探していな・・」
桂華が、口を開くと、エルタカーゼがその声を遮った。
「皇子!」
「皇子?冥府の?」
菱王の掌から、淡い色の栗鼠が、地面に降り立った。
「どう見ても、栗鼠にしか見えないけど」
「皇子・・・」
エルタカーゼがそっと手を差し出すと、その小さな栗鼠は、差し出された掌に飛び乗った。
「この中では、まだ、姿を表さぬ方がよかろう」
「一体、お前は、何を企んで?」
「こちらにも、長年、積りに積もった事情があるのでね。あいにく、私が監禁していたのではない。保護したと思って欲しい」
栗鼠は、一生懸命にエルタカーゼに何かを話していたが、桂華には、さっぱり理解できなかった。が、栗鼠の様子から察するに、菱王が、何者かに囚われた王子を保護し、ここに連れてきたようだった。
「こちらの事情と言ったけど、一体、何が起きているの?」
「話をしたいが、また、一人、お客さんが来たようだ」
菱王が、再び、右手を鳴らすと、社の外で風が、地面から巻き上がり、たくさんの羽音が響いていった、先ほど、消えてしまった鴉達が、騒ぎ立て、新たな来客を攻撃しているようだった。
「この陣の中に、まだ、別の獣神が居たとは、珍しい」
外の様子を伺いながら、菱王が呟く。桂華の緑に輝くペンダントヘッドに導かれるように、鴉達の騒ぎも大きくなる。
「こちらに向かってくるわ」
緑の光は、真っ直ぐに、社の外へと続き、桂華の場所を教えている。
「それは、何なの?よこしなさい」
得体の知れない敵の襲来にエルタカーゼは、ヒステリックに叫ぶ。
「大丈夫。ここには、簡単に入れない」
菱王が、扉の前に立つ。
「呼ばれた者意外、入れない」
「私達は、呼ばれたの?」
「そうだ。協力してもらいたい」
菱王は、エルタカーゼに向かって言う。
「私達が?」
「外の者達に力を借りたい」
「だとしたら、私も協力しようか?」
その声は、桂華の声でもエルタカーゼの声でもなかった。栗鼠の姿をした皇子は、少し震え上がり扉の外を覗き込む。
「まさか・・・お前は?」
菱王が、そっと扉を開けると
「あ!」
そこに、1匹の狼が立っているのを見て、声を挙げてしまった。もう、何年も前に、亡くなったと噂されていた山神の王、陸鳳が現れていたからだった。
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