知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

間章7 師走の騒ぎ

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 12月31日。

 差し迫った年末。もうこんな時期になると家でゴロゴロして来年に備えて早めに寝る――なんてことはなかった。

「いやー、さ、寒かった、ですね、隊長殿」

「お、おおお……ヤバい、な、ま、マジで……」

 歯がかみ合わないほどに震える体で、クロエと共に久々のわが家へとたどり着いた。
 ガチガチの防寒着を重ねているのに、体の芯から震えてくる。
 いや、確かに現代に比べて防寒の技術が発達しているわけじゃないけど、毛皮の上着は間違いなく熱を逃がさないでいてくれている。
 だがそれを貫通してまでも、わずかな隙間に入り込んだ冷気が体温を一気に奪っていくのだった。

 ここ数日。オムカ国を襲った寒波は、人々から熱気を奪い去り、活気すらもない年末年始を迎えることになりそうだ。

 いや、それ以上にこれは命の危険すらある寒さだった。
 この世界、電気もなければ当然のごとくエアコンなんてものないし、ストーブなんてものもない。
 あって暖炉、あるいは火鉢。
 といってもそれを密室の中でやったら煙が充満して大変なことになるか、一酸化炭素中毒でより大変なことになる。
 かといって換気のために外気を取り込めば凍り付くという、どうしようもない状態だった。

 いや、まだ暖炉や火鉢がある家はマシだ。
 だがそれは普及率で言えば10%もないような、一部の上流階級でしか持っていないようなもの。炭もこのご時世で値段が跳ねあがり、一般家庭にはまともな流通がなされていない。

 王都の中でもこんなだから、地方の街やら農村は悲惨なことになる。
 冬が明けてみれば、凍死者続出ということにもなりかねない。

 そこでマリアが動いた。
 国庫にある毛皮を大放出したのだ。

 それを民衆にプレゼントしてこの冬を乗り切ろうという政策に、国中が歓喜した。
 しかもそれを取りに国都まで来させるなんてことは不可能なところには、軍が運びに行き、ついでに炊き出しとわずかながら食料を渡すというのだから、まさに国民にとっては降ってわいた奇跡。神様女王様という大フィーバー。

 もちろん、そんなことをすれば国庫は空になり、来年の帝国との闘いどころではない、台所は火の車になるわけだが、それよりマリアの仁君じんくんという称号は何物にも代えがたい武器になるはずだ。
 まぁそこらへんの補填はマツナガに押し付けるとして。

 そんなわけでここ数日。国都にいる軍人は各地に散って民衆に手厚い施しをしていたわけで。もちろん僕らもそれの一隊としてここ数日、国都を留守にしていた。

「ひ、ひ、ひ、火を、暖炉、つけ、よう」

「お、お風呂……わ、わかし、ますね」

「お、おおう」

 もはや会話になってるのか怪しい。それほどに歯がかみ合わず、体が熱を求めていた。

 クロエは家の裏手に回って薪を手配に行った。
 俺は上着のポケットから鍵を取りだすと、震える手をなんとか制御して鍵穴に差し込み、回す。

 ガチャ

 ん? なんかおかしい。今、鍵を回したからそれで開くはず。なのにドアノブはピクリともしない。鍵がかかった? いや、鍵が開いていた?

 凍りそうな頭に、警戒信号が鳴り響く。

 この家には僕とクロエしかいない。里奈が来るときもあるけど、彼女は鍵を持ってないから基本、僕と一緒に入るのが多い。

 となると……。空き巣か。
 まさかこんな大みそかに。しかもよりによって僕の家にとは。

 武器はない。てゆうかあっても使えない。
 クロエを呼ぶか。いや、ここで大声を出したら中の空き巣に気づかれる可能性がある。
 なら誰かに助けを、といってもここら辺に住むのは一般市民の皆さん。そんな彼らに危険のある空き巣の退治を頼むのも、一応軍人としてある以上情けないことになる。

 仕方ない。
 とにかく相手を確かめるだけでも。

 そう思うと行動は早かった。鍵を再び回して、今度こそ開いた。そのまま一気にドアを開き――

「うぇーい! ジャンヌがかえってきたー!」

「…………は?」

 サカキがいた。てゆうかジルとクルレーン、それに何人か見覚えのある人々。近所のおじさんとかだ。
 それがうちの広間で酒盛りなんかしていた。

 ……意味が解らなかった。

 それ以上に、この部屋の暖かさにどこかホッとしている自分がいた。体が外側から溶かされていくような、そんな心地よい熱気。
 見れば暖炉に火が入って、熱を室内にまき散らしているのだ。

「これはジャンヌ様、お帰りなさいませ」

「お、おう? えと、ジル。なんで?」

「そろそろお帰りになると聞いて、温めておきました」

「そんなレンチンみたいな!?」

 というか秀吉か? 懐で温めておりました的な。

「おー、アッキー。帰ったさ? ごはんできてるから、着替えてくるさー」

「ミスト、なんでお前」

「そりゃ忘年会するって言うから、色々準備したさ。お酒に食べ物、それから……まぁ、色々」

「ぼかされるの怖いんだけど!?」

「まーまー、ジャンヌ。そんなとこ突っ立ってないで入れって。寒いし、さ。なんなら俺が温めてやってもいいだぜー?」

 サカキが赤ら顔でこちらに手招きするのを、ご近所さんがはやし立てる。

「おい、サカキ。ここは俺の家なんだが?」

「まーまー、そんな硬いこと言わず」

「よし。来年の目標が決まったぞ。二度とサカキとは口をきかないことにしよう」

「分かった! 悪かった! だからジャンヌ、それだけはやめて……」

 なんとも情けない我が軍のナンバーツーだった。

 はぁ。とりあえず温まってるのは確かだから、この重い上着とかは脱いでしまおうか。
 そう思って、宴会に盛り上がる馬鹿どもを放っておいて隣の寝室へ。ドアを開いて、上着をベッドに脱ぎ捨てて少し身軽になった時だ。

 背後から衝撃が来た。

「ふふふ。だーれじゃ?」

「えっと、だ、だれじゃ?」

 ……はぁ。またこの展開か。
 ドアの後ろにでも隠れていたのだろう。俺の小さくない胸を背後から揉む馬鹿2人。

「マリアにニーア! いい加減に――」

 振り返って2人にチョップを見舞う。

 だが――

「いたーい、 のじゃー!」

「うわーん、明彦くんにぶたれたー」

「り、里奈!?」

 マリアは想定内だったが、もう1人はまさかの想定外の里奈だった。

「な、なんで里奈がここに!?」

「んー、ほら、年末じゃない? 一緒に年越しそばでも食べようか、なんて思ったけど明彦くんいないから」

「それで余のところに来たので、ちょうどよいとこうして隠れて待ってたのじゃ! ふぇ、ふぇっぷし!」

 マリアが盛大にくしゃみをする。
 隣室に比べてここは火が入ってないから寒い。もちろん壁に仕切られていて、隣室からの熱も多少は入ってくるので外よりはマシだが、ここでずっと待ち構えてたのか、もしかして。

「はぁ……お前ら」

「明彦くん、妹を責めるのはやめて! 全部私がいけないの! 私が明彦くんに会いたいな、って思ってただけだから!」

「違うのじゃ、姉さまは悪くないのじゃ……ひゃっくしょ!」

「はいはい。もういいから。てゆうかマリア。女王が風邪ひくと、色々大変なんだから」

 国民を守るために自分の着物も放出して風邪を引いたというなら、限りない美談だけど、部下のおっぱいをもむために寒いところで待ち伏せしてたら風を引いたとなれば、もう馬鹿らしくて笑う気にもなれない。

「明彦くんが悪いんだよ! 全然かえって来ないから!」

「俺のせい!?」

「寂しかったんだもん」

 もん、って……。いや、ぶすっと不貞腐れる里奈も可愛いけどさ。
 はぁ。まぁ確かに放置気味だったのはあるけど、

「俺は仕事だったんだよ」

「すぐそうやって仕事仕事って。仕事と私、どっちが大切なの!」

「そうじゃそうじゃ! もっと家族を大事にするのじゃ!」

 だからなんで家に帰ってこないサラリーマン的な言い訳なんだよ。

「お前らな。これは人助けだっつーの。それに元はマリアの命令だろ」

「えへへ、分かってるって。言ってみたかっただけー。ねー、マリア」

「ねー」

 なんだこの2人の仲の良さは。
 いや、仲がいいのはいいんだけどさ。どんどん里奈がそっち色に染まっていくと思うと……はぁ。

「そういやもう1人はどこいった? こういう時、あいつが率先してやるだろうに」

「あ、ニーアは……」

 とマリアが言葉を発しようとすると、居間の向こうから、

「ぐわー!! な、な、なんでうちに! お風呂に勝手に入ってやがるんですか、このニーア!」

「クロクロ。お風呂いただいてまーす。いやー、寒くって寒くって」

「勝手に入るなって言ってるでしょうが! せっかく隊長殿と一緒に背中流しっこしようと思ったのにー!!」

「昔から言うでしょ。こういうのは“入った者勝ち”ってね! あ、ジャンヌとの背中流しっこはあたしも参加するー!」

「させるかー! 出てけ、出てけー! 隊長殿との愛の巣から出てけー!!」

 あ、もう分かったからいい。
 というか背中流しっこはしないからな。そんな約束もしてないからな。

「おーい、ジャンヌー。早くこっち来いよー。一緒に新年を迎えようぜー」

 居間からはサカキらのどんちゃん騒ぎがうるさいし。

 ……はぁ。どうしてこうなった。
 けどまぁ。こうして騒いでいられるのもあと少しということだろうし。悔いは残したくないのはあるわけで。

「行くか」

 里奈とマリアに行って居間に戻る。その前にマリアには上着を着させてやった。本当に風邪ひかれたら困るからね。

「あったかいのじゃー」

「あー、いーなー。明彦くん、私にも」

「はいはい。てかその明彦くんやめろっての」

 というわけで部屋着に着替えて居間に戻ると、

「おーう、ジャンヌー。そろそろ俺たちの結婚式について話し合おうぜー」

「サカキ、それは聞き捨てならないですね。ジャンヌ様と共にあるのはこの私の定め。皆さま、このジーン、いや、ジルに清き一票を!」

「ふっ。今のお前には興味ないが、10年後に予約しとくぜ……ひっく」

「きゃははー、アッキー人気者さー! じゃあ自分もアッキーのお嫁さんに立候補するさー。一夫多妻はこの国ならオッケーさ?」

 なんというか、全員出来上がってた。
 完全に酔っ払いの集団で、近寄りたくなかった。

「女王様、こっち来て一杯どうですかー、温まりますぜー」

「飲むのじゃー」

「お前はダメ!!」

 お酒は二十歳になってから! どうもこの世界の規律は緩い。

「あははははー、明彦くん。硬い硬いー、もっと楽にいこー」

 肩をバシバシ叩かれたと思ったら、里奈が陽気に笑っていた。
 つか骨が折れると思ったんだけど。超痛い。

 てかなにそのハイテンション。

「里奈、お前、飲んでないよな……?」

「飲んでなーい、私は、なんもー、飲んでましぇーーーん」

「絶対飲んでるだろ……誰だ、飲ませたの!」

「アッキー、これはお酒じゃないさ。ただのお水。だからアルコールなんて入ってないさ。分かるさ?」

「ミ、ミスト……お前」

「あははー、明彦くんも一杯どう? アルコールを、アンコール、なんちゃってー!」

 ああ、もうだめだ。なんだこの空間。
 せめてマリアだけでも守らないと。

「あー、もううるさいですねー……って、何やってるですか!」

 そこにちょうどクロエが戻って来た。
 よし、いいところに。お前の力でこいつら追い出してくれ。

「ちょ、何を……はっ、つまり隊長殿、ワンモアキッスです!」

 お前、何言いだすの!?

「キ、キッス!? あ、明彦くん! どういうことかな!?」

「なんなのじゃー! ジャンヌとキスなど聞いておらんぞー!! ずるいのじゃ、余もやるのじゃ!」

 あ、ヤバい連中に火がついた。

「ふっ、これはつまり選ばれた者の特権。そう、ならば勝ち取りましょう、ヤキュウケンで!!」

「受けて立つ! 明彦くん、私、勝つよ!」

「ジャンヌのために負けられないのじゃ―!」

「キスだと!? なら俺が……おっとっと、俺がやるに……決まってんだろ!」

「いい加減にしなさい! ジャンヌ様は皆のものです! 独占など許さない! だから私が立つのです! このジルを、ジルをよろしくお願いします!」

「ま、今のうちにマーキングしておくのもいいだろう。一撃必中、狙い撃つぜ」

「おお、面白いことになってきた! 誰が脱いでもこれは役得、カメラカメラ」

 クロエ、里奈、マリア、サカキ、ジル、クルレーン、ミスト。

「ちょっと! なんか変なことやろうとしてるでしょ! あたしも入る! やるからね!」

 そしてニーア。

「隊長、クロエが変なことをしてないか監視に来ました!」

「わ、私は別に……で、でも何か起こったらいけないからしょうがなく」

「あははー、あったかーい。ってか酒くさい……」

「ジャンヌさん、寂しいので添い寝してください。てかして! 独りだと泣いちゃうから……うわーん!」

「軍師殿、もうすぐ新年ってことで飲みに来ましたー」

「ちっ。幼女趣味ロリコンが……」

「あ、すみません。自分がこんなとこに」

「先輩、明けまして正義ジャスティスです! というわけで愛良さんと来ました! お年玉ください!」

「竜胆、こ、こういうとこにオレは……」

「いえーい、こういう場はやっぱロックなシンガーがいないとね! というわけで、一曲行くぞー!」

 ウィット、マール、ルック、サール、ブリーダ、アイザ、イッガー、竜胆、愛良、林檎。

 本当にどいつもこいつも身勝手で、馬鹿で、向こう見ずで、変態で、欠点だらけで、どうしようもない連中だ。

 それでも。

 それでも。

 こうして笑って過ごせるこの一時が。本当に大事に思えるのだから。

 来年もこうしてみんなでどんちゃん騒ぎができますように。

 そう、あり得もしない未来を。
 その時僕は思った。

 思って、しまった。
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