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第5章 帝国決戦
第8話 模擬戦
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とりあえずマツナガを復帰させて政治面での穴は埋まった。
応急処置だけど。
となればあとは軍事の方。
前にジルたちと話をした軍制改革についての話になる。
といっても本隊の配置自体は俺たちが雪山に行く前に終わっているし、あとは装備を整えたり、徹底的に動きを覚えさせる訓練期間に入っている。
だから、あとは俺のところだけだ。
基本的にはクロエたちとクリードの顔合わせは済んでるし、それぞれも独立した部隊として扱うから連携なども特に気にする必要もない。
ただ1つだけ。試したいことがあった。
「それじゃあ、始めるっすよー」
ブリーダが暢気に声を上げて、100騎を率いて走り出す。
王都バーベルの西にある原野。
そこで俺たちとブリーダの隊で模擬戦を行うことにした。
というのも、
「いいか、クロエ、ウィット。これからお前らはそれぞれ100騎でブリーダの相手をする。その出来を見て、お前らのうちどちらかを正式に隊長に任命する」
「ええ!? ジャンヌ隊じゃなくなるんですか!?」
「俺は一度もその名称を了承した覚えはないんだけど……立ち位置は変わらない。基本は俺の近くにいてもらうが、場合によっては独自で動いてもらう時がある。だから、副隊長じゃなく隊長を決めておくんだ」
「それは、隊長が本陣から動かないこともある、ということでしょうか?」
「そういうことだ、ウィット。お前らの部隊は今度の補充で500騎になる。これまで以上の動きができるようになるはずだから、俺のそばにいるよりは戦場をうまく駆け回ってほしいんだ。まぁブリーダに勝つのは難しいだろうから、結果は見ないさ。気楽に、だけど真剣にやってくれ」
「…………了承しました」
納得はいっていなさそうだが、とりあえず頷くウィット。
「えー、やだー、隊長殿がいいー! てか負けたらウィットの指揮下になるわけ!? そんなのイヤー! 隊長殿がいいー!」
一方こいつは……子供より性質が悪い。
「ウィット、ちょっとこいつに折檻するから先、行ってくれ」
「了解です」
呆れた表情でウィットは敬礼すると、そのままマールたち100騎を率いて離れていく。
すぐにブリーダの部隊と遭遇戦が始まるはずだ。
その前にこいつをどうにかしないと。
「クロエ~!」
「きゃん、隊長殿の折檻だなんて。クロエ、興奮しちゃう」
「お前、いい加減にしろよ? 一緒にいるからって特別扱いはしないからな?」
「そんなつもりはないですが……うぅ、だって。隊長殿がいなくなるなんて……」
「別にいなくなるとは言ってないだろ。少し離れる機会が増えるだけだ。今までとあまり変わらないよ」
「でもでも! 隊長殿と5メートル以上離れると息切れと動悸が……」
「一生入院するか?」
はぁ……。
本当に頭が痛くなる。
とはいえグダグダ言っている時間もない。
しょうがないから、6割くらいの真実を織り交ぜて説得するしかない。
だから俺は真面目な表情を浮かべ、クロエを真正面から直視する。
「あのな。俺はお前に期待してるんだ。お前は俺がここに来てからずっと一緒にいた。だからお前なら俺の考えることが分かる。それを実行に移せる。そう思って隊長候補にしたんだ」
「隊長殿……」
目を輝かせてこちらを見つめてくるクロエ。
「けどもちろんウィットにも期待してる。あいつは愚直に色々学んで、次々と吸収してるからな。堅実に部隊を運用するならあいつの方が100倍マシだとも思ってる」
「隊長殿ぉ……」
哀しげな涙目でこちらを見つめてくるクロエ。
感情豊かなやつ。
「だからいつまでもグダグダ言ってると、本当にウィットの下につくぞ。その時に俺は何も言ってやれないからな」
「うぅ……分かりました」
我ながら意地の悪い言い方だと思ったが、そうでもしないとこいつは本当に動かない気がした。
とりあえず納得したようなので原野に目を転じると、合図もなく模擬戦が始まった。
双方、武器は細い木の棒。
兜の上に紙風船をつけているので、それを割られたら戦死。隊長が戦死するか、部隊の7割が戦死して、壊滅状態になるまで続けるのだ。
200騎の騎馬が原野を走る。
遠くてもその馬蹄の響きは聞こえてくる。
赤のベストを来たブリーダの隊が、青のベストのウィットの隊へ迫る。
ウィットは全騎で横に移動を開始した。
ブリーダの突撃をいなす形だ。
そのウィットの動きは功を奏した。
5人が叩き落とされるも、真正面から受けるよりはマシな被害だ。
ウィットの横を駆けていくブリーダの隊は、大きくUターンをして再びウィットに突っかかる。
だがそれもウィットは一団にまとまって回避した。
ただすれ違うその刹那に、ウィットは左――ブリーダの隊の最後尾に食らいつくと、数騎を落として再び距離を取る。
なるほど、ウィットの用兵に隙はない。
基本は受け身を取りつつ、逆に相手の隙を突いてじわじわと有利な状況を作る。
勤勉で堅実。
まさにウィットの人間性が出る戦い方だ。
そのまま互角の戦い方をしながら、戦場をひたすらに駆け回った2組の騎馬隊は、時間経過により鳴らした鉦の音を聞いて引き上げてきた。
ウィットの被害は30騎ほど、ブリーダは10騎も満たない。
被害だけで見ればウィットの負けだが、ブリーダを相手にこの被害は上出来とも言えるだろう。
「どうだった?」
「いや、一瞬も気の抜けない戦いでした。さすが騎馬隊長です」
ウィットが額に汗を浮かべながらそう言った。
「なかなか崩しきれない堅実な守りっすね。時たま見せる誘い方も、どっかの誰かさんみたいでいやらしいっす」
「どういう意味かな、ブリーダ」
「え、いや。別に。誰も軍師殿のことだとは……あだだだ! アイザ! なんでかかとでぐりぐりするっすか!」
「……別に。ただつまらない模擬戦をされてイラついてるだけ」
容赦ないなぁ、アイザは。
ただその声はウィットには聞こえなかったらしく、俺としてはホッとする思いだ。
「よし、じゃあ1時間の休憩の後、クロエの隊でやるか」
「いや、自分たちならいけるっすよ。無駄にだらだらやるより、さっさと決めた方が軍師殿も楽でしょう?」
「ん、そうか」
連戦ともなれば、疲労がある分、クロエが有利になると思ったんだが。
まぁ体が温まってるという利点もあるのか? 分からないけど。
「クロエ、ウィット、それでいいか?」
一応、当事者の意見も聞いてみることにした。
「は、はいっ!」
「自分はどちらでも」
「ん、じゃあ5分後にクロエの隊との模擬戦だ。準備、いいな」
「ひゃ、ひゃい!」
クロエが裏返った声で直立不動の姿勢を取る。
うーん、プレッシャーかけすぎたか?
あるいはウィットが善戦したのが、一番のプレッシャーになったのだろう。
ったく、しょうがないな。
「お前ならできる。行ってこい!」
そう言いながら、クロエの背中をバンッと思いっきり叩いた。
とはいえ筋力最低の張りてなんてたいして痛くないだろう。
けどクロエはその場でプルプルと震えて動かない。
なに? クリティカルヒットした?
まさか? こんなところで? こんな時に?
「クロエ?」
心配そうにのぞき込んで確認する。
すると、
「よっしゃああ! 気合はいりましたよ!」
鼓膜が割れそうだった。
顔が紅潮して、今までとは別人みたいに張り切っている。
なんだよ、人騒がせな。
ま、そっちの方がらしいっちゃらしいけど。
「隊長殿、行ってきます。あなたのクロエが、隊長殿の隣をゲットです!」
「誰がお前のだ。誰が」
「よっし、さっさと行くよルック! ぼやぼやしない!」
「はーい、やろうかー」
ウィットにマールがついたように、クロエにはルックを付けたわけだが、この温度差……大丈夫か?
というわけで模擬戦2戦目の幕が切って落とされた。
応急処置だけど。
となればあとは軍事の方。
前にジルたちと話をした軍制改革についての話になる。
といっても本隊の配置自体は俺たちが雪山に行く前に終わっているし、あとは装備を整えたり、徹底的に動きを覚えさせる訓練期間に入っている。
だから、あとは俺のところだけだ。
基本的にはクロエたちとクリードの顔合わせは済んでるし、それぞれも独立した部隊として扱うから連携なども特に気にする必要もない。
ただ1つだけ。試したいことがあった。
「それじゃあ、始めるっすよー」
ブリーダが暢気に声を上げて、100騎を率いて走り出す。
王都バーベルの西にある原野。
そこで俺たちとブリーダの隊で模擬戦を行うことにした。
というのも、
「いいか、クロエ、ウィット。これからお前らはそれぞれ100騎でブリーダの相手をする。その出来を見て、お前らのうちどちらかを正式に隊長に任命する」
「ええ!? ジャンヌ隊じゃなくなるんですか!?」
「俺は一度もその名称を了承した覚えはないんだけど……立ち位置は変わらない。基本は俺の近くにいてもらうが、場合によっては独自で動いてもらう時がある。だから、副隊長じゃなく隊長を決めておくんだ」
「それは、隊長が本陣から動かないこともある、ということでしょうか?」
「そういうことだ、ウィット。お前らの部隊は今度の補充で500騎になる。これまで以上の動きができるようになるはずだから、俺のそばにいるよりは戦場をうまく駆け回ってほしいんだ。まぁブリーダに勝つのは難しいだろうから、結果は見ないさ。気楽に、だけど真剣にやってくれ」
「…………了承しました」
納得はいっていなさそうだが、とりあえず頷くウィット。
「えー、やだー、隊長殿がいいー! てか負けたらウィットの指揮下になるわけ!? そんなのイヤー! 隊長殿がいいー!」
一方こいつは……子供より性質が悪い。
「ウィット、ちょっとこいつに折檻するから先、行ってくれ」
「了解です」
呆れた表情でウィットは敬礼すると、そのままマールたち100騎を率いて離れていく。
すぐにブリーダの部隊と遭遇戦が始まるはずだ。
その前にこいつをどうにかしないと。
「クロエ~!」
「きゃん、隊長殿の折檻だなんて。クロエ、興奮しちゃう」
「お前、いい加減にしろよ? 一緒にいるからって特別扱いはしないからな?」
「そんなつもりはないですが……うぅ、だって。隊長殿がいなくなるなんて……」
「別にいなくなるとは言ってないだろ。少し離れる機会が増えるだけだ。今までとあまり変わらないよ」
「でもでも! 隊長殿と5メートル以上離れると息切れと動悸が……」
「一生入院するか?」
はぁ……。
本当に頭が痛くなる。
とはいえグダグダ言っている時間もない。
しょうがないから、6割くらいの真実を織り交ぜて説得するしかない。
だから俺は真面目な表情を浮かべ、クロエを真正面から直視する。
「あのな。俺はお前に期待してるんだ。お前は俺がここに来てからずっと一緒にいた。だからお前なら俺の考えることが分かる。それを実行に移せる。そう思って隊長候補にしたんだ」
「隊長殿……」
目を輝かせてこちらを見つめてくるクロエ。
「けどもちろんウィットにも期待してる。あいつは愚直に色々学んで、次々と吸収してるからな。堅実に部隊を運用するならあいつの方が100倍マシだとも思ってる」
「隊長殿ぉ……」
哀しげな涙目でこちらを見つめてくるクロエ。
感情豊かなやつ。
「だからいつまでもグダグダ言ってると、本当にウィットの下につくぞ。その時に俺は何も言ってやれないからな」
「うぅ……分かりました」
我ながら意地の悪い言い方だと思ったが、そうでもしないとこいつは本当に動かない気がした。
とりあえず納得したようなので原野に目を転じると、合図もなく模擬戦が始まった。
双方、武器は細い木の棒。
兜の上に紙風船をつけているので、それを割られたら戦死。隊長が戦死するか、部隊の7割が戦死して、壊滅状態になるまで続けるのだ。
200騎の騎馬が原野を走る。
遠くてもその馬蹄の響きは聞こえてくる。
赤のベストを来たブリーダの隊が、青のベストのウィットの隊へ迫る。
ウィットは全騎で横に移動を開始した。
ブリーダの突撃をいなす形だ。
そのウィットの動きは功を奏した。
5人が叩き落とされるも、真正面から受けるよりはマシな被害だ。
ウィットの横を駆けていくブリーダの隊は、大きくUターンをして再びウィットに突っかかる。
だがそれもウィットは一団にまとまって回避した。
ただすれ違うその刹那に、ウィットは左――ブリーダの隊の最後尾に食らいつくと、数騎を落として再び距離を取る。
なるほど、ウィットの用兵に隙はない。
基本は受け身を取りつつ、逆に相手の隙を突いてじわじわと有利な状況を作る。
勤勉で堅実。
まさにウィットの人間性が出る戦い方だ。
そのまま互角の戦い方をしながら、戦場をひたすらに駆け回った2組の騎馬隊は、時間経過により鳴らした鉦の音を聞いて引き上げてきた。
ウィットの被害は30騎ほど、ブリーダは10騎も満たない。
被害だけで見ればウィットの負けだが、ブリーダを相手にこの被害は上出来とも言えるだろう。
「どうだった?」
「いや、一瞬も気の抜けない戦いでした。さすが騎馬隊長です」
ウィットが額に汗を浮かべながらそう言った。
「なかなか崩しきれない堅実な守りっすね。時たま見せる誘い方も、どっかの誰かさんみたいでいやらしいっす」
「どういう意味かな、ブリーダ」
「え、いや。別に。誰も軍師殿のことだとは……あだだだ! アイザ! なんでかかとでぐりぐりするっすか!」
「……別に。ただつまらない模擬戦をされてイラついてるだけ」
容赦ないなぁ、アイザは。
ただその声はウィットには聞こえなかったらしく、俺としてはホッとする思いだ。
「よし、じゃあ1時間の休憩の後、クロエの隊でやるか」
「いや、自分たちならいけるっすよ。無駄にだらだらやるより、さっさと決めた方が軍師殿も楽でしょう?」
「ん、そうか」
連戦ともなれば、疲労がある分、クロエが有利になると思ったんだが。
まぁ体が温まってるという利点もあるのか? 分からないけど。
「クロエ、ウィット、それでいいか?」
一応、当事者の意見も聞いてみることにした。
「は、はいっ!」
「自分はどちらでも」
「ん、じゃあ5分後にクロエの隊との模擬戦だ。準備、いいな」
「ひゃ、ひゃい!」
クロエが裏返った声で直立不動の姿勢を取る。
うーん、プレッシャーかけすぎたか?
あるいはウィットが善戦したのが、一番のプレッシャーになったのだろう。
ったく、しょうがないな。
「お前ならできる。行ってこい!」
そう言いながら、クロエの背中をバンッと思いっきり叩いた。
とはいえ筋力最低の張りてなんてたいして痛くないだろう。
けどクロエはその場でプルプルと震えて動かない。
なに? クリティカルヒットした?
まさか? こんなところで? こんな時に?
「クロエ?」
心配そうにのぞき込んで確認する。
すると、
「よっしゃああ! 気合はいりましたよ!」
鼓膜が割れそうだった。
顔が紅潮して、今までとは別人みたいに張り切っている。
なんだよ、人騒がせな。
ま、そっちの方がらしいっちゃらしいけど。
「隊長殿、行ってきます。あなたのクロエが、隊長殿の隣をゲットです!」
「誰がお前のだ。誰が」
「よっし、さっさと行くよルック! ぼやぼやしない!」
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