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第5章 帝国決戦
第5話 オムカ王国冬の陣
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「えー、それでは雪合戦、第1ラウンド。レディー?」
気の抜けた俺の声が雪原に響く。
その声に反応するかのように、対戦者たちが身構える。
俺の左手にはマリアチーム――マリアとニーア、そしてクルレーンとサールが、右手にはクロエチーム――クロエと竜胆、そして里奈がいる。
それぞれが雪玉を手にして、反対側の相手をにらみつけるようにしている。
刹那の沈黙。
だがその時間に比例して双方の熱気と闘志が沸き上がるように思える。
そして――
「ゴー!」
俺の声を号令に、宙に雪玉が舞う。
いやいや、なんでこんなことに。
遡ること十数分。
『というわけで、勝負です! 隊長殿を賭けて!』
『勝負方法は雪山なので、正義な勝負! そう、YUKI―GASSENです!」
という馬鹿2人の提案で、雪合戦対決にもつれこんだわけだ。
ルールは簡単。
20メートルのフィールドの左右にそれぞれが陣地を構え、相手側の陣地にあるフラッグ(なんて気の利いたものはなかったので、なぜか俺の手袋を棒にかけた。寒い)を取った方の勝ち。
それを3ラウンドやって先に2勝した方が最終的な勝利者となるというルールだ。
敵味方問わず投げた雪玉が当たればそのラウンドでは退場。もちろん接触による攻撃、妨害は禁止。敵を全滅させてもそのラウンドは勝利が決まる。
だから雪玉は自前の運動力と反射神経でよけるか、あるいは陣地と中央のフリースペースにおかれた雪で作られた遮蔽物に隠れてよけるかの二択しかない。
いかにその遮蔽物を使って相手の陣地に攻め込むかという、軍事演習にでも使えそうな遊びだった。
元の世界ではスポーツとして競技化していたというから、もう少し研究でもしておけばよかった。
とはいえ、俺はそれに参加しない。
『ジャンヌは賞品なのじゃ! この勝負に勝って、ジャンヌの愛を勝ち取るのじゃ!』
『いいえ、たとえ女王様が相手でも、隊長殿への愛はこちらが上! それを証明してみせましょう!』
両チームの大将の意見が一致したことにより、俺はあえなく賞品と化していた。
なんかこういうパターン、多くない?
ま、いっか。
正直、ここに来るだけで疲れ果てたし、参加しても俺の筋力じゃ雪玉がどれだけ飛ぶか自信がない。
なら賞品として、審判としてこうやって眺めていた方が面白いのではと思ったわけで。
『ちなみにいいのか? クロエの方は1人足りないけど』
『ふっ、隊長殿。申し訳ありませんが、女王様は戦力外。ならば少しくらいは問題ありません!』
『そう、ハンデの上で勝つ! それこそ正義です!』
『うんうん、妹はいてくれるだけでいいからね』
『……三馬鹿になってる』
『何か言った、明彦くん?』
『なんでもありません、里奈様!』
そんなこんなで試合開始。
まずは小手調べなのか、お互いは陣地から遮蔽物に隠れて雪玉を投げ合う。
実際の戦闘でも矢合わせとして、はじめは弓矢での応酬だからこれは間違っていない。
だがその中で、圧倒的に間違っている奴がいた。
それは左手。
遮蔽物の上に堂々と立つ男。
「ふっ……この自分に射撃対決を挑むとは。相手してやる。かかってきな」
クルレーンだった。
意外とノリノリだった。
だがさすがうちの鉄砲隊長。
飛んでくる雪玉を見切りながら、基本は体の動きだけで避け、避けきれないものは手に持った雪玉で相手の雪玉を迎撃する。
もちろん遮蔽物の上で雪玉の補充はできないから、下からサールが適宜放り投げてそれをキャッチして投げるのだ。
ある意味神業だ。
才能の無駄遣いだった。
「すごいのじゃ、クルレーン!」
「さっすが。よし、ちょっとそこで相手を引き付けて。その間にあたしが攻め込む!」
「ふっ、こんなんで驚いてちゃ、身が持たないぜ。本当の狙い。それはここから相手を、狙い撃つ……!」
敵の雪玉が少し緩慢になってきた隙をついて、クルレーンが足を障害物の上に踏みしめ、そして雪玉を大きく振りかぶる。
確かにそこからの打ちおろし気味に投げられた雪玉なら、クルレーンの身長も手伝って、相手の遮蔽物を悠々超えて相手に当てることができるだろう。
「そこだ、くらえっ!」
だが、人間万事塞翁が馬。
クルレーンが狙いを定めている間に、
ひゅーん
高く飛んできた弾が、重力に引かれて落下。
そしてボスッと、クルレーンの頭で弾けた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「えっと、クルレーン、アウト」
「…………ままならないものだな」
なにやってんの、あいつ。
と、皆が呆然としているうちに勝負は決まっていた。
「突撃ー!」
クロエの号令と共に、クロエと竜胆がニーアとサールに襲い掛かる。
クロエとニーアは相打ち、竜胆はサールに返り討ちにあったものの、その隙に逆から超高速で回り込んだ里奈にフラッグ(というか俺の手袋)を取られ、第1ラウンドはクロエチームの勝ちとなった。
クルレーンがへました隙をついた大胆な作戦だったが、里奈の急加速はあからさますぎるドーピングだろ。
「里奈、今スキル使って……」
「え? 何のこと?」
「いや、今の加速は……」
「え? 何のこと、明彦くん?」
笑みを崩さず里奈が繰り返す。
それが逆に怖い。
「いえ、なんでもないです……」
……俺は今後、里奈には逆らえないんじゃないか。そんな気がした。
てかどんだけ勝ちたいんだよ。
そして第2ラウンドは膠着状態から始まった。
不用意に動くと負けるとお互い知ったからだろう。
だが水面下では始まっていた。
先手をかけたのはマリアチーム。
なんと、せっせと作り上げていた雪玉を転がしながら敵陣に突っ込んだのだ。
1メートル以上の雪玉は、転がるたびにその大きさを増していく。
それはまさに動く壁。
クロエたちが慌てて迎撃に入るが、ことごとく巨大雪玉に跳ね返されて逆にその隙を突かれて雪玉を食らって退場となった。
結果、3人とも退場で第2ラウンドはマリアチームの勝利だ。
ふむ。
ドジを踏んだとはいえ、その超人的な技術で相手を圧倒し、今一歩のところで退場させられたクルレーン。
そのクルレーンの退場劇の隙を突いて一気に攻勢をかけたクロエ。
雪だるまをもとに、雪玉を壁にして敵陣に攻め込んだマリア。
なかなかどうして、熱い戦いが繰り広げられているようだ。
「えー、じゃあ最終ラウンドだからな。お互い悔いの残らないよう戦うように」
「なんとか最終まで持ってきたのじゃ! ここで一気に勝つのじゃ!」
「あんな奇策、一度しか通じない! 個人技ではこっちが勝ってるんだから、勝負を決める!」
円陣を組んで士気を上げる両チーム。
うぅん、青春だなぁ。
そして最終ラウンドの火ぶたが切って落とされた。
最初は第1ラウンドと同じように遠距離からの投擲で始まった。
相手に雪玉を作らせる隙をなくすためだろう。
これは消耗戦になるか。
そう思った矢先に、動きがあった。
再びマリアチームで障害物の上に立つ人影。
だがそれはクルレーンではない。
彼より小さく、その重厚なフォルムは――
「サールか!?」
今まで活躍という活躍がなかったサール。
だがなぜだ。
サールは重いアーマープレートだ。
クルレーンのように避けるにも迎撃するにも格好が足かせになっている。
それを承知の上か、クロエチームがサールに集中砲火を浴びせる。
もちろん避ける間もなく、サールのプレートに雪玉が多段ヒットする。
「サール、アウ――」
「まだです!」
「なにっ!?」
声。
上だ。
太陽を背に、高く飛ぶのは鳥か、飛行機か、いや、人間だ!
「身軽になれば、この程度の玉!」
サールが大きくジャンプして、着地したのは中央の障害物の上。
なんて跳躍力だ。
しかも中央の障害物は高さがある。
だからそこから一方的にクロエチームに雪玉を打ち込めるわけで。
これはマリアチームが俄然有利になった。
と思ったのだが。
「あ、寒っ、冷たっ……ぶべっ!」
ほぼ下着姿のサールが身を縮こまらせ、足元を滑らせたサールは中央にある障害物の上で見事にこけた。
顔面から地面の雪へとダイブ。
そこに雪玉が飛んでボスッと頭にヒット。
「あー……今度こそサールアウト」
「…………ふぇーーーん! 痛いーーー! いじめたーー!」
もうなんなんだよ、このグダグダ。
これじゃあ第1ラウンドと同じ――
「ところがぎっちょん!」
「っ!」
「ちっ、惜しい」
クルレーンが障害物の横から身を乗り出して狙撃した雪玉が、クロエの顔わずか数センチ横を通過した。
そう、マリアチームが第1ラウンドでやられたことをやり返そうとしたのだ。
だが機動性があるのはニーアしかいない。
だからサールが気を引いているところに、クルレーンが狙撃で援護。ニーアはひとまず中央の障害物まで進んだわけだ。
「ちっ……さすがにあたしだけじゃ辛い」
「自分が援護する。行きな」
「りょーかいっと!」
「ニーア頑張るのじゃー!」
マリアチームが攻勢に出る。
俺のいる方――右回りで突撃したニーアは、飛び交う雪玉をなんなくかわし、それを後方からクルレーンが援護する。
「リナさんは速度でクルレーンをかく乱! リンドーは雪玉を作ってあとは手筈通りに!」
「分かった。やってみる」
「正義! 了解ですよ!」
対するクロエチームも負けずに応戦する。
激戦となった。
至近距離で飛び交う雪玉。
そして、
「クロエ、アウト! ニーア、アウト!」
「里奈、アウト! クルレーンアウト!」
クロエがニーアにやられ、その隙を里奈につかれてニーアが退場し、里奈とクルレーンの遠距離戦は相討ちで幕を閉じた。
まさに死闘。
一瞬のうちに優勢劣勢がシーソーゲームのように動くほどの激動だった。
…………あれ?
静かになった。
これで決着? だっけ?
いや、マリアが残ってるはず。だとしたらマリアチームの勝ちか?
いやいや違う。
「ふはははー! この正義仮面が勝利をいただいちゃいますー!」
あ、そうだ。竜胆だ。
なんか静かだと思ったら……てかいつの間にか敵陣に乗り込んでいる。
どうやらクロエと里奈がニーアとこちら側で激戦を行っている間に、こそこそと反対側を這うように進んでいったらしい。
「作戦通り、さぁ行ってください、竜胆!」
「正義!」
うぅむ!
突出したニーアを2人がかりで倒して、クルレーンとは膠着に持ち込んで迂回した竜胆で勝負を決める策か。
悪くない。むしろ里奈がクルレーンを相討ちとはいえ倒せたのが大きい。
だって残っているのは、
「来たのじゃああああー!」
あ、勝負あったな。
マリアは作り置きしていたらしい雪玉を必死に投げるが、やたらめったら変な方向に飛ぶわ、へろへろだわで避けるまでもない。
だから竜胆は悠然と歩いてマリアの横を通り過ぎようとする。
「ふっふっふ、無駄無駄無駄ぁ! 貴女の抵抗など、飛んで火にいる焼きゲソです!」
なんか悪役っぽいぞ、竜胆。
てか言ってる意味が分からん。
「先輩の手袋いただいて完全勝利です!」
「ジャンヌ(の手袋)は渡さんのじゃー!」
その時、2つのことが起こった。
急に駆けだそうとした竜胆が、雪に足を取られて転んだこと。
叫びながら大き目の雪玉を持ちながら突撃したマリアが、これまた派手に転んだこと。
「あ」
「あ」
それで決着がついた。
転んだマリアが竜胆の下半身に倒れ込むようになったおかげで、手にした雪玉が竜胆の足にぶつかったのだ。
「竜胆、アウト! クロエチーム全滅! よってマリアチームの勝利!!」
「か、勝ったのじゃー!」
喜ぶマリアを胴上げするマリアチームと、へまをした竜胆に詰め寄るクロエチームを見ながら思う。
うーん、いい勝負だった。
なんともしまらない終わりかただったが、
ただ負けた方も悪くはなかった。
もしかしたらこれ、クロエが全部指揮をとったのか?
結果はどうあれ、作戦としてはどれも悪くなかった。もしかしてこれはひょっとするとひょっとするかも。
今回の雪山行きでグダグダになった軍制改革。
さらにもう2点進めるべきところがある。
1つが補給、そしてもう1つが俺の部隊のこと。
その後者について、クロエならあるいは、と思っていたのだがそれは間違いではなかったのかもしれない。
いやいや、良い勝負が見れて良い収穫もあった。
なんだかんだ良い気分転換ができたんじゃないかな。
あれ? てか何のためにこんなことやってたんだっけ……?
うーん……ま、いっか。
気の抜けた俺の声が雪原に響く。
その声に反応するかのように、対戦者たちが身構える。
俺の左手にはマリアチーム――マリアとニーア、そしてクルレーンとサールが、右手にはクロエチーム――クロエと竜胆、そして里奈がいる。
それぞれが雪玉を手にして、反対側の相手をにらみつけるようにしている。
刹那の沈黙。
だがその時間に比例して双方の熱気と闘志が沸き上がるように思える。
そして――
「ゴー!」
俺の声を号令に、宙に雪玉が舞う。
いやいや、なんでこんなことに。
遡ること十数分。
『というわけで、勝負です! 隊長殿を賭けて!』
『勝負方法は雪山なので、正義な勝負! そう、YUKI―GASSENです!」
という馬鹿2人の提案で、雪合戦対決にもつれこんだわけだ。
ルールは簡単。
20メートルのフィールドの左右にそれぞれが陣地を構え、相手側の陣地にあるフラッグ(なんて気の利いたものはなかったので、なぜか俺の手袋を棒にかけた。寒い)を取った方の勝ち。
それを3ラウンドやって先に2勝した方が最終的な勝利者となるというルールだ。
敵味方問わず投げた雪玉が当たればそのラウンドでは退場。もちろん接触による攻撃、妨害は禁止。敵を全滅させてもそのラウンドは勝利が決まる。
だから雪玉は自前の運動力と反射神経でよけるか、あるいは陣地と中央のフリースペースにおかれた雪で作られた遮蔽物に隠れてよけるかの二択しかない。
いかにその遮蔽物を使って相手の陣地に攻め込むかという、軍事演習にでも使えそうな遊びだった。
元の世界ではスポーツとして競技化していたというから、もう少し研究でもしておけばよかった。
とはいえ、俺はそれに参加しない。
『ジャンヌは賞品なのじゃ! この勝負に勝って、ジャンヌの愛を勝ち取るのじゃ!』
『いいえ、たとえ女王様が相手でも、隊長殿への愛はこちらが上! それを証明してみせましょう!』
両チームの大将の意見が一致したことにより、俺はあえなく賞品と化していた。
なんかこういうパターン、多くない?
ま、いっか。
正直、ここに来るだけで疲れ果てたし、参加しても俺の筋力じゃ雪玉がどれだけ飛ぶか自信がない。
なら賞品として、審判としてこうやって眺めていた方が面白いのではと思ったわけで。
『ちなみにいいのか? クロエの方は1人足りないけど』
『ふっ、隊長殿。申し訳ありませんが、女王様は戦力外。ならば少しくらいは問題ありません!』
『そう、ハンデの上で勝つ! それこそ正義です!』
『うんうん、妹はいてくれるだけでいいからね』
『……三馬鹿になってる』
『何か言った、明彦くん?』
『なんでもありません、里奈様!』
そんなこんなで試合開始。
まずは小手調べなのか、お互いは陣地から遮蔽物に隠れて雪玉を投げ合う。
実際の戦闘でも矢合わせとして、はじめは弓矢での応酬だからこれは間違っていない。
だがその中で、圧倒的に間違っている奴がいた。
それは左手。
遮蔽物の上に堂々と立つ男。
「ふっ……この自分に射撃対決を挑むとは。相手してやる。かかってきな」
クルレーンだった。
意外とノリノリだった。
だがさすがうちの鉄砲隊長。
飛んでくる雪玉を見切りながら、基本は体の動きだけで避け、避けきれないものは手に持った雪玉で相手の雪玉を迎撃する。
もちろん遮蔽物の上で雪玉の補充はできないから、下からサールが適宜放り投げてそれをキャッチして投げるのだ。
ある意味神業だ。
才能の無駄遣いだった。
「すごいのじゃ、クルレーン!」
「さっすが。よし、ちょっとそこで相手を引き付けて。その間にあたしが攻め込む!」
「ふっ、こんなんで驚いてちゃ、身が持たないぜ。本当の狙い。それはここから相手を、狙い撃つ……!」
敵の雪玉が少し緩慢になってきた隙をついて、クルレーンが足を障害物の上に踏みしめ、そして雪玉を大きく振りかぶる。
確かにそこからの打ちおろし気味に投げられた雪玉なら、クルレーンの身長も手伝って、相手の遮蔽物を悠々超えて相手に当てることができるだろう。
「そこだ、くらえっ!」
だが、人間万事塞翁が馬。
クルレーンが狙いを定めている間に、
ひゅーん
高く飛んできた弾が、重力に引かれて落下。
そしてボスッと、クルレーンの頭で弾けた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「えっと、クルレーン、アウト」
「…………ままならないものだな」
なにやってんの、あいつ。
と、皆が呆然としているうちに勝負は決まっていた。
「突撃ー!」
クロエの号令と共に、クロエと竜胆がニーアとサールに襲い掛かる。
クロエとニーアは相打ち、竜胆はサールに返り討ちにあったものの、その隙に逆から超高速で回り込んだ里奈にフラッグ(というか俺の手袋)を取られ、第1ラウンドはクロエチームの勝ちとなった。
クルレーンがへました隙をついた大胆な作戦だったが、里奈の急加速はあからさますぎるドーピングだろ。
「里奈、今スキル使って……」
「え? 何のこと?」
「いや、今の加速は……」
「え? 何のこと、明彦くん?」
笑みを崩さず里奈が繰り返す。
それが逆に怖い。
「いえ、なんでもないです……」
……俺は今後、里奈には逆らえないんじゃないか。そんな気がした。
てかどんだけ勝ちたいんだよ。
そして第2ラウンドは膠着状態から始まった。
不用意に動くと負けるとお互い知ったからだろう。
だが水面下では始まっていた。
先手をかけたのはマリアチーム。
なんと、せっせと作り上げていた雪玉を転がしながら敵陣に突っ込んだのだ。
1メートル以上の雪玉は、転がるたびにその大きさを増していく。
それはまさに動く壁。
クロエたちが慌てて迎撃に入るが、ことごとく巨大雪玉に跳ね返されて逆にその隙を突かれて雪玉を食らって退場となった。
結果、3人とも退場で第2ラウンドはマリアチームの勝利だ。
ふむ。
ドジを踏んだとはいえ、その超人的な技術で相手を圧倒し、今一歩のところで退場させられたクルレーン。
そのクルレーンの退場劇の隙を突いて一気に攻勢をかけたクロエ。
雪だるまをもとに、雪玉を壁にして敵陣に攻め込んだマリア。
なかなかどうして、熱い戦いが繰り広げられているようだ。
「えー、じゃあ最終ラウンドだからな。お互い悔いの残らないよう戦うように」
「なんとか最終まで持ってきたのじゃ! ここで一気に勝つのじゃ!」
「あんな奇策、一度しか通じない! 個人技ではこっちが勝ってるんだから、勝負を決める!」
円陣を組んで士気を上げる両チーム。
うぅん、青春だなぁ。
そして最終ラウンドの火ぶたが切って落とされた。
最初は第1ラウンドと同じように遠距離からの投擲で始まった。
相手に雪玉を作らせる隙をなくすためだろう。
これは消耗戦になるか。
そう思った矢先に、動きがあった。
再びマリアチームで障害物の上に立つ人影。
だがそれはクルレーンではない。
彼より小さく、その重厚なフォルムは――
「サールか!?」
今まで活躍という活躍がなかったサール。
だがなぜだ。
サールは重いアーマープレートだ。
クルレーンのように避けるにも迎撃するにも格好が足かせになっている。
それを承知の上か、クロエチームがサールに集中砲火を浴びせる。
もちろん避ける間もなく、サールのプレートに雪玉が多段ヒットする。
「サール、アウ――」
「まだです!」
「なにっ!?」
声。
上だ。
太陽を背に、高く飛ぶのは鳥か、飛行機か、いや、人間だ!
「身軽になれば、この程度の玉!」
サールが大きくジャンプして、着地したのは中央の障害物の上。
なんて跳躍力だ。
しかも中央の障害物は高さがある。
だからそこから一方的にクロエチームに雪玉を打ち込めるわけで。
これはマリアチームが俄然有利になった。
と思ったのだが。
「あ、寒っ、冷たっ……ぶべっ!」
ほぼ下着姿のサールが身を縮こまらせ、足元を滑らせたサールは中央にある障害物の上で見事にこけた。
顔面から地面の雪へとダイブ。
そこに雪玉が飛んでボスッと頭にヒット。
「あー……今度こそサールアウト」
「…………ふぇーーーん! 痛いーーー! いじめたーー!」
もうなんなんだよ、このグダグダ。
これじゃあ第1ラウンドと同じ――
「ところがぎっちょん!」
「っ!」
「ちっ、惜しい」
クルレーンが障害物の横から身を乗り出して狙撃した雪玉が、クロエの顔わずか数センチ横を通過した。
そう、マリアチームが第1ラウンドでやられたことをやり返そうとしたのだ。
だが機動性があるのはニーアしかいない。
だからサールが気を引いているところに、クルレーンが狙撃で援護。ニーアはひとまず中央の障害物まで進んだわけだ。
「ちっ……さすがにあたしだけじゃ辛い」
「自分が援護する。行きな」
「りょーかいっと!」
「ニーア頑張るのじゃー!」
マリアチームが攻勢に出る。
俺のいる方――右回りで突撃したニーアは、飛び交う雪玉をなんなくかわし、それを後方からクルレーンが援護する。
「リナさんは速度でクルレーンをかく乱! リンドーは雪玉を作ってあとは手筈通りに!」
「分かった。やってみる」
「正義! 了解ですよ!」
対するクロエチームも負けずに応戦する。
激戦となった。
至近距離で飛び交う雪玉。
そして、
「クロエ、アウト! ニーア、アウト!」
「里奈、アウト! クルレーンアウト!」
クロエがニーアにやられ、その隙を里奈につかれてニーアが退場し、里奈とクルレーンの遠距離戦は相討ちで幕を閉じた。
まさに死闘。
一瞬のうちに優勢劣勢がシーソーゲームのように動くほどの激動だった。
…………あれ?
静かになった。
これで決着? だっけ?
いや、マリアが残ってるはず。だとしたらマリアチームの勝ちか?
いやいや違う。
「ふはははー! この正義仮面が勝利をいただいちゃいますー!」
あ、そうだ。竜胆だ。
なんか静かだと思ったら……てかいつの間にか敵陣に乗り込んでいる。
どうやらクロエと里奈がニーアとこちら側で激戦を行っている間に、こそこそと反対側を這うように進んでいったらしい。
「作戦通り、さぁ行ってください、竜胆!」
「正義!」
うぅむ!
突出したニーアを2人がかりで倒して、クルレーンとは膠着に持ち込んで迂回した竜胆で勝負を決める策か。
悪くない。むしろ里奈がクルレーンを相討ちとはいえ倒せたのが大きい。
だって残っているのは、
「来たのじゃああああー!」
あ、勝負あったな。
マリアは作り置きしていたらしい雪玉を必死に投げるが、やたらめったら変な方向に飛ぶわ、へろへろだわで避けるまでもない。
だから竜胆は悠然と歩いてマリアの横を通り過ぎようとする。
「ふっふっふ、無駄無駄無駄ぁ! 貴女の抵抗など、飛んで火にいる焼きゲソです!」
なんか悪役っぽいぞ、竜胆。
てか言ってる意味が分からん。
「先輩の手袋いただいて完全勝利です!」
「ジャンヌ(の手袋)は渡さんのじゃー!」
その時、2つのことが起こった。
急に駆けだそうとした竜胆が、雪に足を取られて転んだこと。
叫びながら大き目の雪玉を持ちながら突撃したマリアが、これまた派手に転んだこと。
「あ」
「あ」
それで決着がついた。
転んだマリアが竜胆の下半身に倒れ込むようになったおかげで、手にした雪玉が竜胆の足にぶつかったのだ。
「竜胆、アウト! クロエチーム全滅! よってマリアチームの勝利!!」
「か、勝ったのじゃー!」
喜ぶマリアを胴上げするマリアチームと、へまをした竜胆に詰め寄るクロエチームを見ながら思う。
うーん、いい勝負だった。
なんともしまらない終わりかただったが、
ただ負けた方も悪くはなかった。
もしかしたらこれ、クロエが全部指揮をとったのか?
結果はどうあれ、作戦としてはどれも悪くなかった。もしかしてこれはひょっとするとひょっとするかも。
今回の雪山行きでグダグダになった軍制改革。
さらにもう2点進めるべきところがある。
1つが補給、そしてもう1つが俺の部隊のこと。
その後者について、クロエならあるいは、と思っていたのだがそれは間違いではなかったのかもしれない。
いやいや、良い勝負が見れて良い収穫もあった。
なんだかんだ良い気分転換ができたんじゃないかな。
あれ? てか何のためにこんなことやってたんだっけ……?
うーん……ま、いっか。
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普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
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偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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