聴かせてよ愛の歌を…翔と華那恵のラブストーリー

かのん

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第二部第一章ⅡⅩⅦ

隆二と玲子Ⅱ~隆二への告白~

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翔は自分の部屋に戻り、ベッドに
身を投げ出した。

仰向けとなり、天井を眺める。

(絵里に仕返しを果たすことができた。
 しかし―このむなしさはなんだ?
 満足感に浸れるはずだったのに…
 絵里が助けを求める姿は、
 俺が望んだもののはずだったのに…。
 けれど、俺の心はどういうわけか
 ポッカリと穴が空いているんだ…)

「………………あれで、
 よかったんだよな……?」

翔はゴロンと寝返りをうってみた。
それでも気分は最悪の状態だった。

翔の頭の中に泣き叫ぶ絵里の姿が
浮かんでくる。

『イヤァ~ッ、やめてぇっ!』

『へっへへへ』

『やだ……やだあぁぁぁっ!』

『やめて…翔ちゃんが死んじゃう!」

その姿があの日の華那恵の姿に
重なって見える。





「………………」

 コンコン

 ガチャ

「あれ?なんだ、開いてる
 じゃないか?」

「……隆二さん」

「あいかわらず無用心だな。
 ほら、差し入れだ」

隆二はうっすらと缶ビールと
ノンアルコールビールが透けて見える
コンビニのビニール袋をかざして見せた。

そして、その中の一本を取り出して
寝ている翔に放り投げた。

「寝るにはまだはやい時間だろ?」

 ヒョイッ

「わわっ、ちょ、ちょっと」

 パシッ

「やるな翔。俺が投げた缶ビールを
 寝た状態から片手で受け取ったヤツは
 おまえが初めてだ――つっても、
 寝っ転がってる奴に投げたのも
 初めてだけどな」

隆二は笑いながら入ってきて
テーブルの前に座る。

翔も無言で起き上がり
隆二の前に座りなおした。

「…………」

「ははっ、まあいいじゃないか。
 さあ飲もうぜ」

 カシュッ

「んぐっんぐっんぐっ……ぷはっ」

「………………」

「どうした?ぬるくなっちまうぞ」

「……じゃあ」

 カシュッ

「ごきゅっごきゅっごきゅっ…
 …ぷはぁ」

「んぐっんぐっ」

「ごきゅっごきゅっ」

「んぐっんぐっ」

「ごきゅっごきゅっ」

 カンッ…

二人で何本もそれぞれのビールを
飲み干していく。
隆二は空き缶をテーブルの上に置いて、
黙って翔の顔を見つめた。

「………………」

「……?」

その視線に気づき翔が不思議そうに
隆二を見つめなおすと隆二は姿勢を
正し翔に話しかけてくる。

「…………翔…。…ありがとな」

「……なにが、です?」

「玲子から全部聞いたんだ。
 本当にありがとう。
 翔が助けてくれなかったら
 今ごろどうなっていたか……
 おまえにはでかい借りができた」

「や、やめてください。
 俺は、当たり前のことを
 しただけですから」

「だけど、俺の不用意な行動で――」

「それは仕方ないですよ、
 俺も絵里が『1時間だけでも』
 って言ったときには、
 すっかり改心したんだなって
 騙されてましたから
 あいつの悪巧みに気がついたのは、
 たまたま、俺が絵里のことを
 気にしてたからで……」

「しかし……関係ない絵里のことで
 おまえの手を煩わせてしまった」

「いいんですって。
 それに、借りなら俺のほうが
 もっといっぱいあります。
 今回のことぐらいじゃ、全然、
 返したことにはならないぐらいの
 借りが…」

「……とにかく、ありがとう」

「隆二さん……」

隆二は深々と頭を下げた。

(うれしかった。俺は隆二さんを
 実の兄貴のように慕っている。
 憧れ、尊敬してやまない、少しでも
 近づきたい存在なんだ。
 そんな人から感謝の言葉を言われ
 たんだ。でもそれと同時に、
 さっきから気になっていた事が…
 胸にポッカリと空いた穴が急速に
 大きくなっていく気がする。
 いくら玲子さんを襲おうとしたから
 といっても、いくら昔うけた屈辱を
 晴らすためだからといっても、
 はたしてあそこまでひどい仕返しを
 する必要があったのだろうか?)

翔は隆二に御礼を言われて嬉しい反面、
絵里の事、自分がした事が気になって
いた。そんな翔の態度に違和感を感じる
隆二は翔の顔を見ながら聞いてきた。

「………翔?」

(もし俺が絵里だとしたら、もう二度と
 隆二さんの前に姿を現すことなど
 できないだろう。
 会ってしまえば、嫌でも今日のことが
 呼び起こされる。
 今日のことは絵里にとって、忘れたく
 てもけっして忘れ去ることのできない、
 悪夢となってしまったんだ)

「どうしたんだ翔?」

「……隆二さん」

(俺がしたことは正しかったのだろうか?
 この先、俺がやろうとしていることは
 正しいのだろうか……わからない)

翔は心を決めて隆二の顔を
まっすぐ見つめ話始めた。

「俺、絵里と…無関係じゃないんです」

「?」

「俺、絵里とは…顔見知りだったんです。
 以前言った、華那恵のためにこの街へ
 帰ってきたということのほかに……
 俺は、あいつらに仕返しするために
 この街に帰ってきたんです」

「なん……だって?」

(誰にも打ち明けるつもりはなかった。
 これは俺だけの問題…。
 …そう割り切って仕返しを…復讐を
 果たそうとしてきた。
 でも、それだけでは済まないような
 気がする。
 俺の心の奥底に蠢く黒い真実…
 伝えれば隆二さんに嫌われてしまう
 かもしれない。
 けれど今日、絵里を公園に…
 あいつらの前に押し出した時から…
 あのときから、この気持ちを俺の
 胸だけにしまっておくことが不可能
 となっているんだ。
 隆二さんに言ってしまって…
 少しでも楽になりたい…)

隆二は黙って翔の話を聞いてくれていた。
華那恵のこと、そして、翔自身のことを
すべてを話し終えたとき、翔の頬には
涙が伝っていた。

「……そうだったのか。
 正直、おどろいた。
 おまえには、このまえ話してくれた事
 以上になにか事情があるとは思って
 いたけど……。まさかそういうこと
 だったとは…」

「………………」

「ここまでおまえは変わったんだ。
 それだけの決意があったに違いない。
 だがな翔――」

隆二の瞳が真っ直ぐ翔を見つめていた。

「これだけは言っておくぞ……
 おまえの気持ちは解る。
 しかし、だからこそ、
 おまえはそんなことで自分の拳を
 使ってはいけない。

 俺は、仕返しや復讐を続けていけば
 翔自身はもちろん……周りの人間、
 おまえが大切にしたいはずの人たち
 まで不幸になっていくような……
 そんな気がしてならない」

隆二の力強い瞳が翔を見つめる。
翔の頬に流れる涙がさらに熱い物に
変っていく。

「なあ翔。おまえ、なんのために
 強くなろうとしたんだ?
 仕返しや復讐のためか?
 違うだろ?
 おまえは過去のことは忘れて、
 自分の幸せのために生きるべきだ。
 それがベストだと思う」

「隆二さん……」

「いいか翔。俺は、おまえの復讐には
 賛成できない。
 でも、おまえがこれから自分の幸せの
 ために努力していくというのなら、
 いくらでも応援してやる。
 憶えておいてくれ」

(隆二さんは俺の気持ちを理解して、
 正しい方向へ導こうとしている……。
 こんな…俺の為に…真剣に…)

翔の頬にとどめなく流れる涙。

「よし、いい機会だ。
 今日はとことん飲み明かそう。
 場所変えて俺の部屋に行こうぜ。
 玲子も改めて礼を言いたいって
 いたしな…」

「……ありがとう、ございます」

「なに言ってんだよ? 辛気臭いなぁ。
 もうこの話は終わり。
 パアーッと飲んで、パアーッと騒いで、
 パアーッと明るくいこうぜっ」

「は、はい……」

隆二に肩を抱かれた翔は、誘われるまま
に玲子さんの待つ隆二の部屋へなだれ
込んでいった。
翔と隆二は玲子と共に、明け方近く迄
飲みながら話し合っていったのであった。




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