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外伝② 遠い記憶
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拾った新聞の見出しで、ブルービット公爵が大量殺人により死罪となった事を知った。
ブルービット公爵といえば、娘の夫であり、我が家門の救世主ではなかったか。
いや、全ては過去の話であるが。
娘は……何という名前だったか。
……そうだ、サラディナーサだ。
末の娘。大人しく、文句も言わず、ただただ人形のような娘が、ブルービット公爵に嫁ぐことを命じた時だけは、大泣きして反抗したのが思い出された。
そう、私は彼女を落ち着かせようと笑顔で言ったのだ。
何も、問題ないと。
ブルービット公爵が恐ろしい人だというのは、ただの噂だと。
噂ではなかったのか。
では、サラディナーサも、やはり事故ではなく、公爵に殺されたのか。
可哀想な事をしたのかもしれないな。
そう思いながらも、私は自分が、少しも娘に憐憫の情を感じていない事を知っていた。
私には人を愛したり大切にする、という事がよくわからない。感情が欠けているのだろう。
だが貴族など、皆たいていそんなものではないだうか。
ただただ、家門を存続させる為だけに、より条件の合う人間と結婚する。
家を継がせる為に息子をつくる。
他家とのつながりを持つ為だけに、娘をつくり嫁に出す。
それが、繰り返される貴族の在り方だ。
家族とはいえ、妻も私と同じような人間であったので、互いに相手に興味もなく、干渉もせず、各々の責務をはたしていた。
息子ができ、娘が生まれ、やれやれこれで家門を守るという仕事から解放されると喜んだ。
だが、運悪く、所有領地では干ばつが続き、おさめられる税額が一気に下がった。
娘達を有力貴族に嫁がせたが、期待したほどの援助は得られなかった。
一向に状況は良くならず、家計は悪化する一方。
そんな時に、ブルービット公爵から打診があったのだ。
末の娘を嫁によこせば、礼金を渡す、と。
その額は、無視できないほどの大金だった。
私は妻と後継者である息子と相談し、皆、笑顔でこの婚姻を了承する事を選んだ。
ただ、当事者のサラディナーサだけは、この話を受け入れようとしなかった。
生まれてはじめてみる娘の、激しく泣く姿に驚いた。ブルービットのおどろおどろしい噂話を知っていたのだ。
この婚姻が成れば、私達は20年は金銭の心配をせずに暮らせるのだ。
娘にとっても、この困窮した家にいるより、公爵家に入った方が、贅沢な暮らしが出来る筈だ。その方が、幸せになれるだろう。
そう思って、無理やり送り出した娘は、1年後に死んだ。
事故死だと聞いた。
結婚式に娘を見たのが、最後となった。
慣れというのは怖いものだ。
娘と引き換えに、私達は大金を手にした筈だった。
しかし、領地の改善ではなく、自身を着飾る事の為に金を使うことを覚えた私達は、あっという間に贅沢に慣れた。
気づいた時には、もう手遅れだった。
財政が、もはやどうにもならないほど困窮したのだ。
結局、私は貴族籍を財政力のある商人に売ることとなった。
妻は平民になるなどまっぴらだと、破産前に離婚し、実家に帰っていった。
息子は、格下の貴族の娘の入り婿となった。
息子にも娘にも、私が平民になった後は、一度も会っていない。
私の元には、1軒の古びた小さな小さな家だけが残った。
その小さな庭で野菜を育て、市場で売る。
ここ数年の、私の日課だ。
衣服の洗濯も、食事の用意も、家の掃除も、買物も、全て自分でしなくてはならない。
執事が家計を取り仕切り、使用人達が掃除洗濯などを担当し、3度の食事を料理人がつくる。
馬車で領地に視察に行けば、領民達が頭を下げてよってくる。
定期的に、王宮や各貴族の館で開催されるパーティーで煌びやかな衣装を身につけ、酒を飲みながら社交活動をする。
そんな生活は記憶の彼方に去りつつある。
今は、日々の糧をいかに得るか、そればかり考える毎日だ。
喜びも、悲しみも、怒りも、後悔も。
ほとんど感じる事はない。
去っていった妻や、子供達への恨みも感じない。
もし、私の父親が私のような境遇になれば、私も息子と同じように行動するだろうから。
皆、自分の事だけで精一杯。
人の事まで、考える余裕がないだけなのだ。
それは、よくわかる。よく、理解できる。
だが……。
サラディナーサの泣き顔が頭から離れない。
彼女は、私を恨んでいたのだろうか。
私は彼女を、殺人鬼に差し出した悪人なのだろうか。
「違う……そんなつもりではなかったのだ……」
人より愛情が薄いとはいえ、私も人の親だ。
娘の不幸を望んだわけではなかった。
だが、それも勝手な言い訳か……。
新聞には、ブルービット公爵の恐ろしい悪行が、事細かに書かれていた。
多くの令嬢や使用人の若い娘たちが、切り刻まれて苦しみながら死んでいったと。
何とも言えない苦い感情が、胸にこみ上げてくる。
これが、悔恨の情というやつだろうか。
いくら詫びたくとも、いくら後悔しても、取り返しがつかないのだ。
サラディナーサに対しても、家族に対しても、そして自分自身に対しても。
いくら反省したところで、手放した時間は、二度と戻ってこない。
今の私は、ただの一平民だ。
日々の生活にも喘ぐ、哀れで惨めな老人だ。
なんの力もない、なんの価値もない、路傍の石と同じ。
「それでも……、私にも出来ることはある……」
私は何十年かぶりに流した涙を、手で拭いながら立ち上がった。
膝の痛みに耐えながら、ゆっくりと礼拝所へと向かう。
神を信じているわけではない。
ただ、今は何も考えずに、祈りたいのだ。
サラディナーサの為に。
私の娘の為に。
彼女が受けた苦しみを、私への恨みを考えながら。
自分の犯した罪をこの身にしっかりと受け止めながら。
彼女の幸せを。
もし生まれ変わりというものがあるのならば、次こそは愛ある両親の元に生まれ、幸せになってほしいと。
ただ、サラディナーサの為に、祈りたい。
サラディナーサ。
私の娘へ。
いつの日か彼女に、祝福が届くように……。
ブルービット公爵といえば、娘の夫であり、我が家門の救世主ではなかったか。
いや、全ては過去の話であるが。
娘は……何という名前だったか。
……そうだ、サラディナーサだ。
末の娘。大人しく、文句も言わず、ただただ人形のような娘が、ブルービット公爵に嫁ぐことを命じた時だけは、大泣きして反抗したのが思い出された。
そう、私は彼女を落ち着かせようと笑顔で言ったのだ。
何も、問題ないと。
ブルービット公爵が恐ろしい人だというのは、ただの噂だと。
噂ではなかったのか。
では、サラディナーサも、やはり事故ではなく、公爵に殺されたのか。
可哀想な事をしたのかもしれないな。
そう思いながらも、私は自分が、少しも娘に憐憫の情を感じていない事を知っていた。
私には人を愛したり大切にする、という事がよくわからない。感情が欠けているのだろう。
だが貴族など、皆たいていそんなものではないだうか。
ただただ、家門を存続させる為だけに、より条件の合う人間と結婚する。
家を継がせる為に息子をつくる。
他家とのつながりを持つ為だけに、娘をつくり嫁に出す。
それが、繰り返される貴族の在り方だ。
家族とはいえ、妻も私と同じような人間であったので、互いに相手に興味もなく、干渉もせず、各々の責務をはたしていた。
息子ができ、娘が生まれ、やれやれこれで家門を守るという仕事から解放されると喜んだ。
だが、運悪く、所有領地では干ばつが続き、おさめられる税額が一気に下がった。
娘達を有力貴族に嫁がせたが、期待したほどの援助は得られなかった。
一向に状況は良くならず、家計は悪化する一方。
そんな時に、ブルービット公爵から打診があったのだ。
末の娘を嫁によこせば、礼金を渡す、と。
その額は、無視できないほどの大金だった。
私は妻と後継者である息子と相談し、皆、笑顔でこの婚姻を了承する事を選んだ。
ただ、当事者のサラディナーサだけは、この話を受け入れようとしなかった。
生まれてはじめてみる娘の、激しく泣く姿に驚いた。ブルービットのおどろおどろしい噂話を知っていたのだ。
この婚姻が成れば、私達は20年は金銭の心配をせずに暮らせるのだ。
娘にとっても、この困窮した家にいるより、公爵家に入った方が、贅沢な暮らしが出来る筈だ。その方が、幸せになれるだろう。
そう思って、無理やり送り出した娘は、1年後に死んだ。
事故死だと聞いた。
結婚式に娘を見たのが、最後となった。
慣れというのは怖いものだ。
娘と引き換えに、私達は大金を手にした筈だった。
しかし、領地の改善ではなく、自身を着飾る事の為に金を使うことを覚えた私達は、あっという間に贅沢に慣れた。
気づいた時には、もう手遅れだった。
財政が、もはやどうにもならないほど困窮したのだ。
結局、私は貴族籍を財政力のある商人に売ることとなった。
妻は平民になるなどまっぴらだと、破産前に離婚し、実家に帰っていった。
息子は、格下の貴族の娘の入り婿となった。
息子にも娘にも、私が平民になった後は、一度も会っていない。
私の元には、1軒の古びた小さな小さな家だけが残った。
その小さな庭で野菜を育て、市場で売る。
ここ数年の、私の日課だ。
衣服の洗濯も、食事の用意も、家の掃除も、買物も、全て自分でしなくてはならない。
執事が家計を取り仕切り、使用人達が掃除洗濯などを担当し、3度の食事を料理人がつくる。
馬車で領地に視察に行けば、領民達が頭を下げてよってくる。
定期的に、王宮や各貴族の館で開催されるパーティーで煌びやかな衣装を身につけ、酒を飲みながら社交活動をする。
そんな生活は記憶の彼方に去りつつある。
今は、日々の糧をいかに得るか、そればかり考える毎日だ。
喜びも、悲しみも、怒りも、後悔も。
ほとんど感じる事はない。
去っていった妻や、子供達への恨みも感じない。
もし、私の父親が私のような境遇になれば、私も息子と同じように行動するだろうから。
皆、自分の事だけで精一杯。
人の事まで、考える余裕がないだけなのだ。
それは、よくわかる。よく、理解できる。
だが……。
サラディナーサの泣き顔が頭から離れない。
彼女は、私を恨んでいたのだろうか。
私は彼女を、殺人鬼に差し出した悪人なのだろうか。
「違う……そんなつもりではなかったのだ……」
人より愛情が薄いとはいえ、私も人の親だ。
娘の不幸を望んだわけではなかった。
だが、それも勝手な言い訳か……。
新聞には、ブルービット公爵の恐ろしい悪行が、事細かに書かれていた。
多くの令嬢や使用人の若い娘たちが、切り刻まれて苦しみながら死んでいったと。
何とも言えない苦い感情が、胸にこみ上げてくる。
これが、悔恨の情というやつだろうか。
いくら詫びたくとも、いくら後悔しても、取り返しがつかないのだ。
サラディナーサに対しても、家族に対しても、そして自分自身に対しても。
いくら反省したところで、手放した時間は、二度と戻ってこない。
今の私は、ただの一平民だ。
日々の生活にも喘ぐ、哀れで惨めな老人だ。
なんの力もない、なんの価値もない、路傍の石と同じ。
「それでも……、私にも出来ることはある……」
私は何十年かぶりに流した涙を、手で拭いながら立ち上がった。
膝の痛みに耐えながら、ゆっくりと礼拝所へと向かう。
神を信じているわけではない。
ただ、今は何も考えずに、祈りたいのだ。
サラディナーサの為に。
私の娘の為に。
彼女が受けた苦しみを、私への恨みを考えながら。
自分の犯した罪をこの身にしっかりと受け止めながら。
彼女の幸せを。
もし生まれ変わりというものがあるのならば、次こそは愛ある両親の元に生まれ、幸せになってほしいと。
ただ、サラディナーサの為に、祈りたい。
サラディナーサ。
私の娘へ。
いつの日か彼女に、祝福が届くように……。
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