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第4章 ジャンヌの西進
閑話45 喜志田志木(旧ビンゴ王国将軍)
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グリードを先頭とした2千が敵本陣の1万に突っ込んだ。
南門からぐるっと迂回して山に入っての隠密行動。
自分は地理なんて知りもしなかったけど、さすがは自国の領土。
彼がまさかこんな繊細な行動ができるとは思ってもみなかった。
「はっはー! これぞ無敵のグリード軍団! 帝国兵よ、我が王の弔を受けよ!」
今までのこっそりとした動きのうっ憤をはらすかのように、グリードが先頭になって突っ込んでいく。
あー、馬鹿だ馬鹿だ。
てか王太子の件。帝国兵がやったわけじゃないのに。可哀そうに。
「張り切っておりますな、グリードは」
隣に馬を寄せるクロスが声をかけてくる。
「しかし流石ですな。川の流れを変えてしまうとは」
「まだまだだよ。あんな猿真似。誰だってできる」
「厳しいですな、ジャンヌ殿には」
ふん、そんなことないさ。
あれだけ甘々に接してあげてるってのに。
「もういいでしょ。ここはうちらが主役だ。一気に行くよ」
「はっ!」
グリードが突っ込んだ穴を、さらに広げる意味で方向を変えながら敵を討つ。
といっても敵は5倍はある。すぐにこちらが疲れて、数の差で押しつぶされるだろう。
けどそれは問題なし。
俺に『一撃必殺』がある限り、この状況下では負けない。
不意に、炎が舞った。
見覚えがある。
あの時、川に叩き落としてやった男。そのスキル。
あいつ、生きてやがったのか!
リア充め、爆発するのはお前だろうに!
だがどれだけやろうと無駄なものは無駄。
突如、突風が吹き抜けた。
燃え上がった炎が風向きによって方向を変え、帝国軍の元へ向かう。
はっ、これが俺の『一撃必殺』。
条件がそろえば、そんな目くらましなど無意味。
突き崩した。
炎にまかれ、攻め立てられればいかに元帥府直属、帝国最強といえども崩れる。
勝った。
だがその瞬間、2千弱ほどが離脱するように動く。
赤地に金の縁取りの旗。帝国元帥がそこにいる。あの女。
「あれが総大将だ! グリード、行け!」
「ははぁ!!」
追う。
グリードを先頭に、500が錐のようにその旗を追う。
敵は森に逃げ込もうとしているらしい。
だがそこでもまた俺のスキルが行く手を阻む。
風向きが変わり、火の粉が森に飛ぶ。
木々に引火し一気に炎が燃え上がった。そこから鳥たちが羽ばたく。
それに驚いたのは馬だ。
もともと馬は臆病な生き物。
こんな環境の変化はひどく嫌う。
帝国の馬たちがいななき、棹立ちになる。
いける。
後ろから襲えば4倍の差なんてすぐに埋まる。
何より相手は守りの戦いになる。どうしても中心人物である総大将を守るために動かなければならないから、戦力差はもう少し縮まる。
とはいえ、あまり詰めすぎると俺のスキルの条件を満たさなくなる。敵の数がこちらより3倍以上多くないと意味がないからだ。
決めるなら一撃だ。
だが、相手はこちらの予想もしない動きをしてきた。
敵は総大将を守る動きはしない。
むしろ部隊を3つに割った。
1つは中央。そこに200。そしてそこから左右に別れるのが800ずつだ。
しかもその中央に堂々と元帥府の旗がある。
一瞬にしてその動きを判断する。
敵は元帥をおとりにして、左右からの800ずつでこちらを包囲殲滅するつもりだろう。
だが相手は一度速度を落とした上に、ぐるりと回らなければならない。
ならばその間にこちらがあの女の首を飛ばせば勝ちだ。
「グリード! 一直線に貫け!」
「御意ィィィ!」
グリードが馬速をあげて敵に突っ込む。
これで勝ちだ。
あとはあの生意気な女の首が落ちるのを見ていればいい。
しかし、衝撃を受けたのはこちらだった。
真一文字に突っ込んだグリードの部隊が弾けた。
先頭のグリードは真っ先に突き落とされたように見えた。
なにが……?
考える間にも敵は来る。
間にいるビンゴ兵が次々と突き落とされていく。
馬鹿な。
こちらはビンゴ王国の精鋭だぞ。
それに勢いはこちらにあって、相手はこちらより寡兵。何より『一撃必殺』が……。
「あ」
そこで己の迂闊さを知った。
『一撃必殺』は条件を満たせば、たとえどんな状況であろうと敵の総大将を討てる力がある。
だが、条件を満たさなければ何も起きない。
気候や時間帯は変わらない。
変わったのは、兵力差。
もともとこちらが2千で1万の敵に突っ込んだのだから、その兵力差は3倍以上。
そして相手が2千ほどで離脱してこちらが500で追撃した時も3倍以上。
だが今、相手は兵を3つに割った。
そのすべてがこちらに向かってくるなら、まだ兵力差は3倍と言ってよかった。
だが相手は割った2つを戦闘に加えず離脱させ、たった200でこちらに向かってきたのだ。
500対200。
だから俺の『一撃必殺』はその条件対象外となった。
とはいえ、相手が俺のスキルの発動条件を知っているはずがない。
俺はこれを誰にも言っていないし、仮に相手が同じスキルだったとしては、愚直な力押しすぎる。
考えられるのは1つ。
相手のスキルだ。
帝国元帥のあの女が持つスキルが、今のこの一方的な殺戮を行わせているのだとしたら。
例えば、率いる数が少ないほど強化するようなことなら――
「将軍、ここは退きましょう!」
クロスが進言してくる。
だがそれを俺はそれを否定した。
「今ここで退いたらこれまでのお膳立てが無駄になる。それに、グリードの死も」
今のは誰の言葉だ?
まさか自分なのか?
俺がそんなお膳立てとか、部下の死に心を揺り動かされる人間だなんて。
いつもなら「あー、ごめんごめん。失敗しちゃったーてへぺろ」とか言って適当にごまかすのに。
それほど、今の自分は本気なのか。
あるいは、感化されたのか。
あの滑稽なほど愚直なまでに必死に生きる、誰かさんの姿を見て。
本当に、くだらない。
こんな世界、適当に生きて死んでいくのがちょうどいいってのに。
まぁいい。
これが終われば、俺はもう不要。あとは勝手頑張ってくれ。
その前に、俺をコケにしたあの女だけは罪を償ってもらうけど!
「勝負をかけるよ」
「委細承知!」
「全軍、散開!」
指示通りに、軍が分かれる。
陣形もなにもあったものじゃない、400ほどの兵がバラバラになる。
そしてそれは、俺の必殺の陣形。
『一撃必殺』の最終形態。
相手との兵力差が3倍以下になった?
ならこちらも兵を減らすまで。
1人。
そう、俺だけになれば、相手がどれだけいようが3倍以上になる。
ならば必ず『一撃必殺』は発動する。
そうなれば勝てる。
目標を見定める。
先頭の黒い鎧。周りの兵に比べ圧倒的に細くて小さい。
あれだ。女だ。あの女だ。
風が吹く。
追い風。
敵にとっては向かい風。
さらにそこに火の粉が舞う。
そうだ。味方の炎に焼かれ、そして死ね!
剣を引き抜いた。あまり得意じゃないけど、すべてがお膳立てされれば、俺だって相手の大将くらい殺せる力がある。覚悟がある。
加速した。
だが、相手も加速した。
先頭の黒鎧。あの女。
自然、笑みが漏れる。
いい度胸だ。けど1対1なら俺の方が有利。なんてったって俺の一撃必殺が……。
「あ……」
斬った。
斬られてもいた。
ったく、得意じゃないって言ったじゃないか。
俺が得意なのは、頭を使って相手を躍らせてあざ笑うことで、直接の喧嘩とか殺し合いとか本当苦手。
なのに、1対1なんて……慣れないことをするから。
1対1
それは3倍以上じゃない。等倍。同じ。
なら、俺のスキルは発動しないよな。
空が見える。
落ちたのか。
体が動かない。
痛みはもうない。
眠い。
ようやく死ねる。
そう思った。
南門からぐるっと迂回して山に入っての隠密行動。
自分は地理なんて知りもしなかったけど、さすがは自国の領土。
彼がまさかこんな繊細な行動ができるとは思ってもみなかった。
「はっはー! これぞ無敵のグリード軍団! 帝国兵よ、我が王の弔を受けよ!」
今までのこっそりとした動きのうっ憤をはらすかのように、グリードが先頭になって突っ込んでいく。
あー、馬鹿だ馬鹿だ。
てか王太子の件。帝国兵がやったわけじゃないのに。可哀そうに。
「張り切っておりますな、グリードは」
隣に馬を寄せるクロスが声をかけてくる。
「しかし流石ですな。川の流れを変えてしまうとは」
「まだまだだよ。あんな猿真似。誰だってできる」
「厳しいですな、ジャンヌ殿には」
ふん、そんなことないさ。
あれだけ甘々に接してあげてるってのに。
「もういいでしょ。ここはうちらが主役だ。一気に行くよ」
「はっ!」
グリードが突っ込んだ穴を、さらに広げる意味で方向を変えながら敵を討つ。
といっても敵は5倍はある。すぐにこちらが疲れて、数の差で押しつぶされるだろう。
けどそれは問題なし。
俺に『一撃必殺』がある限り、この状況下では負けない。
不意に、炎が舞った。
見覚えがある。
あの時、川に叩き落としてやった男。そのスキル。
あいつ、生きてやがったのか!
リア充め、爆発するのはお前だろうに!
だがどれだけやろうと無駄なものは無駄。
突如、突風が吹き抜けた。
燃え上がった炎が風向きによって方向を変え、帝国軍の元へ向かう。
はっ、これが俺の『一撃必殺』。
条件がそろえば、そんな目くらましなど無意味。
突き崩した。
炎にまかれ、攻め立てられればいかに元帥府直属、帝国最強といえども崩れる。
勝った。
だがその瞬間、2千弱ほどが離脱するように動く。
赤地に金の縁取りの旗。帝国元帥がそこにいる。あの女。
「あれが総大将だ! グリード、行け!」
「ははぁ!!」
追う。
グリードを先頭に、500が錐のようにその旗を追う。
敵は森に逃げ込もうとしているらしい。
だがそこでもまた俺のスキルが行く手を阻む。
風向きが変わり、火の粉が森に飛ぶ。
木々に引火し一気に炎が燃え上がった。そこから鳥たちが羽ばたく。
それに驚いたのは馬だ。
もともと馬は臆病な生き物。
こんな環境の変化はひどく嫌う。
帝国の馬たちがいななき、棹立ちになる。
いける。
後ろから襲えば4倍の差なんてすぐに埋まる。
何より相手は守りの戦いになる。どうしても中心人物である総大将を守るために動かなければならないから、戦力差はもう少し縮まる。
とはいえ、あまり詰めすぎると俺のスキルの条件を満たさなくなる。敵の数がこちらより3倍以上多くないと意味がないからだ。
決めるなら一撃だ。
だが、相手はこちらの予想もしない動きをしてきた。
敵は総大将を守る動きはしない。
むしろ部隊を3つに割った。
1つは中央。そこに200。そしてそこから左右に別れるのが800ずつだ。
しかもその中央に堂々と元帥府の旗がある。
一瞬にしてその動きを判断する。
敵は元帥をおとりにして、左右からの800ずつでこちらを包囲殲滅するつもりだろう。
だが相手は一度速度を落とした上に、ぐるりと回らなければならない。
ならばその間にこちらがあの女の首を飛ばせば勝ちだ。
「グリード! 一直線に貫け!」
「御意ィィィ!」
グリードが馬速をあげて敵に突っ込む。
これで勝ちだ。
あとはあの生意気な女の首が落ちるのを見ていればいい。
しかし、衝撃を受けたのはこちらだった。
真一文字に突っ込んだグリードの部隊が弾けた。
先頭のグリードは真っ先に突き落とされたように見えた。
なにが……?
考える間にも敵は来る。
間にいるビンゴ兵が次々と突き落とされていく。
馬鹿な。
こちらはビンゴ王国の精鋭だぞ。
それに勢いはこちらにあって、相手はこちらより寡兵。何より『一撃必殺』が……。
「あ」
そこで己の迂闊さを知った。
『一撃必殺』は条件を満たせば、たとえどんな状況であろうと敵の総大将を討てる力がある。
だが、条件を満たさなければ何も起きない。
気候や時間帯は変わらない。
変わったのは、兵力差。
もともとこちらが2千で1万の敵に突っ込んだのだから、その兵力差は3倍以上。
そして相手が2千ほどで離脱してこちらが500で追撃した時も3倍以上。
だが今、相手は兵を3つに割った。
そのすべてがこちらに向かってくるなら、まだ兵力差は3倍と言ってよかった。
だが相手は割った2つを戦闘に加えず離脱させ、たった200でこちらに向かってきたのだ。
500対200。
だから俺の『一撃必殺』はその条件対象外となった。
とはいえ、相手が俺のスキルの発動条件を知っているはずがない。
俺はこれを誰にも言っていないし、仮に相手が同じスキルだったとしては、愚直な力押しすぎる。
考えられるのは1つ。
相手のスキルだ。
帝国元帥のあの女が持つスキルが、今のこの一方的な殺戮を行わせているのだとしたら。
例えば、率いる数が少ないほど強化するようなことなら――
「将軍、ここは退きましょう!」
クロスが進言してくる。
だがそれを俺はそれを否定した。
「今ここで退いたらこれまでのお膳立てが無駄になる。それに、グリードの死も」
今のは誰の言葉だ?
まさか自分なのか?
俺がそんなお膳立てとか、部下の死に心を揺り動かされる人間だなんて。
いつもなら「あー、ごめんごめん。失敗しちゃったーてへぺろ」とか言って適当にごまかすのに。
それほど、今の自分は本気なのか。
あるいは、感化されたのか。
あの滑稽なほど愚直なまでに必死に生きる、誰かさんの姿を見て。
本当に、くだらない。
こんな世界、適当に生きて死んでいくのがちょうどいいってのに。
まぁいい。
これが終われば、俺はもう不要。あとは勝手頑張ってくれ。
その前に、俺をコケにしたあの女だけは罪を償ってもらうけど!
「勝負をかけるよ」
「委細承知!」
「全軍、散開!」
指示通りに、軍が分かれる。
陣形もなにもあったものじゃない、400ほどの兵がバラバラになる。
そしてそれは、俺の必殺の陣形。
『一撃必殺』の最終形態。
相手との兵力差が3倍以下になった?
ならこちらも兵を減らすまで。
1人。
そう、俺だけになれば、相手がどれだけいようが3倍以上になる。
ならば必ず『一撃必殺』は発動する。
そうなれば勝てる。
目標を見定める。
先頭の黒い鎧。周りの兵に比べ圧倒的に細くて小さい。
あれだ。女だ。あの女だ。
風が吹く。
追い風。
敵にとっては向かい風。
さらにそこに火の粉が舞う。
そうだ。味方の炎に焼かれ、そして死ね!
剣を引き抜いた。あまり得意じゃないけど、すべてがお膳立てされれば、俺だって相手の大将くらい殺せる力がある。覚悟がある。
加速した。
だが、相手も加速した。
先頭の黒鎧。あの女。
自然、笑みが漏れる。
いい度胸だ。けど1対1なら俺の方が有利。なんてったって俺の一撃必殺が……。
「あ……」
斬った。
斬られてもいた。
ったく、得意じゃないって言ったじゃないか。
俺が得意なのは、頭を使って相手を躍らせてあざ笑うことで、直接の喧嘩とか殺し合いとか本当苦手。
なのに、1対1なんて……慣れないことをするから。
1対1
それは3倍以上じゃない。等倍。同じ。
なら、俺のスキルは発動しないよな。
空が見える。
落ちたのか。
体が動かない。
痛みはもうない。
眠い。
ようやく死ねる。
そう思った。
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