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終話 異世界政治をぶっ壊させていただきますわ
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「おい、エリ……いや、エリーゼ筆頭大臣。どこへ向かうのですか?」
「もう、お父様ったら。ここは家なんだからそんなかしこまらなくていいの」
「う、うむ。だがどうも議場での癖がな」
「ふふ、今日はあの日ですから」
「あ、そうか。今日か」
「まだ若いとして、その後見をしてくれたお父様には感謝しておりますわ。けどもうそろそろ、私も独り立ちしてもよいと思ってますの」
「ああ。お前はこの数年、身を粉にして働いてきたからな。大きな間違いもなく、この国はかつてない興隆の中にあるといっていい。全てお前の手柄だよ」
「私を支えてくれた皆の力ですわ。特に、娘に仕えるようにして臣民を安定させるお父様の」
「いや、しかしここまで国が変わるとはな。共和政、だったか。中央区と上町の境界もなくなってきているし、下町の再開発も進んでいる。貴族たちの反発は当初すごかったが、ここまでこぎつけるとは。やはり先年のイチノ国の侵攻と王の決定が効いたということか」
「前パパは言っていました。立っている者は馬鹿でも使え。どれほど無能な者でも1つは取柄がある。それを見極めるのが為政者としての在り方、ですわ」
「前パパ? どういうことだ? いや、誰の話だ?」
「ふふ。お父様にはいつかお話する日が来るかもしれませんわね。では、行ってまいります」
「お、おお。気を付けて、な。……ふぅ、私はこれまでを守る政治しかしてこなかった。けれど変わらなければならないのかもな。そしてそれをするのが若い者だということか」
あれから3年。
ガーヒルの反逆疑惑を受け、彼から全てを没収した国王陛下は私を筆頭大臣に任命した。政治に空白は許されない、イチノ国を撃退した手腕を評価されてのことで、貴族たちもそれほど考えずにそれを許可した。
自分たちの首を絞められるとも知らずに。
まだ若いという理由で先の筆頭大臣――要は今パパがその後見についたけど、今パパはあまり口を挟むことなく、むしろ応援するような立場で私の改革を見守ってくれた。貴族という身分が、形骸化していく可能性のある法案についても積極的に応援するそのひたむきさは、滑稽さを越えて呆れもしてくる。
本当、エリーゼには甘いんだから。
まぁもちろん。既得権益を引っぺがすとはすぐには分からないよう、色々工夫はしましたけれど。
そんな甲斐もあってこの国から貴族の力が弱まり、庶民の議会参入も相まって活気づいている。
商業施策も今のところ上手く行っているように見えるから、上町の人たちの顔色も明るく見える。
それが嬉しくて私は上町に出る。
前に選挙事務所を置いていた辺りまで出ると、顔見知りも多くなってくる。
その中の1人がこちらに気づいて笑顔を見せた。
「おお、エリ様! いいところに!」
「ちょっと、あんた! エリ様じゃなくて筆頭大臣様でしょう」
「いえ、いいのですわ。皆さんにはお世話になってますし。それにそんな堅苦しい呼び名、実は好きじゃないんですの」
「ほれみろ。エリ様は俺たちの味方だ。いや、ほんとにエリ様には頭が上がらねぇ。俺たちの暮らしにもゆとりができてな。今度、美味いポタージュをご馳走するよ」
「まぁねぇ。前より全然暮らしやすいし。ほら、貴族の連中もおとなし……あ、申し訳ありません。エリ様の前で」
「いいのですよ。いずれそんな垣根も取れる。そう考えていますから」
貴族を無くす。
それは身分制度を変えるというわけではなく、貴族にもしかるべき仕事をしてもらうということ。
本来は高貴な者の義務として、国民を守ること、子供たちの教育、公平な裁判を行うことなど貴族の仕事はしっかりと定まっている。
ただ長い年月でその制度が形骸化し、貴族というものは庶民から税を搾り取って豪華な生活をするだけの無能に成り下がってしまっていた。
だからそれを取り戻す。
国防、そして教育。裁判権まで与えると、金と癒着の問題になるから外したわ。
そうやって何もせずに血税で贅沢するだけの貴族を無くす。それが私の理想。
前パパは言ってました。
『現世利益のためにあくどいことをして金をむさぼることに意味はないとパパは思っているよ。だって金だけあっても、本当に心は満たされないからね。満たされているといっている連中は、後ろめたさを虚偽で塗りたくって見てみぬふりしているだけさ。しかも命を狙われるリスクも高まる。死んだら金は無になる。子供に残すといっても、それは自己満足以外の何物でもない。だったら良いことをして、皆に慕われ、長生きして、お金を一杯もらって贅沢した方がいいじゃないかな? そうすればもしかしたら歴史に名を残すかもしれない。そうしたら永遠だよ。ほら。現世も、死後もすべてが満たされている。そういう政治をパパはしたいんだよ』
それには大いに賛同するところがあって、それが今の私の政治理念になっている。
ふふ。想像してみてよ。
没落し、滅亡の危機に瀕した国を立て直した名君。その威光は全国に轟き、果てはこの美貌でしょ。エリーゼ・バン・カシュトルゼ物語。いいじゃない。書籍化に映画化待ったなしね。もう歴史に名を残すどころの騒ぎじゃないわ。
けどそのためには小説・漫画文化を根付かせて、映画を作らないといけないわね。ほんとやることが多すぎるわ。
「そうだ、エリ様。ソフィア様が中で待ってますよ」
「ええ、そのために今日はここに来たんですから」
そう。今日は彼女に会いに来るためにここまで来た。
元選挙事務所。
現ソフィア・アノマニスムのフラワーアレンジメントショップ。
その開店記念日に。
「あら、エリ。早かったわね」
店の中から現れたソフィーは、これまでの貧乏貴族という風体はみじんもなく、活き活きとした活力に満ちたいち国民の姿に染まり切っている。
それが悪いとは思わない。
だってこれまでの、誰かの操り人形でしかなかった彼女と違って、今の彼女はしっかりと自分の足で立っているのだから。
3年前。ガーヒルがああなった以上。彼女の家は破綻寸前まで迫っていた。
それを変えたのが彼女。
彼女は所持しているわずかな土地と、男爵としての権利を売却。そして上町に移り住んで、ほそぼそと暮らしながらずっと勉強をしていた。経営についての、だ。
そして財産をはたいて設立したのがフラワーアレンジメントショップ。
本来はただのフラワーショップだったんだけど、ちょっと変えたらウケるんじゃない? という私の意見でこうなった。
お花屋さんなんて本気かしらと思っていたけど、生来の生真面目さで必死に経営を勉強した上に、彼女の花を見るセンスは抜群だったから多分成功するんじゃないかな。というかさせます。
「ソフィー、今日はおめでとう」
「ありがとう、エリ。でもここまでこれたのもエリのおかげ。色々援助してくれたし、何より資金も……」
「その話は言いっこなしでしょ。言ったじゃない、これは投資だって。いっぱいいっぱい働いて店の名前をこの国だけじゃなく外国にも轟かせるようになれば――贈答品として外交に役立ってくれるだろうし。その時は3割引きで頼むわ」
「エリは厳しいね。同時に優しい。うん……本当に、ありがとう」
なんかむずかゆいことを言われたわね。まぁいいわ。
私としては彼女が未来を生きてくれてるのが嬉しい。
何より私をちゃんと呼び捨てで呼んでくれることも。
なんてちょっとした幸福感を感じているところ。何やら騒ぎが近づいてきた。
「てめぇ、なんでここにいるんだよ!」
「私は国防警備隊の隊長としての責務を果たそうとしているだけだ! 貴様こそなんだ!」
「こっちは復興のために各地を見回っているんだよ。そこで見聞きしたことをエリに伝える! それが契約だ」
「契約? はっ、つまりお前はエリーゼ様の下につくことになったんだな。おめでとう。お前は一生、エリーゼ様の隣には立てない。そう、あのお方の隣に立つのはこの私だ!」
「う、うるせぇ! てめぇこそ同じ王都にいるのに何もしねぇで! お前なんて、ほら、あれだ! 使い捨ててポイだ!」
はぁなんかやかましいのが来たわね。
てか私の隣に立つとか、本人の意見を無視して決めないでくれる?
「エリーゼ様(エリ)! 大変だ!」
「なに、クロイツェル、ダウンゼン」
「イチノ国がまた攻めてくる!」
ざわっと周囲の空気が変わった。
この馬鹿×2。そんなことを堂々と日中の通りで言うんじゃないわよ。皆が不安がるでしょ。
「はいはい。皆さん、安心して。どうせイチノ国にこの王都、いえハバリエ王国のわずかな土地すらも踏ませませんから」
そう言い含めると、ホッとした空気が流れる。
「なぁんだ。エリ様に任せときゃ問題ないな」
「ええ。なんてったってエリ様ですものね。応援してます!」
おじさんたちはそう言って安心しきってくれたけど、完全に私頼みってのもちょっと辛いわよ?
「しかしエリーゼ様。由々しき事態が」
と、クロイツェルが反省してか近づいて声を落としてそう言ってきた。ダウンゼンも同様に。
「そうだぜ、軍を率いるのは去年、議会を掌握したザーラド将軍だ。そしてその副官が……」
「ああ、なるほど。彼でしょう」
「知ってたのか……あの男が、イチノ国に亡命したって」
「いえ。でも彼ならそれくらいのことはするかと」
命を助けた相手に感謝を感じるのも期間はあると思いましたが。3年。ニワトリよりは賢いと思ってましたが。まぁそのレベルですわね。
「じゃあそろそろ決着をつけますか。ごめん、ソフィー。すぐに戻らなきゃいけなくて――」
「いえ、エリ。私も、行きます」
私の眼を見返してきたソフィーがそう告げた。
「いいの? つらいことになるかもだけど?」
「それでも。私はしっかりと見たい。私の生きる意味を、あの人との過去を。未来を生きるために、向き合わないと」
ソフィーの瞳には、最初に出会った時に浮かんでいた怯えや戸惑いの色はない。自分の人生を、自分で選ぶことを決めた強い意志が宿っている。
思えば私もこの子も。あの男に人生を狂わされたのね。
だからこそ彼女を救いたかったし、友達でありたかった。
その第一歩は叶えられたと思う。
あとはその後。それがどう動くかは、もうそれこそ女神さまでも存じ上げないでしょう。
うふふ。分からない。
だからこそ人生は面白い。
さてさて。せっかくですからこの世界。もっと楽しませてもらいましょうか。
とりあえずやってきたイチノ国の軍勢は、国境付近に築いた砦で連携して足止め。その隙にマセン国とキュレイ国にアーネルセン国にイチノ国を攻めさせましょう。この3国、互いを敵視して身動き取れない――という振りをしてもらっていたから、それで彼らは安心して国を留守にしたんでしょうけど。
まぁ本当に3国が仲たがいしているとして、イチノ国の農民に反乱を起こさせたり、流言を流して足止めはできるはず。例えばガーヒルはイチノ国を混乱させるために来たスパイだ、とかね。
その間に増強された国境警備隊を向けながら、国都から主力を出す。そうすれば負けはしないでしょう。
イチノ国の軍を撃退したらどうしましょうかね。そのまま返す刀でイチノ国を制圧するのもいいかも。でもできれば流す血は少なく。ということはやっぱり実弾ですわね。
この数年。経済政策として関税強化と貿易拡大、政府信用金庫による中小の商人援助らをやってきているから、そこそこに国庫は潤い始めてきている。未来への投資として、ちょっと使ってしまおうかしら。
ふふ、未来に想いを浮かべるのも楽しいもの。
だって私は悪役令嬢。
悪役というのですから、思い切って夢は世界征服だなんて。
言っちゃってもいいんじゃない?
ーーーーーー
以上でこの物語は終了です。
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。
本当はもっと短く終わるつもりだったのですが、なんやかんやでここまで長引きました。それでもこの物語を楽しんでいただけたら幸いです。
そもそもがほぼ悪役令嬢ものを知らずに、やってみたら面白いのでは?という思いつきで書いたものですので、未熟な部分が多々ありもう少しどうにかできなかったかなと思う部分もありました。
それでもここまで書き終えることができましたのは、ひとえに皆様のおかげと思っております。ありがとうございました。
「もう、お父様ったら。ここは家なんだからそんなかしこまらなくていいの」
「う、うむ。だがどうも議場での癖がな」
「ふふ、今日はあの日ですから」
「あ、そうか。今日か」
「まだ若いとして、その後見をしてくれたお父様には感謝しておりますわ。けどもうそろそろ、私も独り立ちしてもよいと思ってますの」
「ああ。お前はこの数年、身を粉にして働いてきたからな。大きな間違いもなく、この国はかつてない興隆の中にあるといっていい。全てお前の手柄だよ」
「私を支えてくれた皆の力ですわ。特に、娘に仕えるようにして臣民を安定させるお父様の」
「いや、しかしここまで国が変わるとはな。共和政、だったか。中央区と上町の境界もなくなってきているし、下町の再開発も進んでいる。貴族たちの反発は当初すごかったが、ここまでこぎつけるとは。やはり先年のイチノ国の侵攻と王の決定が効いたということか」
「前パパは言っていました。立っている者は馬鹿でも使え。どれほど無能な者でも1つは取柄がある。それを見極めるのが為政者としての在り方、ですわ」
「前パパ? どういうことだ? いや、誰の話だ?」
「ふふ。お父様にはいつかお話する日が来るかもしれませんわね。では、行ってまいります」
「お、おお。気を付けて、な。……ふぅ、私はこれまでを守る政治しかしてこなかった。けれど変わらなければならないのかもな。そしてそれをするのが若い者だということか」
あれから3年。
ガーヒルの反逆疑惑を受け、彼から全てを没収した国王陛下は私を筆頭大臣に任命した。政治に空白は許されない、イチノ国を撃退した手腕を評価されてのことで、貴族たちもそれほど考えずにそれを許可した。
自分たちの首を絞められるとも知らずに。
まだ若いという理由で先の筆頭大臣――要は今パパがその後見についたけど、今パパはあまり口を挟むことなく、むしろ応援するような立場で私の改革を見守ってくれた。貴族という身分が、形骸化していく可能性のある法案についても積極的に応援するそのひたむきさは、滑稽さを越えて呆れもしてくる。
本当、エリーゼには甘いんだから。
まぁもちろん。既得権益を引っぺがすとはすぐには分からないよう、色々工夫はしましたけれど。
そんな甲斐もあってこの国から貴族の力が弱まり、庶民の議会参入も相まって活気づいている。
商業施策も今のところ上手く行っているように見えるから、上町の人たちの顔色も明るく見える。
それが嬉しくて私は上町に出る。
前に選挙事務所を置いていた辺りまで出ると、顔見知りも多くなってくる。
その中の1人がこちらに気づいて笑顔を見せた。
「おお、エリ様! いいところに!」
「ちょっと、あんた! エリ様じゃなくて筆頭大臣様でしょう」
「いえ、いいのですわ。皆さんにはお世話になってますし。それにそんな堅苦しい呼び名、実は好きじゃないんですの」
「ほれみろ。エリ様は俺たちの味方だ。いや、ほんとにエリ様には頭が上がらねぇ。俺たちの暮らしにもゆとりができてな。今度、美味いポタージュをご馳走するよ」
「まぁねぇ。前より全然暮らしやすいし。ほら、貴族の連中もおとなし……あ、申し訳ありません。エリ様の前で」
「いいのですよ。いずれそんな垣根も取れる。そう考えていますから」
貴族を無くす。
それは身分制度を変えるというわけではなく、貴族にもしかるべき仕事をしてもらうということ。
本来は高貴な者の義務として、国民を守ること、子供たちの教育、公平な裁判を行うことなど貴族の仕事はしっかりと定まっている。
ただ長い年月でその制度が形骸化し、貴族というものは庶民から税を搾り取って豪華な生活をするだけの無能に成り下がってしまっていた。
だからそれを取り戻す。
国防、そして教育。裁判権まで与えると、金と癒着の問題になるから外したわ。
そうやって何もせずに血税で贅沢するだけの貴族を無くす。それが私の理想。
前パパは言ってました。
『現世利益のためにあくどいことをして金をむさぼることに意味はないとパパは思っているよ。だって金だけあっても、本当に心は満たされないからね。満たされているといっている連中は、後ろめたさを虚偽で塗りたくって見てみぬふりしているだけさ。しかも命を狙われるリスクも高まる。死んだら金は無になる。子供に残すといっても、それは自己満足以外の何物でもない。だったら良いことをして、皆に慕われ、長生きして、お金を一杯もらって贅沢した方がいいじゃないかな? そうすればもしかしたら歴史に名を残すかもしれない。そうしたら永遠だよ。ほら。現世も、死後もすべてが満たされている。そういう政治をパパはしたいんだよ』
それには大いに賛同するところがあって、それが今の私の政治理念になっている。
ふふ。想像してみてよ。
没落し、滅亡の危機に瀕した国を立て直した名君。その威光は全国に轟き、果てはこの美貌でしょ。エリーゼ・バン・カシュトルゼ物語。いいじゃない。書籍化に映画化待ったなしね。もう歴史に名を残すどころの騒ぎじゃないわ。
けどそのためには小説・漫画文化を根付かせて、映画を作らないといけないわね。ほんとやることが多すぎるわ。
「そうだ、エリ様。ソフィア様が中で待ってますよ」
「ええ、そのために今日はここに来たんですから」
そう。今日は彼女に会いに来るためにここまで来た。
元選挙事務所。
現ソフィア・アノマニスムのフラワーアレンジメントショップ。
その開店記念日に。
「あら、エリ。早かったわね」
店の中から現れたソフィーは、これまでの貧乏貴族という風体はみじんもなく、活き活きとした活力に満ちたいち国民の姿に染まり切っている。
それが悪いとは思わない。
だってこれまでの、誰かの操り人形でしかなかった彼女と違って、今の彼女はしっかりと自分の足で立っているのだから。
3年前。ガーヒルがああなった以上。彼女の家は破綻寸前まで迫っていた。
それを変えたのが彼女。
彼女は所持しているわずかな土地と、男爵としての権利を売却。そして上町に移り住んで、ほそぼそと暮らしながらずっと勉強をしていた。経営についての、だ。
そして財産をはたいて設立したのがフラワーアレンジメントショップ。
本来はただのフラワーショップだったんだけど、ちょっと変えたらウケるんじゃない? という私の意見でこうなった。
お花屋さんなんて本気かしらと思っていたけど、生来の生真面目さで必死に経営を勉強した上に、彼女の花を見るセンスは抜群だったから多分成功するんじゃないかな。というかさせます。
「ソフィー、今日はおめでとう」
「ありがとう、エリ。でもここまでこれたのもエリのおかげ。色々援助してくれたし、何より資金も……」
「その話は言いっこなしでしょ。言ったじゃない、これは投資だって。いっぱいいっぱい働いて店の名前をこの国だけじゃなく外国にも轟かせるようになれば――贈答品として外交に役立ってくれるだろうし。その時は3割引きで頼むわ」
「エリは厳しいね。同時に優しい。うん……本当に、ありがとう」
なんかむずかゆいことを言われたわね。まぁいいわ。
私としては彼女が未来を生きてくれてるのが嬉しい。
何より私をちゃんと呼び捨てで呼んでくれることも。
なんてちょっとした幸福感を感じているところ。何やら騒ぎが近づいてきた。
「てめぇ、なんでここにいるんだよ!」
「私は国防警備隊の隊長としての責務を果たそうとしているだけだ! 貴様こそなんだ!」
「こっちは復興のために各地を見回っているんだよ。そこで見聞きしたことをエリに伝える! それが契約だ」
「契約? はっ、つまりお前はエリーゼ様の下につくことになったんだな。おめでとう。お前は一生、エリーゼ様の隣には立てない。そう、あのお方の隣に立つのはこの私だ!」
「う、うるせぇ! てめぇこそ同じ王都にいるのに何もしねぇで! お前なんて、ほら、あれだ! 使い捨ててポイだ!」
はぁなんかやかましいのが来たわね。
てか私の隣に立つとか、本人の意見を無視して決めないでくれる?
「エリーゼ様(エリ)! 大変だ!」
「なに、クロイツェル、ダウンゼン」
「イチノ国がまた攻めてくる!」
ざわっと周囲の空気が変わった。
この馬鹿×2。そんなことを堂々と日中の通りで言うんじゃないわよ。皆が不安がるでしょ。
「はいはい。皆さん、安心して。どうせイチノ国にこの王都、いえハバリエ王国のわずかな土地すらも踏ませませんから」
そう言い含めると、ホッとした空気が流れる。
「なぁんだ。エリ様に任せときゃ問題ないな」
「ええ。なんてったってエリ様ですものね。応援してます!」
おじさんたちはそう言って安心しきってくれたけど、完全に私頼みってのもちょっと辛いわよ?
「しかしエリーゼ様。由々しき事態が」
と、クロイツェルが反省してか近づいて声を落としてそう言ってきた。ダウンゼンも同様に。
「そうだぜ、軍を率いるのは去年、議会を掌握したザーラド将軍だ。そしてその副官が……」
「ああ、なるほど。彼でしょう」
「知ってたのか……あの男が、イチノ国に亡命したって」
「いえ。でも彼ならそれくらいのことはするかと」
命を助けた相手に感謝を感じるのも期間はあると思いましたが。3年。ニワトリよりは賢いと思ってましたが。まぁそのレベルですわね。
「じゃあそろそろ決着をつけますか。ごめん、ソフィー。すぐに戻らなきゃいけなくて――」
「いえ、エリ。私も、行きます」
私の眼を見返してきたソフィーがそう告げた。
「いいの? つらいことになるかもだけど?」
「それでも。私はしっかりと見たい。私の生きる意味を、あの人との過去を。未来を生きるために、向き合わないと」
ソフィーの瞳には、最初に出会った時に浮かんでいた怯えや戸惑いの色はない。自分の人生を、自分で選ぶことを決めた強い意志が宿っている。
思えば私もこの子も。あの男に人生を狂わされたのね。
だからこそ彼女を救いたかったし、友達でありたかった。
その第一歩は叶えられたと思う。
あとはその後。それがどう動くかは、もうそれこそ女神さまでも存じ上げないでしょう。
うふふ。分からない。
だからこそ人生は面白い。
さてさて。せっかくですからこの世界。もっと楽しませてもらいましょうか。
とりあえずやってきたイチノ国の軍勢は、国境付近に築いた砦で連携して足止め。その隙にマセン国とキュレイ国にアーネルセン国にイチノ国を攻めさせましょう。この3国、互いを敵視して身動き取れない――という振りをしてもらっていたから、それで彼らは安心して国を留守にしたんでしょうけど。
まぁ本当に3国が仲たがいしているとして、イチノ国の農民に反乱を起こさせたり、流言を流して足止めはできるはず。例えばガーヒルはイチノ国を混乱させるために来たスパイだ、とかね。
その間に増強された国境警備隊を向けながら、国都から主力を出す。そうすれば負けはしないでしょう。
イチノ国の軍を撃退したらどうしましょうかね。そのまま返す刀でイチノ国を制圧するのもいいかも。でもできれば流す血は少なく。ということはやっぱり実弾ですわね。
この数年。経済政策として関税強化と貿易拡大、政府信用金庫による中小の商人援助らをやってきているから、そこそこに国庫は潤い始めてきている。未来への投資として、ちょっと使ってしまおうかしら。
ふふ、未来に想いを浮かべるのも楽しいもの。
だって私は悪役令嬢。
悪役というのですから、思い切って夢は世界征服だなんて。
言っちゃってもいいんじゃない?
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以上でこの物語は終了です。
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。
本当はもっと短く終わるつもりだったのですが、なんやかんやでここまで長引きました。それでもこの物語を楽しんでいただけたら幸いです。
そもそもがほぼ悪役令嬢ものを知らずに、やってみたら面白いのでは?という思いつきで書いたものですので、未熟な部分が多々ありもう少しどうにかできなかったかなと思う部分もありました。
それでもここまで書き終えることができましたのは、ひとえに皆様のおかげと思っております。ありがとうございました。
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