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喫茶 花時計

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俺はカウンター席に座ってマスターの奏さんと話している。


「虎君、久しぶりじゃないか。

最近、虎君が来ないって天音と空夜も寂しがってたんだよ。

事件があったとかじゃなくても、うちに集まってくれたらいいんだからな。

虎君みたいに、珈琲の味が分かる人に飲んでもらいたいからさぁ…

僕の珈琲」


奏さんは、丁寧にハンドドリップした珈琲を俺の前に置いてニッコリと笑う。


その癒し効果満点の笑顔に、テーブル席にいる常連マダム達が胸を撃ち抜かれていた。


そんな様子に全く気づかない様子で俺に近況を聞いてくる奏さんは罪深いオトコなのだ。


「そう言えば久しぶりですね。

天音さんは、たまに夜の集会でご一緒しますけど…

奏さんと空夜さんと会うのは久しぶりかも?

俺も奏さんの珈琲好きなんで、時間がある時に伺いますね」


「あー確かに、虎くんとは店外では会ってるな」

 
「天音だけズルいな。

俺も虎と遊びたいんだよ。

虎達の集会、俺も行っていいか?」


「空夜さんが来てくれたら女子達が喜びますよ。

空夜さんと話してみたいって前から言ってた子がいるんで、是非来てくださいよ。

週末の夜に集まってますから」


俺は、あやかしの大先輩である天音さんと空夜さんに緊張しながらも何とか返答する。


おふたりは、昔から奏さんの家にいたようで奏さんとは家族のように振舞っているのだ。


奏さんがお祖父さんから、喫茶店を受け継いだ時は心配しながらも、お客さんとして店に通っていたらしいのだが…


奏さんは、いわゆる天然タラシに属するお方で自分では知らないうちにフェロモンを振り撒いて老若男女問わず骨抜きにしてしまうものだから…


それ故に、奏さんに交際を申し込んで出禁になった人は星の数程いると聞いている。


猫又である天音と妖狐である空夜の力によってこの店の記憶を亡くしてしまったり、この店にたどり着けなくなる術をかけているのだろう。


なので、テーブル席のマダム達のように奏さんを離れて見守る人達だけしか常連になれないのだ。


そんな奏さんに喫茶店を任すと大変な事になると心配した2人は従業員として奏さんを見張る事にしたのだと言う。


それにしても…


クロ遅いなぁ…


俺はどちらかと言えば無口な方だから、クロみたいに明るくお喋りが得意な奴がいないと間が持たないんだよ。


終始にこにこしている奏さんと、その両脇に侍る美しい猫又天音と、これまた美形の妖狐空夜に見つめられながら俺は緊張しながら奏さんのスペシャルブレンドを飲んでいる。


クロか、ありさちゃん…


早く来てくれと願いながら…


大先輩である猫又と妖狐の圧がヤバいのだ…


並の人間なら気絶してしまうよね?


常連さんは、この圧に耐えられる奏さん推しか、珈琲、もしくはお花好きなんだろうなぁと心の中で推測する俺様である。


俺様も、何十年かしたら迫力ある猫又になれるんだろうか?

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